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動きだす刻
第86話 接触 ~梁瀬 1~
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クロムに引き合わされたのは、見た目はジャセンベル人の男性で、ピーターと名乗った。
祖先が泉翔の元諜報で、近くにある村の娘と一緒になり、以来この地で暮らしていると言う。
今はピーターがあとを継ぎ、ジャセンベルへ渡ってくる泉翔の諜報の後押しをしているそうだ。
ジャセンベルの情報はピーターと巧が直接クロムの家の近くで、徳丸も同じく森の付近でヘイトで暮らす諜報とやり取りをすることになった。
巧も徳丸も式神を出せないから、直接やり取りができるのはありがたいらしい。
梁瀬と穂高は庸儀とロマジェリカへ、式神を使って情報の交換をする。
詳細を決めたあと、今度はクロムの家から数キロ離れた村の一軒家に連れて来られた。
「このあと俺はどうしても外せない用があるのと、中にいる方々に顔を知られるわけにはいかないから、このまま戻るけれど、帰りは他のものが迎えに来るから安心してくれ」
そう言って帰っていったピーターを見送ってから、玄関のドアを開けた。
中で待っていたのは、ジャセンベル人の老人とハンスだった。
ハンスの後ろには、若い男が立っている。
梁瀬の顔を見て微笑むハンスを、まずは巧と穂高に紹介すると、ジャセンベルの老人は、巧と穂高が見知っているようでルーンと紹介された。
ハンスもルーンも、国籍の違いを気にするでもなく、時間が惜しいと言って互いの情報を既に開示し合っていたようだ。
おかげで無駄な説明をする手間が省けた。
(なんとなく気まずい……)
そう感じるのは、梁瀬たち泉翔人とヘイト、ジャセンベル人が一緒にいるからということではなく、ハンスの後ろでずっと黙ったまま、観察するかのように梁瀬に視線を向けてくる男のせいだ。
徳丸も巧も穂高も、気になるのかチラチラとその男の様子をうかがっている。
巧と穂高がジャセンベルでの動きを決めていくのと同時に、それに沿う形で梁瀬と徳丸がヘイトでどう動くのかを決めた。
決まりごとが増えるごとに男の表情はきつくなり、梁瀬を見る目も鋭くなっていく。
穂高と同じ年ごろに見えることを考えると、ひょっとするとヘイト軍に属しているのかもしれない。
(だとすると、僕らを信用できないのかも……)
ハンスがどんな話しをしているのかわからないけれど、この場にいるのが不満そうにも見えるし、どこか落ち着かないようでもある。
すべての話しが済んだあと、泉翔へ戻る手段が確保できている旨を告げ、ルーンが先に席を立った。
ここでできることをやり終えたころには、鴇汰も動けるようになっているだろう。
確実に泉翔へ戻る手段が確保できて、梁瀬だけでなく他のみんなもホッとしているのがわかる。
巧と穂高は、ルーンを見送ると言って外へ出ていった。
直後、男が不意に立ち上がり、梁瀬はつい身構え、そっとマントの下で杖を握りしめた。
「……爺さま、近ごろやけに留守が多いと思ったら、こんなところでこんな密談をしていたなんて」
「まぁ、そう言うな。そもそもおまえが一人で飛び回っておるのが悪い」
「いいえ。これは私の問題で爺さまとは……」
「馬鹿者が。こうなった以上は個人の問題で済まされない。だからこそ、おまえはあの男の元へ行ったのであろう? 今は少しでも協力し合える仲間が必要だということよ」
「仲間……?」
男がフンと鼻を鳴らし、梁瀬を睨む。
その見下すような目つきに梁瀬はカチンと来た。
ハンスに手招きをされ、仕方なくそばへ寄った。
「梁瀬、これが先だって話したおまえさんの従弟にあたるものだよ」
「……はぁ」
おもむろに手を掴み取られ、半ば無理やり、握手をさせられた。
「爺さまに従兄がいるとは聞いていますが……あなたに大陸のなにがわかるというんでしょうね」
「……それはどういう意味?」
「所詮、あなたは大陸から逃げた人間だということですよ」
「逃げた……? そんなことは……!」
「泉翔でなに不自由なく暮らしてきた人に、私たちの思いがわかるとは到底思えませんね。どれほどに私たちが苦労してきたか……」
「そもそも大陸のやつらが、これだけ広い土地を抱えていながら育むこともしないで奪うことしか考えていなかったのが悪いんじゃないの?」
「そうしなければ、私たちは生きては来られなかった……!」
「それは、自分たちが泉翔を奪おうと侵攻し続けてきたことへの言い訳?」
きつく手を握られ、梁瀬もギュッと手に力を込める。
大体、この男は最初から感じが悪い。
始めから喧嘩腰でかかって来られて、おまけにこの物言い。
否応なく腹が立ってくる。
(大陸から逃げた人間だって? こいつに僕の……僕たちのなにがわかるっていうんだ!)
目を逸らすことなく睨み合っているところに、ハンスが割って入った。
祖先が泉翔の元諜報で、近くにある村の娘と一緒になり、以来この地で暮らしていると言う。
今はピーターがあとを継ぎ、ジャセンベルへ渡ってくる泉翔の諜報の後押しをしているそうだ。
ジャセンベルの情報はピーターと巧が直接クロムの家の近くで、徳丸も同じく森の付近でヘイトで暮らす諜報とやり取りをすることになった。
巧も徳丸も式神を出せないから、直接やり取りができるのはありがたいらしい。
梁瀬と穂高は庸儀とロマジェリカへ、式神を使って情報の交換をする。
詳細を決めたあと、今度はクロムの家から数キロ離れた村の一軒家に連れて来られた。
「このあと俺はどうしても外せない用があるのと、中にいる方々に顔を知られるわけにはいかないから、このまま戻るけれど、帰りは他のものが迎えに来るから安心してくれ」
そう言って帰っていったピーターを見送ってから、玄関のドアを開けた。
中で待っていたのは、ジャセンベル人の老人とハンスだった。
ハンスの後ろには、若い男が立っている。
梁瀬の顔を見て微笑むハンスを、まずは巧と穂高に紹介すると、ジャセンベルの老人は、巧と穂高が見知っているようでルーンと紹介された。
ハンスもルーンも、国籍の違いを気にするでもなく、時間が惜しいと言って互いの情報を既に開示し合っていたようだ。
おかげで無駄な説明をする手間が省けた。
(なんとなく気まずい……)
そう感じるのは、梁瀬たち泉翔人とヘイト、ジャセンベル人が一緒にいるからということではなく、ハンスの後ろでずっと黙ったまま、観察するかのように梁瀬に視線を向けてくる男のせいだ。
徳丸も巧も穂高も、気になるのかチラチラとその男の様子をうかがっている。
巧と穂高がジャセンベルでの動きを決めていくのと同時に、それに沿う形で梁瀬と徳丸がヘイトでどう動くのかを決めた。
決まりごとが増えるごとに男の表情はきつくなり、梁瀬を見る目も鋭くなっていく。
穂高と同じ年ごろに見えることを考えると、ひょっとするとヘイト軍に属しているのかもしれない。
(だとすると、僕らを信用できないのかも……)
ハンスがどんな話しをしているのかわからないけれど、この場にいるのが不満そうにも見えるし、どこか落ち着かないようでもある。
すべての話しが済んだあと、泉翔へ戻る手段が確保できている旨を告げ、ルーンが先に席を立った。
ここでできることをやり終えたころには、鴇汰も動けるようになっているだろう。
確実に泉翔へ戻る手段が確保できて、梁瀬だけでなく他のみんなもホッとしているのがわかる。
巧と穂高は、ルーンを見送ると言って外へ出ていった。
直後、男が不意に立ち上がり、梁瀬はつい身構え、そっとマントの下で杖を握りしめた。
「……爺さま、近ごろやけに留守が多いと思ったら、こんなところでこんな密談をしていたなんて」
「まぁ、そう言うな。そもそもおまえが一人で飛び回っておるのが悪い」
「いいえ。これは私の問題で爺さまとは……」
「馬鹿者が。こうなった以上は個人の問題で済まされない。だからこそ、おまえはあの男の元へ行ったのであろう? 今は少しでも協力し合える仲間が必要だということよ」
「仲間……?」
男がフンと鼻を鳴らし、梁瀬を睨む。
その見下すような目つきに梁瀬はカチンと来た。
ハンスに手招きをされ、仕方なくそばへ寄った。
「梁瀬、これが先だって話したおまえさんの従弟にあたるものだよ」
「……はぁ」
おもむろに手を掴み取られ、半ば無理やり、握手をさせられた。
「爺さまに従兄がいるとは聞いていますが……あなたに大陸のなにがわかるというんでしょうね」
「……それはどういう意味?」
「所詮、あなたは大陸から逃げた人間だということですよ」
「逃げた……? そんなことは……!」
「泉翔でなに不自由なく暮らしてきた人に、私たちの思いがわかるとは到底思えませんね。どれほどに私たちが苦労してきたか……」
「そもそも大陸のやつらが、これだけ広い土地を抱えていながら育むこともしないで奪うことしか考えていなかったのが悪いんじゃないの?」
「そうしなければ、私たちは生きては来られなかった……!」
「それは、自分たちが泉翔を奪おうと侵攻し続けてきたことへの言い訳?」
きつく手を握られ、梁瀬もギュッと手に力を込める。
大体、この男は最初から感じが悪い。
始めから喧嘩腰でかかって来られて、おまけにこの物言い。
否応なく腹が立ってくる。
(大陸から逃げた人間だって? こいつに僕の……僕たちのなにがわかるっていうんだ!)
目を逸らすことなく睨み合っているところに、ハンスが割って入った。
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