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待ち受けるもの
第71話 大国の武将 ~サム 2~
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レイファーの目は単なる興味や好奇心ではなく、純粋に疑問に思って答えをほしがっているようにみえた。
適当なことを言って濁すのは可能だ。
けれどサムは、すべての事情をこの男になら知られてもいいと思った。
「そう……ですね、私も最初はそのつもりだったんですけどねぇ」
あの日のことは、今でも後悔している。
だからこそ、こうして動いているのだから。
「散々、やりたい放題をしてくれましたからね、私もなにか反撃ができないかと、それなりに情報を収集しましたよ。会談前には、明らかに有効に使える情報を手にしましたしね」
「それなり、とやらで有効な情報を手にできたというのか?」
「庸儀はともかく、ロマジェリカは収集が難しいと聞いているぞ?」
「まぁ、それなりといっても、私なりのやりかたですから。その辺の諜報のものと一緒と思わないでください」
ニヤリと笑ってみせると、幹部たちは驚いた顔をみせたが、レイファーは驚いた素振りもみせない。
昨日、式神を使ってあっさりと城へ侵入してみせたのだから、当然の反応だろう。
「ただ……その使い方を誤ってしまいましてね、追い出すつもりが、逆にこちらが追い出される羽目になってしまった」
「それで調印が成されたわけか」
「そのあとはこのとおり、同盟に反対していたがために追われる身となってしまったのですが、こうなったことでこちらの握った情報が、想像以上に重要だとわかりました」
レイファーはここまで聞いても、サムがつかんでいる情報がなんなのかを知ろうとする様子をみせない。
それぞれがなにかを考えているようでありながらも、大国故の自信がそうさせるのか、ガツガツとすべてをつかみ取ろうとはしてこなかった。
「それにしても……反同盟派と言うくらいなんだから、それなりに大所帯なんだろう? きさま一人が身を隠すだけじゃなく人数がいて今なお見つからないでいられるのはどうしてなんだ?」
「それは……なにも全員で一緒に行動しているわけではありませんからね。どこかに匿ってもらうにしても見つかれば相手にも危険が迫ることになる」
「それじゃあ……」
「まぁ、それはいろいろと……いつでも動けるような場所に、それぞれが、ということで……ところで、そろそろ本題に入りたいんですがね」
まだなにか聞きたそうにしているのをさえぎり、フッと一呼吸置いてから、あらためて姿勢を正し、レイファーに向かった。
「これまでの話しで、こちらの置かれている状況はわかっていただけたかと」
「あぁ、どうやらこっちも、面倒に巻き込まれそうだということもな」
サムの問いにそう答えながらも、興味を持ってくれているようで安心した。
「私たちはこれまで、ただ潜っていたのではなく、各国から不平や不満を持っているものたちに働きかけをしていました」
あっ! とブライアンが声をあげた。
「つい最近、庸儀の軍から、兵が半数以上逃亡を計ったと聞いている! まさか……」
「ええ、私たちと合流しましたよ」
「馬鹿な……所帯を増やすということは、中にスパイが混じっていてもおかしくない……芋蔓式に引っ張り出されるのがオチだろう?」
「ご心配には及びません、何しろあの国は上の評価がすこぶる悪い。ご存じありませんか? 赤髪の、ジェという女のことを」
「赤髪?」
レイファーの眉がピクリと動いた。
どうやらその話しについては、なにも知らないようだ。
ブライアンが小声でジェについての情報を聞かせている。
それを横目で見ながら、サムは話しを続けた。
「その女は王を手玉に取って好き放題をしているようでしてね、下のものたちは抑圧されて爆発寸前でした。今回、逃げ出したのは、私たちと同じ意思を持って、行動を起こそうと……あの女に一泡吹かせてやりたいと考えているものばかりです」
「なぜ、そんなことがわかる?」
「それは、それなりのノウハウがあるんですよ」
ブライアンの話しを聞き終わったレイファーは、サムの言葉を聞いて苦笑した。
「また、それなり、か? 術師が手のうちを明かすわけにはいかないんだろうがな。うまい逃げ口上だ」
「そう思っていただいて結構です。ジェのほうは、ロマジェリカの軍師にご執心の様子で、ここしばらくは国を空けることが多かった。それゆえに、こちらも行動が起こしやすかったのですよ。それともう一つ」
サムは机に身を乗り出してレイファーに近づいた。
その表情の変化を取りこぼさないよう、見たかったからだ。
そのうえで問いかけた。
適当なことを言って濁すのは可能だ。
けれどサムは、すべての事情をこの男になら知られてもいいと思った。
「そう……ですね、私も最初はそのつもりだったんですけどねぇ」
あの日のことは、今でも後悔している。
だからこそ、こうして動いているのだから。
「散々、やりたい放題をしてくれましたからね、私もなにか反撃ができないかと、それなりに情報を収集しましたよ。会談前には、明らかに有効に使える情報を手にしましたしね」
「それなり、とやらで有効な情報を手にできたというのか?」
「庸儀はともかく、ロマジェリカは収集が難しいと聞いているぞ?」
「まぁ、それなりといっても、私なりのやりかたですから。その辺の諜報のものと一緒と思わないでください」
ニヤリと笑ってみせると、幹部たちは驚いた顔をみせたが、レイファーは驚いた素振りもみせない。
昨日、式神を使ってあっさりと城へ侵入してみせたのだから、当然の反応だろう。
「ただ……その使い方を誤ってしまいましてね、追い出すつもりが、逆にこちらが追い出される羽目になってしまった」
「それで調印が成されたわけか」
「そのあとはこのとおり、同盟に反対していたがために追われる身となってしまったのですが、こうなったことでこちらの握った情報が、想像以上に重要だとわかりました」
レイファーはここまで聞いても、サムがつかんでいる情報がなんなのかを知ろうとする様子をみせない。
それぞれがなにかを考えているようでありながらも、大国故の自信がそうさせるのか、ガツガツとすべてをつかみ取ろうとはしてこなかった。
「それにしても……反同盟派と言うくらいなんだから、それなりに大所帯なんだろう? きさま一人が身を隠すだけじゃなく人数がいて今なお見つからないでいられるのはどうしてなんだ?」
「それは……なにも全員で一緒に行動しているわけではありませんからね。どこかに匿ってもらうにしても見つかれば相手にも危険が迫ることになる」
「それじゃあ……」
「まぁ、それはいろいろと……いつでも動けるような場所に、それぞれが、ということで……ところで、そろそろ本題に入りたいんですがね」
まだなにか聞きたそうにしているのをさえぎり、フッと一呼吸置いてから、あらためて姿勢を正し、レイファーに向かった。
「これまでの話しで、こちらの置かれている状況はわかっていただけたかと」
「あぁ、どうやらこっちも、面倒に巻き込まれそうだということもな」
サムの問いにそう答えながらも、興味を持ってくれているようで安心した。
「私たちはこれまで、ただ潜っていたのではなく、各国から不平や不満を持っているものたちに働きかけをしていました」
あっ! とブライアンが声をあげた。
「つい最近、庸儀の軍から、兵が半数以上逃亡を計ったと聞いている! まさか……」
「ええ、私たちと合流しましたよ」
「馬鹿な……所帯を増やすということは、中にスパイが混じっていてもおかしくない……芋蔓式に引っ張り出されるのがオチだろう?」
「ご心配には及びません、何しろあの国は上の評価がすこぶる悪い。ご存じありませんか? 赤髪の、ジェという女のことを」
「赤髪?」
レイファーの眉がピクリと動いた。
どうやらその話しについては、なにも知らないようだ。
ブライアンが小声でジェについての情報を聞かせている。
それを横目で見ながら、サムは話しを続けた。
「その女は王を手玉に取って好き放題をしているようでしてね、下のものたちは抑圧されて爆発寸前でした。今回、逃げ出したのは、私たちと同じ意思を持って、行動を起こそうと……あの女に一泡吹かせてやりたいと考えているものばかりです」
「なぜ、そんなことがわかる?」
「それは、それなりのノウハウがあるんですよ」
ブライアンの話しを聞き終わったレイファーは、サムの言葉を聞いて苦笑した。
「また、それなり、か? 術師が手のうちを明かすわけにはいかないんだろうがな。うまい逃げ口上だ」
「そう思っていただいて結構です。ジェのほうは、ロマジェリカの軍師にご執心の様子で、ここしばらくは国を空けることが多かった。それゆえに、こちらも行動が起こしやすかったのですよ。それともう一つ」
サムは机に身を乗り出してレイファーに近づいた。
その表情の変化を取りこぼさないよう、見たかったからだ。
そのうえで問いかけた。
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