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大切なもの
第64話 進軍 ~鴇汰 1~
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麻乃の気配を探るのはきっと難しい。
小坂と二人、修治の気配だけを探ろうと試みたものの、ルートからの喧騒と相変わらずルートを外れてくる敵兵の対応に追われ、どうにもうまく探れない。
早く見つけ出さなければ、一番あってはならない事態が起こってしまうかもしれないというのに。
苛立ちだけが募っていく。
「豊浦たちを先に進めさせたのは痛かったですね」
「なんでよ?」
「まさかこんなにロマジェリカが森に入り込んでいるとは思わないじゃあないですか」
「そうだな。もっと手があればとは思うな」
「はい」
「けど……麻乃を追っているのにやつらを連れていくわけにはいかねーよ。ホントならおまえと洸にも、先へ進んでほしかった」
前を歩いていた小坂が立ち止まって鴇汰を振り返った。
「麻乃におまえたちを相手にさせるわけには……な」
「俺たちは――」
「まあ、おまえは間に合わなかったし、さっきの二人もだけどさ。麻乃のこれからを考えたら、どうあってもおまえたちには無事でいてもらわないと……って思うのよ」
なんとも言い難い表情で、鴇汰を見つめていた小坂が、急に真顔になって姿勢を正した。
「長田隊長、いい機会なのでいくつか確認しておきたいことがあります」
「確認しておきたいこと? なんだよ? この先の対応か?」
「あっちのほうの遊びはもうやめているんでしょうね?」
「……は? おまえいきなりなにいってんだよ?」
「特定の相手がいるなんてことは……」
「ちょっと待て小坂! おまえこの状況わかっているよな! 今聞くことじゃあねーだろ!」
「うちの隊長のことをどうするつもりですか?」
一瞬で顔が熱くなった。
「あっちの遊びってなんですか? それに藤川さんがどうか……」
洸がきょとんとした顔で鴇汰をみている。
問いかけてこようとしたのを食い気味に制した。
「いいから! 洸はちょっと黙っとけ! 小坂、いい加減にしろよ? 今じゃあねーだろそれは! 今じゃあねーよな絶対!」
なにかを言いかけた小坂の背後にまた敵兵がみえた。
洸を庇い、また戦う。
虎吼刀で吹っ飛ばした中に、緑の軍服がいた。
周囲を確認してみると、十数人のロマジェリカ兵の中に三人ほど庸儀の兵が混じっていた。
すべての敵兵を倒してから、もう一度確認してみた。
「やっぱり庸儀の兵か……ここに上陸したのはロマジェリカだけじゃあないのか?」
「そういえば最初に上陸を確認したのは庸儀の兵でした。今までは気づきませんでしたが、部隊を混合しているんでしょうか?」
「それなら今までに遭遇した中にもいたはずだろ。今までは全部ロマジェリカだけだった」
「そうですね……で、どうなんです? さっきの……」
「おまえ……まだ言うかよ……」
鴇汰を見つめる小坂の目は真剣そのものだ。
古市が七番のやつらが手強いと言っていたのを思い出す。
小坂や杉山はともかく、とも言っていたけれど、いろいろな意味で七番の中で一番手強いのがこの二人だろう。
フーッと大きく息を吐いてから小坂の目をしっかりと見つめ返した。
「……あんなことはもう六年も前に辞めている。特定の相手もいない」
「それは本当でしょうね?」
「ああ。こんなことで嘘なんかつかない。それから麻乃のことは……帰ったら二人でゆっくり話そうって、大陸で約束してきた。だから話しはそれからだ」
「わかりました。でしたらいいんです。こんな時だとわかっていても、この先なにがあるかわかりません。なので今、どうしても聞いておきたかったものですから」
フッと表情を緩めて小坂はそういった。
変な質問に驚かされたけれど、なにか納得した様子にみえて鴇汰もホッとした。
小坂と洸を促して先へ進もうとしたとき、洸がなにかに気づいたようで、鴇汰と小坂のシャツの背を掴んだ。
「長田さん、小坂さん、あれは……!」
洸が指をさした先に、小さく人影が見えた。
「赤い髪……! 長田隊長、庸儀の女です!」
「あれが……だからか。だから庸儀の兵がいたんだ」
「あの女は麻乃隊長を目障りに思っていたはずです。もしかすると、麻乃隊長と安部隊長はあの先に……」
「行こう。あれから少し時間が経っているけど、今ならまだ間に合うはずだ」
三人で遠ざかる人影を追って走った。
小坂と二人、修治の気配だけを探ろうと試みたものの、ルートからの喧騒と相変わらずルートを外れてくる敵兵の対応に追われ、どうにもうまく探れない。
早く見つけ出さなければ、一番あってはならない事態が起こってしまうかもしれないというのに。
苛立ちだけが募っていく。
「豊浦たちを先に進めさせたのは痛かったですね」
「なんでよ?」
「まさかこんなにロマジェリカが森に入り込んでいるとは思わないじゃあないですか」
「そうだな。もっと手があればとは思うな」
「はい」
「けど……麻乃を追っているのにやつらを連れていくわけにはいかねーよ。ホントならおまえと洸にも、先へ進んでほしかった」
前を歩いていた小坂が立ち止まって鴇汰を振り返った。
「麻乃におまえたちを相手にさせるわけには……な」
「俺たちは――」
「まあ、おまえは間に合わなかったし、さっきの二人もだけどさ。麻乃のこれからを考えたら、どうあってもおまえたちには無事でいてもらわないと……って思うのよ」
なんとも言い難い表情で、鴇汰を見つめていた小坂が、急に真顔になって姿勢を正した。
「長田隊長、いい機会なのでいくつか確認しておきたいことがあります」
「確認しておきたいこと? なんだよ? この先の対応か?」
「あっちのほうの遊びはもうやめているんでしょうね?」
「……は? おまえいきなりなにいってんだよ?」
「特定の相手がいるなんてことは……」
「ちょっと待て小坂! おまえこの状況わかっているよな! 今聞くことじゃあねーだろ!」
「うちの隊長のことをどうするつもりですか?」
一瞬で顔が熱くなった。
「あっちの遊びってなんですか? それに藤川さんがどうか……」
洸がきょとんとした顔で鴇汰をみている。
問いかけてこようとしたのを食い気味に制した。
「いいから! 洸はちょっと黙っとけ! 小坂、いい加減にしろよ? 今じゃあねーだろそれは! 今じゃあねーよな絶対!」
なにかを言いかけた小坂の背後にまた敵兵がみえた。
洸を庇い、また戦う。
虎吼刀で吹っ飛ばした中に、緑の軍服がいた。
周囲を確認してみると、十数人のロマジェリカ兵の中に三人ほど庸儀の兵が混じっていた。
すべての敵兵を倒してから、もう一度確認してみた。
「やっぱり庸儀の兵か……ここに上陸したのはロマジェリカだけじゃあないのか?」
「そういえば最初に上陸を確認したのは庸儀の兵でした。今までは気づきませんでしたが、部隊を混合しているんでしょうか?」
「それなら今までに遭遇した中にもいたはずだろ。今までは全部ロマジェリカだけだった」
「そうですね……で、どうなんです? さっきの……」
「おまえ……まだ言うかよ……」
鴇汰を見つめる小坂の目は真剣そのものだ。
古市が七番のやつらが手強いと言っていたのを思い出す。
小坂や杉山はともかく、とも言っていたけれど、いろいろな意味で七番の中で一番手強いのがこの二人だろう。
フーッと大きく息を吐いてから小坂の目をしっかりと見つめ返した。
「……あんなことはもう六年も前に辞めている。特定の相手もいない」
「それは本当でしょうね?」
「ああ。こんなことで嘘なんかつかない。それから麻乃のことは……帰ったら二人でゆっくり話そうって、大陸で約束してきた。だから話しはそれからだ」
「わかりました。でしたらいいんです。こんな時だとわかっていても、この先なにがあるかわかりません。なので今、どうしても聞いておきたかったものですから」
フッと表情を緩めて小坂はそういった。
変な質問に驚かされたけれど、なにか納得した様子にみえて鴇汰もホッとした。
小坂と洸を促して先へ進もうとしたとき、洸がなにかに気づいたようで、鴇汰と小坂のシャツの背を掴んだ。
「長田さん、小坂さん、あれは……!」
洸が指をさした先に、小さく人影が見えた。
「赤い髪……! 長田隊長、庸儀の女です!」
「あれが……だからか。だから庸儀の兵がいたんだ」
「あの女は麻乃隊長を目障りに思っていたはずです。もしかすると、麻乃隊長と安部隊長はあの先に……」
「行こう。あれから少し時間が経っているけど、今ならまだ間に合うはずだ」
三人で遠ざかる人影を追って走った。
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