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待ち受けるもの
第145話 双紅 ~マドル 10~
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陽が落ち始めたころ、マドルは側近たちとともに荷物をまとめた。
物資が整ってない以上、船への積荷も進まない状態だ。
ここに残っている時間が惜しくて、このままヘイトに移動することにした。
ヘイトに着くのは夜になる。
今日はなにもできないだろうけれど、ここで無駄に時間を潰すよりはマシだろう。
向こうでの準備が整うのを確認してから戻ってきて物資の確認をすればいいことだ。
(そうすれば出航するまでのわずかな時間をロマジェリカで過ごせるか……)
そう考えて、ハッとした。
くだらないことを考えている自分に嫌気がさす。
目を閉じて、一度、深呼吸をしてから側近たちと城を出た。
車に乗り込もうとしたところに、ジェが追いついてきた。
うんざりしながら振り返る。
「どこに行こうっていうのさ!」
「どこもなにも……ヘイトに決まっているじゃありませんか」
「こんな時間に出ていっても着くのは夜だろう? 明日の朝に発てばいいことじゃないの!」
なにがあったのか、ジェはヒステリックに大声をあげた。
「そうは仰っても、庸儀ではまだ物資さえ整っていない状態ではないですか。ここにいてもすることがありません。先にヘイトでの準備と会議を済ませ、また戻ってくるほうが、効率がいいと考えたのです」
もっともな答えにジェは声を詰まらせた。
「それに、貴女も側近の入れ替えをされるなら、忙しいことでしょう。手を煩わせるのも申し訳がありませんから」
そう言って微笑んでみせる。
こうすると大抵、ジェの方が退く。
「……そりゃあ、まぁ、確かに私も暇じゃない……すぐに戻ってくるっていうなら構わないわ」
思ったとおりの答えだ。
あとのことをしっかり頼みます、そう言って車を走らせた。
ジェが本気で側近を入れ替えるのだとすると、今夜どころか数日は新しく選ぶ側近の相手で忙しいことだろう。
マドルのところへくる時間もないほどに。
この忙しい時期に煩わしさがないのだけはありがたいと思う。
荒れ果てた土地を延々と走り、やがて少しずつ緑がみえ始めた。
ヘイト国境付近になると大地の土の色よりも草木の色のほうが多い。
この数年で、ヘイトには緑が増えたようだ。
(いまさらこんなことをしたところで、すべてが無駄だというのに……)
そう思う反面、このおかげで今回の物資がまかなえるという現状でもある。
ヘイトの城へは思ったよりも早く着いた。
予定よりも一日早く着いたことで、ヘイト側はあわてた様子をみせたけれど、庸儀とは違ってあっという間に軍部に兵たちが集まり、すぐに会議を始められる状態になった。
「現時点で、どの程度まで準備ができているか把握してありますか?」
「ええ、ヘイトでは物資、資材ともに既に整っています、ただ近ごろ、雨が降らないので水が若干、不足していますが……」
ヘイト軍の将校がそう言った後ろから、雑兵が耳打ちをしている。
「それも、あと二、三日で整うようです」
「出航の準備のほうは?」
「そちらもすべて整っており、積荷もほとんどが済んでいます」
――思った以上に準備が早い。
ロマジェリカで打ち合わせをしたときには、たいぶ消極的だったのが嘘のようだ。
鬼神の存在をほのめかしたことで、今度こそ確実に泉翔を落とせると感じているせいだろうか。
庸儀が手古摺っているぶん、手間をかけなくても着々と進んでいくヘイトのほうが、頼りになりそうだ。
庸儀の不足分を四分の一ほど、念のために準備してくれるよう頼んだ。
「侵攻の日程は先日の予定通りでお願いします、その際にヘイト軍は北の浜から上陸していただきます」
全員がうなずく。
机に地図を広げ、北浜からほど近い二つ連なった小さいほうの島を示した。
「三国で一斉に進軍するので、まずこの島に停泊してください。恐らくこの島への到着は夜間になります。およそ半日、ここへ潜み、作戦時間に合わせて上陸、侵攻を開始してください」
ヘイトの将校は庸儀のときと同じで、泉翔の兵が分散することで防衛力に衰えがあるのかを聞いてきた。
庸儀で返した答えをそのまま伝えた。
やはり泉翔の兵力に衰えがない可能性が高いことを危惧しているようだ。
「それから停泊ポイントのこの島ですが、すぐ隣にある大きな島のほうへは、西の浜へ上陸するロマジェリカが停泊します。何か急を要する事態が起こった場合、こちらへ連絡をお願いします」
「このところ、天候も安定していますが、時化て出航が危ういと判断した場合はどのように?」
「当日までに連絡を入れます、その場合はすべての工程を一日ずらす形になると思います」
「わかりました」
物資が整ってない以上、船への積荷も進まない状態だ。
ここに残っている時間が惜しくて、このままヘイトに移動することにした。
ヘイトに着くのは夜になる。
今日はなにもできないだろうけれど、ここで無駄に時間を潰すよりはマシだろう。
向こうでの準備が整うのを確認してから戻ってきて物資の確認をすればいいことだ。
(そうすれば出航するまでのわずかな時間をロマジェリカで過ごせるか……)
そう考えて、ハッとした。
くだらないことを考えている自分に嫌気がさす。
目を閉じて、一度、深呼吸をしてから側近たちと城を出た。
車に乗り込もうとしたところに、ジェが追いついてきた。
うんざりしながら振り返る。
「どこに行こうっていうのさ!」
「どこもなにも……ヘイトに決まっているじゃありませんか」
「こんな時間に出ていっても着くのは夜だろう? 明日の朝に発てばいいことじゃないの!」
なにがあったのか、ジェはヒステリックに大声をあげた。
「そうは仰っても、庸儀ではまだ物資さえ整っていない状態ではないですか。ここにいてもすることがありません。先にヘイトでの準備と会議を済ませ、また戻ってくるほうが、効率がいいと考えたのです」
もっともな答えにジェは声を詰まらせた。
「それに、貴女も側近の入れ替えをされるなら、忙しいことでしょう。手を煩わせるのも申し訳がありませんから」
そう言って微笑んでみせる。
こうすると大抵、ジェの方が退く。
「……そりゃあ、まぁ、確かに私も暇じゃない……すぐに戻ってくるっていうなら構わないわ」
思ったとおりの答えだ。
あとのことをしっかり頼みます、そう言って車を走らせた。
ジェが本気で側近を入れ替えるのだとすると、今夜どころか数日は新しく選ぶ側近の相手で忙しいことだろう。
マドルのところへくる時間もないほどに。
この忙しい時期に煩わしさがないのだけはありがたいと思う。
荒れ果てた土地を延々と走り、やがて少しずつ緑がみえ始めた。
ヘイト国境付近になると大地の土の色よりも草木の色のほうが多い。
この数年で、ヘイトには緑が増えたようだ。
(いまさらこんなことをしたところで、すべてが無駄だというのに……)
そう思う反面、このおかげで今回の物資がまかなえるという現状でもある。
ヘイトの城へは思ったよりも早く着いた。
予定よりも一日早く着いたことで、ヘイト側はあわてた様子をみせたけれど、庸儀とは違ってあっという間に軍部に兵たちが集まり、すぐに会議を始められる状態になった。
「現時点で、どの程度まで準備ができているか把握してありますか?」
「ええ、ヘイトでは物資、資材ともに既に整っています、ただ近ごろ、雨が降らないので水が若干、不足していますが……」
ヘイト軍の将校がそう言った後ろから、雑兵が耳打ちをしている。
「それも、あと二、三日で整うようです」
「出航の準備のほうは?」
「そちらもすべて整っており、積荷もほとんどが済んでいます」
――思った以上に準備が早い。
ロマジェリカで打ち合わせをしたときには、たいぶ消極的だったのが嘘のようだ。
鬼神の存在をほのめかしたことで、今度こそ確実に泉翔を落とせると感じているせいだろうか。
庸儀が手古摺っているぶん、手間をかけなくても着々と進んでいくヘイトのほうが、頼りになりそうだ。
庸儀の不足分を四分の一ほど、念のために準備してくれるよう頼んだ。
「侵攻の日程は先日の予定通りでお願いします、その際にヘイト軍は北の浜から上陸していただきます」
全員がうなずく。
机に地図を広げ、北浜からほど近い二つ連なった小さいほうの島を示した。
「三国で一斉に進軍するので、まずこの島に停泊してください。恐らくこの島への到着は夜間になります。およそ半日、ここへ潜み、作戦時間に合わせて上陸、侵攻を開始してください」
ヘイトの将校は庸儀のときと同じで、泉翔の兵が分散することで防衛力に衰えがあるのかを聞いてきた。
庸儀で返した答えをそのまま伝えた。
やはり泉翔の兵力に衰えがない可能性が高いことを危惧しているようだ。
「それから停泊ポイントのこの島ですが、すぐ隣にある大きな島のほうへは、西の浜へ上陸するロマジェリカが停泊します。何か急を要する事態が起こった場合、こちらへ連絡をお願いします」
「このところ、天候も安定していますが、時化て出航が危ういと判断した場合はどのように?」
「当日までに連絡を入れます、その場合はすべての工程を一日ずらす形になると思います」
「わかりました」
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