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待ち受けるもの
第112話 来訪者 ~岱胡 5~
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出かける前に修治は麻乃の隊員たちにできあがった資料を渡し、良く目を通しておくように言い含めた。
そのあと、数人に各詰所へも届けるようにと指示を出している。
道場へ向かうと、もう麻乃の隊の古株たちは顔を揃えていて、おクマと松恵の姿も見えた。
道場の師範らしき人も全員が神妙な面持ちで、つい手に汗を握る。
全員に資料がいき渡るようにすると、修治が大まかに大陸での出来事を話した。
「向こうでのことといい、空の船が戻ったことといい、大陸の三国がなにかを企んでいるというのは確かなようだな」
高田が静かに言うと、修治はうなずいて麻乃の隊員たちを見た。
「企んでいるといっても、やつらのすることといえば侵攻してくることだけだろう。ただ、その規模やどの浜に攻め入ってくるかがわからない」
「三国となると、全浜に渡ってくる可能性もありますよね?」
小坂が問いかけてきた。
岱胡もほぼ間違いなく、全浜へ来るだろうと思っている。
「そうだな、恐らく全浜が可能性として一番高い。だからこそ各詰所で防衛の強化をするよう指示をしたんだが……」
「規模がわからないと、二部隊じゃまかない切れないかもしれないッスね……」
「ああ、そこで予備隊だけじゃなく、訓練生も含めて全戦士を各浜に振りわけたい。もちろん今年印を受けたばかりのものは外して、だ」
「ここ最近の上層のやりかたに、どちらもかなり納得のいかない様子です、声をかければ必ず俺たちと一緒に動いてくれます」
杉山がそう言ったのに大きくうなずいた修治は、隊員の何人かの名前を呼んだ。
「現時点で両方を合わせるとどれだけの人数がいるか、急ぎ調べて年数、経験をまんべんなく振りわけたうえで資料に起こしてくれるか? できれば二日以内に頼む」
「わかりました」
「それから各部隊とも留守中に隊をまとめる役割を預かっているやつがいる。それが誰なのかを確認して二日後に動けるように、連絡をつけておいてほしい」
修治が指示を出すたびに、麻乃の隊員たちが道場を出て動き始めた。
小坂だけを残し、全員が出ていったあと、修治は姿勢を正し、おクマと松恵に向かって頭をさげた。
二人ともヒラヒラと手を振り、何事もなかったような顔をしている。
その様子を見てから、高田が修治に向かって話しを始めた。
「印の件だが……今回の洗礼でもそうだが、一般の方々には怪我人や持病のあるもの以外、ほとんどのものにあらわれたそうだ。小坂が近隣の道場と連絡を取り合って調べてきたが、西区だけでも相当な数になる」
「そうですか……実は、皇子にも印があらわれたそうです。皇子の話しでは、皇女さまも同じだと」
「そうか。うちでは塚本と市原も出た。引退したとは言え、二人ともまだ体も十分に利く。一般の方々に比べれば動けるだろう。実戦の経験もあるわけだしな」
高田が壁際に座っていた二人の師範に視線を移した。
なるほど、妙に神妙な雰囲気だったのはそのせいか、と思った。
「俺も皇子のときも修治さんの弟さんのときにも一緒にいましたけど、一般人に印が出たと言っても、まさか戦争に駆り出すわけにはいかないと思うんスけど……」
つい思っていたことが口をついた。
高田は岱胡を見つめ、大きくうなずく。
「仮に三国が同時に全浜に攻め込んできたとして、俺たちに立ちいかないことが起きてしまった場合、村や町が襲われる可能性が出てくる」
「実戦の経験がない、とはいえこの島では誰もが必ず十六まで鍛錬をしている……雑兵を相手にするなら、一対多数であれば、あるいは優位に渡り合えるだろう」
「ってコトは、印があらわれたのは、そのときには自分たちの力で対処しろ、ってコトですかね?」
「そういうことだろうとは思う。もしかすると神殿のほうでなにかご神託が出ているのかもしれないが、なにせ向こうは非協力的だ」
「ということは、こちらに情報は流れてこないか……」
修治がポツリとつぶやいて、苛立ちを表情にあらわした。
「その辺りのことは、加賀野やほかの元蓮華たちが手を尽くしてくれている。おまえたちは防衛のほうへ力を注いでくれ。万が一のときに一般の方々を含め、我々がどう動くかは、私を始め、各道場のもので考えることにしよう」
修治と二人、うなずいてそれに返した。
張り詰めた道場の雰囲気に耐え切れなくなってきたころ、師範の一人がお茶を持ってきてくれた。
修治がそれを一気に飲み干し、小坂と話し始めたのを岱胡は隣で黙って聞いていた。
十分も経たないうちに突然、修治が机に倒れ伏した。
そのあと、数人に各詰所へも届けるようにと指示を出している。
道場へ向かうと、もう麻乃の隊の古株たちは顔を揃えていて、おクマと松恵の姿も見えた。
道場の師範らしき人も全員が神妙な面持ちで、つい手に汗を握る。
全員に資料がいき渡るようにすると、修治が大まかに大陸での出来事を話した。
「向こうでのことといい、空の船が戻ったことといい、大陸の三国がなにかを企んでいるというのは確かなようだな」
高田が静かに言うと、修治はうなずいて麻乃の隊員たちを見た。
「企んでいるといっても、やつらのすることといえば侵攻してくることだけだろう。ただ、その規模やどの浜に攻め入ってくるかがわからない」
「三国となると、全浜に渡ってくる可能性もありますよね?」
小坂が問いかけてきた。
岱胡もほぼ間違いなく、全浜へ来るだろうと思っている。
「そうだな、恐らく全浜が可能性として一番高い。だからこそ各詰所で防衛の強化をするよう指示をしたんだが……」
「規模がわからないと、二部隊じゃまかない切れないかもしれないッスね……」
「ああ、そこで予備隊だけじゃなく、訓練生も含めて全戦士を各浜に振りわけたい。もちろん今年印を受けたばかりのものは外して、だ」
「ここ最近の上層のやりかたに、どちらもかなり納得のいかない様子です、声をかければ必ず俺たちと一緒に動いてくれます」
杉山がそう言ったのに大きくうなずいた修治は、隊員の何人かの名前を呼んだ。
「現時点で両方を合わせるとどれだけの人数がいるか、急ぎ調べて年数、経験をまんべんなく振りわけたうえで資料に起こしてくれるか? できれば二日以内に頼む」
「わかりました」
「それから各部隊とも留守中に隊をまとめる役割を預かっているやつがいる。それが誰なのかを確認して二日後に動けるように、連絡をつけておいてほしい」
修治が指示を出すたびに、麻乃の隊員たちが道場を出て動き始めた。
小坂だけを残し、全員が出ていったあと、修治は姿勢を正し、おクマと松恵に向かって頭をさげた。
二人ともヒラヒラと手を振り、何事もなかったような顔をしている。
その様子を見てから、高田が修治に向かって話しを始めた。
「印の件だが……今回の洗礼でもそうだが、一般の方々には怪我人や持病のあるもの以外、ほとんどのものにあらわれたそうだ。小坂が近隣の道場と連絡を取り合って調べてきたが、西区だけでも相当な数になる」
「そうですか……実は、皇子にも印があらわれたそうです。皇子の話しでは、皇女さまも同じだと」
「そうか。うちでは塚本と市原も出た。引退したとは言え、二人ともまだ体も十分に利く。一般の方々に比べれば動けるだろう。実戦の経験もあるわけだしな」
高田が壁際に座っていた二人の師範に視線を移した。
なるほど、妙に神妙な雰囲気だったのはそのせいか、と思った。
「俺も皇子のときも修治さんの弟さんのときにも一緒にいましたけど、一般人に印が出たと言っても、まさか戦争に駆り出すわけにはいかないと思うんスけど……」
つい思っていたことが口をついた。
高田は岱胡を見つめ、大きくうなずく。
「仮に三国が同時に全浜に攻め込んできたとして、俺たちに立ちいかないことが起きてしまった場合、村や町が襲われる可能性が出てくる」
「実戦の経験がない、とはいえこの島では誰もが必ず十六まで鍛錬をしている……雑兵を相手にするなら、一対多数であれば、あるいは優位に渡り合えるだろう」
「ってコトは、印があらわれたのは、そのときには自分たちの力で対処しろ、ってコトですかね?」
「そういうことだろうとは思う。もしかすると神殿のほうでなにかご神託が出ているのかもしれないが、なにせ向こうは非協力的だ」
「ということは、こちらに情報は流れてこないか……」
修治がポツリとつぶやいて、苛立ちを表情にあらわした。
「その辺りのことは、加賀野やほかの元蓮華たちが手を尽くしてくれている。おまえたちは防衛のほうへ力を注いでくれ。万が一のときに一般の方々を含め、我々がどう動くかは、私を始め、各道場のもので考えることにしよう」
修治と二人、うなずいてそれに返した。
張り詰めた道場の雰囲気に耐え切れなくなってきたころ、師範の一人がお茶を持ってきてくれた。
修治がそれを一気に飲み干し、小坂と話し始めたのを岱胡は隣で黙って聞いていた。
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