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待ち受けるもの
第117話 来訪者 ~レイファー 2~
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「言ったはずだ、この国の女のことだ、とな……どういうことなのか聞かせてもらおうか」
「――なんのことだ?」
男は眉をひそめてこちらを睨む。
その表情、口調……やはり知らないと見える。
ハセガワも、ジッとこちらを睨んだまま、首をかしげていた。
サムは自分の部隊を痛めつけられたからか、二人が紅い髪の女のことを知っていながらもごまかしていると思ったようだ。
「とぼけるのはやめていただきたいですね。紅い髪の女がロマジェリカに加担した理由ですよ」
二人はハッとして互いの顔を見ている。
ハセガワも驚いているようだけれど、もう一人のほうは明らかに顔色が変わった。
「赤髪の女なら庸儀のそれだろう?」
平静を装っているふうではあっても、声がわずかに震えている。
「庸儀の女なら良く知っていますよ、あの日、言ったでしょう? あの女に一泡吹かせてやるつもりだ、とね」
「やっぱり! あのときの式神はおまえか!」
大声を上げたハセガワの手が動いた。
サムはそれよりも早くハセガワに向かって走り出していて、銃を向けようとした腕を押さえた。
「だから……あの日も今日も争うつもりはない、と言っているじゃないですか」
「くっ……! おまえらの言ってることなんか信用できるか! この国の女の話しだなんて呼び出しておきながら、あのババアのことじゃねぇかよ!」
さっさと金縛りでもなんでも施せばいいのに、サムはなかなかそうしようとしない。
腕をひねって押さえ込むだけに止まっている。
「まぁまぁ、とりあえず落ち着いてくださいよ」
「シュウジさん! なにボサッと突っ立ってるんスか!」
ハセガワがもう一人の男に向かって叫んだ。
その声に反応したときには、サムの杖が向いていて、男の動きが止まった。
「シュウジ……? とするとあんたがアベか。どうやら落ち着けと言っても無理なようですねぇ」
サムがチラリとこちらに目を向けた。
レイファーはうなずくと、アベとハセガワに向かって言った。
「無駄に揉めている時間が惜しい、今は黙って聞け。赤茶の髪をした小柄な女、この国の女だな? とぼけても無駄だ、顔に覚えがある」
「あいつは確かに泉翔人にしては髪に赤味が差している……けれど赤じゃない」
「そんなことはわかっている。顔に覚えがあると言っただろう」
「おまえらが言ってる赤髪の女は庸儀のババアのことだろ! アサノさんは関係ないじゃねぇかよ!」
暴れてもがくハセガワの足を蹴って倒したサムは、腕を押さえたまま、その背に腰をおろした。
(あれは相当な屈辱だろう――)
ため息をつくと、ますます暴れるハセガワを尻目に、アベの目をしっかりと見据えた。
「これじゃあ埒が明かない……いがみ合ってる時間はないんだ。順を追って説明をする。だから今はまず、話しを聞け」
恐らくサムが金縛りをかけたのだろう。
アベはその場に立ったまま、それでも思うところがあるのか、目を閉じてうなずいた。
「ダイゴ、とりあえず話しを聞こう……判断はそれからでも遅くはない」
「――けど」
「いいから聞け! おまえたち、争う気はないと言ったな? だったらダイゴを放せ」
「そう言われましてもねぇ、放した途端ズドンとやられちゃあ困るんですよ」
「そんなことはこの俺がさせない。こいつがなにかしたら、俺の命をくれてやる」
それを聞いたハセガワはさすがに大人しくなり、サムはニヤリと笑ってレイファーを見た。
(どこかで聞いたセリフだ――)
自分のときと同じ状況に苦笑するしかない。
解放されたハセガワはアベのもとに駆け寄り、金縛りを解かれたアベは自分の手足が動くのを確認している。
「大陸の状況は知ってるな?」
すかさず問いかけると、アベもハセガワも揃ってうなずいた。
「三国が同盟を組んだことも、それに反対する一派がいることも知っている」
ならば話しは早い、そう言ってサムは数日前のロマジェリカでの出来事を話し始めた。
紅い髪の女のくだりでは、アベの顔はより一層強張った。
二人の赤髪の女を目の当たりにしたことまで話すと、今にも倒れるんじゃないかと思うほどに蒼白になっている。
「確かに……おまえたちのいう女の容姿はアサノのそれだ……だが確証はない」
「最初は俺もそう思った。ないしろ髪は紅い。おまけに瞳もだ。けどな、袖を落とされた左腕に俺は見た。きさまたちにもあるだろう?」
「ある、ってなにがだ?」
「――華をかたどった痣だ」
アベがなにかを言いかけたとき、辺りに強い殺気が満ちた。
その出所を確かめようと周囲を見渡した瞬間、アベとハセガワの目の前に大きななにかが降ってきた。
「――なんのことだ?」
男は眉をひそめてこちらを睨む。
その表情、口調……やはり知らないと見える。
ハセガワも、ジッとこちらを睨んだまま、首をかしげていた。
サムは自分の部隊を痛めつけられたからか、二人が紅い髪の女のことを知っていながらもごまかしていると思ったようだ。
「とぼけるのはやめていただきたいですね。紅い髪の女がロマジェリカに加担した理由ですよ」
二人はハッとして互いの顔を見ている。
ハセガワも驚いているようだけれど、もう一人のほうは明らかに顔色が変わった。
「赤髪の女なら庸儀のそれだろう?」
平静を装っているふうではあっても、声がわずかに震えている。
「庸儀の女なら良く知っていますよ、あの日、言ったでしょう? あの女に一泡吹かせてやるつもりだ、とね」
「やっぱり! あのときの式神はおまえか!」
大声を上げたハセガワの手が動いた。
サムはそれよりも早くハセガワに向かって走り出していて、銃を向けようとした腕を押さえた。
「だから……あの日も今日も争うつもりはない、と言っているじゃないですか」
「くっ……! おまえらの言ってることなんか信用できるか! この国の女の話しだなんて呼び出しておきながら、あのババアのことじゃねぇかよ!」
さっさと金縛りでもなんでも施せばいいのに、サムはなかなかそうしようとしない。
腕をひねって押さえ込むだけに止まっている。
「まぁまぁ、とりあえず落ち着いてくださいよ」
「シュウジさん! なにボサッと突っ立ってるんスか!」
ハセガワがもう一人の男に向かって叫んだ。
その声に反応したときには、サムの杖が向いていて、男の動きが止まった。
「シュウジ……? とするとあんたがアベか。どうやら落ち着けと言っても無理なようですねぇ」
サムがチラリとこちらに目を向けた。
レイファーはうなずくと、アベとハセガワに向かって言った。
「無駄に揉めている時間が惜しい、今は黙って聞け。赤茶の髪をした小柄な女、この国の女だな? とぼけても無駄だ、顔に覚えがある」
「あいつは確かに泉翔人にしては髪に赤味が差している……けれど赤じゃない」
「そんなことはわかっている。顔に覚えがあると言っただろう」
「おまえらが言ってる赤髪の女は庸儀のババアのことだろ! アサノさんは関係ないじゃねぇかよ!」
暴れてもがくハセガワの足を蹴って倒したサムは、腕を押さえたまま、その背に腰をおろした。
(あれは相当な屈辱だろう――)
ため息をつくと、ますます暴れるハセガワを尻目に、アベの目をしっかりと見据えた。
「これじゃあ埒が明かない……いがみ合ってる時間はないんだ。順を追って説明をする。だから今はまず、話しを聞け」
恐らくサムが金縛りをかけたのだろう。
アベはその場に立ったまま、それでも思うところがあるのか、目を閉じてうなずいた。
「ダイゴ、とりあえず話しを聞こう……判断はそれからでも遅くはない」
「――けど」
「いいから聞け! おまえたち、争う気はないと言ったな? だったらダイゴを放せ」
「そう言われましてもねぇ、放した途端ズドンとやられちゃあ困るんですよ」
「そんなことはこの俺がさせない。こいつがなにかしたら、俺の命をくれてやる」
それを聞いたハセガワはさすがに大人しくなり、サムはニヤリと笑ってレイファーを見た。
(どこかで聞いたセリフだ――)
自分のときと同じ状況に苦笑するしかない。
解放されたハセガワはアベのもとに駆け寄り、金縛りを解かれたアベは自分の手足が動くのを確認している。
「大陸の状況は知ってるな?」
すかさず問いかけると、アベもハセガワも揃ってうなずいた。
「三国が同盟を組んだことも、それに反対する一派がいることも知っている」
ならば話しは早い、そう言ってサムは数日前のロマジェリカでの出来事を話し始めた。
紅い髪の女のくだりでは、アベの顔はより一層強張った。
二人の赤髪の女を目の当たりにしたことまで話すと、今にも倒れるんじゃないかと思うほどに蒼白になっている。
「確かに……おまえたちのいう女の容姿はアサノのそれだ……だが確証はない」
「最初は俺もそう思った。ないしろ髪は紅い。おまけに瞳もだ。けどな、袖を落とされた左腕に俺は見た。きさまたちにもあるだろう?」
「ある、ってなにがだ?」
「――華をかたどった痣だ」
アベがなにかを言いかけたとき、辺りに強い殺気が満ちた。
その出所を確かめようと周囲を見渡した瞬間、アベとハセガワの目の前に大きななにかが降ってきた。
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