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待ち受けるもの
第111話 来訪者 ~岱胡 4~
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「どういうことって……一体なにがですか?」
修治の問いかけに松恵はおクマを押し退けると、右袖をまくってみせた。
「――あっ!」
思わず声をあげた。
おクマのほうも、これをご覧よ、と首筋をこちらに向ける。
そこには皇子や修治の弟と同じ三日月の印が、くっきりと浮かびあがっていた。
「昨日ねぇ、刺すような痛みを感じたと思ったらこれだよ。うちの店では半数以上の女の子にこいつが出た。熊吉のところは全員だ。これは一体、どういうことなんだい?」
「船だけ戻って麻乃は帰ってこない、アタシらにこんなモンがあらわれる、アンタ! なにか知ってんだろう! お言いヨ!」
おクマはもの凄い勢いで修治の肩を突き飛ばし、よろけた修治の足が、岱胡のつま先を踏んだ。
「なにかって……俺だって戻ってきたばかりですよ? なんだってみんな、揃いも揃って俺にそんなことを……」
珍しく修治が動揺している。
松恵もおクマもそれを感じたのか、フッとため息をついた。
「あたしらだけじゃない、柳堀のほとんどのやつらが同じなんだよ。こんなこと、誰に聞きゃあいいんだか、あたしらもサッパリでねぇ……」
「そう言われたって、俺にだってなにがなんだかわからないんですよ! 次から次へとこんな……麻乃のことだってそうだ……」
修治は片手で額を押さえたままうつむき、うめくように言った。
「今だって、大陸がなにか仕かけてくるかもしれないから、その準備に追われてるってのに……麻乃のことも、お二人だって知ってるでしょう! これから対処について詰めなきゃならないってのに……ほかの誰も帰ってこない。上層はまるで見当違いなことばかりしやがる。これ以上、俺にどうしろっていうんです!」
振り絞るような声で叫んだ修治を、岱胡は呆然として見つめた。
おクマも松恵も、こんな姿の修治を見たのは初めてなのか黙りこくってしまい、申し訳なさそうな視線をこちらに向けている。
「悪かったよ……アタシらもほかにこんな話しのできる人間はいないんだし……アンタを責めてるワケじゃないんだヨ」
「岱胡ちゃん、今夜は高田の所へ行くんだろう?」
「あ……ええ、一応、十時にうかがうことになってます」
「だったら、アタシらもそっちへ行くことにするよ。まだ一時間以上あるけどサ、先に行って向こうで待ってるから」
なだめるように二人が言葉をかけても、修治はうなだれたままで、なにも言わなかった。
二人が出ていったあとも修治はその場を動かず、数分して大きくため息をつくと、続きをするか、と一言だけ発して印刷機のある部屋へ歩き出した。
三十分ほどしてすべての資料を整え終えると、修治は疲れ果てたように椅子に腰をおろし、机に両肘を着いて頭を抱えた。
「さっきは取り乱してすまなかったな。俺もさすがに……少しばかり疲れているのかもしれない……」
「いや、なんてことないッスよ、誰だってこんなこと……それに正直、修治さんでも取り乱すことがあるのかと思ったら、ホッとしました」
資料を各詰所ごとに束ねてまとめると、それぞれを箱に詰め込んでから、修治の向かい側に腰をおろした。
「なんつーか……完璧過ぎるのも堅過ぎるのも、あんまり……そんなことがあったほうが、人間味があるっていうか……まぁ……鴇汰さんみたいにいつも取り乱してるのもどうかと思いますけどね~」
「馬鹿か、あいつと俺を一緒にするな」
そう言うと、いつもの調子でフッと鼻で笑った。
それを見てホッとしている自分がいることに気づく。
庸儀の船が戻るのは、最長で早ければ明日、遅くてもあさってだ。
今日のことを考えると、どうしても嫌な予感が拭い切れない。
また、空の船が戻ってくるような気がしてしょうがない。
最悪のときには、この国を守るために進んで動かなければならないのは、修治と岱胡自身だ。
そんな状態で修治が沈んだままになってしまったら、一人ではなにもできないだろう。
蓮華として部隊を持って三年……。
それなりに経験も積んだのに、情けない話し、誰かが上にいてくれないと不安でたまらなかった。
修治の問いかけに松恵はおクマを押し退けると、右袖をまくってみせた。
「――あっ!」
思わず声をあげた。
おクマのほうも、これをご覧よ、と首筋をこちらに向ける。
そこには皇子や修治の弟と同じ三日月の印が、くっきりと浮かびあがっていた。
「昨日ねぇ、刺すような痛みを感じたと思ったらこれだよ。うちの店では半数以上の女の子にこいつが出た。熊吉のところは全員だ。これは一体、どういうことなんだい?」
「船だけ戻って麻乃は帰ってこない、アタシらにこんなモンがあらわれる、アンタ! なにか知ってんだろう! お言いヨ!」
おクマはもの凄い勢いで修治の肩を突き飛ばし、よろけた修治の足が、岱胡のつま先を踏んだ。
「なにかって……俺だって戻ってきたばかりですよ? なんだってみんな、揃いも揃って俺にそんなことを……」
珍しく修治が動揺している。
松恵もおクマもそれを感じたのか、フッとため息をついた。
「あたしらだけじゃない、柳堀のほとんどのやつらが同じなんだよ。こんなこと、誰に聞きゃあいいんだか、あたしらもサッパリでねぇ……」
「そう言われたって、俺にだってなにがなんだかわからないんですよ! 次から次へとこんな……麻乃のことだってそうだ……」
修治は片手で額を押さえたままうつむき、うめくように言った。
「今だって、大陸がなにか仕かけてくるかもしれないから、その準備に追われてるってのに……麻乃のことも、お二人だって知ってるでしょう! これから対処について詰めなきゃならないってのに……ほかの誰も帰ってこない。上層はまるで見当違いなことばかりしやがる。これ以上、俺にどうしろっていうんです!」
振り絞るような声で叫んだ修治を、岱胡は呆然として見つめた。
おクマも松恵も、こんな姿の修治を見たのは初めてなのか黙りこくってしまい、申し訳なさそうな視線をこちらに向けている。
「悪かったよ……アタシらもほかにこんな話しのできる人間はいないんだし……アンタを責めてるワケじゃないんだヨ」
「岱胡ちゃん、今夜は高田の所へ行くんだろう?」
「あ……ええ、一応、十時にうかがうことになってます」
「だったら、アタシらもそっちへ行くことにするよ。まだ一時間以上あるけどサ、先に行って向こうで待ってるから」
なだめるように二人が言葉をかけても、修治はうなだれたままで、なにも言わなかった。
二人が出ていったあとも修治はその場を動かず、数分して大きくため息をつくと、続きをするか、と一言だけ発して印刷機のある部屋へ歩き出した。
三十分ほどしてすべての資料を整え終えると、修治は疲れ果てたように椅子に腰をおろし、机に両肘を着いて頭を抱えた。
「さっきは取り乱してすまなかったな。俺もさすがに……少しばかり疲れているのかもしれない……」
「いや、なんてことないッスよ、誰だってこんなこと……それに正直、修治さんでも取り乱すことがあるのかと思ったら、ホッとしました」
資料を各詰所ごとに束ねてまとめると、それぞれを箱に詰め込んでから、修治の向かい側に腰をおろした。
「なんつーか……完璧過ぎるのも堅過ぎるのも、あんまり……そんなことがあったほうが、人間味があるっていうか……まぁ……鴇汰さんみたいにいつも取り乱してるのもどうかと思いますけどね~」
「馬鹿か、あいつと俺を一緒にするな」
そう言うと、いつもの調子でフッと鼻で笑った。
それを見てホッとしている自分がいることに気づく。
庸儀の船が戻るのは、最長で早ければ明日、遅くてもあさってだ。
今日のことを考えると、どうしても嫌な予感が拭い切れない。
また、空の船が戻ってくるような気がしてしょうがない。
最悪のときには、この国を守るために進んで動かなければならないのは、修治と岱胡自身だ。
そんな状態で修治が沈んだままになってしまったら、一人ではなにもできないだろう。
蓮華として部隊を持って三年……。
それなりに経験も積んだのに、情けない話し、誰かが上にいてくれないと不安でたまらなかった。
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