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動きだす刻
第139話 強襲 ~巧 4~
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下へ降りると、レイファーはまず部隊をいくつかにわけ、残る兵と泉翔へ向かう兵とに振りわけた。
「ほどなく国境沿いへ出ているジャックの部隊が戻ってくる。ケインの部隊はサムたちと庸儀側から出航する。戻るまではブライアンとジャックに従い、あとのことを頼む」
まだ高揚したままの兵たちは返事の代わりに雄叫びを上げている。
個々は荒い気性のジャセンベル人も集まれば互いを認め合い、助け合う気持ちは持っているのか……。
それとも上に立つものがレイファーであるからなのか、それは巧にはわからない。
ただ、どちらにしろ強い絆でまとまっているようだ。
「港へ向かう部隊は、すぐに移動を始めるように。着いたら速やかに乗船、そして出航の準備を」
兵たちは門の外に並んでいるトラックに次々に乗り込み、走り去っていった。
何台目かを見送ったところで、ようやく穂高とピーターが戻ってきた。
「穂高! あの人はどうなったの?」
「うん、他にも逃げ遅れた女官が多かったから、彼女たちと一緒に安全な場所へ移動させたよ」
「移動先はあらかじめ決めてある場所です。問題が起こるようなことはありませんから、心配しないでください」
ピーターにうなずくと、穂高は周囲を見渡して呆れたように言った。
「さすがに人数でものを言わせると、事が早いね。まさかこんなに時間をかけずに済ませるとは思わなかったな」
「そうね……それより、すぐに一番近い港へ移動するようよ。私たちもトラックに急がないと」
二人を促して手近なトラックへと乗り込んだ。
走りだしてしばらくしたころ、梁瀬から式神が届いた。
庸儀のほうも、無事に制圧を果たし、これから港で出航の準備を始めると言う。
行き先を再度確認し合って、出航の時間を合わせた。
「いよいよ泉翔か……戻ったとき、状態はどうなっているんだろう?」
「そうねぇ……最悪、ってところじゃないかしら?」
きっと大丈夫だと信じていても、不安が付きまとう。
未だ経験のない数を迎えて、誰かが欠けているかもしれないのが怖い。
大体、海を渡るにもアクシデントがないとは言い切れないのだから……。
後れを取って三国が中央までたどり着いてしまっていたら、そう思うと家族のことも心配でしょうがない。
穂高も比佐子は東区にいると言っても、まったく安全だとは言い切れないせいか、表情を曇らせている。
どのくらい長い時間、トラックに揺られていたのだろう。
道中、気が休まることはなかった。
「見えてきた」
誰かの呟きに巧も穂高も手荷物をしっかり抱えた。
穂高はリュックまで背負っている。
「そのリュック……」
「あぁ……これ。麻乃のものらしいね。中に読みさしの本が数冊と、着替えが入っているって」
「そう……戻ったら渡してやらないとね」
トラックが停まり、幌が開けられた。
吹き抜ける風は潮を含んでいて心地よい。
船は既に準備が済み、先に着いていた兵たちは乗船をしている。
ここからは、穂高とも別行動になる。
巧はレイファーのそばへ行くと、最初に穂高のことを良く頼んでおいた。
そしてかばんの中から一通の封書を出すと、レイファーに手渡した。
「なんだこれは?」
「それはね、あんたのお父さまからあずかったのよ。無事、大陸を制圧できたら渡してくれって言われてね」
「……王から?」
レイファーは受け取ると緊張した顔つきのまま封を開けた。
中から一枚の手紙を取り出し、それを開くと顔をしかめた。
「どうかした?」
巧の問いかけに、レイファーはなにも言わずに手紙をこちらへ向けてみせた。
「――白紙だ」
「白紙?」
「見てのとおりだ。なにも書いちゃあいない」
「そう……へぇ。白紙ねぇ……」
思わずニヤリとしてしまった。
レイファーの目がキッと鋭くなる。
封筒と一緒になにも書かれていない手紙を巧の手に押し付けてきた。
「中村……あんた王に担がれたんだよ。あの王が俺になにかを残すなど、あり得ないからな……」
「そうかしら? まぁ、今のあんたにはその意味がわからなくても仕方ないわね」
「意味? こんなものにはなんの意味など……」
「いずれ、わかるわ。いや、わかってくれなきゃ困るわね。これは、そのときまであんたが大切に持っていなさい。捨てることは絶対に許さないわよ」
封筒に手紙を戻し入れ、レイファーの胸のポケットへ捻じ込んだ。
レイファーはなにか言いたそうにしながらも、最後の有無を言わせない物言いに、大人しくポケットへしまい直した。
(これから……ここからが正念場よね。きっと……)
船の準備が終わったことを知らせる鐘が鳴り響いた。
それを潮にレイファー、穂高と別れ、ピーターとともに船へと乗り込んだ。
「ほどなく国境沿いへ出ているジャックの部隊が戻ってくる。ケインの部隊はサムたちと庸儀側から出航する。戻るまではブライアンとジャックに従い、あとのことを頼む」
まだ高揚したままの兵たちは返事の代わりに雄叫びを上げている。
個々は荒い気性のジャセンベル人も集まれば互いを認め合い、助け合う気持ちは持っているのか……。
それとも上に立つものがレイファーであるからなのか、それは巧にはわからない。
ただ、どちらにしろ強い絆でまとまっているようだ。
「港へ向かう部隊は、すぐに移動を始めるように。着いたら速やかに乗船、そして出航の準備を」
兵たちは門の外に並んでいるトラックに次々に乗り込み、走り去っていった。
何台目かを見送ったところで、ようやく穂高とピーターが戻ってきた。
「穂高! あの人はどうなったの?」
「うん、他にも逃げ遅れた女官が多かったから、彼女たちと一緒に安全な場所へ移動させたよ」
「移動先はあらかじめ決めてある場所です。問題が起こるようなことはありませんから、心配しないでください」
ピーターにうなずくと、穂高は周囲を見渡して呆れたように言った。
「さすがに人数でものを言わせると、事が早いね。まさかこんなに時間をかけずに済ませるとは思わなかったな」
「そうね……それより、すぐに一番近い港へ移動するようよ。私たちもトラックに急がないと」
二人を促して手近なトラックへと乗り込んだ。
走りだしてしばらくしたころ、梁瀬から式神が届いた。
庸儀のほうも、無事に制圧を果たし、これから港で出航の準備を始めると言う。
行き先を再度確認し合って、出航の時間を合わせた。
「いよいよ泉翔か……戻ったとき、状態はどうなっているんだろう?」
「そうねぇ……最悪、ってところじゃないかしら?」
きっと大丈夫だと信じていても、不安が付きまとう。
未だ経験のない数を迎えて、誰かが欠けているかもしれないのが怖い。
大体、海を渡るにもアクシデントがないとは言い切れないのだから……。
後れを取って三国が中央までたどり着いてしまっていたら、そう思うと家族のことも心配でしょうがない。
穂高も比佐子は東区にいると言っても、まったく安全だとは言い切れないせいか、表情を曇らせている。
どのくらい長い時間、トラックに揺られていたのだろう。
道中、気が休まることはなかった。
「見えてきた」
誰かの呟きに巧も穂高も手荷物をしっかり抱えた。
穂高はリュックまで背負っている。
「そのリュック……」
「あぁ……これ。麻乃のものらしいね。中に読みさしの本が数冊と、着替えが入っているって」
「そう……戻ったら渡してやらないとね」
トラックが停まり、幌が開けられた。
吹き抜ける風は潮を含んでいて心地よい。
船は既に準備が済み、先に着いていた兵たちは乗船をしている。
ここからは、穂高とも別行動になる。
巧はレイファーのそばへ行くと、最初に穂高のことを良く頼んでおいた。
そしてかばんの中から一通の封書を出すと、レイファーに手渡した。
「なんだこれは?」
「それはね、あんたのお父さまからあずかったのよ。無事、大陸を制圧できたら渡してくれって言われてね」
「……王から?」
レイファーは受け取ると緊張した顔つきのまま封を開けた。
中から一枚の手紙を取り出し、それを開くと顔をしかめた。
「どうかした?」
巧の問いかけに、レイファーはなにも言わずに手紙をこちらへ向けてみせた。
「――白紙だ」
「白紙?」
「見てのとおりだ。なにも書いちゃあいない」
「そう……へぇ。白紙ねぇ……」
思わずニヤリとしてしまった。
レイファーの目がキッと鋭くなる。
封筒と一緒になにも書かれていない手紙を巧の手に押し付けてきた。
「中村……あんた王に担がれたんだよ。あの王が俺になにかを残すなど、あり得ないからな……」
「そうかしら? まぁ、今のあんたにはその意味がわからなくても仕方ないわね」
「意味? こんなものにはなんの意味など……」
「いずれ、わかるわ。いや、わかってくれなきゃ困るわね。これは、そのときまであんたが大切に持っていなさい。捨てることは絶対に許さないわよ」
封筒に手紙を戻し入れ、レイファーの胸のポケットへ捻じ込んだ。
レイファーはなにか言いたそうにしながらも、最後の有無を言わせない物言いに、大人しくポケットへしまい直した。
(これから……ここからが正念場よね。きっと……)
船の準備が終わったことを知らせる鐘が鳴り響いた。
それを潮にレイファー、穂高と別れ、ピーターとともに船へと乗り込んだ。
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