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動きだす刻
第52話 修治 ~修治 2~
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「自分たちが招いたっていうのはどういうことだ?」
麻乃から目を反らさずにおクマの前まで歩み出た。
さっきより近づいても、まだ距離があるせいで瞳の色まではわからない。
「白々しい……言葉通りの意味だ」
「ハッキリいうつもりはないか。まぁいい。それにしても……いい格好じゃないか。おまえ、いつからロマジェリカの犬に成り下がりやがった?」
落としていた視線が殺気を含んで修治に向き、麻乃の左手が柄を握った。
炎魔刀か夜光かどちらを掴んだのかまでは判別がつかない。
「あたしはロマジェリカの犬なんかじゃない」
「ロマジェリカの軍服、引き連れてきた軍勢、犬じゃなければ同じ穴のムジナか? これだけのことをしやがったおまえのいうことには、なんの説得力もないな」
更に殺気が強くなり、数秒睨み合っていた視線が修治から反れて、おクマたちへと移った。
「あんたたちは邪魔だ。ここから立ち去れ。あたしは逃げるものまでは追わない。柳堀でも泉の森にでも、どこにでも行けばいい」
おクマと松恵が今の言葉にカッとなったのを背中に感じる。
このまま三人を巻き込むのはまずい。
「ずいぶんと生意気なことを言ってくれるじゃないか、え? 麻乃」
先に口を開いたのは松恵だった。
後ろから伸びた手に修治は肩を押しやられ、ずいと前に出た松恵の手には短刀が握られている。
「用があるのは修治だけだ。あんたたちじゃない。けど、邪魔をすると言うなら容赦はしない」
「麻乃、口が過ぎると可愛げがないわヨ。それとも痛い目を見ないとわからないかい?」
普段は麻乃に対してどこまでも甘いおクマまで、憤りを隠さずに刀を抜いた。
麻乃はまたうつむき、溜息をもらした。
「戦士でもないやつを相手にするつもりはないって言ってるんだよ」
「残念だったね、アタシらは印を受けているんだよ! 今はアタシらも戦士だ!」
おクマが首筋を見せつけるように顎を上げ、松恵は袖をまくり上げた。
それを見た麻乃の眉がピクリと動き、空を仰いでから中央の方角へと目を向けている。
「ふうん……そう来るか……ってことはきっともっと沢山、印を持ったものがいるんだろうね……」
一人で納得したように呟き、うなずきながら麻乃は右手で左腕をさすっていた。
レイファーがその場所に蓮華の印があるのを見た、と言ったことを思い出す。
そしてサムが、それが火傷の痕なのか痣なのかを確認しろと言ったことも……。
「二人とも、今は退いて柳堀へ……」
「面倒なことだねぇ、修治。けどまぁ、要は麻乃の意識を断って神殿にでもぶち込んでおけばいい話しだろう?」
「そうね。あの子をあのままにしておいたんじゃ、アタシは隆紀と麻美に顔向けできやしないワ」
二人が意気込んで構えても麻乃は素知らぬ風で、大銀杏を見上げた。
「あたしを倒す? 悪いけど無理だよ。これは演習でも太刀合わせでもない。実戦だ。先に言っておく。あたしは手加減なんかしない」
「小娘が言ってくれるじゃないの……! 手加減しねぇってのはこっちのセリフだ!」
おクマがついにキレた。
下段に構えたまま麻乃に向かって駆け出す後ろから松恵までも飛び出し、二人に視界をさえぎられて麻乃の姿が見えなくなる。
それはほんの数秒のことだった。
腕前のほどは確かだというのに、なにが起きたのか、おクマと松恵がゆっくりと倒れた。
目の前にいた麻乃の姿もなくなっている。
「あんたはどうする? さっきも言ったとおり、逃げるなら追わない。黙って戻るか?」
背後から麻乃の声がしてハッと振り返る。
いつの間にかおクマと松恵を倒し、且つ、修治を通り越して洸の前に立っている。
ゾクリとして手に汗がにじむ。
「ここにいるってことは印を受けたのか?」
「俺は……戦士だ!」
「あんたは最初から、あたしのいうことを聞いた試しがなかったよね……戦士だと言うなら、ここで死んでも本望だろう!」
震える声で答えた洸に、麻乃がためらいもなく刀を掲げた。
洸を突き飛ばして間に割って入り、抜き放って麻乃の振り下ろした刀を受け止めた。
自分では獄を抜いたつもりだった。
麻乃も炎を抜いていると思っていた。
それなのに、手にしているのは紫炎で、麻乃の握っているのも夜光だ。
「用があるのは俺だけだと言っただろう! 二人を倒したうえに洸までも手にかけるつもりか!」
間近で向かい合った麻乃の瞳は、昔、覚醒しかけたときに見た以上に色濃く紅かった。
そしてなぜか今は少しも殺気を感じない。
感情さえもないような印象を受ける。
グッと力を込めて刀を押し返すと、麻乃は下がり、首を傾げて不服そうな顔をした。
麻乃から目を反らさずにおクマの前まで歩み出た。
さっきより近づいても、まだ距離があるせいで瞳の色まではわからない。
「白々しい……言葉通りの意味だ」
「ハッキリいうつもりはないか。まぁいい。それにしても……いい格好じゃないか。おまえ、いつからロマジェリカの犬に成り下がりやがった?」
落としていた視線が殺気を含んで修治に向き、麻乃の左手が柄を握った。
炎魔刀か夜光かどちらを掴んだのかまでは判別がつかない。
「あたしはロマジェリカの犬なんかじゃない」
「ロマジェリカの軍服、引き連れてきた軍勢、犬じゃなければ同じ穴のムジナか? これだけのことをしやがったおまえのいうことには、なんの説得力もないな」
更に殺気が強くなり、数秒睨み合っていた視線が修治から反れて、おクマたちへと移った。
「あんたたちは邪魔だ。ここから立ち去れ。あたしは逃げるものまでは追わない。柳堀でも泉の森にでも、どこにでも行けばいい」
おクマと松恵が今の言葉にカッとなったのを背中に感じる。
このまま三人を巻き込むのはまずい。
「ずいぶんと生意気なことを言ってくれるじゃないか、え? 麻乃」
先に口を開いたのは松恵だった。
後ろから伸びた手に修治は肩を押しやられ、ずいと前に出た松恵の手には短刀が握られている。
「用があるのは修治だけだ。あんたたちじゃない。けど、邪魔をすると言うなら容赦はしない」
「麻乃、口が過ぎると可愛げがないわヨ。それとも痛い目を見ないとわからないかい?」
普段は麻乃に対してどこまでも甘いおクマまで、憤りを隠さずに刀を抜いた。
麻乃はまたうつむき、溜息をもらした。
「戦士でもないやつを相手にするつもりはないって言ってるんだよ」
「残念だったね、アタシらは印を受けているんだよ! 今はアタシらも戦士だ!」
おクマが首筋を見せつけるように顎を上げ、松恵は袖をまくり上げた。
それを見た麻乃の眉がピクリと動き、空を仰いでから中央の方角へと目を向けている。
「ふうん……そう来るか……ってことはきっともっと沢山、印を持ったものがいるんだろうね……」
一人で納得したように呟き、うなずきながら麻乃は右手で左腕をさすっていた。
レイファーがその場所に蓮華の印があるのを見た、と言ったことを思い出す。
そしてサムが、それが火傷の痕なのか痣なのかを確認しろと言ったことも……。
「二人とも、今は退いて柳堀へ……」
「面倒なことだねぇ、修治。けどまぁ、要は麻乃の意識を断って神殿にでもぶち込んでおけばいい話しだろう?」
「そうね。あの子をあのままにしておいたんじゃ、アタシは隆紀と麻美に顔向けできやしないワ」
二人が意気込んで構えても麻乃は素知らぬ風で、大銀杏を見上げた。
「あたしを倒す? 悪いけど無理だよ。これは演習でも太刀合わせでもない。実戦だ。先に言っておく。あたしは手加減なんかしない」
「小娘が言ってくれるじゃないの……! 手加減しねぇってのはこっちのセリフだ!」
おクマがついにキレた。
下段に構えたまま麻乃に向かって駆け出す後ろから松恵までも飛び出し、二人に視界をさえぎられて麻乃の姿が見えなくなる。
それはほんの数秒のことだった。
腕前のほどは確かだというのに、なにが起きたのか、おクマと松恵がゆっくりと倒れた。
目の前にいた麻乃の姿もなくなっている。
「あんたはどうする? さっきも言ったとおり、逃げるなら追わない。黙って戻るか?」
背後から麻乃の声がしてハッと振り返る。
いつの間にかおクマと松恵を倒し、且つ、修治を通り越して洸の前に立っている。
ゾクリとして手に汗がにじむ。
「ここにいるってことは印を受けたのか?」
「俺は……戦士だ!」
「あんたは最初から、あたしのいうことを聞いた試しがなかったよね……戦士だと言うなら、ここで死んでも本望だろう!」
震える声で答えた洸に、麻乃がためらいもなく刀を掲げた。
洸を突き飛ばして間に割って入り、抜き放って麻乃の振り下ろした刀を受け止めた。
自分では獄を抜いたつもりだった。
麻乃も炎を抜いていると思っていた。
それなのに、手にしているのは紫炎で、麻乃の握っているのも夜光だ。
「用があるのは俺だけだと言っただろう! 二人を倒したうえに洸までも手にかけるつもりか!」
間近で向かい合った麻乃の瞳は、昔、覚醒しかけたときに見た以上に色濃く紅かった。
そしてなぜか今は少しも殺気を感じない。
感情さえもないような印象を受ける。
グッと力を込めて刀を押し返すと、麻乃は下がり、首を傾げて不服そうな顔をした。
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