555 / 780
大切なもの
第5話 生還 ~徳丸 5~
しおりを挟む
丘を駆け上ってくる敵兵を、岱胡と訓練生の二人が打ち抜いているのを正面に、徳丸は腰に下げた斧を握り締め、全力で走った。
敵兵の数は思った以上で、岱胡が他の隊員を庇うように立ちはだかり、銃を撃ち続けている。
それでもすべてに対応しきれてはいない。
次々に丘へ上ってくる敵兵には、サムの部隊が向かった。
先頭の敵兵が岱胡に向かって剣を振り下ろしたそのあいだに割って入り、剣を斧で受けた。
鋭い金属音が響き、押し込まれる剣を力任せに弾くと、そのまま敵兵の胸もとを裂いた。
「岱胡、無事か?」
「とっ……徳丸さん! 無事だったんですか!」
「細かい話しはあとだ。さっさと庸儀の兵を倒すぞ!」
「でもヘイトが……なんなんスか! どうなってるんです! 梁瀬さんは……」
青ざめた表情で訴えてくる岱胡の頭に拳を振り下ろした。
「……っつ!」
「話しはあとだと言ったろうが! 今はとにかく庸儀の兵を一掃するんだ! いいか? 倒すのは庸儀の兵だけだ。ヘイトに手出しは無用だぞ!」
岱胡は納得の行かない顔つきをしながらも、一人残った訓練生に指示を出し、庸儀の兵だけに銃を向けた。
サムの部隊は雑兵が多いと言っても、腕が悪いわけじゃあない。
泉翔の戦士たちを庇いながら、確実に庸儀の兵を減らしてくれている。
徳丸自身も応戦をしながら、丘中に響き渡る大声で怒鳴った。
「おまえら全員、目をしっかり開いてこの光景を見ておけ! ヘイトの反同盟派が今、おまえたちのために、なにをしてくれているのかを!」
岱胡は勢い良くこちらを振り返り、その視線を徳丸の背後へ移したあと、ようやく表情を緩めた。
敵兵を薙ぎ倒し、その視線を追うと、先にあったのはサムの姿だ。
そう言えばサムがレイファーとともに泉翔へ渡った際に、岱胡とも会っている。
そのときにどんな話しをしたのかも、サムから聞いていた。
岱胡の表情からすると、徳丸と同じようにサムに対して悪い感情を抱いてはいないのだろう。
敵兵を倒しながら、岱胡の隊員たちの顔を窺った。
全員が、自分たちを庇って庸儀の兵を倒す反同盟派の連中に、驚きの表情を見せている。
(それも当然の反応か……)
これまで敵だと認識していた相手に助けられるなどと、夢にも思わなかったはずだ。
ものの数十分で、反同盟派の連中は丘を登ってきた庸儀の兵を一掃してしまった。
ざっと周囲を見渡して全員が無事であるのを確認し、一息ついた。
(あとは簡単に経緯を説明して、サムに金縛りを解いてもらえばいいか)
他の隊員たちへの伝令は岱胡に任せよう、そう考えて汗を拭いながら岱胡の姿を探すと、どういうわけか、岱胡は丘を駆け下りていこうとしている。
あわててそのあとを追い、襟首を掴んだ。
「岱胡! どこに行くつもりだ!」
「どこもなにも、あの野郎を追いかけるんスよ!」
「――あの野郎?」
「放してくださいよっ! あの野郎――あいつだけは絶対許せない!」
いつもひょうひょうとしていて、掴みどころのない岱胡が、怒りをあらわにして徳丸の手を振り解こうとしている。
「落ち着け! 隊長のおまえが隊員たちをほったらかしにして単独行動する気か? 大体、あの野郎ってのは誰のことだ?」
「マドルの野郎っスよ! ふざけたことを言いやがって……俺は絶対あいつをこの手で――」
手にしたライフルを握りしめて勢い良く肩を振ったせいで、徳丸の手が襟首から離れそうになり、仕方なしに加減をせずに岱胡の頭に拳骨を振り下ろした。
グッと岱胡はくぐもった声を発し、やっともがくのをやめた。
「落ち着けと言ってるだろうが。なんだってんだ? こんな状況でマドルってやつと話しをしたってのか?」
「そうじゃないっスけど……あいつ、俺がスコープで見ていることに気づいてたんスよ……そしたらあいつが……」
「スコープ越しか。一体、なにを言われた?」
岱胡は盛んに頭を撫でながら、これまでに見たことのない悔しそうな表情をし、消え入りそうな声で答えた。
「……精々足掻け、って……あの野郎が俺に向かって馬鹿にしたように、精々足掻けって、そう言ったんス……」
「フン……なるほどな。いいじゃねぇか、上等だ。足掻いてやろうじゃねぇか。やつらが後悔するほどにな」
ハッと顔を上げて徳丸を見返してきた岱胡の頭をワシワシと撫でてから、その肩を掴んでサムの元へと向かった。
敵兵の数は思った以上で、岱胡が他の隊員を庇うように立ちはだかり、銃を撃ち続けている。
それでもすべてに対応しきれてはいない。
次々に丘へ上ってくる敵兵には、サムの部隊が向かった。
先頭の敵兵が岱胡に向かって剣を振り下ろしたそのあいだに割って入り、剣を斧で受けた。
鋭い金属音が響き、押し込まれる剣を力任せに弾くと、そのまま敵兵の胸もとを裂いた。
「岱胡、無事か?」
「とっ……徳丸さん! 無事だったんですか!」
「細かい話しはあとだ。さっさと庸儀の兵を倒すぞ!」
「でもヘイトが……なんなんスか! どうなってるんです! 梁瀬さんは……」
青ざめた表情で訴えてくる岱胡の頭に拳を振り下ろした。
「……っつ!」
「話しはあとだと言ったろうが! 今はとにかく庸儀の兵を一掃するんだ! いいか? 倒すのは庸儀の兵だけだ。ヘイトに手出しは無用だぞ!」
岱胡は納得の行かない顔つきをしながらも、一人残った訓練生に指示を出し、庸儀の兵だけに銃を向けた。
サムの部隊は雑兵が多いと言っても、腕が悪いわけじゃあない。
泉翔の戦士たちを庇いながら、確実に庸儀の兵を減らしてくれている。
徳丸自身も応戦をしながら、丘中に響き渡る大声で怒鳴った。
「おまえら全員、目をしっかり開いてこの光景を見ておけ! ヘイトの反同盟派が今、おまえたちのために、なにをしてくれているのかを!」
岱胡は勢い良くこちらを振り返り、その視線を徳丸の背後へ移したあと、ようやく表情を緩めた。
敵兵を薙ぎ倒し、その視線を追うと、先にあったのはサムの姿だ。
そう言えばサムがレイファーとともに泉翔へ渡った際に、岱胡とも会っている。
そのときにどんな話しをしたのかも、サムから聞いていた。
岱胡の表情からすると、徳丸と同じようにサムに対して悪い感情を抱いてはいないのだろう。
敵兵を倒しながら、岱胡の隊員たちの顔を窺った。
全員が、自分たちを庇って庸儀の兵を倒す反同盟派の連中に、驚きの表情を見せている。
(それも当然の反応か……)
これまで敵だと認識していた相手に助けられるなどと、夢にも思わなかったはずだ。
ものの数十分で、反同盟派の連中は丘を登ってきた庸儀の兵を一掃してしまった。
ざっと周囲を見渡して全員が無事であるのを確認し、一息ついた。
(あとは簡単に経緯を説明して、サムに金縛りを解いてもらえばいいか)
他の隊員たちへの伝令は岱胡に任せよう、そう考えて汗を拭いながら岱胡の姿を探すと、どういうわけか、岱胡は丘を駆け下りていこうとしている。
あわててそのあとを追い、襟首を掴んだ。
「岱胡! どこに行くつもりだ!」
「どこもなにも、あの野郎を追いかけるんスよ!」
「――あの野郎?」
「放してくださいよっ! あの野郎――あいつだけは絶対許せない!」
いつもひょうひょうとしていて、掴みどころのない岱胡が、怒りをあらわにして徳丸の手を振り解こうとしている。
「落ち着け! 隊長のおまえが隊員たちをほったらかしにして単独行動する気か? 大体、あの野郎ってのは誰のことだ?」
「マドルの野郎っスよ! ふざけたことを言いやがって……俺は絶対あいつをこの手で――」
手にしたライフルを握りしめて勢い良く肩を振ったせいで、徳丸の手が襟首から離れそうになり、仕方なしに加減をせずに岱胡の頭に拳骨を振り下ろした。
グッと岱胡はくぐもった声を発し、やっともがくのをやめた。
「落ち着けと言ってるだろうが。なんだってんだ? こんな状況でマドルってやつと話しをしたってのか?」
「そうじゃないっスけど……あいつ、俺がスコープで見ていることに気づいてたんスよ……そしたらあいつが……」
「スコープ越しか。一体、なにを言われた?」
岱胡は盛んに頭を撫でながら、これまでに見たことのない悔しそうな表情をし、消え入りそうな声で答えた。
「……精々足掻け、って……あの野郎が俺に向かって馬鹿にしたように、精々足掻けって、そう言ったんス……」
「フン……なるほどな。いいじゃねぇか、上等だ。足掻いてやろうじゃねぇか。やつらが後悔するほどにな」
ハッと顔を上げて徳丸を見返してきた岱胡の頭をワシワシと撫でてから、その肩を掴んでサムの元へと向かった。
0
お気に入りに追加
10
あなたにおすすめの小説
どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします
文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。
夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。
エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。
「ゲルハルトさま、愛しています」
ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。
「エレーヌ、俺はあなたが憎い」
エレーヌは凍り付いた。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
【完結】仰る通り、貴方の子ではありません
ユユ
恋愛
辛い悪阻と難産を経て産まれたのは
私に似た待望の男児だった。
なのに認められず、
不貞の濡れ衣を着せられ、
追い出されてしまった。
実家からも勘当され
息子と2人で生きていくことにした。
* 作り話です
* 暇つぶしにどうぞ
* 4万文字未満
* 完結保証付き
* 少し大人表現あり
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
【完結】妃が毒を盛っている。
井上 佳
ファンタジー
2年前から病床に臥しているハイディルベルクの王には、息子が2人いる。
王妃フリーデの息子で第一王子のジークムント。
側妃ガブリエレの息子で第二王子のハルトヴィヒ。
いま王が崩御するようなことがあれば、第一王子が玉座につくことになるのは間違いないだろう。
貴族が集まって出る一番の話題は、王の後継者を推測することだった――
見舞いに来たエルメンヒルデ・シュティルナー侯爵令嬢。
「エルメンヒルデか……。」
「はい。お側に寄っても?」
「ああ、おいで。」
彼女の行動が、出会いが、全てを解決に導く――。
この優しい王の、原因不明の病気とはいったい……?
※オリジナルファンタジー第1作目カムバックイェイ!!
※妖精王チートですので細かいことは気にしない。
※隣国の王子はテンプレですよね。
※イチオシは護衛たちとの気安いやり取り
※最後のほうにざまぁがあるようなないような
※敬語尊敬語滅茶苦茶御免!(なさい)
※他サイトでは佳(ケイ)+苗字で掲載中
※完結保証……保障と保証がわからない!
2022.11.26 18:30 完結しました。
お付き合いいただきありがとうございました!
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
夫達の裏切りに復讐心で一杯だった私は、死の間際に本当の願いを見つけ幸せになれました。
Nao*
恋愛
家庭を顧みず、外泊も増えた夫ダリス。
それを寂しく思う私だったが、庭師のサムとその息子のシャルに癒される日々を送って居た。
そして私達は、三人であるバラの苗を庭に植える。
しかしその後…夫と親友のエリザによって、私は酷い裏切りを受ける事に─。
命の危機が迫る中、私の心は二人への復讐心で一杯になるが…駆けつけたシャルとサムを前に、本当の願いを見つけて─?
(1万字以上と少し長いので、短編集とは別にしてあります)
断る――――前にもそう言ったはずだ
鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」
結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。
周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。
けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。
他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。
(わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)
そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。
ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。
そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる