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大切なもの
第63話 進軍 ~岱胡 1~
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抜け道から花丘の中央通りへ入り、そのまま一番奥へと向かって森の中を走り抜けた。
鴇汰や修治とサツキに会いに行った東屋が目に入る。
「隊長、歌声が聞こえませんか?」
「うん。なんだろう?」
すぐに森を抜け、今度は神殿の横を通り過ぎた。
目の前が泉の森だ。
大勢の人の気配を感じるのは避難している人々のものか。
城側の湖畔にいくつかのテントが設置されているのは恐らく拠点だろう。
数人の隊員と一般の方々が泉の奥へ向かう道をふさぐように守っていた。
その先頭に加賀野をみつけ、岱胡と森本は車を止めて駆け寄った。
「加賀野さん!」
「長谷川か。おまえ一体どうした? 南浜は……」
「トクさん……一番部隊の野本が戻りました! 他の蓮華たちも全員が無事でした!」
「ああ。各浜から伝令は受けている。やつらがどうやって戻ってきたのかもだ。ヘイトはともかくジャセンベルまでなどと俄かには信じられんが……」
「我々も同じです。ですが、南浜では実際に助けられました」
森本の言葉に加賀野は小さくうなずき、近くにいた梁瀬の隊員を呼びつけた。
「今、元蓮華たちを含めた戦士たちが、浜から上がってきた敵兵を城へ誘導している」
「庸儀ですか?」
「ヘイトとロマジェリカもだ。数が多いうえに車や馬があるとすべてに対応は難しいだろう。想定内とは言え嫌な気分だ」
加賀野はやつらが城へ集結したあと、どう動くかが問題だという。
「しばらく留まってくれればいいが、動きだされると厄介だ。その前にたたきたいが、各浜の戦士たちがある程度戻ってこないことには動きようがない」
「敵兵はどのくらい上がっているんですか?」
「各浜それぞれ四、五百程度だが、これで終わりということもないだろう」
「一番最初に来た庸儀ですけど、こいつらを率いてきたロマジェリカ人……こいつが妙な術を使う術師っス」
「なんだと! そいつがいるということは、資料にあった奇妙な兵がまた現れるということか?」
「そこまでは……今、暗示は解かれていますから、当面は大丈夫じゃないかと」
仮に暗示をかけたとして、また解かれることを危惧するんじゃないかと岱胡は思っている。
一人も通さないつもりでいても、結局この段階ですでに千以上の人数が上がってきているのを考えると、最終的には数万は通ってくるはずだ。
そいつらは最初から暗示にはかかっていない兵と、暗示が解けてなお中央を目指してきた兵だ。
再度かけるまでもなく、マドルの思うように動くやつらばかりなんじゃあないか。
迷って足を止めるような兵は――。
「そうだ! 加賀野さん。途中、庸儀の兵が結構な人数、山へ入っていってました」
「山? なんだってそんなところへ?」
「暗示が解けたやつらじゃあないかと。方向感覚がわからなくなっているのか、もしくは潜んでやり過ごそうとしているかじゃあないかと思います」
「なるほどな。しかし……山か……あとが面倒だな」
そう言っているあいだにも、少しずつ戦士たちが中央へ集結してきている。
岱胡の隊員たちも半数は戻ってきた。
同時に各浜からの進軍もあるのが嫌なところだ。
ルートの状況も加賀野のもとに集まってくる。
どこの拠点でもある程度の人数をたたいているというのに、進軍が止まらない。
それでも集まる情報の中に、ジャセンベルが戦闘に加わった旨も混じりはじめたことを考慮すれば、上がってくる敵兵もそう多くならないだろう。
岱胡はもう一度、手持ちの銃弾を確認してから、森本とともに拠点で資材の補充をした。
テントのてっぺんで、若草色の鳥が囀っているのが目に入った。
鴇汰や修治とサツキに会いに行った東屋が目に入る。
「隊長、歌声が聞こえませんか?」
「うん。なんだろう?」
すぐに森を抜け、今度は神殿の横を通り過ぎた。
目の前が泉の森だ。
大勢の人の気配を感じるのは避難している人々のものか。
城側の湖畔にいくつかのテントが設置されているのは恐らく拠点だろう。
数人の隊員と一般の方々が泉の奥へ向かう道をふさぐように守っていた。
その先頭に加賀野をみつけ、岱胡と森本は車を止めて駆け寄った。
「加賀野さん!」
「長谷川か。おまえ一体どうした? 南浜は……」
「トクさん……一番部隊の野本が戻りました! 他の蓮華たちも全員が無事でした!」
「ああ。各浜から伝令は受けている。やつらがどうやって戻ってきたのかもだ。ヘイトはともかくジャセンベルまでなどと俄かには信じられんが……」
「我々も同じです。ですが、南浜では実際に助けられました」
森本の言葉に加賀野は小さくうなずき、近くにいた梁瀬の隊員を呼びつけた。
「今、元蓮華たちを含めた戦士たちが、浜から上がってきた敵兵を城へ誘導している」
「庸儀ですか?」
「ヘイトとロマジェリカもだ。数が多いうえに車や馬があるとすべてに対応は難しいだろう。想定内とは言え嫌な気分だ」
加賀野はやつらが城へ集結したあと、どう動くかが問題だという。
「しばらく留まってくれればいいが、動きだされると厄介だ。その前にたたきたいが、各浜の戦士たちがある程度戻ってこないことには動きようがない」
「敵兵はどのくらい上がっているんですか?」
「各浜それぞれ四、五百程度だが、これで終わりということもないだろう」
「一番最初に来た庸儀ですけど、こいつらを率いてきたロマジェリカ人……こいつが妙な術を使う術師っス」
「なんだと! そいつがいるということは、資料にあった奇妙な兵がまた現れるということか?」
「そこまでは……今、暗示は解かれていますから、当面は大丈夫じゃないかと」
仮に暗示をかけたとして、また解かれることを危惧するんじゃないかと岱胡は思っている。
一人も通さないつもりでいても、結局この段階ですでに千以上の人数が上がってきているのを考えると、最終的には数万は通ってくるはずだ。
そいつらは最初から暗示にはかかっていない兵と、暗示が解けてなお中央を目指してきた兵だ。
再度かけるまでもなく、マドルの思うように動くやつらばかりなんじゃあないか。
迷って足を止めるような兵は――。
「そうだ! 加賀野さん。途中、庸儀の兵が結構な人数、山へ入っていってました」
「山? なんだってそんなところへ?」
「暗示が解けたやつらじゃあないかと。方向感覚がわからなくなっているのか、もしくは潜んでやり過ごそうとしているかじゃあないかと思います」
「なるほどな。しかし……山か……あとが面倒だな」
そう言っているあいだにも、少しずつ戦士たちが中央へ集結してきている。
岱胡の隊員たちも半数は戻ってきた。
同時に各浜からの進軍もあるのが嫌なところだ。
ルートの状況も加賀野のもとに集まってくる。
どこの拠点でもある程度の人数をたたいているというのに、進軍が止まらない。
それでも集まる情報の中に、ジャセンベルが戦闘に加わった旨も混じりはじめたことを考慮すれば、上がってくる敵兵もそう多くならないだろう。
岱胡はもう一度、手持ちの銃弾を確認してから、森本とともに拠点で資材の補充をした。
テントのてっぺんで、若草色の鳥が囀っているのが目に入った。
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