蓮華

釜瑪 秋摩

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動きだす刻

第132話 強襲 ~梁瀬 2~

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「ジャセンベルのほうはどう動くかわかりませんが、こちらは守備兵を相手にする部隊と、直接、王の許へ向かう部隊に切りわけます」

「なるほど……王を逃がしてしまっては元も子もないもんね」

「ええ、それから私たちのところから、既に数名をロマジェリカに送っています」

「ロマジェリカに?」

「マドルとの連絡を絶つためです」

「あ、そうか……」

「ですから、そちらはそのことに気を削がれることなく進めてください」

 サムが最後に言った言葉の意味がわからず、ジッと見ていると、サムがこちらを向いた。

「穂高さんですよ」

「あ、そうか。まだ繋がってたんだ?」

 できるかぎり密に連絡を、そう言われていたのをすっかり忘れていた。
 ハンスや徳丸と一緒に、庸儀周辺の地図と城の見取り図を広げてルートを確認していると、後ろでサムが大声を出した。

「そんなことを今さら言われても……」

「……どうしたの?」

「梁瀬さん、あなたたちは安部が西浜で敵兵を待つと知らなかったんですか?」

「修治さんが西浜? だって……知るもなにも僕らは泉翔とは連絡が取れないんだから……」

 穂高の焦る声が聞こえてくる。
 麻乃のいるロマジェリカが西浜に上陸するのに、修治が西浜についていたら取り返しのつかない事態が起こってしまうかもしれない。
 なんとかして鴇汰を西浜に向かわせないとまずい。そう言っている。

「穂高さん、落ち着いて。まずいのは僕もわかるよ。でも今はどうにもならないでしょ。だから泉翔へ向かうとき、僕は北と南を探って鴇汰さんのいるほうに上陸するから。鴇汰さんを捕まえて僕の式神で西浜に向かえばいい。大丈夫、きっとうまく行くから。うん。うん。巧さんにもそう言って」

 すっかり取り乱している穂高をなだめながら、梁瀬は落ち着かせるようにわざとゆっくり話した。
 実際、それしか方法の取りようがない。
 落ち着けば穂高もそれを理解できるだろう。

「ヘイトが出航しよった。ロマジェリカのやつが式神をこっちへ送ったぞ」

「予定どおりですね、その式神が戻り次第、そいつを押さえるように指示してください」

 次から次へと動く事態に焦りを感じながらも、一つ一つ対処していくことに充実感を覚えた。
 泉翔で得られるそれとは、まったく別の感覚でひょっとすると自分は戦うことが好きなんじゃあないだろうか、と疑ってしまう。

 今はただ対処していくことしかできないけれど、これを全部確実にクリアして行けるなら争うこととはまた別の道も拓けるんじゃあないだろうか?
 そうでなければ存在している意味が見出せないようにも思える。

 しばくするとマドルの許にヘイトからの式神が着いた。
 なぜか鳥は二羽だ。
 すぐ隣の木に梁瀬の式神を移動させて耳を澄ますと、近距離でさえぎるものもなく、会話のほとんどが聞き取れた。

「ロマジェリカはもう泉翔の近海に着くみたいだ」

「やつらどこで時間合わせをするつもりだ?」

「そこまでは……慎重に待て、って言ってるけど……」

 徳丸もそのことが気になるようだ。
 二人であれこれ考えても、枇杷島か月島意外に停泊のできそうな島が思い浮かばない。
 サムとハンスが溜息交じりに呼びかけてきた。

「それに関しては、こちらで考えていても仕方ないと言ったはずです」

「そんなことよりも、おまえさんたちは泉翔のどの浜に誰を上陸させるのかを考えなければならんぞ」

「制圧したあと、後処理を任せるものたち以外はすぐに出航できるよう、準備してあります。行き先は出航前に確定させないと、海上で変更はできないと思ってください」

「えっ? そうなの?」

「……当然です。一隻二隻ならまだしも数があるんです。あとになってあっちだこっちだなどと言っていては、混乱をきたしますから」

「僕はてっきり出航してから決めるものだと……」

「まぁ、泉翔人は海に出ないから、わからないのも仕方ないのでしょうねぇ」

 サムが嫌味のこもった視線を向けてくる。
 最初に会ったときのイメージが甦り、梁瀬はついムッとしてしまった。
 それが表情にも現れたのか、ハンスが間に入ってきた。

「場合によっては大きく時間を喰うこともある。時には遭難も起こり得るのだから。もう時間もない。ジャセンベルの子たちと良く話し合って早いうちに決めなさい」

「わかりました。そうします」

 マドルの様子をもう一度探ると、赤髪の女とともに乗船するところだ。
 これ以上は有益な情報を得られないだろう。
 サムにはこれからヘイトと連絡を取り合ってもらうために、穂高へ向けた式神を引き上げてもらい、代わりに梁瀬の式神を向かわせた。
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