蓮華

釜瑪 秋摩

文字の大きさ
上 下
578 / 780
大切なもの

第28話 共闘 ~梁瀬 1~

しおりを挟む
「上田隊長、俺は……」

「杉山には聞きたいことがあるんだ。俺たちはほとんどなんの情報もないまま戻ってきた。だから今回、泉翔がどう動くつもりでいるのか教えてほしい」

「そう言えば僕も、それに関してまったく聞いていなかった。詳細を聞いてるほどの余裕はないんだけど、最低限の流れだけは知っておきたいな」

 杉山はうなずくと、テキパキと説明を始めた。
 同盟三国がほぼ全軍を伴って侵攻してくると、鴇汰から情報が上がってきたこと。
 物資は不足している状態らしく、恐らく泉翔で調達するつもりだろうこと。

 それを踏まえ、浜は捨て、中央までのルート沿いに拠点を置き、進軍させたうえで後方から潰していくこと。
 最後は皇子の計らいで城へ誘導し、残りの兵をたたく。

「ですから、ここでは先陣を通したうえで、後方から分断してたたくつもりでしたが、やつらの上陸が妙な時間だったので、拠点ごとに判断して既にある程度はたたいています」

「夜間はやつらも動かなかったんだ?」

「これまで侵入したことがないから土地勘がない。多少は慎重になるのも当然か」

「そう思います。夜明け前に後陣が動き始めたので、また幾分か通したんですが……てっきり援軍が現れたのかと思ったので、ここでできるかぎり足止めをするつもりで動きました」

 苦笑いを浮かべてそう言った。

「いや。俺たちにとっては、杉山たちが出ていてくれたのは本当に助かった。こうして情報を聞けたし、伝令も回せるわけだし」

「うん、本当に。僕らに手を貸してくれた反同盟派やジャセンベルの兵士を、仲間に傷つけさせるわけにはいかないって思っていたからね」

「このあと海岸の一掃を。そのあとは杉山、悪いけどジャセンベルと協力して作戦通り、先陣を追ってくれないか」

「ですがそれは……!」

 ジャセンベルも中央へ通すことになる。
 それに対して危惧しているだろうことがはっきりとわかる。

「さっき上田も言ったが、いきなり信用しろというのが難しいとはわかっている。だが、我々ジャセンベルにはもう侵攻の意思はない。こちらも事情が変わった。泉翔に潰れてもらっては困る。同盟三国には必ず勝つ。そのためにここへ来た」

 それまで黙っていたレイファーが、杉山に向かってはっきりと言いきった。
 迷ったままの表情で梁瀬を見つめ、穂高に視線を移した。
 穂高がうなずいてやると、杉山は目を閉じ、何度か深呼吸をした。

「わかりました。岡山が回している伝令に加え、ジャセンベル軍と協力する旨も各拠点へ知らせます」

「頼むよ」

「既に兵たちには、泉翔の戦士たちに従うよう話しは通してある。ロマジェリカと庸儀相手なら遅れをとることはない。存分に使ってやってほしい」

 レイファーの申し出に、杉山は深く頭を下げた。

「それから、安部隊長と小坂の行方がわからなくなっています。三番の隊員の情報では、小坂が茂木を連れ出したということでした」

「修治さんと小坂がいない?」

「茂木は今回、麻酔弾を所持しています。それを連れ出したということは、三人は恐らくうちの隊長と一緒のはずです」

「なんだって?」

 遅かった、そう思った直後、梁瀬が割って入った。

「それは多分大丈夫。すぐにどうにかなることはない」

「ですが、小坂と茂木のことは心配です。一緒にいたら危険かもしれない」

「杉山、二人のことは僕らが対応する。キミは取り急ぎこのままジャセンベルと合流して。修治さんの隊員たちと、先の対応をお願い」

 杉山は返事をすると、すぐに堤防を越え、まだ混乱している海岸へと走っていった。
 それを見届けると、梁瀬が穂高を振り返った。

「さっき、鴇汰さんをおろしてきた。時間がなくてはっきりした様子はわからなかったんだけど」

「場所は? 俺たちもすぐに行ってみなければ」

「聞いて。多分、修治さんが押されている。それから周りに何人か倒れているのが見えた」

 梁瀬の言葉に血の気が引いた。全身に鳥肌が立ちそうなほどの寒気がする。

「行ってみて、どんな状況になっているかはまったくわからない」

「じゃあ、なおさら急がなきゃいけないじゃあないか! 場所は……」

「落ち着いて! 僕はこれから、マドルにかけられた暗示を解くために動かなければならない」
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

【完結】仰る通り、貴方の子ではありません

ユユ
恋愛
辛い悪阻と難産を経て産まれたのは 私に似た待望の男児だった。 なのに認められず、 不貞の濡れ衣を着せられ、 追い出されてしまった。 実家からも勘当され 息子と2人で生きていくことにした。 * 作り話です * 暇つぶしにどうぞ * 4万文字未満 * 完結保証付き * 少し大人表現あり

主役の聖女は死にました

F.conoe
ファンタジー
聖女と一緒に召喚された私。私は聖女じゃないのに、聖女とされた。

【完結】失いかけた君にもう一度

暮田呉子
恋愛
偶然、振り払った手が婚約者の頬に当たってしまった。 叩くつもりはなかった。 しかし、謝ろうとした矢先、彼女は全てを捨てていなくなってしまった──。

夫達の裏切りに復讐心で一杯だった私は、死の間際に本当の願いを見つけ幸せになれました。

Nao*
恋愛
家庭を顧みず、外泊も増えた夫ダリス。 それを寂しく思う私だったが、庭師のサムとその息子のシャルに癒される日々を送って居た。 そして私達は、三人であるバラの苗を庭に植える。 しかしその後…夫と親友のエリザによって、私は酷い裏切りを受ける事に─。 命の危機が迫る中、私の心は二人への復讐心で一杯になるが…駆けつけたシャルとサムを前に、本当の願いを見つけて─? (1万字以上と少し長いので、短編集とは別にしてあります)

断る――――前にもそう言ったはずだ

鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」  結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。  周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。  けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。  他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。 (わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)  そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。  ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。  そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?

悪意のパーティー《完結》

アーエル
ファンタジー
私が目を覚ましたのは王城で行われたパーティーで毒を盛られてから1年になろうかという時期でした。 ある意味でダークな内容です ‪☆他社でも公開

いっとう愚かで、惨めで、哀れな末路を辿るはずだった令嬢の矜持

空月
ファンタジー
古くからの名家、貴き血を継ぐローゼンベルグ家――その末子、一人娘として生まれたカトレア・ローゼンベルグは、幼い頃からの婚約者に婚約破棄され、遠方の別荘へと療養の名目で送られた。 その道中に惨めに死ぬはずだった未来を、突然現れた『バグ』によって回避して、ただの『カトレア』として生きていく話。 ※悪役令嬢で婚約破棄物ですが、ざまぁもスッキリもありません。 ※以前投稿していた「いっとう愚かで惨めで哀れだった令嬢の果て」改稿版です。文章量が1.5倍くらいに増えています。

処理中です...