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待ち受けるもの
第44話 ジャセンベル ~岱胡 2~
しおりを挟む「中に一人、いきり立ってるやつがいたからな。気配ですぐにわかったよ」
「だからって……巧さんが、あのルートはジャセンベルの兵が行き来するから、ヤバイって言ってたじゃないッスか」
「だからだよ。ジャセンベルの兵が通る可能性のあるルートなら、やつらも迂闊《うかつ》に近づいちゃ来れないだろう? 敵国に侵入してるわけだしな」
ニヤリと笑ってみせた修治に、思わず岱胡も笑いを噛み締めた。
「大胆なことを言いますね~。でも俺、そういうの嫌いじゃないッス」
「おまえならそう言うと思ったよ。それに……追われても余程接近しなけりゃあ、逃げ切れると踏んだ。万が一のときは、おまえのその腕前で必ず足止めさせてくれると期待してるしな」
「そりゃあ、たやすいことですけど、そこまで派手に行動して構わないんスかね?」
「あくまで万が一のときは、だよ。うまくいけばジャセンベル兵が、俺たちを追ってくる庸儀のやつらを見つけて、そっちへ向かってくれるかもしれないだろう?」
岱胡の行動に呆れた顔を見せていたけれど、修治のしようとしてることのほうがよっぽど呆れた行動だ。
持ち回りでもほとんど一緒になったことがないぶん、修治のことはそんなに良くわかっていなかった。
こんな驚くようなことを、平然と言ってのける人だとは思いもしなかったし、どちらかというと、徳丸のように頭の固そうなタイプだと思っていたのに。
「俺たちが手を出さなくても、あちらさんが勝手に潰し合ってくれれば、安心してすんなり奉納が済ませられるってもんだ。まぁ、それもこれから少し、城付近の様子をうかがってみてからのことだけどな」
「なんでです?」
「ジャセンベルの兵が盛んに行き来してるようだと、さすがにまずいだろう?」
「そっか……それもそうッスね」
鴇汰や穂高のように、無駄なことを話すイメージがあまりないぶん、少しだけ近寄りがたい雰囲気を感じていたけれど、案外そうでもないのかもしれない。
といって、二人のようなノリとは全然違うけれど。
考えてみると麻乃や梁瀬、巧と話しているときは、修治も良く笑っていた。
そう思うと急に近づいた気がして、岱胡の中に安心感と親近感が湧いてくる。
「そんじゃあ、今夜はここでテントを張って、明日の朝は早めに出る感じですか?」
「そうだな。庸儀のやつらも引き離したし、今夜はゆっくりできるだろう。じゃあ、飯の支度でもするか」
修治が支度を始めたので手伝おうとすると、せっかくスコープがあるのなら、用意はするから周囲を見ていてくれ、と言われた。
実はそんなに料理はうまくないので、ありがたく申し出を受けることにした。
その手際の良さと作った食事の味に驚く。
さすがに鴇汰の料理には敵わないけれど、ほかの誰かが作るよりうまい。
なんでも器用な人間はいるけれど、修治はまさにそれだと思った。
「なんだ?」
あまりにもジッと見ていたからか、修治が言った。
「いや、修治さん、料理するしないはともかく、うまいもん作るな、って思って」
「ああ……麻乃のやつと長くやってれば、誰でもこうなるさ。料理だけじゃなく、な」
修治は岱胡に苦笑いをしてみせた。
「まともな食い物を口にしたかったら、自分がなんとかするしかないしな。どうせ食うならうまいもんのほうがいいと思ったら、こうなったんだよ」
「ははぁ、なるほど」
修治の答えに吹き出してしまった。
確かに麻乃と一緒では、料理も掃除も人並み以上にできるようになってもおかしくはないだろう。
雑談をかわしながら食事を済ませ、修治が片づけやテントの準備をしているあいだ、城周辺を観察し続けた。
陽が落ちて、あたりはすっかり暗くなったけれど、スコープを夜間仕様に切り替えると、なんの問題もなく周囲が見渡せる。
隊員たちと試行錯誤しながら改造しただけあって、使い勝手が思った以上にいい。
車の上から見ているかぎりでは城のほうには動きもなく、こちらに近づいてくる姿も見えない。
「岱胡、今夜はその辺にして、少しは休んでおけ。陽が昇る前には出発の準備をするぞ」
「わかりました」
テントに戻り、明日の予定を反芻してから眠りについた。
翌朝、陽が昇る前に起き出して、岱胡はもう一度、城の周辺を見回りに出た。
今度は丘をおりたり、木に登ったりして位置を変える。
空の色が変わり始めたころ、三千人はいるだろうと思えるほどの大きな部隊が、東西に一部隊ずつ出ていくのを確認した。
方角からして、ロマジェリカとヘイトだろうか。
ロマジェリカへ向かう部隊に、レイファーの姿が見えて驚いた。
あわてて木から飛びおりて、修治のもとへ駆けた。
「だからって……巧さんが、あのルートはジャセンベルの兵が行き来するから、ヤバイって言ってたじゃないッスか」
「だからだよ。ジャセンベルの兵が通る可能性のあるルートなら、やつらも迂闊《うかつ》に近づいちゃ来れないだろう? 敵国に侵入してるわけだしな」
ニヤリと笑ってみせた修治に、思わず岱胡も笑いを噛み締めた。
「大胆なことを言いますね~。でも俺、そういうの嫌いじゃないッス」
「おまえならそう言うと思ったよ。それに……追われても余程接近しなけりゃあ、逃げ切れると踏んだ。万が一のときは、おまえのその腕前で必ず足止めさせてくれると期待してるしな」
「そりゃあ、たやすいことですけど、そこまで派手に行動して構わないんスかね?」
「あくまで万が一のときは、だよ。うまくいけばジャセンベル兵が、俺たちを追ってくる庸儀のやつらを見つけて、そっちへ向かってくれるかもしれないだろう?」
岱胡の行動に呆れた顔を見せていたけれど、修治のしようとしてることのほうがよっぽど呆れた行動だ。
持ち回りでもほとんど一緒になったことがないぶん、修治のことはそんなに良くわかっていなかった。
こんな驚くようなことを、平然と言ってのける人だとは思いもしなかったし、どちらかというと、徳丸のように頭の固そうなタイプだと思っていたのに。
「俺たちが手を出さなくても、あちらさんが勝手に潰し合ってくれれば、安心してすんなり奉納が済ませられるってもんだ。まぁ、それもこれから少し、城付近の様子をうかがってみてからのことだけどな」
「なんでです?」
「ジャセンベルの兵が盛んに行き来してるようだと、さすがにまずいだろう?」
「そっか……それもそうッスね」
鴇汰や穂高のように、無駄なことを話すイメージがあまりないぶん、少しだけ近寄りがたい雰囲気を感じていたけれど、案外そうでもないのかもしれない。
といって、二人のようなノリとは全然違うけれど。
考えてみると麻乃や梁瀬、巧と話しているときは、修治も良く笑っていた。
そう思うと急に近づいた気がして、岱胡の中に安心感と親近感が湧いてくる。
「そんじゃあ、今夜はここでテントを張って、明日の朝は早めに出る感じですか?」
「そうだな。庸儀のやつらも引き離したし、今夜はゆっくりできるだろう。じゃあ、飯の支度でもするか」
修治が支度を始めたので手伝おうとすると、せっかくスコープがあるのなら、用意はするから周囲を見ていてくれ、と言われた。
実はそんなに料理はうまくないので、ありがたく申し出を受けることにした。
その手際の良さと作った食事の味に驚く。
さすがに鴇汰の料理には敵わないけれど、ほかの誰かが作るよりうまい。
なんでも器用な人間はいるけれど、修治はまさにそれだと思った。
「なんだ?」
あまりにもジッと見ていたからか、修治が言った。
「いや、修治さん、料理するしないはともかく、うまいもん作るな、って思って」
「ああ……麻乃のやつと長くやってれば、誰でもこうなるさ。料理だけじゃなく、な」
修治は岱胡に苦笑いをしてみせた。
「まともな食い物を口にしたかったら、自分がなんとかするしかないしな。どうせ食うならうまいもんのほうがいいと思ったら、こうなったんだよ」
「ははぁ、なるほど」
修治の答えに吹き出してしまった。
確かに麻乃と一緒では、料理も掃除も人並み以上にできるようになってもおかしくはないだろう。
雑談をかわしながら食事を済ませ、修治が片づけやテントの準備をしているあいだ、城周辺を観察し続けた。
陽が落ちて、あたりはすっかり暗くなったけれど、スコープを夜間仕様に切り替えると、なんの問題もなく周囲が見渡せる。
隊員たちと試行錯誤しながら改造しただけあって、使い勝手が思った以上にいい。
車の上から見ているかぎりでは城のほうには動きもなく、こちらに近づいてくる姿も見えない。
「岱胡、今夜はその辺にして、少しは休んでおけ。陽が昇る前には出発の準備をするぞ」
「わかりました」
テントに戻り、明日の予定を反芻してから眠りについた。
翌朝、陽が昇る前に起き出して、岱胡はもう一度、城の周辺を見回りに出た。
今度は丘をおりたり、木に登ったりして位置を変える。
空の色が変わり始めたころ、三千人はいるだろうと思えるほどの大きな部隊が、東西に一部隊ずつ出ていくのを確認した。
方角からして、ロマジェリカとヘイトだろうか。
ロマジェリカへ向かう部隊に、レイファーの姿が見えて驚いた。
あわてて木から飛びおりて、修治のもとへ駆けた。
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