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動きだす刻
第50話 麻乃 ~麻乃 7~
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せわしなく行き交う足音。
響く轟音とドアを激しくノックする音で目が覚めた。
仕方なく目を開けて起き上がると、ドアを開けた。
目の前に立つ側近の後ろを、船員たちがあわただしく走り抜けていく。
「一体なにごとだという」
「泉翔の砦から砲撃が……戦艦が幾つか被弾し沈められています。万が一のことがありますので避難のご準備を……」
庸儀の戦艦が泉翔近海にたどり着いたと連絡があったのは、午後二時を回ったころで、それに合わせていよいよ枇杷島を発ち、ようやく西浜まで近づいた直後だと言った。
「今の時間は?」
「午後三時を回りました」
デッキに出て麻乃の船の位置を確認すると、海岸に向かって左手、砦とは反対につけている。
「この位置なら砲撃は届かない。このまま進めば問題はない」
海岸までまだ距離はある。
前を行く戦艦は浅瀬に乗り上げた順から出兵を始めたようだ。
「間もなく先陣が上陸を始めます、この船の兵たちにも急ぎ準備をさせましょう」
「そんな必要はない。まずは後方を先に進ませればいい」
去ろうとした側近が驚いた顔で振り返った。
「あんたたちにどんな作戦があるのか知らないけど、今は上陸が先じゃないのか? みすみす船を沈めさせたくないと言うならなおさらだ」
「確かにそうですが……ですが貴女は……」
「こんな中途半端な時間から進軍したところで、山中で夜になって足止めを喰らうだけだ。土地勘もない兵を引き連れて夜襲でもあったらあたしはともかく、他の兵の面倒など見きれない。夜明け前に出ても先陣に十分追いつける。だから出るのは夜明け前でいい。この船の兵たちにもそう伝えてある」
「わかりました、ではそのように……」
また立て続けに爆発音が響き、新たに一隻沈んでいくのが見えた。
側近は他の船へと連絡を取るために駆け出していった。
砦からの砲撃もほどなく止んだ。
手っ取り早くこちらの兵数を削ぐために、狙いを正確に定めずにありったけを撃ったのだろう。
入り江を隙間も見えないくらいに埋め尽くす数があれば狙わずともどれかには当たる。
沈む船を避けることもままならず、巻き添えを食っている船もあるほどだ。
目を細めて堤防を見つめた。
そこにはいつもと変わらない人数の戦士が立ち並んでいる。
砂浜がロマジェリカ兵であっと言う間に埋め尽くされると、戦士はそれを迎え撃つこともせず、そのまま退き、それを合図に銃撃の乾いた音がパラパラと聞こえ始めた。
(岱胡の部隊か……)
撃たれ、倒れた兵とルートを目指す兵で海岸は混乱し、ひどい状態だ。
(やっぱりあたしの考えは間違っていなかった)
こんな中を先陣として出ていたら、ルートに入る前に麻乃以外の兵は半数以上がやられていただろう。
今は動くときではない。
大きな戦争には慣れているだろう兵たちも緊迫した面持ちでデッキに並んでいた。
詰所のほうへ向かっていく部隊もあった。
行ったところで物資の類はなにも残されていないだろう。
ルートへもずいぶん多くの兵が進んでいる。
それを止めるために泉翔側の兵力も相当分散されているに違いない。
翌朝に麻乃が出るころには、岱胡の部隊にのみ注意を払えばすんなり進める。
そのことを横に立った兵に伝え、部隊内にのみ伝達をさせた。
やがて日が落ちると、ロマジェリカの後陣は動きを止め、泉翔もこちらの出方に合わせているのか動く様子は見られない。
兵の絶対数が多くはない以上、無理を押してまで向こうから攻め入ってくることもないだろう。
「明日は四時に準備を始めて五時には出る。そのつもりで」
静けさを取り戻した海岸を、まだ麻乃とともに見つめ続けていた兵にそう告げて部屋へと戻った。
――翌朝。
まだ進軍の準備に取りかかっていないロマジェリカ兵を尻目に、麻乃に割り当てられた部隊をルートへ進むよう指示すると、砦に向かった。
岩場を登る前に気配を手繰る。
近くに修治がいることを確認してから炎魔刀と夜光をしっかりと腰に帯び、岩場を登る。
今度は麻乃は気配を完全には消さなかった。
響く轟音とドアを激しくノックする音で目が覚めた。
仕方なく目を開けて起き上がると、ドアを開けた。
目の前に立つ側近の後ろを、船員たちがあわただしく走り抜けていく。
「一体なにごとだという」
「泉翔の砦から砲撃が……戦艦が幾つか被弾し沈められています。万が一のことがありますので避難のご準備を……」
庸儀の戦艦が泉翔近海にたどり着いたと連絡があったのは、午後二時を回ったころで、それに合わせていよいよ枇杷島を発ち、ようやく西浜まで近づいた直後だと言った。
「今の時間は?」
「午後三時を回りました」
デッキに出て麻乃の船の位置を確認すると、海岸に向かって左手、砦とは反対につけている。
「この位置なら砲撃は届かない。このまま進めば問題はない」
海岸までまだ距離はある。
前を行く戦艦は浅瀬に乗り上げた順から出兵を始めたようだ。
「間もなく先陣が上陸を始めます、この船の兵たちにも急ぎ準備をさせましょう」
「そんな必要はない。まずは後方を先に進ませればいい」
去ろうとした側近が驚いた顔で振り返った。
「あんたたちにどんな作戦があるのか知らないけど、今は上陸が先じゃないのか? みすみす船を沈めさせたくないと言うならなおさらだ」
「確かにそうですが……ですが貴女は……」
「こんな中途半端な時間から進軍したところで、山中で夜になって足止めを喰らうだけだ。土地勘もない兵を引き連れて夜襲でもあったらあたしはともかく、他の兵の面倒など見きれない。夜明け前に出ても先陣に十分追いつける。だから出るのは夜明け前でいい。この船の兵たちにもそう伝えてある」
「わかりました、ではそのように……」
また立て続けに爆発音が響き、新たに一隻沈んでいくのが見えた。
側近は他の船へと連絡を取るために駆け出していった。
砦からの砲撃もほどなく止んだ。
手っ取り早くこちらの兵数を削ぐために、狙いを正確に定めずにありったけを撃ったのだろう。
入り江を隙間も見えないくらいに埋め尽くす数があれば狙わずともどれかには当たる。
沈む船を避けることもままならず、巻き添えを食っている船もあるほどだ。
目を細めて堤防を見つめた。
そこにはいつもと変わらない人数の戦士が立ち並んでいる。
砂浜がロマジェリカ兵であっと言う間に埋め尽くされると、戦士はそれを迎え撃つこともせず、そのまま退き、それを合図に銃撃の乾いた音がパラパラと聞こえ始めた。
(岱胡の部隊か……)
撃たれ、倒れた兵とルートを目指す兵で海岸は混乱し、ひどい状態だ。
(やっぱりあたしの考えは間違っていなかった)
こんな中を先陣として出ていたら、ルートに入る前に麻乃以外の兵は半数以上がやられていただろう。
今は動くときではない。
大きな戦争には慣れているだろう兵たちも緊迫した面持ちでデッキに並んでいた。
詰所のほうへ向かっていく部隊もあった。
行ったところで物資の類はなにも残されていないだろう。
ルートへもずいぶん多くの兵が進んでいる。
それを止めるために泉翔側の兵力も相当分散されているに違いない。
翌朝に麻乃が出るころには、岱胡の部隊にのみ注意を払えばすんなり進める。
そのことを横に立った兵に伝え、部隊内にのみ伝達をさせた。
やがて日が落ちると、ロマジェリカの後陣は動きを止め、泉翔もこちらの出方に合わせているのか動く様子は見られない。
兵の絶対数が多くはない以上、無理を押してまで向こうから攻め入ってくることもないだろう。
「明日は四時に準備を始めて五時には出る。そのつもりで」
静けさを取り戻した海岸を、まだ麻乃とともに見つめ続けていた兵にそう告げて部屋へと戻った。
――翌朝。
まだ進軍の準備に取りかかっていないロマジェリカ兵を尻目に、麻乃に割り当てられた部隊をルートへ進むよう指示すると、砦に向かった。
岩場を登る前に気配を手繰る。
近くに修治がいることを確認してから炎魔刀と夜光をしっかりと腰に帯び、岩場を登る。
今度は麻乃は気配を完全には消さなかった。
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