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待ち受けるもの
第124話 回復 ~鴇汰 7~
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支度をしろと言われても、特になにを持っていきたいわけじゃない。
虎吼刀と鬼灯、黒玉さえ持っていれば、あとはこの身一つで十分だ。
着替えだなんだといろいろ残ってはいるけれど、どれも泉翔に戻れば揃っているし買い直すことだっていくらでもできる。
「移動中は睡眠が取れないから、今のうちに寝ておかないと着いたときに動けなくなるぞ」
十三時を過ぎたころ、クロムに言われて部屋に戻ってきたけれど、逸る思いに目を閉じてもなかなか寝つけないでいた。
(それに……)
鴇汰だけが戻ることを、修治やほかのやつらにどう説明したらいいのか。
鴇汰に責任があるのは十分に承知している。
言い訳がましいことをいうつもりもない。
起こった事実だけを説明するしかない。
なんと責められようがどう言われようが、ロマジェリカの軍勢とともに麻乃がやって来たときには、必ずこの手で引き戻してみせる――。
沸々と湧きあがる思いに、体じゅうの血が騒いでいる気がした。
ガタンと大きな音が部屋の外から聞こえ、ハッとして起きあがると外の景色が夕暮れに赤く染まっていた。
ほんの数十分しか経っていない気がするのに、時計はもう十八時になるところだ。
(体が軽い気がする。眠れないと思っていたけど、いつの間にか眠ってたのか……?)
用意した荷物を持って部屋を出ると、テーブルの上にクロムの手荷物がまとめられていた。
どうやら外で出かける準備をしているようで、低い地鳴りのような音が響いてくる。
ちょっと特殊な式神だと言っていた。
一体、なにを出したのか気になるけれど、こういうところをクロムは見せたがらない。
椅子に腰をかけてクロムが戻るのを待つことにした。
そのあいだに、もう一度、かばんを開けて黒玉を確認した。
移動中に落とすわけにはいかない。
小袋を作り、内側のポケットに縫いつけておく。
ドアが開き、中に入ってきたクロムはもうすっかり準備を整えた格好だった。
「なんだ、そろそろ起こそうと思ったら、もう起きていたのか」
そう言ってまじまじと鴇汰を見つめ、フン、と鼻息を鳴らした。
「もう一度くらい、あの薬を飲ませておきたかったけれど、どうやら必要なさそうだな」
「……あんなもん、もう二度と飲むかよ!」
笑いながらクロムがなにかを投げて寄越した。
両手で受け止めるとゴーグルだった。
「この辺りはそうでもないけれど、海に出るまでは砂埃が凄い。スピードも出るし、それをしっかりつけておきなさい」
「わかった」
答えてとりあえず首にさげると、今度はフードのついたマントを差し出された。
それもやっぱり砂埃を避けるためらしい。
「これを着たら虎吼刀が背負えねーな……大剣や槍使いには向かないんじゃねーの?」
「そうかもしれないけれど、それを着ていないとひどいことになるぞ。武器は荷物と一緒に紐で腰に括っておくといい」
「そっか……じゃあしょうがねーな」
言われたとおりにマントを着込み、荷物と虎吼刀を紐で括った。
鬼灯だけは革のベルトに通してしっかりと帯びた。
「少し早いが出発しよう。準備はできているな?」
そう問われて大きくうなずく。
ドアを開けて小屋を出た。
周囲は木々に囲われていて、ほかに人が住んでいる気配はない。
前にクロムが誰かと話しをしていたのを聞いている。
相手はわざわざ、こんな森の中に足を運んだのだろうか?
クロムが小屋の裏手に回ったのを、鴇汰は急いで追った。
「……うっ!」
驚きで足が止まり体がビクンと跳ね上がる。
小屋の裏にはくすんだ緑色の羽根をしたフクロウがいた。
普通のフクロウと色が違うのはもとより、異様にデカイ。
それだけでこれが本物じゃないことがわかる。
首の辺りから羽根を通して、まるで手綱のように革紐が通してあった。
「夜に飛ぶうえにスピードも出さないといけないからね、今回に限ってはコイツが都合いいんだ。そんなに驚くものじゃない」
うながされて羽根に手をかけ、革紐と自分の腰に巻いた紐を金具でしっかりと繋いだ。
アームウォーマーをはめて落ちないように手綱を手に絡めしっかり握る。
「忘れ物はないな?」
「ああ」
「じゃあ行こう。振り落とされないように、しっかりつかまっているんだぞ!」
クロムの声をかき消すように、フクロウが低く鳴き、その翼を広げた。
虎吼刀と鬼灯、黒玉さえ持っていれば、あとはこの身一つで十分だ。
着替えだなんだといろいろ残ってはいるけれど、どれも泉翔に戻れば揃っているし買い直すことだっていくらでもできる。
「移動中は睡眠が取れないから、今のうちに寝ておかないと着いたときに動けなくなるぞ」
十三時を過ぎたころ、クロムに言われて部屋に戻ってきたけれど、逸る思いに目を閉じてもなかなか寝つけないでいた。
(それに……)
鴇汰だけが戻ることを、修治やほかのやつらにどう説明したらいいのか。
鴇汰に責任があるのは十分に承知している。
言い訳がましいことをいうつもりもない。
起こった事実だけを説明するしかない。
なんと責められようがどう言われようが、ロマジェリカの軍勢とともに麻乃がやって来たときには、必ずこの手で引き戻してみせる――。
沸々と湧きあがる思いに、体じゅうの血が騒いでいる気がした。
ガタンと大きな音が部屋の外から聞こえ、ハッとして起きあがると外の景色が夕暮れに赤く染まっていた。
ほんの数十分しか経っていない気がするのに、時計はもう十八時になるところだ。
(体が軽い気がする。眠れないと思っていたけど、いつの間にか眠ってたのか……?)
用意した荷物を持って部屋を出ると、テーブルの上にクロムの手荷物がまとめられていた。
どうやら外で出かける準備をしているようで、低い地鳴りのような音が響いてくる。
ちょっと特殊な式神だと言っていた。
一体、なにを出したのか気になるけれど、こういうところをクロムは見せたがらない。
椅子に腰をかけてクロムが戻るのを待つことにした。
そのあいだに、もう一度、かばんを開けて黒玉を確認した。
移動中に落とすわけにはいかない。
小袋を作り、内側のポケットに縫いつけておく。
ドアが開き、中に入ってきたクロムはもうすっかり準備を整えた格好だった。
「なんだ、そろそろ起こそうと思ったら、もう起きていたのか」
そう言ってまじまじと鴇汰を見つめ、フン、と鼻息を鳴らした。
「もう一度くらい、あの薬を飲ませておきたかったけれど、どうやら必要なさそうだな」
「……あんなもん、もう二度と飲むかよ!」
笑いながらクロムがなにかを投げて寄越した。
両手で受け止めるとゴーグルだった。
「この辺りはそうでもないけれど、海に出るまでは砂埃が凄い。スピードも出るし、それをしっかりつけておきなさい」
「わかった」
答えてとりあえず首にさげると、今度はフードのついたマントを差し出された。
それもやっぱり砂埃を避けるためらしい。
「これを着たら虎吼刀が背負えねーな……大剣や槍使いには向かないんじゃねーの?」
「そうかもしれないけれど、それを着ていないとひどいことになるぞ。武器は荷物と一緒に紐で腰に括っておくといい」
「そっか……じゃあしょうがねーな」
言われたとおりにマントを着込み、荷物と虎吼刀を紐で括った。
鬼灯だけは革のベルトに通してしっかりと帯びた。
「少し早いが出発しよう。準備はできているな?」
そう問われて大きくうなずく。
ドアを開けて小屋を出た。
周囲は木々に囲われていて、ほかに人が住んでいる気配はない。
前にクロムが誰かと話しをしていたのを聞いている。
相手はわざわざ、こんな森の中に足を運んだのだろうか?
クロムが小屋の裏手に回ったのを、鴇汰は急いで追った。
「……うっ!」
驚きで足が止まり体がビクンと跳ね上がる。
小屋の裏にはくすんだ緑色の羽根をしたフクロウがいた。
普通のフクロウと色が違うのはもとより、異様にデカイ。
それだけでこれが本物じゃないことがわかる。
首の辺りから羽根を通して、まるで手綱のように革紐が通してあった。
「夜に飛ぶうえにスピードも出さないといけないからね、今回に限ってはコイツが都合いいんだ。そんなに驚くものじゃない」
うながされて羽根に手をかけ、革紐と自分の腰に巻いた紐を金具でしっかりと繋いだ。
アームウォーマーをはめて落ちないように手綱を手に絡めしっかり握る。
「忘れ物はないな?」
「ああ」
「じゃあ行こう。振り落とされないように、しっかりつかまっているんだぞ!」
クロムの声をかき消すように、フクロウが低く鳴き、その翼を広げた。
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