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待ち受けるもの
第67話 大国の武将 ~レイファー 4~
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指定の時間よりも早く着いた。
周辺には村もなく、明かりは乏しいけれど、今夜は月が出ているおかげでそれなりに明るい。
「レイファーさま、ここは一体どこなんですか?」
「ヘイトとの国境に近いですよね? こんな場所があったなんて知りませんでした」
ブライアンとケインはそう言って森を眺めた。
ジャックのほうは、そばを流れる小川をのぞき込んでいる。
ケインがランプを灯したのを制した。
「人の気配は感じないが、誰が潜んでいるとも限らない。不自由だろうが、しばらく明かりは灯さないように。二手にわかれ、周辺を探る」
三人がうなずく。
「この森の奥に小屋が建っているんだが、三十分後にその前へ着いているようにしてくれ」
「わかりました」
ブライアンとケインを組ませて右側を、レイファーはジャックを連れて左側を探った。
木立の中にわずかに漏れる月明かりで影が濃く揺れているせいもあり、何度か人影と見間違えてしまう。
「少し風が出てきたな……」
「レイファーさま、さっきからキナ臭いというか、なにか嫌な臭いがしませんか?」
背後でそう言われて振り返ると、ジャックが立ち止まって森の外を見つめている。
「そうか? 俺にはわからないが……」
「風向きのせいもあるかもしれませんが、焼けたような焦げたような、とにかく変な臭いが……」
「なにか燃えてるとしたらまずいぞ!」
火種になるようなものはここにはない。
とはいえ、火が出るようなことがあったら、そう思うとレイファーは焦りを感じる。
「いえ、今、なにかが燃えている臭いとは違いますね。恐らく、向こうのほうです」
歩き出したジャックのあとを追っていくと、森の外へ出た。
暗くてはっきりとはわからないけれど、二、三日の間になにかがあっただろう跡が見て取れる。
「ひどい臭いだ……それにしても、こんな場所でなにがあったんでしょう? この辺りが国境に近いとはいえ、戦場からは離れているのに」
点々と転がっている黒い塊の一つに近づく。
「……人、だな」
燃え尽きて炭化しているけれど、紛れもなく人間だ。
「もう乾いてしまっていますが、こっちは血の跡もありますね。それに、そっちの岩場に薬莢が落ちていました」
ジャックがすばやく周辺を探り、そう言った。
「薬莢か……この辺りまでどこかの部隊が出ていたという話しはなかったか?」
「私はなにも聞いていませんが、ほかの二人がなにか聞いているかもしれません」
嫌な予感がする。転がっている死体は、一体、どこのものだろうか。
ただ、どうやら木々にはなんの被害もないことが、気持を和らげてくれた。
「この辺りも今はなんの気配もないようですが、どうしますか?」
「そうだな、辺りを調べるにしても、こう暗いとなにもできないか……ここのことはあとでいい、先へ進もう」
ジャックをうながして森の中へ戻った。
静まり返った暗闇の中で、慎重に辺りを確認しながら小屋の前までたどり着いた。
ブライアンもケインも、とうに着いていて、不安げな面持ちでウロウロとしている。
腕時計を見ると、十分以上も遅れていた。
無事な姿が見えたからか、互いに安堵の表情を浮かべた。
「すまない。少しばかり遅くなったな」
「私たちには馴染みのない場所なので、動くに動けず、いささか心配になりました」
「ここへ来る途中に争った跡を見つけたんだが、おまえたち、この辺りにまで兵が出ているという話しは聞いていないか?」
「いえ……戦場はもっとヘイト寄りですから、ここまで足を延ばすことは考えられません」
「そうか……」
考え込みながら、小屋の扉を開けて中へ入り、ランプを灯した。
中は使われた形跡はないけれど、何者かが侵入した足跡があった。
書棚も植物の苗も、なにも変わりはない。
「この辺りは昔はヘイトとの国境だった。ここは俺が幼いころに住んでいた場所だ」
窓の鍵がかかっていることを確認し、外の様子を眺める。
ここにいる三人はレイファーの事情をすべて知っている。
それでも、これまでは、この場所のことだけは黙っていた。
「最も、この小屋はそのころからたいぶ経ってから建てられたものだがな」
「この裏手を少し行ったところに、小さな墓石がありましたが、それは……」
「あれは母の姉……伯母のものだ」
問いかけたことを後悔したようなケインの表情に、わずかに笑ってみせた。
周辺には村もなく、明かりは乏しいけれど、今夜は月が出ているおかげでそれなりに明るい。
「レイファーさま、ここは一体どこなんですか?」
「ヘイトとの国境に近いですよね? こんな場所があったなんて知りませんでした」
ブライアンとケインはそう言って森を眺めた。
ジャックのほうは、そばを流れる小川をのぞき込んでいる。
ケインがランプを灯したのを制した。
「人の気配は感じないが、誰が潜んでいるとも限らない。不自由だろうが、しばらく明かりは灯さないように。二手にわかれ、周辺を探る」
三人がうなずく。
「この森の奥に小屋が建っているんだが、三十分後にその前へ着いているようにしてくれ」
「わかりました」
ブライアンとケインを組ませて右側を、レイファーはジャックを連れて左側を探った。
木立の中にわずかに漏れる月明かりで影が濃く揺れているせいもあり、何度か人影と見間違えてしまう。
「少し風が出てきたな……」
「レイファーさま、さっきからキナ臭いというか、なにか嫌な臭いがしませんか?」
背後でそう言われて振り返ると、ジャックが立ち止まって森の外を見つめている。
「そうか? 俺にはわからないが……」
「風向きのせいもあるかもしれませんが、焼けたような焦げたような、とにかく変な臭いが……」
「なにか燃えてるとしたらまずいぞ!」
火種になるようなものはここにはない。
とはいえ、火が出るようなことがあったら、そう思うとレイファーは焦りを感じる。
「いえ、今、なにかが燃えている臭いとは違いますね。恐らく、向こうのほうです」
歩き出したジャックのあとを追っていくと、森の外へ出た。
暗くてはっきりとはわからないけれど、二、三日の間になにかがあっただろう跡が見て取れる。
「ひどい臭いだ……それにしても、こんな場所でなにがあったんでしょう? この辺りが国境に近いとはいえ、戦場からは離れているのに」
点々と転がっている黒い塊の一つに近づく。
「……人、だな」
燃え尽きて炭化しているけれど、紛れもなく人間だ。
「もう乾いてしまっていますが、こっちは血の跡もありますね。それに、そっちの岩場に薬莢が落ちていました」
ジャックがすばやく周辺を探り、そう言った。
「薬莢か……この辺りまでどこかの部隊が出ていたという話しはなかったか?」
「私はなにも聞いていませんが、ほかの二人がなにか聞いているかもしれません」
嫌な予感がする。転がっている死体は、一体、どこのものだろうか。
ただ、どうやら木々にはなんの被害もないことが、気持を和らげてくれた。
「この辺りも今はなんの気配もないようですが、どうしますか?」
「そうだな、辺りを調べるにしても、こう暗いとなにもできないか……ここのことはあとでいい、先へ進もう」
ジャックをうながして森の中へ戻った。
静まり返った暗闇の中で、慎重に辺りを確認しながら小屋の前までたどり着いた。
ブライアンもケインも、とうに着いていて、不安げな面持ちでウロウロとしている。
腕時計を見ると、十分以上も遅れていた。
無事な姿が見えたからか、互いに安堵の表情を浮かべた。
「すまない。少しばかり遅くなったな」
「私たちには馴染みのない場所なので、動くに動けず、いささか心配になりました」
「ここへ来る途中に争った跡を見つけたんだが、おまえたち、この辺りにまで兵が出ているという話しは聞いていないか?」
「いえ……戦場はもっとヘイト寄りですから、ここまで足を延ばすことは考えられません」
「そうか……」
考え込みながら、小屋の扉を開けて中へ入り、ランプを灯した。
中は使われた形跡はないけれど、何者かが侵入した足跡があった。
書棚も植物の苗も、なにも変わりはない。
「この辺りは昔はヘイトとの国境だった。ここは俺が幼いころに住んでいた場所だ」
窓の鍵がかかっていることを確認し、外の様子を眺める。
ここにいる三人はレイファーの事情をすべて知っている。
それでも、これまでは、この場所のことだけは黙っていた。
「最も、この小屋はそのころからたいぶ経ってから建てられたものだがな」
「この裏手を少し行ったところに、小さな墓石がありましたが、それは……」
「あれは母の姉……伯母のものだ」
問いかけたことを後悔したようなケインの表情に、わずかに笑ってみせた。
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