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待ち受けるもの
第116話 来訪者 ~レイファー 1~
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(必ず二人だけで来い)
そうは言ったものの、本当に二人だけで来るとは限らない。
万一、多数で押し寄せられたときのことを考え、煙弾を用意していた。
いざというときには煙幕を張り、サムの術で足止めをしたうえで逃げるつもりだ。
時間がないとは言え、少数でここまで来てしまった以上は、無駄な争いは絶対に避けなければこちらが危ない。
この小島に着いてから常に気を張っているレイファーとは逆に、サムはここへ来たことを楽しんでいるようにも見える。
(ここへ来る前は臆していたやつが……いい気なものだ)
泉翔の周辺には小さな島がいくつかある。
それさえも、手入れをされているのか自然が豊かだ。
ジャセンベルから泉翔の浜へ向かう途中に見かける、二つ連なったこの島を眺めながら、どうしてもここがほしい、そう思った時期もあった。
ただ、こんな小さな島では移り住むには狭すぎるし、領土とするには遠すぎる。
なにより王が納得しないだろう。
さっきからサムは森の入り口をウロウロと歩き回っては、周辺の木々や草花を見つめ、一人でうなずいている。
これはヘイトでも育つのだろうか、そんなつぶやきが聞こえた。
「風が出てきたな……」
「そうですねぇ、しかし大陸のそれとはまるで違う。砂埃に塗れることもありませんね」
「こんなフードもマスクも、縁のないことだろう」
そう言うとサムは小さく含み笑いを漏らした。
「ところで、あなたが泉翔で呼び出したかったものはいなかったようですが、これから来るのはどんな人物なんです?」
「あぁ、士官クラスのやつだ。ハセガワという男には良く当たる。だから見知っているが、もう片方は見かけない男だった」
「名前のあがっている士官は八人、そのうち男は六人。オサダというものはいなかった、やってくる一人はハセガワとやらですか……」
マントの中からメモを取り出したサムは、それを眺め、一人ブツブツとつぶやいている。
サムにはどうもなにか思うところがあるらしいが、レイファーはそれがなんなのか、特に知りたいとも思わなかった。
しばらく待っていると、不意に視線を感じた。
海へ目を向けても、真っ暗な中、波がうねりをあげているのがわかるだけで、なにも見えない。
マントをまくって腕時計を確認した。
(そろそろ時間か……)
背後に急に人の気配を感じて振り返ると、泉翔の男が二人、砂浜に降り立ったのが見えた。
一人は間違いなくハセガワだ。
争う気はないとは言ってある。けれどレイファーが初めてサムと会ったときのことを思い出すと、それが手放しで受け入れられるとは思えない。
マントの中でグッと剣を握った。
「二人か?」
レイファーが問いかけると、そうだ、と男が答える。
囲まれている気配も、多人数が控えている様子もない。
本当に二人で来やがった――。
そう思った直後、サムがいつもの含み笑いを漏らした。
「……泉翔の人間は本当に温い……」
途端に二人の表情が変わり、見知らぬほうの男は刀を握り、ハセガワは腰へ手を置いた。
こちらの正体がわからないことも、二人を苛立たせている原因の一つだろう。
ハセガワの腕前のほどは知っている。
サムが金縛りをかけてくれれば安心できるが、術を放つ前に撃たれてしまう恐れもある。
「争うつもりはないと言ったはずだ」
サムをうながし、レイファーはフードを取った。
ハセガワが呆然とした表情で自分の名前を呼び、サムをヘイトの軍師と言った。
「……元軍師ですよ」
相変わらずの人を馬鹿にしたような態度でサムはそれに答える。
現だろうが元だろうが、今はどうでもいいことだと思うのに、こいつは変なところでこだわる。
もう一人の男のほうはわずかに殺気を含んだ視線をこちらに向けてきた。
「ジャセンベルとヘイトは敵対していると聞いている。それが揃ってお出ましとはな……こんなところへ呼びつけて、一体なんの用だという?」
レイファーに対してまったく動じることもなく、一歩でも動けば斬りつけてくるんじゃないかという雰囲気をまとっている。
この男を見ていると、紅い髪の女を思い出す。
どこか共通した気配を感じた。
式神の目を通して見た泉翔は、戦士が忙しなく動いてあわただしくしていた。
はじめは侵攻のための準備をしているのかとも思ったけれど、どうも防衛の準備をしているようだ。
それを目の当たりにして、国をあげてロマジェリカに加担しているのではないと感じた。
けれどそれはレイファーの憶測でしかない。
ここまで来た以上、ハッキリと泉翔人の口から本当のことを聞くべきだ。
あの小柄な赤茶の髪の女が、なぜ、紅い華としてロマジェリカにいるのかも――。
そうは言ったものの、本当に二人だけで来るとは限らない。
万一、多数で押し寄せられたときのことを考え、煙弾を用意していた。
いざというときには煙幕を張り、サムの術で足止めをしたうえで逃げるつもりだ。
時間がないとは言え、少数でここまで来てしまった以上は、無駄な争いは絶対に避けなければこちらが危ない。
この小島に着いてから常に気を張っているレイファーとは逆に、サムはここへ来たことを楽しんでいるようにも見える。
(ここへ来る前は臆していたやつが……いい気なものだ)
泉翔の周辺には小さな島がいくつかある。
それさえも、手入れをされているのか自然が豊かだ。
ジャセンベルから泉翔の浜へ向かう途中に見かける、二つ連なったこの島を眺めながら、どうしてもここがほしい、そう思った時期もあった。
ただ、こんな小さな島では移り住むには狭すぎるし、領土とするには遠すぎる。
なにより王が納得しないだろう。
さっきからサムは森の入り口をウロウロと歩き回っては、周辺の木々や草花を見つめ、一人でうなずいている。
これはヘイトでも育つのだろうか、そんなつぶやきが聞こえた。
「風が出てきたな……」
「そうですねぇ、しかし大陸のそれとはまるで違う。砂埃に塗れることもありませんね」
「こんなフードもマスクも、縁のないことだろう」
そう言うとサムは小さく含み笑いを漏らした。
「ところで、あなたが泉翔で呼び出したかったものはいなかったようですが、これから来るのはどんな人物なんです?」
「あぁ、士官クラスのやつだ。ハセガワという男には良く当たる。だから見知っているが、もう片方は見かけない男だった」
「名前のあがっている士官は八人、そのうち男は六人。オサダというものはいなかった、やってくる一人はハセガワとやらですか……」
マントの中からメモを取り出したサムは、それを眺め、一人ブツブツとつぶやいている。
サムにはどうもなにか思うところがあるらしいが、レイファーはそれがなんなのか、特に知りたいとも思わなかった。
しばらく待っていると、不意に視線を感じた。
海へ目を向けても、真っ暗な中、波がうねりをあげているのがわかるだけで、なにも見えない。
マントをまくって腕時計を確認した。
(そろそろ時間か……)
背後に急に人の気配を感じて振り返ると、泉翔の男が二人、砂浜に降り立ったのが見えた。
一人は間違いなくハセガワだ。
争う気はないとは言ってある。けれどレイファーが初めてサムと会ったときのことを思い出すと、それが手放しで受け入れられるとは思えない。
マントの中でグッと剣を握った。
「二人か?」
レイファーが問いかけると、そうだ、と男が答える。
囲まれている気配も、多人数が控えている様子もない。
本当に二人で来やがった――。
そう思った直後、サムがいつもの含み笑いを漏らした。
「……泉翔の人間は本当に温い……」
途端に二人の表情が変わり、見知らぬほうの男は刀を握り、ハセガワは腰へ手を置いた。
こちらの正体がわからないことも、二人を苛立たせている原因の一つだろう。
ハセガワの腕前のほどは知っている。
サムが金縛りをかけてくれれば安心できるが、術を放つ前に撃たれてしまう恐れもある。
「争うつもりはないと言ったはずだ」
サムをうながし、レイファーはフードを取った。
ハセガワが呆然とした表情で自分の名前を呼び、サムをヘイトの軍師と言った。
「……元軍師ですよ」
相変わらずの人を馬鹿にしたような態度でサムはそれに答える。
現だろうが元だろうが、今はどうでもいいことだと思うのに、こいつは変なところでこだわる。
もう一人の男のほうはわずかに殺気を含んだ視線をこちらに向けてきた。
「ジャセンベルとヘイトは敵対していると聞いている。それが揃ってお出ましとはな……こんなところへ呼びつけて、一体なんの用だという?」
レイファーに対してまったく動じることもなく、一歩でも動けば斬りつけてくるんじゃないかという雰囲気をまとっている。
この男を見ていると、紅い髪の女を思い出す。
どこか共通した気配を感じた。
式神の目を通して見た泉翔は、戦士が忙しなく動いてあわただしくしていた。
はじめは侵攻のための準備をしているのかとも思ったけれど、どうも防衛の準備をしているようだ。
それを目の当たりにして、国をあげてロマジェリカに加担しているのではないと感じた。
けれどそれはレイファーの憶測でしかない。
ここまで来た以上、ハッキリと泉翔人の口から本当のことを聞くべきだ。
あの小柄な赤茶の髪の女が、なぜ、紅い華としてロマジェリカにいるのかも――。
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