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待ち受けるもの
第172話 評定 ~修治 4~
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鴇汰はこちらに視線を向けたまま、なにか言いたげな顔をしている。
なんだろうかと問いかけようとして、日中に話したことを思い出した。
小さくうなずいてみせると、鴇汰はホッとした表情を浮かべた。
「実は一つ、提案があります。今回、これまでにない軍勢を迎え撃つに当たって、今までのように海岸での防衛が難しくなると思います」
「……そうだな。規模にもよるが、こちらの迎え撃つ人数だけでもかなりのものになるだろう」
「はい。正直なところ、海岸での戦争は、悪戯に負傷者を増やすだけのように思います」
「ふむ……おまえのいうことも最もだな」
高田がうなずいた。
尾形も加賀野も黙ったまま聞いている。
「それに、大陸では物資や食糧、様々な資源に事欠く状態のようです。泉翔に渡ってきた折には、まずこちらの物資を狙ってくるでしょう」
「俺の叔父の情報でも、物資の調達がままならず、侵攻の準備が滞ってるとのことでした。それがこんなに早く、進軍してくるということは――」
「――この国で物資を調達しようって考えか?」
「恐らく……いや、確実にそう考えていると思います」
それはまずい。
各区の道場の師範たちがそう言って互いに顔を見合わせている。
「今はあちこちに物資を分散させてある状態です、ですが日数がないと考えると、二、三日のうちには倉庫や詰所に物資を移さないとなりません」
「それが、そこを狙われてるとなっては……奪われるとわかってみすみす移すことはできません」
「だからと言って、このまま個人のもとに保管していても、どうにもならないじゃないですか」
南区と北区の師範が焦りを隠せない様子で訴えてきた。
「中央までの道は、裏道や抜け道、山道を除いて一本です。これまで泉翔に上陸の経験がないやつらは、確実にそのルートを使うでしょう」
「そりゃあそうだろう? 俺たちはこれまで一度たりとも通したことがない」
「まず、目に付く道と言えばどの浜からも中央へ続く一本だけだからな」
元蓮華たちが言い、塚本と市原も大きくうなずいた。
それぞれが戦士として戦っていたころのことを思い出しているのだろう。
「一度だけ、ヘイトの侵入を許したことがある……あのときも、やつらはまず正規ルートを通った……途中、姿を隠すために山道を選んだものがいたが……」
高田の呟きが聞こえ、胸がギュッと締め付けられた。
昔、修治と麻乃が初めて敵兵を目の当たりにしたときのことだ。
(あの日、あんな場所にさえいなければ……)
急速に思い出が甦ってきて、思考が止まりそうになる。
額を抑え、軽く頭を振った。
「どの区も、ルート沿いに演習場があります。最初に言ったとおり、上陸してすぐに山道へ侵入するとは考え難い」
「そこで、演習場に拠点を設けて、そこへ物資を……そう考えています」
「馬鹿な! そんなことをしたら、浜での防衛などあっという間に突破されてしまうぞ?」
鴇汰と二人、顔を見合わせてうなずき合った。
「俺たちは互いの動きを邪魔し合うような浜での戦争は避け、ルートを通したうえで進軍しているところに仕かけてはどうかと思っています」
「あるいは隊列を後ろから分断させ、小隊で確実に倒していく……地の利はこちらにあります。仕かける場所によっては大規模の敵兵を打ち崩せる、そう考えています」
分断させる、というのは今、初めて聞いた。
けれど一気に襲いかかるよりは、確かに効率的かもしれない。
「ひしめき合った中で……もしかすると自分の切っ先が味方を裂いてしまうかもしれない。援護をするほうも混乱した戦場で確実に敵兵だけを倒すことができるのかどうか、それもわからないかと思います」
「確かにそうッスね……いくら狙いを付けたとしても、味方が近すぎて突然立ち位置が入れ換わったら……放たれた銃弾は味方だからと言って避けちゃくれません」
「そうは言ってもだな、仮にうまく打ち崩していったとして、必ず全軍を倒せると言い切れるのか?」
「それこそ万が一にも中央まで進軍されてしまったら、城はどうなる?」
これまで敵兵の侵入を阻んできた元蓮華たちは、明らかに難色を示した。
彼らがしてきた経験と、これまで侵入させたことがないという自信が、この考えかたを許せないようだ。
それに確実に倒せるのかと問われると、修治には善処するとしか答えようがないのも事実だ。
「城なんて明け渡してしまえばいいじゃないか。あんなものはただの建造物で制圧されようがなんの問題もありやしない」
道場の後ろで、誰かが叫んだ。
なんだろうかと問いかけようとして、日中に話したことを思い出した。
小さくうなずいてみせると、鴇汰はホッとした表情を浮かべた。
「実は一つ、提案があります。今回、これまでにない軍勢を迎え撃つに当たって、今までのように海岸での防衛が難しくなると思います」
「……そうだな。規模にもよるが、こちらの迎え撃つ人数だけでもかなりのものになるだろう」
「はい。正直なところ、海岸での戦争は、悪戯に負傷者を増やすだけのように思います」
「ふむ……おまえのいうことも最もだな」
高田がうなずいた。
尾形も加賀野も黙ったまま聞いている。
「それに、大陸では物資や食糧、様々な資源に事欠く状態のようです。泉翔に渡ってきた折には、まずこちらの物資を狙ってくるでしょう」
「俺の叔父の情報でも、物資の調達がままならず、侵攻の準備が滞ってるとのことでした。それがこんなに早く、進軍してくるということは――」
「――この国で物資を調達しようって考えか?」
「恐らく……いや、確実にそう考えていると思います」
それはまずい。
各区の道場の師範たちがそう言って互いに顔を見合わせている。
「今はあちこちに物資を分散させてある状態です、ですが日数がないと考えると、二、三日のうちには倉庫や詰所に物資を移さないとなりません」
「それが、そこを狙われてるとなっては……奪われるとわかってみすみす移すことはできません」
「だからと言って、このまま個人のもとに保管していても、どうにもならないじゃないですか」
南区と北区の師範が焦りを隠せない様子で訴えてきた。
「中央までの道は、裏道や抜け道、山道を除いて一本です。これまで泉翔に上陸の経験がないやつらは、確実にそのルートを使うでしょう」
「そりゃあそうだろう? 俺たちはこれまで一度たりとも通したことがない」
「まず、目に付く道と言えばどの浜からも中央へ続く一本だけだからな」
元蓮華たちが言い、塚本と市原も大きくうなずいた。
それぞれが戦士として戦っていたころのことを思い出しているのだろう。
「一度だけ、ヘイトの侵入を許したことがある……あのときも、やつらはまず正規ルートを通った……途中、姿を隠すために山道を選んだものがいたが……」
高田の呟きが聞こえ、胸がギュッと締め付けられた。
昔、修治と麻乃が初めて敵兵を目の当たりにしたときのことだ。
(あの日、あんな場所にさえいなければ……)
急速に思い出が甦ってきて、思考が止まりそうになる。
額を抑え、軽く頭を振った。
「どの区も、ルート沿いに演習場があります。最初に言ったとおり、上陸してすぐに山道へ侵入するとは考え難い」
「そこで、演習場に拠点を設けて、そこへ物資を……そう考えています」
「馬鹿な! そんなことをしたら、浜での防衛などあっという間に突破されてしまうぞ?」
鴇汰と二人、顔を見合わせてうなずき合った。
「俺たちは互いの動きを邪魔し合うような浜での戦争は避け、ルートを通したうえで進軍しているところに仕かけてはどうかと思っています」
「あるいは隊列を後ろから分断させ、小隊で確実に倒していく……地の利はこちらにあります。仕かける場所によっては大規模の敵兵を打ち崩せる、そう考えています」
分断させる、というのは今、初めて聞いた。
けれど一気に襲いかかるよりは、確かに効率的かもしれない。
「ひしめき合った中で……もしかすると自分の切っ先が味方を裂いてしまうかもしれない。援護をするほうも混乱した戦場で確実に敵兵だけを倒すことができるのかどうか、それもわからないかと思います」
「確かにそうッスね……いくら狙いを付けたとしても、味方が近すぎて突然立ち位置が入れ換わったら……放たれた銃弾は味方だからと言って避けちゃくれません」
「そうは言ってもだな、仮にうまく打ち崩していったとして、必ず全軍を倒せると言い切れるのか?」
「それこそ万が一にも中央まで進軍されてしまったら、城はどうなる?」
これまで敵兵の侵入を阻んできた元蓮華たちは、明らかに難色を示した。
彼らがしてきた経験と、これまで侵入させたことがないという自信が、この考えかたを許せないようだ。
それに確実に倒せるのかと問われると、修治には善処するとしか答えようがないのも事実だ。
「城なんて明け渡してしまえばいいじゃないか。あんなものはただの建造物で制圧されようがなんの問題もありやしない」
道場の後ろで、誰かが叫んだ。
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