376 / 780
待ち受けるもの
第153話 不可思議 ~岱胡 1~
しおりを挟む
食堂で賄いのおばちゃんに、朝飯用におむすびを山ほど作ってもらった。
少しでいいと言ったのに、気を利かせてくれたんだろうか?
数えたら、一人頭、十二個もある。
おまけに卵焼きまで焼いてくれ、水筒にはお茶も入っている。
昨夜は急な呼び出しのおかげで、夕飯がほとんど喉を通らなかった。
戻ってからも、疲れのせいですぐに眠ってしまったから、目が覚めたときは腹ペコでどうしようもなかった。
おばちゃんたちがおむすびを握っている横でつまみ食いをして、手の甲をたたかれたけれど、それでも止まらないほど腹が減っていた。
お礼を言って風呂敷包みをかかえ、時計を見ると七時十五分。
ちょっと早目な気もしたけれど、修治はきっとそろそろ出てくるころだと思い、玄関に向かった。
扉に手をかけたとき、車の脇に修治と鴇汰が立っているのが見えて、ギクリとした。
(うっわ~、ヤバいなぁ……なんだって二人ともこんなに早いんだよ~)
昨夜の麻乃の印が云々と言ったときの二人のやり取りを思い出す。
ただでさえ、普段から仲の良くない二人だ。
険悪な雰囲気にでもなっていたら最悪だ。
とりあえず、自分が間に入ってなんとか雰囲気を盛り上げなければ。
とは言え気が重い。
それに合わせるように押した扉も重く感じた。
「はよーございますっ! 二人とも、もう来てたんスか? ずいぶん早いッスね?」
できるだけ明るく挨拶をしてみる。
「馬鹿! おまえが遅いんだよ!」
二人は振り返って同時にそう言い、互いにチラッと視線を向け合うと、照れ臭そうな顔でそっぽを向いた。
なにがあったのかわからないけれど、どうやら険悪になってるわけじゃなさそうでホッとする。
「おまえ、なに持ってんのよ?」
「あぁ、これ、朝飯にと思って、おばちゃんに頼んでおむすびと卵焼きを……車ん中で食えるっしょ?」
「気が利くじゃないか。じゃあ、俺が運転するからおまえたちは先に飯を済ませておけ」
修治がそう言って運転席に乗り込むのを見て、岱胡はあわてて車に駆け寄ると、鴇汰が先に助手席に乗ってしまった。
「そんなら途中で運転交代するからさ、あんた飯食うの、それからで構わないか?」
「俺はいい、そんなに腹も減ってないしな」
「なに言ってんだよ。食えるときに食っとけって。ここで作ったもんなら、なにも入っちゃいねーだろ?」
それを聞いた修治が声を上げて笑い、岱胡はその姿に目を見張った。
「確かにそうだな、ここで腹を満たしておいたほうが得策か」
「だろ? そうしろって。てか、岱胡、なにやってんのよ? 早く乗れ」
「あ……あぁ、すいません」
二人のやり取りがあまりにも自然で驚いた。
後部席に乗り込み、改めて二人を見る。
そもそも二人が並んでいること自体が異様だ。
絶対に鴇汰のほうが修治を避けて後部席に乗ると思っていたのに。
(なんなんだよ、これ……これまでに見たことのない光景じゃんか……なんかおっかないよ……)
変な寒気を感じて、背筋が震えた。
「岱胡、メシ!」
助手席から伸びた鴇汰の手に、おむすびと水筒を渡した。
車を走らせながら鴇汰の手もとを見た修治が、凄い数だと言って、また笑う。
豊穣で岱胡と一緒だったときも、堅苦しさは感じなかったけれど、今はそのときより、もっと柔らかな感じを受ける。
鴇汰のほうも、いつも岱胡と話すときと同じように砕けた雰囲気だ。
「俺の隊、今は西浜に詰めてるんだよな? 着いたらまず、やつらに会っておきたいんだけと」
「そうだな、無事を伝えておいたほうがいいか……長くはかからないだろう?」
「ああ。すぐに済ませるよ。それから防衛の準備、今、どんな感じに進んでんのよ?」
「各浜で元蓮華の方々が進めてくれている」
「そっか。予備隊の振りわけとかは?」
「訓練生も総出で経験年数を考慮して振りわけている」
「部隊ごとのデータはあるのか?」
「麻乃のところの杉山が資料に起こしている。恐らくもうできあがっているはずだ」
卵焼きを頬張りながら、二人のやり取りを眺めた。
必要な情報をどんどん引き出そうとする鴇汰に、修治は無駄なことは話さずに要点だけを伝え、二人の間で次々に話しが進んでいく。
ちょっと疎外された気分になり始めたとき、鴇汰が振り返った。
「岱胡、おまえは南浜、いいな?」
「はい?」
「修治が西浜、俺は北浜にする。だからおまえ、南浜」
鴇汰は当たり前のように言い、修治も黙ったまま車を走らせ続けている。
こんな事態で他の誰もいない今、三人が一緒に詰められるとは思っていない。
だからこそ、援護をする身としては、兵力が偏らないように自分の隊を分散させたのだ。
「わかりました」
その返事に鴇汰はうなずき、また修治とやり取りを始めた。
(このコンビ……合わないんじゃない。合わせてなかっただけだ。今は強い……)
みんながいないのに、スムーズにことが運んでいくさまを見て、さっきとは違う意味で、背筋が震えた。
少しでいいと言ったのに、気を利かせてくれたんだろうか?
数えたら、一人頭、十二個もある。
おまけに卵焼きまで焼いてくれ、水筒にはお茶も入っている。
昨夜は急な呼び出しのおかげで、夕飯がほとんど喉を通らなかった。
戻ってからも、疲れのせいですぐに眠ってしまったから、目が覚めたときは腹ペコでどうしようもなかった。
おばちゃんたちがおむすびを握っている横でつまみ食いをして、手の甲をたたかれたけれど、それでも止まらないほど腹が減っていた。
お礼を言って風呂敷包みをかかえ、時計を見ると七時十五分。
ちょっと早目な気もしたけれど、修治はきっとそろそろ出てくるころだと思い、玄関に向かった。
扉に手をかけたとき、車の脇に修治と鴇汰が立っているのが見えて、ギクリとした。
(うっわ~、ヤバいなぁ……なんだって二人ともこんなに早いんだよ~)
昨夜の麻乃の印が云々と言ったときの二人のやり取りを思い出す。
ただでさえ、普段から仲の良くない二人だ。
険悪な雰囲気にでもなっていたら最悪だ。
とりあえず、自分が間に入ってなんとか雰囲気を盛り上げなければ。
とは言え気が重い。
それに合わせるように押した扉も重く感じた。
「はよーございますっ! 二人とも、もう来てたんスか? ずいぶん早いッスね?」
できるだけ明るく挨拶をしてみる。
「馬鹿! おまえが遅いんだよ!」
二人は振り返って同時にそう言い、互いにチラッと視線を向け合うと、照れ臭そうな顔でそっぽを向いた。
なにがあったのかわからないけれど、どうやら険悪になってるわけじゃなさそうでホッとする。
「おまえ、なに持ってんのよ?」
「あぁ、これ、朝飯にと思って、おばちゃんに頼んでおむすびと卵焼きを……車ん中で食えるっしょ?」
「気が利くじゃないか。じゃあ、俺が運転するからおまえたちは先に飯を済ませておけ」
修治がそう言って運転席に乗り込むのを見て、岱胡はあわてて車に駆け寄ると、鴇汰が先に助手席に乗ってしまった。
「そんなら途中で運転交代するからさ、あんた飯食うの、それからで構わないか?」
「俺はいい、そんなに腹も減ってないしな」
「なに言ってんだよ。食えるときに食っとけって。ここで作ったもんなら、なにも入っちゃいねーだろ?」
それを聞いた修治が声を上げて笑い、岱胡はその姿に目を見張った。
「確かにそうだな、ここで腹を満たしておいたほうが得策か」
「だろ? そうしろって。てか、岱胡、なにやってんのよ? 早く乗れ」
「あ……あぁ、すいません」
二人のやり取りがあまりにも自然で驚いた。
後部席に乗り込み、改めて二人を見る。
そもそも二人が並んでいること自体が異様だ。
絶対に鴇汰のほうが修治を避けて後部席に乗ると思っていたのに。
(なんなんだよ、これ……これまでに見たことのない光景じゃんか……なんかおっかないよ……)
変な寒気を感じて、背筋が震えた。
「岱胡、メシ!」
助手席から伸びた鴇汰の手に、おむすびと水筒を渡した。
車を走らせながら鴇汰の手もとを見た修治が、凄い数だと言って、また笑う。
豊穣で岱胡と一緒だったときも、堅苦しさは感じなかったけれど、今はそのときより、もっと柔らかな感じを受ける。
鴇汰のほうも、いつも岱胡と話すときと同じように砕けた雰囲気だ。
「俺の隊、今は西浜に詰めてるんだよな? 着いたらまず、やつらに会っておきたいんだけと」
「そうだな、無事を伝えておいたほうがいいか……長くはかからないだろう?」
「ああ。すぐに済ませるよ。それから防衛の準備、今、どんな感じに進んでんのよ?」
「各浜で元蓮華の方々が進めてくれている」
「そっか。予備隊の振りわけとかは?」
「訓練生も総出で経験年数を考慮して振りわけている」
「部隊ごとのデータはあるのか?」
「麻乃のところの杉山が資料に起こしている。恐らくもうできあがっているはずだ」
卵焼きを頬張りながら、二人のやり取りを眺めた。
必要な情報をどんどん引き出そうとする鴇汰に、修治は無駄なことは話さずに要点だけを伝え、二人の間で次々に話しが進んでいく。
ちょっと疎外された気分になり始めたとき、鴇汰が振り返った。
「岱胡、おまえは南浜、いいな?」
「はい?」
「修治が西浜、俺は北浜にする。だからおまえ、南浜」
鴇汰は当たり前のように言い、修治も黙ったまま車を走らせ続けている。
こんな事態で他の誰もいない今、三人が一緒に詰められるとは思っていない。
だからこそ、援護をする身としては、兵力が偏らないように自分の隊を分散させたのだ。
「わかりました」
その返事に鴇汰はうなずき、また修治とやり取りを始めた。
(このコンビ……合わないんじゃない。合わせてなかっただけだ。今は強い……)
みんながいないのに、スムーズにことが運んでいくさまを見て、さっきとは違う意味で、背筋が震えた。
0
お気に入りに追加
10
あなたにおすすめの小説
どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします
文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。
夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。
エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。
「ゲルハルトさま、愛しています」
ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。
「エレーヌ、俺はあなたが憎い」
エレーヌは凍り付いた。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
【完結】仰る通り、貴方の子ではありません
ユユ
恋愛
辛い悪阻と難産を経て産まれたのは
私に似た待望の男児だった。
なのに認められず、
不貞の濡れ衣を着せられ、
追い出されてしまった。
実家からも勘当され
息子と2人で生きていくことにした。
* 作り話です
* 暇つぶしにどうぞ
* 4万文字未満
* 完結保証付き
* 少し大人表現あり
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
断る――――前にもそう言ったはずだ
鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」
結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。
周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。
けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。
他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。
(わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)
そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。
ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。
そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
夫達の裏切りに復讐心で一杯だった私は、死の間際に本当の願いを見つけ幸せになれました。
Nao*
恋愛
家庭を顧みず、外泊も増えた夫ダリス。
それを寂しく思う私だったが、庭師のサムとその息子のシャルに癒される日々を送って居た。
そして私達は、三人であるバラの苗を庭に植える。
しかしその後…夫と親友のエリザによって、私は酷い裏切りを受ける事に─。
命の危機が迫る中、私の心は二人への復讐心で一杯になるが…駆けつけたシャルとサムを前に、本当の願いを見つけて─?
(1万字以上と少し長いので、短編集とは別にしてあります)
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
いっとう愚かで、惨めで、哀れな末路を辿るはずだった令嬢の矜持
空月
ファンタジー
古くからの名家、貴き血を継ぐローゼンベルグ家――その末子、一人娘として生まれたカトレア・ローゼンベルグは、幼い頃からの婚約者に婚約破棄され、遠方の別荘へと療養の名目で送られた。
その道中に惨めに死ぬはずだった未来を、突然現れた『バグ』によって回避して、ただの『カトレア』として生きていく話。
※悪役令嬢で婚約破棄物ですが、ざまぁもスッキリもありません。
※以前投稿していた「いっとう愚かで惨めで哀れだった令嬢の果て」改稿版です。文章量が1.5倍くらいに増えています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる