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待ち受けるもの
第148話 不可思議 ~鴇汰 2~
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「とりあえず細かな話しは明日にしよう。本当ならすぐにでも詰めておきたいところだが、こんなときだからこそ休息も取らなければならない。わかるな?」
北浜に着き、修治はボートを降りるとそう言った。
その後ろで、エンジンを切って飛び降りてきた岱胡が、ロープでしっかりと船体を桟橋に繋いでいる。
「鴇汰さんも戻ってきたばかりッスからね、寝といたほうがいいッスよ。明日、てか、もう今日になっちゃいましたけど、西区で全部隊の代表と元蓮華が集まって打ち合わせをするんです」
「一応、夕方からってことになってるが、俺たちだけで先に情報をつき合わせておいたほうがいいだろう」
「ってことは、朝のうちにこっちを出る感じッスか?」
修治が腕時計に目をやり、釣られて鴇汰も時計を見た。
午前二時だ。
月島に着いたときは、まだ日付けの変わる数時間前だった。
そんなに長い間、レイファーたちといたのか――。
「もうこんな時間か……五時間あれば十分過ぎる休息がとれるだろう」
「そんじゃあ七時半に玄関集合でいいッスかね?」
「そうだな、そうしよう。鴇汰もいいか?」
修治と岱胡が揃って鴇汰に向いた。
二人はこれまで、そんなに話しをすることもなければ、一緒にいることも少なかったと思う。
どちらかといえば、岱胡と一緒にいることが多いのも気の合うのも鴇汰のほうだと思っていたのに、なぜか妙に二人の息が合っているのが不思議だ。
「いいも悪いも……俺、戻ってきたばっかでなにがなんだかわかんねーし……あんたらがそう言うなら、それで構わない」
本当は聞きたいことも言いたいことも山ほどあるのに、変なコンビができあがってることに面喰って、そう答えてしまった。
「よし、じゃあ七時半にここで。車の準備が整い次第、出発だ」
さっさと宿舎に向かって歩き出した二人のあとを、荷物を担いで慌てて追った。
「そうだ……なぁ。鬼灯だけど。こいつの調子を見てもらいたいんだよ、どうしたらいいんだ?」
立ち止まって振り返った修治は視線を鬼灯に向けた。
「おまえ、まだそいつを使うつもりなのか?」
「まぁ……俺が使うってより使われてる感じだけどな。けど、こいつきっと麻乃の手に戻りたいんだと思う」
鬼灯を持っていると落ち着かない態度になるのを気にしているのが、手に取るようにわかる。
鴇汰も薄々は感じていた。
確かに修治が言ったとおり、鬼灯を手にしていると急かされているようで気ばかりが焦る。
けれど今は手放す気にはなれない。
「頼むよ……今は黙って、こいつを俺に預けてくれ」
数秒、黙ったままで鬼灯を見ていた修治は、小さな溜息をもらして、仕方ないな、と呟いた。
「見てもらうのは西区に行ってからだな。あいつの刀は全部、周防で頼んでいる。向こうに着いたら誰かに頼んで、爺さまかお孫さんのどちらかを呼んでもらうことにしよう」
「あぁ。お孫さんって確か、麻乃さんがカッコイイとか言ってた人ッスね」
「……カッコイイ?」
また修治の言葉と被さった。
岱胡が一瞬、しまった、というような顔をしたのも見逃さなかった。
「いや、ホラ、豊穣に出る前にあの人、刀を修繕に出してたじゃないッスか、それを届けに来たときに言ってたんスよ。泉翔人にしては背が低いから自分と並んでもおかしくないとかなんとかって。ただそれだけですよ」
修治の顔色を伺いながら、言い訳をするように岱胡は言う。
(そういやぁ、以前、麻乃はしつこく普通にこだわっていたっけ……)
まさか、その普通とやらに見られたい相手がそいつなんだろうか?
苛立ちと不安感が入り混じって、どうにも言葉を発せずにいると、隣で修治がいつものように鼻で笑った。
「あいつがそんなことを言ったか……そりゃあ、相当気に入ったんだな……まぁ、鬼灯の事は明日になってからだ」
そう言って、宿舎の玄関を開けてさっさと部屋に向かってしまった。
その態度が気に入らなくて、更に苛立ちが募る。
大きく深呼吸をして、ギリギリのところでどうにかそれを抑え込むと、宿舎に入った。
ちょうど岱胡の隣の部屋が空いていたからそこを使うことにして荷物を机に置き、そのままベッドに倒れ込んだ。
横になった途端、またひどい睡魔に襲われて、そのまま眠りに引き摺り込まれていった。
北浜に着き、修治はボートを降りるとそう言った。
その後ろで、エンジンを切って飛び降りてきた岱胡が、ロープでしっかりと船体を桟橋に繋いでいる。
「鴇汰さんも戻ってきたばかりッスからね、寝といたほうがいいッスよ。明日、てか、もう今日になっちゃいましたけど、西区で全部隊の代表と元蓮華が集まって打ち合わせをするんです」
「一応、夕方からってことになってるが、俺たちだけで先に情報をつき合わせておいたほうがいいだろう」
「ってことは、朝のうちにこっちを出る感じッスか?」
修治が腕時計に目をやり、釣られて鴇汰も時計を見た。
午前二時だ。
月島に着いたときは、まだ日付けの変わる数時間前だった。
そんなに長い間、レイファーたちといたのか――。
「もうこんな時間か……五時間あれば十分過ぎる休息がとれるだろう」
「そんじゃあ七時半に玄関集合でいいッスかね?」
「そうだな、そうしよう。鴇汰もいいか?」
修治と岱胡が揃って鴇汰に向いた。
二人はこれまで、そんなに話しをすることもなければ、一緒にいることも少なかったと思う。
どちらかといえば、岱胡と一緒にいることが多いのも気の合うのも鴇汰のほうだと思っていたのに、なぜか妙に二人の息が合っているのが不思議だ。
「いいも悪いも……俺、戻ってきたばっかでなにがなんだかわかんねーし……あんたらがそう言うなら、それで構わない」
本当は聞きたいことも言いたいことも山ほどあるのに、変なコンビができあがってることに面喰って、そう答えてしまった。
「よし、じゃあ七時半にここで。車の準備が整い次第、出発だ」
さっさと宿舎に向かって歩き出した二人のあとを、荷物を担いで慌てて追った。
「そうだ……なぁ。鬼灯だけど。こいつの調子を見てもらいたいんだよ、どうしたらいいんだ?」
立ち止まって振り返った修治は視線を鬼灯に向けた。
「おまえ、まだそいつを使うつもりなのか?」
「まぁ……俺が使うってより使われてる感じだけどな。けど、こいつきっと麻乃の手に戻りたいんだと思う」
鬼灯を持っていると落ち着かない態度になるのを気にしているのが、手に取るようにわかる。
鴇汰も薄々は感じていた。
確かに修治が言ったとおり、鬼灯を手にしていると急かされているようで気ばかりが焦る。
けれど今は手放す気にはなれない。
「頼むよ……今は黙って、こいつを俺に預けてくれ」
数秒、黙ったままで鬼灯を見ていた修治は、小さな溜息をもらして、仕方ないな、と呟いた。
「見てもらうのは西区に行ってからだな。あいつの刀は全部、周防で頼んでいる。向こうに着いたら誰かに頼んで、爺さまかお孫さんのどちらかを呼んでもらうことにしよう」
「あぁ。お孫さんって確か、麻乃さんがカッコイイとか言ってた人ッスね」
「……カッコイイ?」
また修治の言葉と被さった。
岱胡が一瞬、しまった、というような顔をしたのも見逃さなかった。
「いや、ホラ、豊穣に出る前にあの人、刀を修繕に出してたじゃないッスか、それを届けに来たときに言ってたんスよ。泉翔人にしては背が低いから自分と並んでもおかしくないとかなんとかって。ただそれだけですよ」
修治の顔色を伺いながら、言い訳をするように岱胡は言う。
(そういやぁ、以前、麻乃はしつこく普通にこだわっていたっけ……)
まさか、その普通とやらに見られたい相手がそいつなんだろうか?
苛立ちと不安感が入り混じって、どうにも言葉を発せずにいると、隣で修治がいつものように鼻で笑った。
「あいつがそんなことを言ったか……そりゃあ、相当気に入ったんだな……まぁ、鬼灯の事は明日になってからだ」
そう言って、宿舎の玄関を開けてさっさと部屋に向かってしまった。
その態度が気に入らなくて、更に苛立ちが募る。
大きく深呼吸をして、ギリギリのところでどうにかそれを抑え込むと、宿舎に入った。
ちょうど岱胡の隣の部屋が空いていたからそこを使うことにして荷物を机に置き、そのままベッドに倒れ込んだ。
横になった途端、またひどい睡魔に襲われて、そのまま眠りに引き摺り込まれていった。
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