294 / 780
待ち受けるもの
第72話 大国の武将 ~サム 3~
しおりを挟む
「そのロマジェリカの軍師は、やけに泉翔に執着していましてね……そうそう。先日、泉翔の主だった戦士が各国に渡ってきていたのをご存じで?」
「泉翔の戦士が大陸に? おまえたち、なにか聞いているか?」
肘かけにもたれ、顎の辺りに触れながら、レイファーは三人に問いかけた。
「いえ、私たちはなにも……」
「……だそうだ。俺もその話しは初耳だ」
顔色一つ変えないレイファーを見て、サムは逆になにか知っていると悟った。
こちらが軍属でないとはいえ、警戒して迂闊なことは口には出さないだろう。
ならば待つだけ無駄というもの、先を続けることにした。
なぜか泉翔の戦士は呼び石を持っていたこと、それを頼りに彼らを追っていたのがジェの率いる庸儀の兵であったこと、どうやら泉翔の戦士の何人かは命を落としたらしいこと、こちらの押さえた情報を、なるべく流れに沿って理解しやすいように話した。
黙ったままで聞いていた四人は、難しい顔をみせている。
「この国へも泉翔の戦士が二人、渡ってきていました。この近くで庸儀の兵に襲撃されましてね、少々、分が悪そうだったことと、ジェの顔が見えたものですから、泉翔の戦士に手を貸してやりました」
あのときのことを思い出すと、今でもおかしい。
ジェの思惑を簡単にはね退けた男の態度に憤った姿も、炎にあわてふためくざまも、実に滑稽だった。
「レイファーさま、さっきのあれは、もしやそのときのものでは?」
ジャックが声を潜めて言ったのが聞こえ、レイファーのほうを見た。
「あれを見たんですか?」
「あぁ、黒焦げの遺体をな。あれは……」
「すべて庸儀の兵ですよ。泉翔の方々は、うまく逃がしました」
レイファーは相変わらず表情を変えない。
けれど呼吸の調子が変わった。恐らくホッとしているのだろう。
「実はロマジェリカの中にも私たちと通じているものがいるのですが、そのものの話しでは、ロマジェリカの軍師は近く泉翔への侵攻を計画しているようです。しかも三国からほとんどの兵を引き連れていくらしい」
「ほとんどを……? そのあいだ、三国ともに兵力が相当、落ちるということか……」
「しかしそうは言っても、うちの存在を忘れているわけではあるまい?」
「同盟を結んだならともかく、それを突っぱねたんだ。簡単に国を空けることはしないだろう?」
「多少は残していくでしょう。あるいはなんらかの手段で攻め込まれにくいようにしているかと」
「当たり前だ! 今の状況でさえ、わが国は三国を相手にしても余る兵力を持っているんだからな」
ケインとジャックは馬鹿にされたと感じたのか、苛立った様子を見せた。
変に興奮されて矛先を向けられても困ると、サムは机から体を遠ざけ、距離を取る。
「なんにしても、ロマジェリカはここで泉翔の主立った戦士たちを手にかけた。いかに防衛力が高いとはいえ、今の泉翔は戦力が弱まっていることは確かです」
「それで? きさまはそこまで情報を集めて俺たちに流し、どうしようというんだ? 俺たちをけしかけて、自分は高みの見物でもするつもりか?」
レイファーは深く椅子に腰をかけ、肘かけで頬づえをついたまま余裕を見せながらも、言葉には嫌味がこもっている。
「まさか……私たちは二日後、ロマジェリカに仕かけます」
「馬鹿な! 出奔した兵に脱走兵が寄り集まったところで、兵力も武器も、一国に攻め入るには事足りないだろう?」
「攻め入るのではありませんよ、あくまで仕かけるだけです。泉翔侵攻の計画前に、どれほどの兵を割いてくるか……それと、この混乱に乗じて、侵攻の時期、物資や兵数の情報を手に入れるつもりです」
ブライアンがレイファーに耳打ちをしている。
こちらの真意を謀りかねているのだろう。
ジッとサムを見つめ、静かに問いかけてきた。
「それを知ってどうする?」
「もちろん、手薄になる時期を狙います……と言いたいところですが、先ほど仰られたとおり私たちの力は微力です。そこで是非ともあなた様の手をお借りしたい」
なにかを言いかけ、立ち上がろうとした三人を制すと、レイファーは腰をかけたまま、足を組み換えてため息をついた。
「そう言い出すだろうとは思ったよ。昨日、きさまは王の言葉を聞いていたようだからな。今の話しが本当なら、近く大陸統一も可能となるだろう。だが、それを俺たちに任せて、きさまはどうするつもりだ? 一体、なにを企んでいる?」
「企むとは心外ですね。ただ、一つだけ頼みたいことはありますが」
「……なにが望みだ?」
「泉翔の戦士が大陸に? おまえたち、なにか聞いているか?」
肘かけにもたれ、顎の辺りに触れながら、レイファーは三人に問いかけた。
「いえ、私たちはなにも……」
「……だそうだ。俺もその話しは初耳だ」
顔色一つ変えないレイファーを見て、サムは逆になにか知っていると悟った。
こちらが軍属でないとはいえ、警戒して迂闊なことは口には出さないだろう。
ならば待つだけ無駄というもの、先を続けることにした。
なぜか泉翔の戦士は呼び石を持っていたこと、それを頼りに彼らを追っていたのがジェの率いる庸儀の兵であったこと、どうやら泉翔の戦士の何人かは命を落としたらしいこと、こちらの押さえた情報を、なるべく流れに沿って理解しやすいように話した。
黙ったままで聞いていた四人は、難しい顔をみせている。
「この国へも泉翔の戦士が二人、渡ってきていました。この近くで庸儀の兵に襲撃されましてね、少々、分が悪そうだったことと、ジェの顔が見えたものですから、泉翔の戦士に手を貸してやりました」
あのときのことを思い出すと、今でもおかしい。
ジェの思惑を簡単にはね退けた男の態度に憤った姿も、炎にあわてふためくざまも、実に滑稽だった。
「レイファーさま、さっきのあれは、もしやそのときのものでは?」
ジャックが声を潜めて言ったのが聞こえ、レイファーのほうを見た。
「あれを見たんですか?」
「あぁ、黒焦げの遺体をな。あれは……」
「すべて庸儀の兵ですよ。泉翔の方々は、うまく逃がしました」
レイファーは相変わらず表情を変えない。
けれど呼吸の調子が変わった。恐らくホッとしているのだろう。
「実はロマジェリカの中にも私たちと通じているものがいるのですが、そのものの話しでは、ロマジェリカの軍師は近く泉翔への侵攻を計画しているようです。しかも三国からほとんどの兵を引き連れていくらしい」
「ほとんどを……? そのあいだ、三国ともに兵力が相当、落ちるということか……」
「しかしそうは言っても、うちの存在を忘れているわけではあるまい?」
「同盟を結んだならともかく、それを突っぱねたんだ。簡単に国を空けることはしないだろう?」
「多少は残していくでしょう。あるいはなんらかの手段で攻め込まれにくいようにしているかと」
「当たり前だ! 今の状況でさえ、わが国は三国を相手にしても余る兵力を持っているんだからな」
ケインとジャックは馬鹿にされたと感じたのか、苛立った様子を見せた。
変に興奮されて矛先を向けられても困ると、サムは机から体を遠ざけ、距離を取る。
「なんにしても、ロマジェリカはここで泉翔の主立った戦士たちを手にかけた。いかに防衛力が高いとはいえ、今の泉翔は戦力が弱まっていることは確かです」
「それで? きさまはそこまで情報を集めて俺たちに流し、どうしようというんだ? 俺たちをけしかけて、自分は高みの見物でもするつもりか?」
レイファーは深く椅子に腰をかけ、肘かけで頬づえをついたまま余裕を見せながらも、言葉には嫌味がこもっている。
「まさか……私たちは二日後、ロマジェリカに仕かけます」
「馬鹿な! 出奔した兵に脱走兵が寄り集まったところで、兵力も武器も、一国に攻め入るには事足りないだろう?」
「攻め入るのではありませんよ、あくまで仕かけるだけです。泉翔侵攻の計画前に、どれほどの兵を割いてくるか……それと、この混乱に乗じて、侵攻の時期、物資や兵数の情報を手に入れるつもりです」
ブライアンがレイファーに耳打ちをしている。
こちらの真意を謀りかねているのだろう。
ジッとサムを見つめ、静かに問いかけてきた。
「それを知ってどうする?」
「もちろん、手薄になる時期を狙います……と言いたいところですが、先ほど仰られたとおり私たちの力は微力です。そこで是非ともあなた様の手をお借りしたい」
なにかを言いかけ、立ち上がろうとした三人を制すと、レイファーは腰をかけたまま、足を組み換えてため息をついた。
「そう言い出すだろうとは思ったよ。昨日、きさまは王の言葉を聞いていたようだからな。今の話しが本当なら、近く大陸統一も可能となるだろう。だが、それを俺たちに任せて、きさまはどうするつもりだ? 一体、なにを企んでいる?」
「企むとは心外ですね。ただ、一つだけ頼みたいことはありますが」
「……なにが望みだ?」
0
お気に入りに追加
10
あなたにおすすめの小説
どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします
文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。
夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。
エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。
「ゲルハルトさま、愛しています」
ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。
「エレーヌ、俺はあなたが憎い」
エレーヌは凍り付いた。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
【完結】仰る通り、貴方の子ではありません
ユユ
恋愛
辛い悪阻と難産を経て産まれたのは
私に似た待望の男児だった。
なのに認められず、
不貞の濡れ衣を着せられ、
追い出されてしまった。
実家からも勘当され
息子と2人で生きていくことにした。
* 作り話です
* 暇つぶしにどうぞ
* 4万文字未満
* 完結保証付き
* 少し大人表現あり
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
断る――――前にもそう言ったはずだ
鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」
結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。
周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。
けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。
他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。
(わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)
そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。
ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。
そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
夫達の裏切りに復讐心で一杯だった私は、死の間際に本当の願いを見つけ幸せになれました。
Nao*
恋愛
家庭を顧みず、外泊も増えた夫ダリス。
それを寂しく思う私だったが、庭師のサムとその息子のシャルに癒される日々を送って居た。
そして私達は、三人であるバラの苗を庭に植える。
しかしその後…夫と親友のエリザによって、私は酷い裏切りを受ける事に─。
命の危機が迫る中、私の心は二人への復讐心で一杯になるが…駆けつけたシャルとサムを前に、本当の願いを見つけて─?
(1万字以上と少し長いので、短編集とは別にしてあります)
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
(完)聖女様は頑張らない
青空一夏
ファンタジー
私は大聖女様だった。歴史上最強の聖女だった私はそのあまりに強すぎる力から、悪魔? 魔女?と疑われ追放された。
それも命を救ってやったカール王太子の命令により追放されたのだ。あの恩知らずめ! 侯爵令嬢の色香に負けやがって。本物の聖女より偽物美女の侯爵令嬢を選びやがった。
私は逃亡中に足をすべらせ死んだ? と思ったら聖女認定の最初の日に巻き戻っていた!!
もう全力でこの国の為になんか働くもんか!
異世界ゆるふわ設定ご都合主義ファンタジー。よくあるパターンの聖女もの。ラブコメ要素ありです。楽しく笑えるお話です。(多分😅)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる