502 / 780
動きだす刻
第91話 交差 ~穂高 3~
しおりを挟む
「だとすりゃあ都合がいいかもしれねぇな。こいつがどう考えているのか、聞けるチャンスだ」
「……そうね、私も鴇汰がなにを思っているか知りたいし、これからどうするつもりなのか聞きたいわ」
「もしも変なことを考えているようなら、僕らが泉翔へ戻るのを促してあげないといけないよね」
回復術を施されたときに感じる温かみが伝わっているのか、鴇汰の呼吸はゆっくりと安定している。
目の前で麻乃を連れ去られて、意識が戻った途端に取り戻しに行こうとまでして、今、なにを思っているのだろう。
みんなのいうように、鴇汰に戻る決心をつけさせなければいけないと、穂高も思う。
「麻乃が覚醒してしまったって?」
「ん……? あぁ、そうなんだよな……ロマジェリカに加担してるって……」
穂高が声をかけてみると、鴇汰は弱々しい声で答えた。
どうやら会話は成立している。
梁瀬と巧を振り返ると二人揃ってうなずいた。
「文献の話しは聞いたよね?」
今度は梁瀬が問いかけると、それにはさっきよりもハッキリと答え、モゾモゾと体を動かそうとしている。
起きようとしているのに起きられないのが疑問なのか、鴇汰の表情が曇って見える。
梁瀬が本をめくりながら、鴇汰にもちゃんと聞こえるように考えを口にした。
「主要な人物は、麻乃さんをのぞいて三人だけど……ロマジェリカにそのうちの一人がいるんじゃないかと、僕は思うわけ」
「俺も同じだよ、だって麻乃はロマジェリカに連れ去られたんだろう?」
「そう、ロマジェリカの軍師が……マドルってやつが俺の目の前で……なのに俺はなにもできなくて……」
鴇汰は寝苦しいのか、二、三度身をよじり、最初のときよりも暗い声で呟いた。
巧と徳丸が深い溜息をつきながら、大きく肩を落としている。
「なるほどね。それであんた、自分一人で麻乃を助けに行こうなんて考えちゃったわけね?」
「ガキが、浅はかな考えをしやがって」
「だって俺のせいなんだぜ? 俺がなにもできなかったから……」
悔いているのがありありとわかるからか、巧も徳丸も、言葉は厳しくても優しげな視線を鴇汰に向けていた。
そして小声で巧が言う。
「それにしても、どうしたものかしらね。どう言い聞かせたら、鴇汰は戻る気になるかしら?」
「難しいところだよねぇ……こうまで気に病んでいるのに頭ごなしに帰れっていうのもね」
「けど、クロムさんは鴇汰を戻して、修治さんの手助けをさせていって言ったよ」
「そうよね、やっぱりまずは戻るように言い含めるのが先よね」
ヒソヒソと続けているのが聞こえているのかいないのか、鴇汰が不意に声を張った。
「てか……あんたら、ここでなにしてるわけ? つか、なんでこんなトコにいんのよ?」
その問いに思わず顔を見合わせる。
クロムは鴇汰に穂高たちがいることを知らせたくないと言った。
隠すことに対して同意をしている以上、本当のことは言えない。
なにも言わずにいることで、こうして会話したのを鴇汰はどう思うのだろう?
多分、夢だと思うに違いない。そして、きっと鴇汰は……。
「ん……まぁ、それはいいとして、あんた、泉翔に戻りなさい」
巧は言葉を濁してから、キッパリとした命令口調で鴇汰に告げた。
案の定、鴇汰は戻るのを拒み、体をよじってもがく。
徳丸が修治の名前を出した途端、ますます意固地になったように鴇汰は口を尖らせた。
梁瀬が麻乃になにかが起こったときに、修治や道場のものたちが対処法を決めていることを教えてやり、更に巧が修治に手を貸すようにと言い含めているのを、穂高は黙って見つめていた。
昔から鴇汰は修治を意識している。
それは麻乃のそばに常にいたからだけではなく、単純に修治の存在がいつでも鴇汰の上を行くからだ。
敵わないという思いが、牽制に繋がっているんだろう。
「はっ……なんで俺があいつと……あんたら馬鹿じゃねーの? 俺とあいつが組んで、うまくいくことなんてあるはずがねーだろ?」
吐き捨てるように言った鴇汰に、回復術を施していた徳丸が、その手をいきなり鴇汰の頭に振り下ろした。
ゴン、と鈍いながらも大きな音がして、驚いた梁瀬があわてて徳丸の腕を押さえて止め、ベッドから引き離した。
「なにしてんの! 目を覚ましちゃったらすべてが無駄に……」
「おまえが修治を気に入らないのは、麻乃のことがあったからだろう? けどな、あいつはカミさんをもらうんだ。もう麻乃とはなんの関係もねぇ。嫌がる理由もねぇだろうが。修治だって同じことだ。あいつはおまえを気に入らねぇが、嫌いじゃないって言っただろう?」
「……そうね、私も鴇汰がなにを思っているか知りたいし、これからどうするつもりなのか聞きたいわ」
「もしも変なことを考えているようなら、僕らが泉翔へ戻るのを促してあげないといけないよね」
回復術を施されたときに感じる温かみが伝わっているのか、鴇汰の呼吸はゆっくりと安定している。
目の前で麻乃を連れ去られて、意識が戻った途端に取り戻しに行こうとまでして、今、なにを思っているのだろう。
みんなのいうように、鴇汰に戻る決心をつけさせなければいけないと、穂高も思う。
「麻乃が覚醒してしまったって?」
「ん……? あぁ、そうなんだよな……ロマジェリカに加担してるって……」
穂高が声をかけてみると、鴇汰は弱々しい声で答えた。
どうやら会話は成立している。
梁瀬と巧を振り返ると二人揃ってうなずいた。
「文献の話しは聞いたよね?」
今度は梁瀬が問いかけると、それにはさっきよりもハッキリと答え、モゾモゾと体を動かそうとしている。
起きようとしているのに起きられないのが疑問なのか、鴇汰の表情が曇って見える。
梁瀬が本をめくりながら、鴇汰にもちゃんと聞こえるように考えを口にした。
「主要な人物は、麻乃さんをのぞいて三人だけど……ロマジェリカにそのうちの一人がいるんじゃないかと、僕は思うわけ」
「俺も同じだよ、だって麻乃はロマジェリカに連れ去られたんだろう?」
「そう、ロマジェリカの軍師が……マドルってやつが俺の目の前で……なのに俺はなにもできなくて……」
鴇汰は寝苦しいのか、二、三度身をよじり、最初のときよりも暗い声で呟いた。
巧と徳丸が深い溜息をつきながら、大きく肩を落としている。
「なるほどね。それであんた、自分一人で麻乃を助けに行こうなんて考えちゃったわけね?」
「ガキが、浅はかな考えをしやがって」
「だって俺のせいなんだぜ? 俺がなにもできなかったから……」
悔いているのがありありとわかるからか、巧も徳丸も、言葉は厳しくても優しげな視線を鴇汰に向けていた。
そして小声で巧が言う。
「それにしても、どうしたものかしらね。どう言い聞かせたら、鴇汰は戻る気になるかしら?」
「難しいところだよねぇ……こうまで気に病んでいるのに頭ごなしに帰れっていうのもね」
「けど、クロムさんは鴇汰を戻して、修治さんの手助けをさせていって言ったよ」
「そうよね、やっぱりまずは戻るように言い含めるのが先よね」
ヒソヒソと続けているのが聞こえているのかいないのか、鴇汰が不意に声を張った。
「てか……あんたら、ここでなにしてるわけ? つか、なんでこんなトコにいんのよ?」
その問いに思わず顔を見合わせる。
クロムは鴇汰に穂高たちがいることを知らせたくないと言った。
隠すことに対して同意をしている以上、本当のことは言えない。
なにも言わずにいることで、こうして会話したのを鴇汰はどう思うのだろう?
多分、夢だと思うに違いない。そして、きっと鴇汰は……。
「ん……まぁ、それはいいとして、あんた、泉翔に戻りなさい」
巧は言葉を濁してから、キッパリとした命令口調で鴇汰に告げた。
案の定、鴇汰は戻るのを拒み、体をよじってもがく。
徳丸が修治の名前を出した途端、ますます意固地になったように鴇汰は口を尖らせた。
梁瀬が麻乃になにかが起こったときに、修治や道場のものたちが対処法を決めていることを教えてやり、更に巧が修治に手を貸すようにと言い含めているのを、穂高は黙って見つめていた。
昔から鴇汰は修治を意識している。
それは麻乃のそばに常にいたからだけではなく、単純に修治の存在がいつでも鴇汰の上を行くからだ。
敵わないという思いが、牽制に繋がっているんだろう。
「はっ……なんで俺があいつと……あんたら馬鹿じゃねーの? 俺とあいつが組んで、うまくいくことなんてあるはずがねーだろ?」
吐き捨てるように言った鴇汰に、回復術を施していた徳丸が、その手をいきなり鴇汰の頭に振り下ろした。
ゴン、と鈍いながらも大きな音がして、驚いた梁瀬があわてて徳丸の腕を押さえて止め、ベッドから引き離した。
「なにしてんの! 目を覚ましちゃったらすべてが無駄に……」
「おまえが修治を気に入らないのは、麻乃のことがあったからだろう? けどな、あいつはカミさんをもらうんだ。もう麻乃とはなんの関係もねぇ。嫌がる理由もねぇだろうが。修治だって同じことだ。あいつはおまえを気に入らねぇが、嫌いじゃないって言っただろう?」
0
お気に入りに追加
10
あなたにおすすめの小説
どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします
文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。
夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。
エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。
「ゲルハルトさま、愛しています」
ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。
「エレーヌ、俺はあなたが憎い」
エレーヌは凍り付いた。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
【完結】仰る通り、貴方の子ではありません
ユユ
恋愛
辛い悪阻と難産を経て産まれたのは
私に似た待望の男児だった。
なのに認められず、
不貞の濡れ衣を着せられ、
追い出されてしまった。
実家からも勘当され
息子と2人で生きていくことにした。
* 作り話です
* 暇つぶしにどうぞ
* 4万文字未満
* 完結保証付き
* 少し大人表現あり
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
断る――――前にもそう言ったはずだ
鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」
結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。
周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。
けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。
他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。
(わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)
そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。
ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。
そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
夫達の裏切りに復讐心で一杯だった私は、死の間際に本当の願いを見つけ幸せになれました。
Nao*
恋愛
家庭を顧みず、外泊も増えた夫ダリス。
それを寂しく思う私だったが、庭師のサムとその息子のシャルに癒される日々を送って居た。
そして私達は、三人であるバラの苗を庭に植える。
しかしその後…夫と親友のエリザによって、私は酷い裏切りを受ける事に─。
命の危機が迫る中、私の心は二人への復讐心で一杯になるが…駆けつけたシャルとサムを前に、本当の願いを見つけて─?
(1万字以上と少し長いので、短編集とは別にしてあります)
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
いっとう愚かで、惨めで、哀れな末路を辿るはずだった令嬢の矜持
空月
ファンタジー
古くからの名家、貴き血を継ぐローゼンベルグ家――その末子、一人娘として生まれたカトレア・ローゼンベルグは、幼い頃からの婚約者に婚約破棄され、遠方の別荘へと療養の名目で送られた。
その道中に惨めに死ぬはずだった未来を、突然現れた『バグ』によって回避して、ただの『カトレア』として生きていく話。
※悪役令嬢で婚約破棄物ですが、ざまぁもスッキリもありません。
※以前投稿していた「いっとう愚かで惨めで哀れだった令嬢の果て」改稿版です。文章量が1.5倍くらいに増えています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる