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動きだす刻
第92話 交差 ~穂高 4~
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咎める梁瀬をさえぎって徳丸が言った。
修治が結婚するということは、まだ穂高しか知らないと思っていたのに、いつ聞いたのか、それとも気づいたのか、徳丸まで知っていたことに驚いた。
それを聞いた鴇汰のほうも、さほど驚いていないのを見ると、もう知っていたようだ。
麻乃と過ごしているあいだに、そんな話題が上ったのだろうか?
巧がそっと鴇汰の額に手を当て、眉をひそめた。
「ねぇ、鴇汰。あんた本気で麻乃を助けたいって思ってるの?」
「そんなの当たり前だろ!」
「シュウちゃんがね、対処法が通用しなかったときにどうするつもりでいるか、あんたわかる?」
「修治はな、すべてを自分の手で終わらせるつもりだ。そしてそれは道場や第七部隊のやつらも承知していることだ」
声を荒げる鴇汰に、巧と徳丸が諭すように言った。
穂高もそれは初耳で、思わず梁瀬を見ると、梁瀬は黙ったままでうなずいた。
修治がいつでも精進しているのには、なにかわけがあるのだろうと感じていたけれど、まさかそんなつもりでいるとは夢にも思わなかった。
もしも修治や第七部隊、道場のものたちが麻乃を前に、手に負えないと判断したときには、最悪の事態が起こり得るということか。
そこに鴇汰がいれば、あるいはそれを避けられるのかもしれない。
いや、鴇汰は必ずそうならないための道を切り開くはずだ。
「お……終わらせるって……まさかあいつ、麻乃を殺すってのかよ!」
「まぁ、そういうことになるわよねぇ……」
「なるわよね、って、あんたらなんでそんなに冷静でいられるんだよ!」
興奮して悪態をつく鴇汰の肩に触れた。
子どものころからずっとそばにいたからわかる。
今、鴇汰は迷っている。
自分の手で麻乃を取り戻したい。けれど修治に最悪の決断をさせないためには戻らなければならない。
一人きりで泉翔に戻る重みを感じているのだろう。
「なぁ、鴇汰。おまえが泉翔に戻って修治さんに手を貸すことで、その最悪の事態を免れるんだとしても、それでも修治さんに手を貸すのは嫌なのかい?」
「けど……俺は……」
きっと戻ることが最善の道だとわかっているのに首を縦に振れないのは、まだロマジェリカに麻乃が残っているからだ。
口ごもる鴇汰に巧は頭を掻きむしって叱咤した。
「あーっ、ったく焦れったい子ねぇ。男の癖に『だって』『でも』『けど』ってそればっかり。もっとしっかりしなさいよ!」
「おまえ、本当は自分がどうするのが一番なのか、もうわかってんじゃねぇのか?」
いい加減に戻ると鴇汰に決断させたい。
こんなに話し込んで、うっかり目を覚まされてしまったら終わりだ。
それ以上はなにも言わず、鴇汰の答えを待った。フッと鴇汰が小さな溜息をついた。
「……そうかもしれない。俺は麻乃が死ぬのだけは嫌だ。それを止められるんだったら、泉翔に戻る。そんで修治に手を貸す」
「良かった……鴇汰さんならきっと、そう言ってくれると思ったよ」
「麻乃を死なせたりするもんか。俺が絶対に止めてみせる。あいつを助けるのは――俺だ」
大きく出た鴇汰の言葉に、巧は苦笑をもらすと触れていた膝の辺りを軽くポンポンとたたいた。
「言うじゃないの。それならまずは二日間……しっかり怪我を治しなさいよね」
「そうだよ。そして万全の状態で、必ず麻乃を助けてやるんだ。鴇汰にならきっとできる……期待してるよ」
穂高がかけた言葉にうなずいた鴇汰は、そのまま眠ってしまったようだ。
すうすうと単調な呼吸を繰り返している。
徳丸に変わって今度は巧が鴇汰に回復術を施し始めた。
「ま、なんにせよ、戻る気になったみたいで良かったわ」
「そうだね。俺もホッとしたよ」
「泉翔で鴇汰と修治、岱胡か……心許ないと言えなくもないな。俺たちもこっちでのことを可能なかぎり早く済ませて戻らなきゃならねぇぞ」
「事を起こすのは三国が大陸を離れてからだから……」
「やれるなら、やつらが発ったすぐに動きたいところだな」
そうだ。大陸でのことが早く済むほど、穂高たちも早く戻れる。
それが例え、一分であろうが一秒であろうが、少しでも早く。
「その辺りはロマジェリカ次第じゃない? 今日の話しじゃあ、まとめてるのはあそこの軍師だって言うじゃないのよ」
「物資が足りないらしいけど、俺はなんだか不足分は泉翔でなんとかするつもりでいるんじゃないかと思う」
「可能性はあるな。歳は若いようだが、やることはえげつなさそうだ」
修治が結婚するということは、まだ穂高しか知らないと思っていたのに、いつ聞いたのか、それとも気づいたのか、徳丸まで知っていたことに驚いた。
それを聞いた鴇汰のほうも、さほど驚いていないのを見ると、もう知っていたようだ。
麻乃と過ごしているあいだに、そんな話題が上ったのだろうか?
巧がそっと鴇汰の額に手を当て、眉をひそめた。
「ねぇ、鴇汰。あんた本気で麻乃を助けたいって思ってるの?」
「そんなの当たり前だろ!」
「シュウちゃんがね、対処法が通用しなかったときにどうするつもりでいるか、あんたわかる?」
「修治はな、すべてを自分の手で終わらせるつもりだ。そしてそれは道場や第七部隊のやつらも承知していることだ」
声を荒げる鴇汰に、巧と徳丸が諭すように言った。
穂高もそれは初耳で、思わず梁瀬を見ると、梁瀬は黙ったままでうなずいた。
修治がいつでも精進しているのには、なにかわけがあるのだろうと感じていたけれど、まさかそんなつもりでいるとは夢にも思わなかった。
もしも修治や第七部隊、道場のものたちが麻乃を前に、手に負えないと判断したときには、最悪の事態が起こり得るということか。
そこに鴇汰がいれば、あるいはそれを避けられるのかもしれない。
いや、鴇汰は必ずそうならないための道を切り開くはずだ。
「お……終わらせるって……まさかあいつ、麻乃を殺すってのかよ!」
「まぁ、そういうことになるわよねぇ……」
「なるわよね、って、あんたらなんでそんなに冷静でいられるんだよ!」
興奮して悪態をつく鴇汰の肩に触れた。
子どものころからずっとそばにいたからわかる。
今、鴇汰は迷っている。
自分の手で麻乃を取り戻したい。けれど修治に最悪の決断をさせないためには戻らなければならない。
一人きりで泉翔に戻る重みを感じているのだろう。
「なぁ、鴇汰。おまえが泉翔に戻って修治さんに手を貸すことで、その最悪の事態を免れるんだとしても、それでも修治さんに手を貸すのは嫌なのかい?」
「けど……俺は……」
きっと戻ることが最善の道だとわかっているのに首を縦に振れないのは、まだロマジェリカに麻乃が残っているからだ。
口ごもる鴇汰に巧は頭を掻きむしって叱咤した。
「あーっ、ったく焦れったい子ねぇ。男の癖に『だって』『でも』『けど』ってそればっかり。もっとしっかりしなさいよ!」
「おまえ、本当は自分がどうするのが一番なのか、もうわかってんじゃねぇのか?」
いい加減に戻ると鴇汰に決断させたい。
こんなに話し込んで、うっかり目を覚まされてしまったら終わりだ。
それ以上はなにも言わず、鴇汰の答えを待った。フッと鴇汰が小さな溜息をついた。
「……そうかもしれない。俺は麻乃が死ぬのだけは嫌だ。それを止められるんだったら、泉翔に戻る。そんで修治に手を貸す」
「良かった……鴇汰さんならきっと、そう言ってくれると思ったよ」
「麻乃を死なせたりするもんか。俺が絶対に止めてみせる。あいつを助けるのは――俺だ」
大きく出た鴇汰の言葉に、巧は苦笑をもらすと触れていた膝の辺りを軽くポンポンとたたいた。
「言うじゃないの。それならまずは二日間……しっかり怪我を治しなさいよね」
「そうだよ。そして万全の状態で、必ず麻乃を助けてやるんだ。鴇汰にならきっとできる……期待してるよ」
穂高がかけた言葉にうなずいた鴇汰は、そのまま眠ってしまったようだ。
すうすうと単調な呼吸を繰り返している。
徳丸に変わって今度は巧が鴇汰に回復術を施し始めた。
「ま、なんにせよ、戻る気になったみたいで良かったわ」
「そうだね。俺もホッとしたよ」
「泉翔で鴇汰と修治、岱胡か……心許ないと言えなくもないな。俺たちもこっちでのことを可能なかぎり早く済ませて戻らなきゃならねぇぞ」
「事を起こすのは三国が大陸を離れてからだから……」
「やれるなら、やつらが発ったすぐに動きたいところだな」
そうだ。大陸でのことが早く済むほど、穂高たちも早く戻れる。
それが例え、一分であろうが一秒であろうが、少しでも早く。
「その辺りはロマジェリカ次第じゃない? 今日の話しじゃあ、まとめてるのはあそこの軍師だって言うじゃないのよ」
「物資が足りないらしいけど、俺はなんだか不足分は泉翔でなんとかするつもりでいるんじゃないかと思う」
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