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大切なもの
第35話 共闘 ~鴇汰 6~
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穂高の後ろに立ち、周囲の様子を窺っているレイファーの姿が目に入り、鴇汰の中に燻っていた様々な感情が爆発した。
「それより、なんだっておまえがここにいやがるんだ! おまえのせいで麻乃が――おまえさえ来なければ、麻乃を取り戻せたかもしれないのに!」
「そんなことは俺の知るところじゃあない」
掴みかかろうとした手をレイファーに払われ、カッと頭に血が上った。
嫌でも月島でのことを思い出し、レイファーの言葉が甦ってくる。
「この野郎――!」
「やめろよ鴇汰。レイファーを連れてきたのは俺だ。文句があるなら俺が聞くから」
包帯を巻き終え、手持ちの服を修治に渡して着替えを手伝いながら、穂高はそう言った。
別に穂高に文句があるわけじゃあない。
直前までのやり取りも、麻乃の暗示のことも知らずにここへ来たのだろうから。
「タイミング悪いんだよ……麻乃のやつ、暗示にかけられてるせいで、俺たちがジャセンベルと組んで大陸侵攻を目論んでると思い込んでるんだ」
「ジャセンベルと? じゃあ、レイファーを見て……」
「ああ。確証を得たつもりになってるだろうな」
修治の言葉に穂高は溜息を漏らした。
「ごめん……いろいろとあってレイファーと行動を共にしたんだけど、そういう暗示にかかってるとまで思い至らなかったよ」
「それが当然だ。穂高に落ち度はない。それに今は逃げられたが、あいつはまだ近くにいる」
「どうしてそんなことがわかるのよ?」
修治は洸に言いつけ、さっき麻乃が投げた脇差を取りに行かせた。
「あいつが今、使える刀は夜光だけだ。脇差は手放したし……鬼灯は鴇汰、おまえが手にしている。そいつを奪いに必ず戻る」
「でもあいつ、もう一刀持ってたろ? 封印中とか言ってたけど、こんなときだぜ? あれを使うんじゃねーの?」
「いや……どういうつもりなのか……あれを使うつもりはないようだ。もしかすると……抜けないのかもしれない」
「抜けない?」
傷が痛むのか修治の呼吸がやけに荒い。
見かねた穂高が近くの木の根もとに修治を座らせ、回復術を施した。
修治は深く深呼吸をしてから鴇汰を見上げた。
「あの刀は、俺が持つこいつと対の刀だ。かつて麻乃の両親が使っていた。あいつの血筋にまつわる刀だ」
「鬼神の……ってことか?」
「ああ。麻乃が覚醒しなければ使えないと言われていた。現に俺のこの刀は、数日前まで抜くことができなかった」
「でも今、麻乃の両親は使っていたって……」
穂高が修治に疑問を投げかけた。
鴇汰も同じ疑問を抱いた。
「それにあんたら、いつも帯刀してたよな?」
「麻乃がこいつにこだわっていたからな。手もとにあるだけで安心だと言って……だから俺も手放せなかったんだが、あの西浜戦のあと、抜けないと知られて持つことを禁じられていた」
「高田さんにか?」
「そうだ」
そう言えばいつか麻乃は、自分の力量じゃ扱えないから高田に禁じられていると言っていた。
あの刀を帯びているところを見られたら殺されるかもしれない、と。
「麻乃の両親は確かに使っていた。それに、俺たちが初めてこの刀を手にしたときは使えたんだが……それ以後、一度も抜けないままだった」
「今、あんたの刀は抜けるんだろ? 麻乃のほうは覚醒してるのに抜けないっておかしくないか?」
修治はいつものように拳を口もとへ持っていき、考え込む仕草を見せた。
「……なにかがあるんだ。なにかがあいつの妨げになっている。だから抜けないんだろう。それがなんなのか予想もつかないが、きっと麻乃自身も原因がわかっていないと思う」
「麻乃が自分でも気づかない理由……」
それは一体なんなのだろう?
「――おい!」
考え込んでいるところに突然大声が響き、心臓が跳ね上がるほど驚いた。
いつの間にか銀杏の木のそばへ移動していたレイファーが、腰を屈めてこちらを向いている。
穂高がそれに応じた。
「どうかしたのか?」
「ここに倒れている連中はどうするんだ? どこかに運び入れるのか? それとも起こすのか?」
「起こす? 生きているのか!」
修治と二人、顔を見合わせた。
洸がなにも言わず一目散に小坂のところへ駆け寄った。
倒れたその体を覗き込んで大きく揺さぶると、こちらを振り返って
「息があります!」
と叫んだ。
「それより、なんだっておまえがここにいやがるんだ! おまえのせいで麻乃が――おまえさえ来なければ、麻乃を取り戻せたかもしれないのに!」
「そんなことは俺の知るところじゃあない」
掴みかかろうとした手をレイファーに払われ、カッと頭に血が上った。
嫌でも月島でのことを思い出し、レイファーの言葉が甦ってくる。
「この野郎――!」
「やめろよ鴇汰。レイファーを連れてきたのは俺だ。文句があるなら俺が聞くから」
包帯を巻き終え、手持ちの服を修治に渡して着替えを手伝いながら、穂高はそう言った。
別に穂高に文句があるわけじゃあない。
直前までのやり取りも、麻乃の暗示のことも知らずにここへ来たのだろうから。
「タイミング悪いんだよ……麻乃のやつ、暗示にかけられてるせいで、俺たちがジャセンベルと組んで大陸侵攻を目論んでると思い込んでるんだ」
「ジャセンベルと? じゃあ、レイファーを見て……」
「ああ。確証を得たつもりになってるだろうな」
修治の言葉に穂高は溜息を漏らした。
「ごめん……いろいろとあってレイファーと行動を共にしたんだけど、そういう暗示にかかってるとまで思い至らなかったよ」
「それが当然だ。穂高に落ち度はない。それに今は逃げられたが、あいつはまだ近くにいる」
「どうしてそんなことがわかるのよ?」
修治は洸に言いつけ、さっき麻乃が投げた脇差を取りに行かせた。
「あいつが今、使える刀は夜光だけだ。脇差は手放したし……鬼灯は鴇汰、おまえが手にしている。そいつを奪いに必ず戻る」
「でもあいつ、もう一刀持ってたろ? 封印中とか言ってたけど、こんなときだぜ? あれを使うんじゃねーの?」
「いや……どういうつもりなのか……あれを使うつもりはないようだ。もしかすると……抜けないのかもしれない」
「抜けない?」
傷が痛むのか修治の呼吸がやけに荒い。
見かねた穂高が近くの木の根もとに修治を座らせ、回復術を施した。
修治は深く深呼吸をしてから鴇汰を見上げた。
「あの刀は、俺が持つこいつと対の刀だ。かつて麻乃の両親が使っていた。あいつの血筋にまつわる刀だ」
「鬼神の……ってことか?」
「ああ。麻乃が覚醒しなければ使えないと言われていた。現に俺のこの刀は、数日前まで抜くことができなかった」
「でも今、麻乃の両親は使っていたって……」
穂高が修治に疑問を投げかけた。
鴇汰も同じ疑問を抱いた。
「それにあんたら、いつも帯刀してたよな?」
「麻乃がこいつにこだわっていたからな。手もとにあるだけで安心だと言って……だから俺も手放せなかったんだが、あの西浜戦のあと、抜けないと知られて持つことを禁じられていた」
「高田さんにか?」
「そうだ」
そう言えばいつか麻乃は、自分の力量じゃ扱えないから高田に禁じられていると言っていた。
あの刀を帯びているところを見られたら殺されるかもしれない、と。
「麻乃の両親は確かに使っていた。それに、俺たちが初めてこの刀を手にしたときは使えたんだが……それ以後、一度も抜けないままだった」
「今、あんたの刀は抜けるんだろ? 麻乃のほうは覚醒してるのに抜けないっておかしくないか?」
修治はいつものように拳を口もとへ持っていき、考え込む仕草を見せた。
「……なにかがあるんだ。なにかがあいつの妨げになっている。だから抜けないんだろう。それがなんなのか予想もつかないが、きっと麻乃自身も原因がわかっていないと思う」
「麻乃が自分でも気づかない理由……」
それは一体なんなのだろう?
「――おい!」
考え込んでいるところに突然大声が響き、心臓が跳ね上がるほど驚いた。
いつの間にか銀杏の木のそばへ移動していたレイファーが、腰を屈めてこちらを向いている。
穂高がそれに応じた。
「どうかしたのか?」
「ここに倒れている連中はどうするんだ? どこかに運び入れるのか? それとも起こすのか?」
「起こす? 生きているのか!」
修治と二人、顔を見合わせた。
洸がなにも言わず一目散に小坂のところへ駆け寄った。
倒れたその体を覗き込んで大きく揺さぶると、こちらを振り返って
「息があります!」
と叫んだ。
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