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大切なもの
第44話 憂慮 ~クロム 2~
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知り合った当初は互いに探り合うような付き合いばかりだったけれど、ヘイトの賢者を挟んで顔を合わせる回数を重ねるたびに、少しずつ信頼し合える関係に変わっていった。
クロムにとって今ではもう、ハンスは亡くなってしまった二人の賢者と同等の相手となっている。
「ワシとて未だ迷うばかりよ。今はただ、結果を待つしかなかろう。ここへは邪魔は来させん、ゆっくり休息を取るといい。それから、サムと梁瀬のことも頼むぞ」
「わかりました」
戻っていくハンスの足音を聞きながら、もう一度、海岸に視線を巡らせた。
反同盟派の雑兵を含む泉翔の戦士たちが、堤防を越えていくのが確認できる。
数人ずつの班を作り、指示を出しながら送り出している巧の姿があった。
どんな思いを抱えているのかまでは知り得ないけれど、巧なりに思い悩むことも気がかりなことも多々あるのは、クロムにもわかっている。
それなのに、感情だけに囚われず、自分のなすべきことを一つ一つクリアしていく姿を、実に頼もしく感じた。
あまり他人に対して心を許さないハンスでさえも、巧を信頼しているように見える。
穂高も気のいい子だけれど、巧や徳丸、梁瀬も本当に人がいい。
今回、間近で鴇汰に関わる人間関係を知ることができたのは、大きな収穫だった。
気がかりなこともいくつかはあるけれど……。
こればかりは、いくら考えてもクロムには知りようがない。
今はとにかくできるかぎり近くで見守るしかないのだろう。
「……見つけた」
西浜の砦近くで鴇汰の姿を見つけた。
その周囲に穂高を含めた何人かも確認できた。
麻乃はそこにはいないようだ。
緊迫した雰囲気に、少し離れた木の枝に式神をおろした。
言葉までは聞き取れないけれど、どうやら倒れた仲間を介抱しているらしい。
穂高が見知らぬ男の子を連れ、砦の奥の居住区へ向かって駆けていった。
仲間を他へ運び入れるために人手を探しに行ったのか。
西浜はまだ混戦が続いてるようで戦士たちの手を借りることはできないからだろう。
鴇汰は残ったレイファーをひどく意識しているようで、時折向ける視線には僅かに殺気が籠っているけれど、修治がうまくそれをたしなめてくれている。
(麻乃ちゃんとは既に接触したようだな……倒れているのは巻き添えを食ってしまったのか)
怪我は負っているようだけれど、誰も亡くなっていないことにホッと溜息がこぼれる。
しばらくすると、穂高が十数人もの大柄な女性を引き連れて戻ってきた。
倒れたままの仲間二人が、まだ意識が戻らないようで、数人ずつで担ぎ上げると来た道を戻っていく。
意識が戻ったのは戦士だったのか、鴇汰や修治と共に行動するためにその場に残るらしい。
数分、なにかを話し合ったあと、鴇汰たちは砦を離れた。
この場を離れるということは、麻乃を追うからだろう。
森の中へ向かっていく鴇汰たちをこのまま見送り、式神を戻そうとしたとき、中央へ向かうルートのほうから喧騒が響いた。
(なにか起こったのだろうか?)
鴇汰たちもそれに気づいたようで、中央へのルートへと駆け戻っていった。
なんとなく、嫌な予感がする。式神を使ってもっと近づき、なにが起こったのか会話を拾おうとも考えたけれど、鴇汰に気づかれるとあとでうるさいだろう。
距離を取ったまま様子を見届けたあと、急いで式神を戻し、今度は高田へと式神を飛ばした。
クロムにとって今ではもう、ハンスは亡くなってしまった二人の賢者と同等の相手となっている。
「ワシとて未だ迷うばかりよ。今はただ、結果を待つしかなかろう。ここへは邪魔は来させん、ゆっくり休息を取るといい。それから、サムと梁瀬のことも頼むぞ」
「わかりました」
戻っていくハンスの足音を聞きながら、もう一度、海岸に視線を巡らせた。
反同盟派の雑兵を含む泉翔の戦士たちが、堤防を越えていくのが確認できる。
数人ずつの班を作り、指示を出しながら送り出している巧の姿があった。
どんな思いを抱えているのかまでは知り得ないけれど、巧なりに思い悩むことも気がかりなことも多々あるのは、クロムにもわかっている。
それなのに、感情だけに囚われず、自分のなすべきことを一つ一つクリアしていく姿を、実に頼もしく感じた。
あまり他人に対して心を許さないハンスでさえも、巧を信頼しているように見える。
穂高も気のいい子だけれど、巧や徳丸、梁瀬も本当に人がいい。
今回、間近で鴇汰に関わる人間関係を知ることができたのは、大きな収穫だった。
気がかりなこともいくつかはあるけれど……。
こればかりは、いくら考えてもクロムには知りようがない。
今はとにかくできるかぎり近くで見守るしかないのだろう。
「……見つけた」
西浜の砦近くで鴇汰の姿を見つけた。
その周囲に穂高を含めた何人かも確認できた。
麻乃はそこにはいないようだ。
緊迫した雰囲気に、少し離れた木の枝に式神をおろした。
言葉までは聞き取れないけれど、どうやら倒れた仲間を介抱しているらしい。
穂高が見知らぬ男の子を連れ、砦の奥の居住区へ向かって駆けていった。
仲間を他へ運び入れるために人手を探しに行ったのか。
西浜はまだ混戦が続いてるようで戦士たちの手を借りることはできないからだろう。
鴇汰は残ったレイファーをひどく意識しているようで、時折向ける視線には僅かに殺気が籠っているけれど、修治がうまくそれをたしなめてくれている。
(麻乃ちゃんとは既に接触したようだな……倒れているのは巻き添えを食ってしまったのか)
怪我は負っているようだけれど、誰も亡くなっていないことにホッと溜息がこぼれる。
しばらくすると、穂高が十数人もの大柄な女性を引き連れて戻ってきた。
倒れたままの仲間二人が、まだ意識が戻らないようで、数人ずつで担ぎ上げると来た道を戻っていく。
意識が戻ったのは戦士だったのか、鴇汰や修治と共に行動するためにその場に残るらしい。
数分、なにかを話し合ったあと、鴇汰たちは砦を離れた。
この場を離れるということは、麻乃を追うからだろう。
森の中へ向かっていく鴇汰たちをこのまま見送り、式神を戻そうとしたとき、中央へ向かうルートのほうから喧騒が響いた。
(なにか起こったのだろうか?)
鴇汰たちもそれに気づいたようで、中央へのルートへと駆け戻っていった。
なんとなく、嫌な予感がする。式神を使ってもっと近づき、なにが起こったのか会話を拾おうとも考えたけれど、鴇汰に気づかれるとあとでうるさいだろう。
距離を取ったまま様子を見届けたあと、急いで式神を戻し、今度は高田へと式神を飛ばした。
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