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大切なもの
第25話 不安 ~杉山 2~
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堤防から流れ込んで来るロマジェリカ軍を相手に、海上に目を向けてゾッとした。
ロマジェリカの戦艦の更に向こうに、かなりの数の船が迫っているのが見えた。
一体このあと、どれだけの兵士が上陸して来るのだろう。
『麻乃を引き戻せたときに、おまえたちの誰かが欠けていたりでもしたら……それが自分の手で成したことだと知ったら、あれは終わりだ』
『おまえたちが自身の身を守ることが、そのまま藤川を守ることにも繋がるのだよ。だから決して今言ったことは忘れないようにな』
杉山は、不意に高田と尾形の言葉を思い出した。
無傷でいられるとは思っていないけれど、簡単に命を落とすわけにはいかない。
自分だけではなく、第七部隊だけでなく、すべての部隊を、島の全員を守りたい。
例え、甘い考えだと言われようと、どうしてもそれだけは守りたいと思った。
ロマジェリカの兵士の多くはどこか虚ろで、それは以前、西浜で相手にしたロマジェリカ兵と似ている。
あのときと違うのは、倒したら起き上って来ないと言うところだ。
「倒せ! やつらが上陸して来る前に、一人でも多く倒せ!」
川崎の怒号が聞こえた。
杉山は誰にともなくうなずくと、目の前に迫った敵兵を斬り倒した。
サッと周囲を見渡すと、ずいぶんと敵は減ったように感じる。
(体力は、まだ持ちそうだ……)
そう思ったとき、海岸に鐘の音が響き、それに続いて衝突音とメキメキとなにかが裂ける音が聞こえた。
水際でなにかが起こったのはわかるけれど、杉山の位置からは、ロマジェリカの戦艦が今よりも更に浜へ近づいて来るのがわかるだけだ。
「杉山さん! なにか妙です!」
背後から新人の波多野や野坂が叫んだ。
なにが妙だと言うのか。敵兵を振り払って確認をしようとすると、背中に岡山の肩が触れた。
「杉山、ロマジェリカの戦艦が沈んでいくぞ!」
「なんだって? どういうことだ!」
見れば確かに、後方の戦艦が傾いていくのが確認できた。
それに、大勢の声が地鳴りのように響いて来る。
自分たちの船が沈んで行くと言うのに、ロマジェリカ軍は一向に引く気配を見せない。
最初からこうなるとわかっていたからだろうか。
集中しきれずに、つい視線が波打ち際に向いてしまう。
何度目かのときに、黄色い軍服に交じって赤い影がいくつも見えた。
「――あれは!」
「ジャセンベル軍だ!」
岡山が叫んだ。
深紅の甲冑に身を包んだジャセンベル軍が次々に現れ、杉山は気が遠くなりそうなほど混乱した。
こんな状況で、ジャセンベルまでもが侵攻して来るとは思っても見なかった。
今はどうやらロマジェリカ軍を相手にしているようだけれど、次はこっちへ向かって来るだろう。
退くことができない以上、考えるまでもない。ジャセンベルを迎え撃たなければ。
「岡山! 伝令だ! ジャセンベルの――」
「そのままだ。なにもしなくていい」
ジャセンベルの一掃を、そう言いかけたとき、掴まれた肩をぐいと引っぱられた。
「良かったよ、すぐに見つかって」
「……笠原隊長!」
杉山の肩を掴んで引き寄せ、そのままこちらへ向かって来たロマジェリカ兵を倒したのは、二番部隊の梁瀬だった。
「無事だったんですか! それより、ジャセンベル軍が……!」
「杉山、ジャセンベルは大丈夫だ」
「一体……どう言うことなんですか!」
「話すと長くなるんだ。簡単に言うと、僕はヘイトの反同盟派に助けられて、ここへ戻った」
「助けられた?」
そう言えば、修治が岱胡とともに大陸から戻ったとき、大陸のものに助けられたと言っていた。
それが、その反同盟派とやらだったのだろうか?
梁瀬はロマジェリカ兵を倒しながら、未だ遠い波打ち際に視線を移して式神のつばめを放った。
「今は、とりあえずこのまま……他の隊員たちには悪いけど、今はこのままロマジェリカを……」
「ですが! それじゃあ後手に回ってしまいます!」
「いいから。岡山、キミはそのまま一緒にいて。すぐに伝令を回してもらうことになるからね」
有無を言わせない雰囲気に、岡山は黙ったままうなずいた。
けれど、杉山はどうにも納得が行かなかった。
修治も小坂もいない今、なんとか川崎たちとこの場の対応はして来たけれど、このあとのことも考えなければならない。
それなのに、新たに現れたジャセンベルになにも対応しないわけにはいかないじゃないか。
「今は、とにかく僕を信じてよ。麻乃さんも修治さんも、きっと大丈夫だから」
ただ焦るばかりだった思いに、梁瀬の柔らかな口調がやけに胸に沁みた。
ロマジェリカの戦艦の更に向こうに、かなりの数の船が迫っているのが見えた。
一体このあと、どれだけの兵士が上陸して来るのだろう。
『麻乃を引き戻せたときに、おまえたちの誰かが欠けていたりでもしたら……それが自分の手で成したことだと知ったら、あれは終わりだ』
『おまえたちが自身の身を守ることが、そのまま藤川を守ることにも繋がるのだよ。だから決して今言ったことは忘れないようにな』
杉山は、不意に高田と尾形の言葉を思い出した。
無傷でいられるとは思っていないけれど、簡単に命を落とすわけにはいかない。
自分だけではなく、第七部隊だけでなく、すべての部隊を、島の全員を守りたい。
例え、甘い考えだと言われようと、どうしてもそれだけは守りたいと思った。
ロマジェリカの兵士の多くはどこか虚ろで、それは以前、西浜で相手にしたロマジェリカ兵と似ている。
あのときと違うのは、倒したら起き上って来ないと言うところだ。
「倒せ! やつらが上陸して来る前に、一人でも多く倒せ!」
川崎の怒号が聞こえた。
杉山は誰にともなくうなずくと、目の前に迫った敵兵を斬り倒した。
サッと周囲を見渡すと、ずいぶんと敵は減ったように感じる。
(体力は、まだ持ちそうだ……)
そう思ったとき、海岸に鐘の音が響き、それに続いて衝突音とメキメキとなにかが裂ける音が聞こえた。
水際でなにかが起こったのはわかるけれど、杉山の位置からは、ロマジェリカの戦艦が今よりも更に浜へ近づいて来るのがわかるだけだ。
「杉山さん! なにか妙です!」
背後から新人の波多野や野坂が叫んだ。
なにが妙だと言うのか。敵兵を振り払って確認をしようとすると、背中に岡山の肩が触れた。
「杉山、ロマジェリカの戦艦が沈んでいくぞ!」
「なんだって? どういうことだ!」
見れば確かに、後方の戦艦が傾いていくのが確認できた。
それに、大勢の声が地鳴りのように響いて来る。
自分たちの船が沈んで行くと言うのに、ロマジェリカ軍は一向に引く気配を見せない。
最初からこうなるとわかっていたからだろうか。
集中しきれずに、つい視線が波打ち際に向いてしまう。
何度目かのときに、黄色い軍服に交じって赤い影がいくつも見えた。
「――あれは!」
「ジャセンベル軍だ!」
岡山が叫んだ。
深紅の甲冑に身を包んだジャセンベル軍が次々に現れ、杉山は気が遠くなりそうなほど混乱した。
こんな状況で、ジャセンベルまでもが侵攻して来るとは思っても見なかった。
今はどうやらロマジェリカ軍を相手にしているようだけれど、次はこっちへ向かって来るだろう。
退くことができない以上、考えるまでもない。ジャセンベルを迎え撃たなければ。
「岡山! 伝令だ! ジャセンベルの――」
「そのままだ。なにもしなくていい」
ジャセンベルの一掃を、そう言いかけたとき、掴まれた肩をぐいと引っぱられた。
「良かったよ、すぐに見つかって」
「……笠原隊長!」
杉山の肩を掴んで引き寄せ、そのままこちらへ向かって来たロマジェリカ兵を倒したのは、二番部隊の梁瀬だった。
「無事だったんですか! それより、ジャセンベル軍が……!」
「杉山、ジャセンベルは大丈夫だ」
「一体……どう言うことなんですか!」
「話すと長くなるんだ。簡単に言うと、僕はヘイトの反同盟派に助けられて、ここへ戻った」
「助けられた?」
そう言えば、修治が岱胡とともに大陸から戻ったとき、大陸のものに助けられたと言っていた。
それが、その反同盟派とやらだったのだろうか?
梁瀬はロマジェリカ兵を倒しながら、未だ遠い波打ち際に視線を移して式神のつばめを放った。
「今は、とりあえずこのまま……他の隊員たちには悪いけど、今はこのままロマジェリカを……」
「ですが! それじゃあ後手に回ってしまいます!」
「いいから。岡山、キミはそのまま一緒にいて。すぐに伝令を回してもらうことになるからね」
有無を言わせない雰囲気に、岡山は黙ったままうなずいた。
けれど、杉山はどうにも納得が行かなかった。
修治も小坂もいない今、なんとか川崎たちとこの場の対応はして来たけれど、このあとのことも考えなければならない。
それなのに、新たに現れたジャセンベルになにも対応しないわけにはいかないじゃないか。
「今は、とにかく僕を信じてよ。麻乃さんも修治さんも、きっと大丈夫だから」
ただ焦るばかりだった思いに、梁瀬の柔らかな口調がやけに胸に沁みた。
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