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動きだす刻
第135話 強襲 ~梁瀬 4~
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他に逃げ出せずに隠れていた下働きのものたちを助け出し、城の裏手のトラックへ乗せ、サムの手のものに付き添わせて安全な場所へ避難をさせた。
それを見送ってから城内へと戻り、混乱した中で徳丸の姿を探した。
反同盟派のほうが数は多いはずなのに、中々決着がつかずにいるのは、庸儀の兵たちが暗示にかっているせいだろうか?
倒しても起き上がってくるような兵は見当たらないから、単純に突き進むだけの暗示かもしれない。
さっき倒した弓兵のあたりから、銃撃が続いている。
反同盟派からも銃での応戦をしているけれど、倒しきれずにいるようだ。
手を出していいものか、悩みながらも出さなければこちらが不利になる。
思いきって銃兵に向けて金縛りをかけた。
いつもどおり……泉翔でいつも演習のときにかけているのと同じ。
そのつもりでいたのに、城壁に向かって直線上にいた庸儀の兵が全部、圧しつぶれたのかと思うほどの勢いで地面に突っ伏した。
「えっ……なんで……?」
一気に敵兵の数は減ったけれど、こんなにも強く作用する術を繰り出したつもりはない。
自分の中でなにか制御し切れない思いがあふれてくる気がして、手が震える。
ジッと杖を持つ手を見つめていると、背中を思いきり突き飛ばされた。
「馬鹿! なにをぼんやりしてる!」
後ろに立った徳丸が、敵兵の剣を受けながら怒鳴った。
まだ、庸儀の兵が全滅したわけでも降伏したわけでもない。
それなのにこんな中で、余計なことを考えている場合じゃないのに。
城の中はサムたちが抑えるだろう。
おもての自分たちがつまずくわけには行かないのだ。
「ごめん、もう大丈夫だから」
深呼吸をして気持ちを落ち着かせ、今度は意識してクロムの残してくれた手帳の中身を思い出した。
そこに書かれていたいくつもの術の中から、梁瀬は自分でこれだと決めたものを繰り出していく。
できるかぎり金縛りで抑え込み、どうにもならないときには、仕方なく攻撃の術を唱えた。
慎重に、無駄に強く力を放出しないように、細心の注意を払った。
(コツが掴めてきたかも……)
梁瀬の気持ちが落ち着いていれば、強弱を付けるのも難しくは無さそうだ。
誰を、どう守りたいのか。
それによってどの術が一番有効なのか、そのポイントさえ掴んでいれば、さっきのようにはならない。
ただ守ろうという思いが先行して焦ると、余計な思いがついてきてあふれた力が抑えきれなくなるようだ。
さっき来たクロムの話しでは、泉翔に上陸してくる三国の兵にかけられている術を、解く準備をしていると言う。
それには、梁瀬とサムも協力しないと完成しない、とも……。
クロムのことだ。梁瀬がサムとハンスを伴ってやったときよりも、大きな力を使う術を用意しているだろう。
そのときになって、自分の力が抑えられずに失敗するなど許されない。
地に響きそうなほどの怒声が、城の中から響いてくる。
いよいよ王を目の前にして、制圧が目前なのだろうか?
彼らの声が、ここにいる反同盟派の者たちをも奮い立たせたのか、士気が上がったのがわかった。
城壁の向こう側でも、援軍に来ているジャセンベル兵たちの怒声が響いてくる。
「始めから人数で優勢だったとは言え、少し不安を感じていたけれど、どうやらやつらは大丈夫だな」
「うん、そうだね」
梁瀬と背合わせになって敵兵の相手をしていた徳丸が呟いた。
その口もとが少しだけ緩み、安堵の表情を浮かべている。
「まだ早いよ。完全に制圧してから、それから喜ばないと」
自分の力を過信しているわけではなく、と言って自信がないわけでもない。
湧き立つ思いに振り回されそうになるのなら、なんとしてもそれを梁瀬自身の力で制御してみせよう。
(そうしないと、泉翔に帰ってから……ちょっと怖いかもしれない)
徳丸に伸びた敵兵の腕を払いながら、両親の厳しい目を思い出していた。
それを見送ってから城内へと戻り、混乱した中で徳丸の姿を探した。
反同盟派のほうが数は多いはずなのに、中々決着がつかずにいるのは、庸儀の兵たちが暗示にかっているせいだろうか?
倒しても起き上がってくるような兵は見当たらないから、単純に突き進むだけの暗示かもしれない。
さっき倒した弓兵のあたりから、銃撃が続いている。
反同盟派からも銃での応戦をしているけれど、倒しきれずにいるようだ。
手を出していいものか、悩みながらも出さなければこちらが不利になる。
思いきって銃兵に向けて金縛りをかけた。
いつもどおり……泉翔でいつも演習のときにかけているのと同じ。
そのつもりでいたのに、城壁に向かって直線上にいた庸儀の兵が全部、圧しつぶれたのかと思うほどの勢いで地面に突っ伏した。
「えっ……なんで……?」
一気に敵兵の数は減ったけれど、こんなにも強く作用する術を繰り出したつもりはない。
自分の中でなにか制御し切れない思いがあふれてくる気がして、手が震える。
ジッと杖を持つ手を見つめていると、背中を思いきり突き飛ばされた。
「馬鹿! なにをぼんやりしてる!」
後ろに立った徳丸が、敵兵の剣を受けながら怒鳴った。
まだ、庸儀の兵が全滅したわけでも降伏したわけでもない。
それなのにこんな中で、余計なことを考えている場合じゃないのに。
城の中はサムたちが抑えるだろう。
おもての自分たちがつまずくわけには行かないのだ。
「ごめん、もう大丈夫だから」
深呼吸をして気持ちを落ち着かせ、今度は意識してクロムの残してくれた手帳の中身を思い出した。
そこに書かれていたいくつもの術の中から、梁瀬は自分でこれだと決めたものを繰り出していく。
できるかぎり金縛りで抑え込み、どうにもならないときには、仕方なく攻撃の術を唱えた。
慎重に、無駄に強く力を放出しないように、細心の注意を払った。
(コツが掴めてきたかも……)
梁瀬の気持ちが落ち着いていれば、強弱を付けるのも難しくは無さそうだ。
誰を、どう守りたいのか。
それによってどの術が一番有効なのか、そのポイントさえ掴んでいれば、さっきのようにはならない。
ただ守ろうという思いが先行して焦ると、余計な思いがついてきてあふれた力が抑えきれなくなるようだ。
さっき来たクロムの話しでは、泉翔に上陸してくる三国の兵にかけられている術を、解く準備をしていると言う。
それには、梁瀬とサムも協力しないと完成しない、とも……。
クロムのことだ。梁瀬がサムとハンスを伴ってやったときよりも、大きな力を使う術を用意しているだろう。
そのときになって、自分の力が抑えられずに失敗するなど許されない。
地に響きそうなほどの怒声が、城の中から響いてくる。
いよいよ王を目の前にして、制圧が目前なのだろうか?
彼らの声が、ここにいる反同盟派の者たちをも奮い立たせたのか、士気が上がったのがわかった。
城壁の向こう側でも、援軍に来ているジャセンベル兵たちの怒声が響いてくる。
「始めから人数で優勢だったとは言え、少し不安を感じていたけれど、どうやらやつらは大丈夫だな」
「うん、そうだね」
梁瀬と背合わせになって敵兵の相手をしていた徳丸が呟いた。
その口もとが少しだけ緩み、安堵の表情を浮かべている。
「まだ早いよ。完全に制圧してから、それから喜ばないと」
自分の力を過信しているわけではなく、と言って自信がないわけでもない。
湧き立つ思いに振り回されそうになるのなら、なんとしてもそれを梁瀬自身の力で制御してみせよう。
(そうしないと、泉翔に帰ってから……ちょっと怖いかもしれない)
徳丸に伸びた敵兵の腕を払いながら、両親の厳しい目を思い出していた。
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