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待ち受けるもの
第87話 流動 ~レイファー 7~
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そうだ――。
組んでいたもう一人もロマジェリカに加担したのか、それとも紅い髪の女が一人、離反してロマジェリカについたのか。
後者だとすると、女の片割れが無事でいるとも思えない。
泉翔の中で、レイファーが確実にわかる戦士は紅い髪の女を除いて五人。
誰がその、もう一人だったのか。
「……詳細がほしいな。情報がなさ過ぎる」
「詳細と言えるほどではありませんが、ロマジェリカは二週間のうちに準備が整い次第、泉翔へ侵攻をするようです。今日の事もあって、もう少し早まる可能性が高そうですよ」
「そんな話しをどこから持ってきた?」
「内通者からの情報ですから、まず間違いはないでしょう」
驚いてサムの顔を見た。
相変わらず不敵な表情を浮かべている。
それを見てハッと気づいた。
「今日、あの場へ行ったのは……」
「ええ、少しばかり深入りしてしまったので、今のうちに引きあげさせたのです」
「どうして、ここへ連れてこなかったんだ? もっと詳細を聞けたかもしれないだろう!」
つい、言葉が荒くなる。
「当然、そのつもりでいましたよ。ですが、あんな状態でしたから逃げるのがやっとですよ。仕方なしにほかの兵たちと地下へ潜ませました」
泉翔のことも紅い髪の女のことも聞けただろうが、広い地下に潜ってしまった今、探して呼び戻すには時間を食うと言う。
本当に二週間のうちに三国が兵を連れ出すとなると、こちらも急ぎ準備の必要があるだろう。
ただ、泉翔が加担しているのか否か、はっきりわからない。
三国の兵と入れ替わりに、泉翔の部隊が大陸へ渡ってくる可能性も考えられる。
そうなったら、迂闊に動くことは無駄に兵を犠牲にするだけかもしれない。
相手が泉翔では、今ある情報をさらうことはできても、新たに収集している時間はない。
一体、なにからどう考えるべきなのか、そんなことにさえ迷いを感じた。
「……埒が明かないな。どんなに考えてみたところで、いい案が浮かぶとも限らない。悪戯に時間を費やすだけなら、直接、聞きに行くのが得策だろう」
ピーターとケインが驚いてレイファーに向けた目を、しっかりと見返した。
「おまえたちは戻り次第、ブライアンとジャックを呼び戻してくれ。それから城に待機している全兵を、いつでも出られるよう準備させておくように」
「それは構いませんが、一体、どうなさるおつもりですか?」
「小振りの船も用意してくれ。あさっての夜に発つ。行き先は泉翔。きさまはどうする? 一緒に来るか?」
不安気に問いかけてきたピーターに答え、レイファーはサムを振り返った。
「ですが……あの国は難しい。入り込むことができたとしても、あちらは出てこないでしょう」
「これまで自信ありそうな態度だったのが、ここへきて臆したか? 出てこないと言うなら引き摺り出せばいい。それだけの材料を持っているじゃあないか」
フン、と鼻を鳴らして椅子の背にもたれ、顎を撫でながら挑発的に言った。
それが効いたのか、サムはムッとした表情を見せた。
「いいでしょう。ですが無駄足を踏まされるのだけは勘弁していただきたいですね。ただでさえ時間がないのですから」
「当てはある。ピーターは一緒に来い。ケインは戻ったブライアンとジャックとともに兵の準備を進めておいてくれ。事が起こった際には、城へは一人の兵も残さないように配備するんだ」
「わかりました」
「兄上たちに見咎められたら、近くロマジェリカが進軍してくると情報が入ったから、国境沿いを固めると言ってごまかせ。兵を残さないことは決して悟られるな」
二人がうなずいたのを見てから、立ちあがり、窓の外を見た。
風に揺さぶられて木々がきしむ音が、雨音とともに響いてくる。
「もう兄上たちも寝所へ入っただろう、急ぎ戻るぞ、詳細は全員が揃ってからだ」
小屋のドアを開けると、冷たい風が強く吹き込んできた。
組んでいたもう一人もロマジェリカに加担したのか、それとも紅い髪の女が一人、離反してロマジェリカについたのか。
後者だとすると、女の片割れが無事でいるとも思えない。
泉翔の中で、レイファーが確実にわかる戦士は紅い髪の女を除いて五人。
誰がその、もう一人だったのか。
「……詳細がほしいな。情報がなさ過ぎる」
「詳細と言えるほどではありませんが、ロマジェリカは二週間のうちに準備が整い次第、泉翔へ侵攻をするようです。今日の事もあって、もう少し早まる可能性が高そうですよ」
「そんな話しをどこから持ってきた?」
「内通者からの情報ですから、まず間違いはないでしょう」
驚いてサムの顔を見た。
相変わらず不敵な表情を浮かべている。
それを見てハッと気づいた。
「今日、あの場へ行ったのは……」
「ええ、少しばかり深入りしてしまったので、今のうちに引きあげさせたのです」
「どうして、ここへ連れてこなかったんだ? もっと詳細を聞けたかもしれないだろう!」
つい、言葉が荒くなる。
「当然、そのつもりでいましたよ。ですが、あんな状態でしたから逃げるのがやっとですよ。仕方なしにほかの兵たちと地下へ潜ませました」
泉翔のことも紅い髪の女のことも聞けただろうが、広い地下に潜ってしまった今、探して呼び戻すには時間を食うと言う。
本当に二週間のうちに三国が兵を連れ出すとなると、こちらも急ぎ準備の必要があるだろう。
ただ、泉翔が加担しているのか否か、はっきりわからない。
三国の兵と入れ替わりに、泉翔の部隊が大陸へ渡ってくる可能性も考えられる。
そうなったら、迂闊に動くことは無駄に兵を犠牲にするだけかもしれない。
相手が泉翔では、今ある情報をさらうことはできても、新たに収集している時間はない。
一体、なにからどう考えるべきなのか、そんなことにさえ迷いを感じた。
「……埒が明かないな。どんなに考えてみたところで、いい案が浮かぶとも限らない。悪戯に時間を費やすだけなら、直接、聞きに行くのが得策だろう」
ピーターとケインが驚いてレイファーに向けた目を、しっかりと見返した。
「おまえたちは戻り次第、ブライアンとジャックを呼び戻してくれ。それから城に待機している全兵を、いつでも出られるよう準備させておくように」
「それは構いませんが、一体、どうなさるおつもりですか?」
「小振りの船も用意してくれ。あさっての夜に発つ。行き先は泉翔。きさまはどうする? 一緒に来るか?」
不安気に問いかけてきたピーターに答え、レイファーはサムを振り返った。
「ですが……あの国は難しい。入り込むことができたとしても、あちらは出てこないでしょう」
「これまで自信ありそうな態度だったのが、ここへきて臆したか? 出てこないと言うなら引き摺り出せばいい。それだけの材料を持っているじゃあないか」
フン、と鼻を鳴らして椅子の背にもたれ、顎を撫でながら挑発的に言った。
それが効いたのか、サムはムッとした表情を見せた。
「いいでしょう。ですが無駄足を踏まされるのだけは勘弁していただきたいですね。ただでさえ時間がないのですから」
「当てはある。ピーターは一緒に来い。ケインは戻ったブライアンとジャックとともに兵の準備を進めておいてくれ。事が起こった際には、城へは一人の兵も残さないように配備するんだ」
「わかりました」
「兄上たちに見咎められたら、近くロマジェリカが進軍してくると情報が入ったから、国境沿いを固めると言ってごまかせ。兵を残さないことは決して悟られるな」
二人がうなずいたのを見てから、立ちあがり、窓の外を見た。
風に揺さぶられて木々がきしむ音が、雨音とともに響いてくる。
「もう兄上たちも寝所へ入っただろう、急ぎ戻るぞ、詳細は全員が揃ってからだ」
小屋のドアを開けると、冷たい風が強く吹き込んできた。
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