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大切なもの
第5話 生還 ~徳丸 5~
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丘を駆け上ってくる敵兵を、岱胡と訓練生の二人が打ち抜いているのを正面に、徳丸は腰に下げた斧を握り締め、全力で走った。
敵兵の数は思った以上で、岱胡が他の隊員を庇うように立ちはだかり、銃を撃ち続けている。
それでもすべてに対応しきれてはいない。
次々に丘へ上ってくる敵兵には、サムの部隊が向かった。
先頭の敵兵が岱胡に向かって剣を振り下ろしたそのあいだに割って入り、剣を斧で受けた。
鋭い金属音が響き、押し込まれる剣を力任せに弾くと、そのまま敵兵の胸もとを裂いた。
「岱胡、無事か?」
「とっ……徳丸さん! 無事だったんですか!」
「細かい話しはあとだ。さっさと庸儀の兵を倒すぞ!」
「でもヘイトが……なんなんスか! どうなってるんです! 梁瀬さんは……」
青ざめた表情で訴えてくる岱胡の頭に拳を振り下ろした。
「……っつ!」
「話しはあとだと言ったろうが! 今はとにかく庸儀の兵を一掃するんだ! いいか? 倒すのは庸儀の兵だけだ。ヘイトに手出しは無用だぞ!」
岱胡は納得の行かない顔つきをしながらも、一人残った訓練生に指示を出し、庸儀の兵だけに銃を向けた。
サムの部隊は雑兵が多いと言っても、腕が悪いわけじゃあない。
泉翔の戦士たちを庇いながら、確実に庸儀の兵を減らしてくれている。
徳丸自身も応戦をしながら、丘中に響き渡る大声で怒鳴った。
「おまえら全員、目をしっかり開いてこの光景を見ておけ! ヘイトの反同盟派が今、おまえたちのために、なにをしてくれているのかを!」
岱胡は勢い良くこちらを振り返り、その視線を徳丸の背後へ移したあと、ようやく表情を緩めた。
敵兵を薙ぎ倒し、その視線を追うと、先にあったのはサムの姿だ。
そう言えばサムがレイファーとともに泉翔へ渡った際に、岱胡とも会っている。
そのときにどんな話しをしたのかも、サムから聞いていた。
岱胡の表情からすると、徳丸と同じようにサムに対して悪い感情を抱いてはいないのだろう。
敵兵を倒しながら、岱胡の隊員たちの顔を窺った。
全員が、自分たちを庇って庸儀の兵を倒す反同盟派の連中に、驚きの表情を見せている。
(それも当然の反応か……)
これまで敵だと認識していた相手に助けられるなどと、夢にも思わなかったはずだ。
ものの数十分で、反同盟派の連中は丘を登ってきた庸儀の兵を一掃してしまった。
ざっと周囲を見渡して全員が無事であるのを確認し、一息ついた。
(あとは簡単に経緯を説明して、サムに金縛りを解いてもらえばいいか)
他の隊員たちへの伝令は岱胡に任せよう、そう考えて汗を拭いながら岱胡の姿を探すと、どういうわけか、岱胡は丘を駆け下りていこうとしている。
あわててそのあとを追い、襟首を掴んだ。
「岱胡! どこに行くつもりだ!」
「どこもなにも、あの野郎を追いかけるんスよ!」
「――あの野郎?」
「放してくださいよっ! あの野郎――あいつだけは絶対許せない!」
いつもひょうひょうとしていて、掴みどころのない岱胡が、怒りをあらわにして徳丸の手を振り解こうとしている。
「落ち着け! 隊長のおまえが隊員たちをほったらかしにして単独行動する気か? 大体、あの野郎ってのは誰のことだ?」
「マドルの野郎っスよ! ふざけたことを言いやがって……俺は絶対あいつをこの手で――」
手にしたライフルを握りしめて勢い良く肩を振ったせいで、徳丸の手が襟首から離れそうになり、仕方なしに加減をせずに岱胡の頭に拳骨を振り下ろした。
グッと岱胡はくぐもった声を発し、やっともがくのをやめた。
「落ち着けと言ってるだろうが。なんだってんだ? こんな状況でマドルってやつと話しをしたってのか?」
「そうじゃないっスけど……あいつ、俺がスコープで見ていることに気づいてたんスよ……そしたらあいつが……」
「スコープ越しか。一体、なにを言われた?」
岱胡は盛んに頭を撫でながら、これまでに見たことのない悔しそうな表情をし、消え入りそうな声で答えた。
「……精々足掻け、って……あの野郎が俺に向かって馬鹿にしたように、精々足掻けって、そう言ったんス……」
「フン……なるほどな。いいじゃねぇか、上等だ。足掻いてやろうじゃねぇか。やつらが後悔するほどにな」
ハッと顔を上げて徳丸を見返してきた岱胡の頭をワシワシと撫でてから、その肩を掴んでサムの元へと向かった。
敵兵の数は思った以上で、岱胡が他の隊員を庇うように立ちはだかり、銃を撃ち続けている。
それでもすべてに対応しきれてはいない。
次々に丘へ上ってくる敵兵には、サムの部隊が向かった。
先頭の敵兵が岱胡に向かって剣を振り下ろしたそのあいだに割って入り、剣を斧で受けた。
鋭い金属音が響き、押し込まれる剣を力任せに弾くと、そのまま敵兵の胸もとを裂いた。
「岱胡、無事か?」
「とっ……徳丸さん! 無事だったんですか!」
「細かい話しはあとだ。さっさと庸儀の兵を倒すぞ!」
「でもヘイトが……なんなんスか! どうなってるんです! 梁瀬さんは……」
青ざめた表情で訴えてくる岱胡の頭に拳を振り下ろした。
「……っつ!」
「話しはあとだと言ったろうが! 今はとにかく庸儀の兵を一掃するんだ! いいか? 倒すのは庸儀の兵だけだ。ヘイトに手出しは無用だぞ!」
岱胡は納得の行かない顔つきをしながらも、一人残った訓練生に指示を出し、庸儀の兵だけに銃を向けた。
サムの部隊は雑兵が多いと言っても、腕が悪いわけじゃあない。
泉翔の戦士たちを庇いながら、確実に庸儀の兵を減らしてくれている。
徳丸自身も応戦をしながら、丘中に響き渡る大声で怒鳴った。
「おまえら全員、目をしっかり開いてこの光景を見ておけ! ヘイトの反同盟派が今、おまえたちのために、なにをしてくれているのかを!」
岱胡は勢い良くこちらを振り返り、その視線を徳丸の背後へ移したあと、ようやく表情を緩めた。
敵兵を薙ぎ倒し、その視線を追うと、先にあったのはサムの姿だ。
そう言えばサムがレイファーとともに泉翔へ渡った際に、岱胡とも会っている。
そのときにどんな話しをしたのかも、サムから聞いていた。
岱胡の表情からすると、徳丸と同じようにサムに対して悪い感情を抱いてはいないのだろう。
敵兵を倒しながら、岱胡の隊員たちの顔を窺った。
全員が、自分たちを庇って庸儀の兵を倒す反同盟派の連中に、驚きの表情を見せている。
(それも当然の反応か……)
これまで敵だと認識していた相手に助けられるなどと、夢にも思わなかったはずだ。
ものの数十分で、反同盟派の連中は丘を登ってきた庸儀の兵を一掃してしまった。
ざっと周囲を見渡して全員が無事であるのを確認し、一息ついた。
(あとは簡単に経緯を説明して、サムに金縛りを解いてもらえばいいか)
他の隊員たちへの伝令は岱胡に任せよう、そう考えて汗を拭いながら岱胡の姿を探すと、どういうわけか、岱胡は丘を駆け下りていこうとしている。
あわててそのあとを追い、襟首を掴んだ。
「岱胡! どこに行くつもりだ!」
「どこもなにも、あの野郎を追いかけるんスよ!」
「――あの野郎?」
「放してくださいよっ! あの野郎――あいつだけは絶対許せない!」
いつもひょうひょうとしていて、掴みどころのない岱胡が、怒りをあらわにして徳丸の手を振り解こうとしている。
「落ち着け! 隊長のおまえが隊員たちをほったらかしにして単独行動する気か? 大体、あの野郎ってのは誰のことだ?」
「マドルの野郎っスよ! ふざけたことを言いやがって……俺は絶対あいつをこの手で――」
手にしたライフルを握りしめて勢い良く肩を振ったせいで、徳丸の手が襟首から離れそうになり、仕方なしに加減をせずに岱胡の頭に拳骨を振り下ろした。
グッと岱胡はくぐもった声を発し、やっともがくのをやめた。
「落ち着けと言ってるだろうが。なんだってんだ? こんな状況でマドルってやつと話しをしたってのか?」
「そうじゃないっスけど……あいつ、俺がスコープで見ていることに気づいてたんスよ……そしたらあいつが……」
「スコープ越しか。一体、なにを言われた?」
岱胡は盛んに頭を撫でながら、これまでに見たことのない悔しそうな表情をし、消え入りそうな声で答えた。
「……精々足掻け、って……あの野郎が俺に向かって馬鹿にしたように、精々足掻けって、そう言ったんス……」
「フン……なるほどな。いいじゃねぇか、上等だ。足掻いてやろうじゃねぇか。やつらが後悔するほどにな」
ハッと顔を上げて徳丸を見返してきた岱胡の頭をワシワシと撫でてから、その肩を掴んでサムの元へと向かった。
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