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大切なもの
第80話 集結 ~徳丸 1~
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中央までの道中でサムが目を覚ますことはなかった。
途中、先に中央へ向かった岱胡の部隊や拠点に詰めていた隊員たちのおかげで、だいぶ敵兵を退けることができていたけれど、それでもまだゼロではなかったからだ。
ルートを外れた敵兵が戻ってきたのをみつけ、それにも時間を割かれている。
「ったく、庸儀のやつらはどうなっていやがる……」
「やつら思慮が浅いですからね。戦線を離脱したつもりでルートを逸れたものの、行き先に迷って戻ってきたのでは」
徳丸のボヤキに巧の隊員である竹川が答えた。
庸儀の兵に対応するたびに、いちいち足を止めては浜へ戻す指示を出さなければならない。
術が無効化されていることで式神を使えないのが、こんなにも響いてくるとは思ってもみなかった。
連れてきている隊員たちとジャセンベル兵を組ませて、庸儀の兵を浜に戻したのち、また中央へ向かわせる。
その連絡のためだけに全員が足止めを喰らっていて、無駄な時間だけが過ぎていくような気分だ。
徳丸はだいぶ急いでルートを走ったつもりだったけれど、中央の入り口がみえてきたときには、南浜を出て三時間が過ぎてしまっていた。
「中央では元蓮華の加賀野さんが取りまとめをされています。泉の森の前に拠点が設けられているので、そこへ向かいます」
「そうか。頼む」
竹川は中央へ入ってすぐに城の裏手を回り込み、花丘の奥の森を抜けた。
この場所からだと街なかの様子はみえないけれど、喧騒で戦闘が起こっているのがわかる。
後ろを振り返ると、ケインたちもしっかりついてきていてホッとした。
サムは相変わらず意識が戻らないままだ。
術が使えないのは六時間程度だと言っていた気がする。
まだ時間の半分を過ぎたくらいだ。
当分は回復も施せないのなら、このまま寝かせておいて構わないだろう。
「野本隊長、泉の森です」
竹川の呼びかけに徳丸は後ろのケインへ車を止めるよう手で合図をした。
取り急ぎケインと竹川を連れて、泉のほとりに設置されている拠点へ向かった。
「野本か! ……おまえもジャセンベル兵と一緒か」
加賀野の目がケインを認め、そういった。
「おまえも……ということは、ほかの連中もジャセンベル兵を伴ってきましたか」
「ああ。上田も中村も、今は中央へ進軍してきた敵兵の一掃に出ている」
「では、俺も……」
「野本、おまえには対応してもらいたい件がある。しばらく待て」
「対応、ですか? 一体なにを……」
「そろそろ長田の叔父がここへ到着する。その際に長谷川にやってもらいたいことがあってな。詳細は彼がここへ来てからだ」
本当ならばすぐにでも中央の対処に出たいのに、加賀野にそういわれては待つしかない。
ケインも若干、焦れているようだ。
レイファーは穂高と一緒に一掃に出ているのだから殊更だろう。
待っているあいだに待機している全員に水分補給をさせ、軽微なけがなどを手当してもらった。
数分もすると、鴇汰の部隊の中川がクロムを伴ってやってきた。
「徳丸くん、キミももうここまで来ていたのか」
「はい。その折にはいろいろとお世話になりました」
「もしかするとサムくんも一緒かな?」
「ええ、ですがやつは疲労が激しいらしく、眠ったままです」
クロムと挨拶を交わし、再会の握手をしてから車に目を向けた。
後部席に寝かせたままのサムが起きだしてくる様子はない。
「そうか。彼は一番若いから今は仕方がない。時間が経って術が使えるようになるまで寝かせておこう」
一瞬、大陸で飲まされた薬湯が頭をよぎった。
サムに飲ませるなどと言い出さないだろうか?
薬湯を出すようなそぶりはみえず、胸をなでおろす。
さすがにあれは……酷だ。
クロムの話しでは、巧が隊員たちと北浜を離れたあと、ハンスが穂高の隊員たちと一緒に後処理をしてくれているらしい。
残ってくれたジャセンベル兵も多いから、仮に庸儀の兵が暴れだそうとも、すぐに鎮圧できるだろう。
話しをしていると声を聞きつけたのか、奥のテントから元蓮華の尾形と高田が顔を出した。
「野本、おまえも無事に戻ったか」
「ちょうどいいところにいてくれた。いささか急だがやってもらいたいことがある」
「先ほど加賀野さんから伺いました。できれば早急に詳細や手順を確認したいのですが」
テントに近い場所で話していたからか、中から岱胡も飛び出してきた。
「徳丸さん! 浜のほうはもういいんっスか? あっ! 俺の式神は……」
「届いた。浜に残った連中に対処してくれるよう頼んできたから大丈夫だ」
そう答えると、ホッとした顔をみせた岱胡の頭をワシワシと撫でた。
途中、先に中央へ向かった岱胡の部隊や拠点に詰めていた隊員たちのおかげで、だいぶ敵兵を退けることができていたけれど、それでもまだゼロではなかったからだ。
ルートを外れた敵兵が戻ってきたのをみつけ、それにも時間を割かれている。
「ったく、庸儀のやつらはどうなっていやがる……」
「やつら思慮が浅いですからね。戦線を離脱したつもりでルートを逸れたものの、行き先に迷って戻ってきたのでは」
徳丸のボヤキに巧の隊員である竹川が答えた。
庸儀の兵に対応するたびに、いちいち足を止めては浜へ戻す指示を出さなければならない。
術が無効化されていることで式神を使えないのが、こんなにも響いてくるとは思ってもみなかった。
連れてきている隊員たちとジャセンベル兵を組ませて、庸儀の兵を浜に戻したのち、また中央へ向かわせる。
その連絡のためだけに全員が足止めを喰らっていて、無駄な時間だけが過ぎていくような気分だ。
徳丸はだいぶ急いでルートを走ったつもりだったけれど、中央の入り口がみえてきたときには、南浜を出て三時間が過ぎてしまっていた。
「中央では元蓮華の加賀野さんが取りまとめをされています。泉の森の前に拠点が設けられているので、そこへ向かいます」
「そうか。頼む」
竹川は中央へ入ってすぐに城の裏手を回り込み、花丘の奥の森を抜けた。
この場所からだと街なかの様子はみえないけれど、喧騒で戦闘が起こっているのがわかる。
後ろを振り返ると、ケインたちもしっかりついてきていてホッとした。
サムは相変わらず意識が戻らないままだ。
術が使えないのは六時間程度だと言っていた気がする。
まだ時間の半分を過ぎたくらいだ。
当分は回復も施せないのなら、このまま寝かせておいて構わないだろう。
「野本隊長、泉の森です」
竹川の呼びかけに徳丸は後ろのケインへ車を止めるよう手で合図をした。
取り急ぎケインと竹川を連れて、泉のほとりに設置されている拠点へ向かった。
「野本か! ……おまえもジャセンベル兵と一緒か」
加賀野の目がケインを認め、そういった。
「おまえも……ということは、ほかの連中もジャセンベル兵を伴ってきましたか」
「ああ。上田も中村も、今は中央へ進軍してきた敵兵の一掃に出ている」
「では、俺も……」
「野本、おまえには対応してもらいたい件がある。しばらく待て」
「対応、ですか? 一体なにを……」
「そろそろ長田の叔父がここへ到着する。その際に長谷川にやってもらいたいことがあってな。詳細は彼がここへ来てからだ」
本当ならばすぐにでも中央の対処に出たいのに、加賀野にそういわれては待つしかない。
ケインも若干、焦れているようだ。
レイファーは穂高と一緒に一掃に出ているのだから殊更だろう。
待っているあいだに待機している全員に水分補給をさせ、軽微なけがなどを手当してもらった。
数分もすると、鴇汰の部隊の中川がクロムを伴ってやってきた。
「徳丸くん、キミももうここまで来ていたのか」
「はい。その折にはいろいろとお世話になりました」
「もしかするとサムくんも一緒かな?」
「ええ、ですがやつは疲労が激しいらしく、眠ったままです」
クロムと挨拶を交わし、再会の握手をしてから車に目を向けた。
後部席に寝かせたままのサムが起きだしてくる様子はない。
「そうか。彼は一番若いから今は仕方がない。時間が経って術が使えるようになるまで寝かせておこう」
一瞬、大陸で飲まされた薬湯が頭をよぎった。
サムに飲ませるなどと言い出さないだろうか?
薬湯を出すようなそぶりはみえず、胸をなでおろす。
さすがにあれは……酷だ。
クロムの話しでは、巧が隊員たちと北浜を離れたあと、ハンスが穂高の隊員たちと一緒に後処理をしてくれているらしい。
残ってくれたジャセンベル兵も多いから、仮に庸儀の兵が暴れだそうとも、すぐに鎮圧できるだろう。
話しをしていると声を聞きつけたのか、奥のテントから元蓮華の尾形と高田が顔を出した。
「野本、おまえも無事に戻ったか」
「ちょうどいいところにいてくれた。いささか急だがやってもらいたいことがある」
「先ほど加賀野さんから伺いました。できれば早急に詳細や手順を確認したいのですが」
テントに近い場所で話していたからか、中から岱胡も飛び出してきた。
「徳丸さん! 浜のほうはもういいんっスか? あっ! 俺の式神は……」
「届いた。浜に残った連中に対処してくれるよう頼んできたから大丈夫だ」
そう答えると、ホッとした顔をみせた岱胡の頭をワシワシと撫でた。
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