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動きだす刻
第121話 覚悟 ~穂高 1~
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巧の強い殺気がレイファーに向けられている。
このままの状態で巧が攻撃に移ったら、レイファーは避けられないだろう。
統一のあと、本当に泉翔へ侵攻するつもりなら、このままここでレイファーの命を絶ってしまうのが得策なのだろうけれど……。
(でも……なにか変だ)
まるで手向かいしようとしないのも、なにか隠しているふうでハッキリものを言わないのも変だ。
それに、船を出すから帰れ、と言う。
泉翔を落とすつもりでいるなら、一人でも戦士が少ないほうがいいと考えるはずだ。
船を出すなどと言うだろうか?
そう言っておいて、船に乗り込んでから攻撃してくる可能性もないとは言い切れないが。
目の前のレイファーの背中からは、戸惑いと、時折苛立ちが見えるだけで、殺気をまったく感じない。
逆に巧のほうが、言葉尻に乗せられて気負っているように、穂高には見える。
戦場以外でのレイファーを知らない穂高には、どうにも真意が計り切れないでいた。
どうにか本音を引き出せないだろうか。危険かもしれないけれど挑発してみることにした。
「巧さん、大丈夫だ。向こうには鴇汰も戻った。こいつは毎回、鴇汰に敵わず退かされているんだ。今度だって敵いっこない」
レイファーの首がわずかに穂高に向いて動いた。
今の言葉に対して憤ったのが伝わってくる。
思いのほか、わかりやすいやつなのかもしれない。
「鴇汰……長田のことか? あいつになにができる? たった一人の女を守ることさえできない、あんなに落ち着きがない思慮の浅い男が」
「おまえにこそ鴇汰のなにがわかる? そうやって侮っている以上、鴇汰を降すことなど不可能だね」
「馬鹿馬鹿しい……目の前で女をさらわれてなにもできなかった男に、俺が遅れを取るはずがない」
梁瀬と徳丸がヘイトで掴んできた情報では、数日前、レイファーはサムと一緒に泉翔へ渡っている。
そこで修治と岱胡に会っているはずだ。
ひょっとすると、鴇汰もその場に間に合ったのじゃあないだろうか?
戦場で互いに敵として向き合っているだけで、落ち着きがないとか思慮が浅いとか、そんなことは知りえない。
まして鴇汰が目の前で麻乃を失ったなど、当の本人から聞かなければ知りようがないだろう。
どんな話しをしたのかまでは想像の域を超えないのだけれど、そこにジャセンベルと反同盟派が泉翔を襲うと言う話しは出なかったんじゃあないだろうか。
「それを試しに行こうっての?」
「泉翔討伐は、これまで何代もの王に渡って受け継がれてきた本懐だ。そいつを俺の手で成せるのだとしたら、実に面白いじゃないか」
「面白いですって?」
巧はレイファーを睨んだままだ。
穂高を意識していたレイファーも、改めて巧に視線を移してしまった。
(鴇汰の話を持ち出したのは失敗だったか……)
今、レイファーが大陸を統一したとして、そのあと泉翔へ向かうつもりでいるのは、泉翔に進軍した大陸の部隊を一掃するためじゃないのか?
ジャセンベルもヘイトも、やつらが泉翔の物資を元手に大陸へ戻ってくるのは困るだろう。
だから反同盟派は行動を起こしたあと、速やかに泉翔へ向かい、残党を一掃するつもりでいると、梁瀬からは聞いている。
レイファーも反同盟派と組んでいるのなら同じことを考えているだろうに、それをまったくおもてに出してこない。
(まさか、この期に及んで反同盟派までも裏切り、本気で泉翔を潰しにかかるつもりなんだろうか?)
そうなると、また元の問題に戻る。
なぜ、こんなにも急いで船を出してまで穂高と巧を帰そうとするのか。
(こいつ……もしかして泉翔の防衛を強固にしたいんじゃ……)
同盟三国は、ほぼ全軍を伴って泉翔へ向かう。
確かに泉翔の防衛力が強くても、かなりの数を前にして、すべてに的確な対応ができるとは言い切れない。
今、泉翔のほうも一人でも二人でも、手がほしいと思っているのだろうか?
だからこんなところでレイファー一人にこだわっている自分たちを帰したいと考えているんじゃあないだろうか。
今までの会話では、レイファーが泉翔へ向かうのは侵攻のためだと受け取れる。
巧もそう思って、あんなに頑なになっているんだろう。
(もし……それが違うとしたら、それは……)
巧と穂高がここにいる理由、レイファーが妙に頑なな理由、その事情を互いに知り得ないために、この場の流れがあらぬ方向へと向かっているのが感じられた。
このままの状態で巧が攻撃に移ったら、レイファーは避けられないだろう。
統一のあと、本当に泉翔へ侵攻するつもりなら、このままここでレイファーの命を絶ってしまうのが得策なのだろうけれど……。
(でも……なにか変だ)
まるで手向かいしようとしないのも、なにか隠しているふうでハッキリものを言わないのも変だ。
それに、船を出すから帰れ、と言う。
泉翔を落とすつもりでいるなら、一人でも戦士が少ないほうがいいと考えるはずだ。
船を出すなどと言うだろうか?
そう言っておいて、船に乗り込んでから攻撃してくる可能性もないとは言い切れないが。
目の前のレイファーの背中からは、戸惑いと、時折苛立ちが見えるだけで、殺気をまったく感じない。
逆に巧のほうが、言葉尻に乗せられて気負っているように、穂高には見える。
戦場以外でのレイファーを知らない穂高には、どうにも真意が計り切れないでいた。
どうにか本音を引き出せないだろうか。危険かもしれないけれど挑発してみることにした。
「巧さん、大丈夫だ。向こうには鴇汰も戻った。こいつは毎回、鴇汰に敵わず退かされているんだ。今度だって敵いっこない」
レイファーの首がわずかに穂高に向いて動いた。
今の言葉に対して憤ったのが伝わってくる。
思いのほか、わかりやすいやつなのかもしれない。
「鴇汰……長田のことか? あいつになにができる? たった一人の女を守ることさえできない、あんなに落ち着きがない思慮の浅い男が」
「おまえにこそ鴇汰のなにがわかる? そうやって侮っている以上、鴇汰を降すことなど不可能だね」
「馬鹿馬鹿しい……目の前で女をさらわれてなにもできなかった男に、俺が遅れを取るはずがない」
梁瀬と徳丸がヘイトで掴んできた情報では、数日前、レイファーはサムと一緒に泉翔へ渡っている。
そこで修治と岱胡に会っているはずだ。
ひょっとすると、鴇汰もその場に間に合ったのじゃあないだろうか?
戦場で互いに敵として向き合っているだけで、落ち着きがないとか思慮が浅いとか、そんなことは知りえない。
まして鴇汰が目の前で麻乃を失ったなど、当の本人から聞かなければ知りようがないだろう。
どんな話しをしたのかまでは想像の域を超えないのだけれど、そこにジャセンベルと反同盟派が泉翔を襲うと言う話しは出なかったんじゃあないだろうか。
「それを試しに行こうっての?」
「泉翔討伐は、これまで何代もの王に渡って受け継がれてきた本懐だ。そいつを俺の手で成せるのだとしたら、実に面白いじゃないか」
「面白いですって?」
巧はレイファーを睨んだままだ。
穂高を意識していたレイファーも、改めて巧に視線を移してしまった。
(鴇汰の話を持ち出したのは失敗だったか……)
今、レイファーが大陸を統一したとして、そのあと泉翔へ向かうつもりでいるのは、泉翔に進軍した大陸の部隊を一掃するためじゃないのか?
ジャセンベルもヘイトも、やつらが泉翔の物資を元手に大陸へ戻ってくるのは困るだろう。
だから反同盟派は行動を起こしたあと、速やかに泉翔へ向かい、残党を一掃するつもりでいると、梁瀬からは聞いている。
レイファーも反同盟派と組んでいるのなら同じことを考えているだろうに、それをまったくおもてに出してこない。
(まさか、この期に及んで反同盟派までも裏切り、本気で泉翔を潰しにかかるつもりなんだろうか?)
そうなると、また元の問題に戻る。
なぜ、こんなにも急いで船を出してまで穂高と巧を帰そうとするのか。
(こいつ……もしかして泉翔の防衛を強固にしたいんじゃ……)
同盟三国は、ほぼ全軍を伴って泉翔へ向かう。
確かに泉翔の防衛力が強くても、かなりの数を前にして、すべてに的確な対応ができるとは言い切れない。
今、泉翔のほうも一人でも二人でも、手がほしいと思っているのだろうか?
だからこんなところでレイファー一人にこだわっている自分たちを帰したいと考えているんじゃあないだろうか。
今までの会話では、レイファーが泉翔へ向かうのは侵攻のためだと受け取れる。
巧もそう思って、あんなに頑なになっているんだろう。
(もし……それが違うとしたら、それは……)
巧と穂高がここにいる理由、レイファーが妙に頑なな理由、その事情を互いに知り得ないために、この場の流れがあらぬ方向へと向かっているのが感じられた。
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