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待ち受けるもの
第23話 追走 ~マドル 6~
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ジェの部屋の前で、ノックをしようと手を掲げた。
ドアの向こうから怒りに満ちた気配が漂ってくる。
マドルはわざと、大きめに音を立ててノックをしてから、ドアを開けた。
驚いた表情のジェが振り返った。
ジェの側近たちが情けない顔でうなだれている。
その中に、リュの姿はない。
「どうかしましたか? ずいぶんと苛立っておられるようですが。お邪魔でしたら、また出直しますが?」
「別に。なんの用よ?」
「近々、我が国の皇帝がジャセンベルへ遣いを出すそうです。あの大国が、こちらの出した条件を飲むとは思えませんから、国境沿いから一気に仕かけることになるでしょう」
椅子を引き寄せて腰をかけ、余裕を見せるふうに足を組んだジェが、ニヤリと笑ってマドルを見た。
「そう、それで私にもどこか任せてくれると?」
「それでも構いませんが、実はちょうどそのころに、泉翔から士官クラスの戦士が八名ほど、大陸各国へ上陸するという情報が入ってきましてね」
それを聞いた途端、ジェの顔が紅潮した。
先だって、勝手に泉翔へ出たときに受けてきた額の傷に手を当て、窓の外へ視線を移している。
数秒後、ジェはマドルのほうを振り返った。
「各国っていうのは、どういうことだい?」
「二名一組で、文字通り各国それぞれへ上陸するようですね」
「フン……高々二人、ほかに兵も連れているわけじゃないんだろう? そんなやつらになにもできやしないさ。一体、それがどうしたっていうんだい?」
「戦士といっても士官クラスのようですからね、これを捕らえられたら、あなたのいい戦力になるのでは?」
ジェが勢いよく立ちあがり、窓辺に近づいた。
その目がなにを見て、なにを思っているのかまではマドルにはわからない。
「馬鹿なことを……我々がいるんだ、余計な戦力など必要ない」
「それとも、我らに力がないとでも?」
「あんたたちは、ちょっと黙っていな!」
マドルに向かって凄んで見せた側近たちを、ジェが一喝した。
体だけは強靭そうな男たちを、たった一喝で黙らせてしまうのはさすがだ。
「その話し、本当なのかい?」
そう問われ、懐からメモを一枚取り出して渡した。
この部屋を訪れる前に急いで書いたものだ。
ジェはそれを引ったくるように奪い取り、ジッと見つめた。
「あんた……これをどこで……」
「お忘れのようですが、私も術師ですからね。この程度の情報は諜報を使うまでもなく、手に入れられます」
メモには、蓮華の戦士たちが訪れる国と組み合わせを書いておいた。
マドル自身が決めたのだから、知っていて当たり前だ。
ジェは、食い入るようにメモを見つめたままでいる。
「なにか気になることでも?」
「この……安部という男……」
小さくつぶやいたあと、強い視線をマドルへ向けてきた。
「兵はどれだけ連れていける?」
「そうですね、国境沿いにだいぶ取られるとはいえ、これを機に泉翔の戦士を消しておきたい。ですが、あまり大がかりでは、気取られて逃げられてしまうでしょう。四国に振り分けるとして、それぞれに五十程度でしょうか?」
「五十……まぁ、仕方ないのかもしれないね。私はジャセンベルへ行かせてもらおうじゃない」
窓辺に近づき、ガラスに映った自分の姿を見て、不敵な笑みを浮かべている。
(ジェが興味を持っている相手は修治……?)
泉翔で負わされた額の傷は、てっきり麻乃にやられたものかと思っていたけれど、頬を裂かれたのは麻乃のほうだった。
ジェに斬りつけ、傷つけたのは修治だったのかもしれない。
このプライドの高い女が、自分の顔に傷をつけられたまま黙っているとは思えない。
ただ、この反応は……腕前に惹かれるところでもあったのか欲しているのがハッキリとわかる。
(あの男を引き入れるのは、まず無理だ……叶わなければ、その命を絶ってくれるかもしれないけれど……)
手に入らないものならば、人に与えるよりは壊してしまう。
そういう女だ。
指先で顎に触れ、ジェの後ろ姿を眺めていると、突然、マドルのほうを振り返った。
ドアの向こうから怒りに満ちた気配が漂ってくる。
マドルはわざと、大きめに音を立ててノックをしてから、ドアを開けた。
驚いた表情のジェが振り返った。
ジェの側近たちが情けない顔でうなだれている。
その中に、リュの姿はない。
「どうかしましたか? ずいぶんと苛立っておられるようですが。お邪魔でしたら、また出直しますが?」
「別に。なんの用よ?」
「近々、我が国の皇帝がジャセンベルへ遣いを出すそうです。あの大国が、こちらの出した条件を飲むとは思えませんから、国境沿いから一気に仕かけることになるでしょう」
椅子を引き寄せて腰をかけ、余裕を見せるふうに足を組んだジェが、ニヤリと笑ってマドルを見た。
「そう、それで私にもどこか任せてくれると?」
「それでも構いませんが、実はちょうどそのころに、泉翔から士官クラスの戦士が八名ほど、大陸各国へ上陸するという情報が入ってきましてね」
それを聞いた途端、ジェの顔が紅潮した。
先だって、勝手に泉翔へ出たときに受けてきた額の傷に手を当て、窓の外へ視線を移している。
数秒後、ジェはマドルのほうを振り返った。
「各国っていうのは、どういうことだい?」
「二名一組で、文字通り各国それぞれへ上陸するようですね」
「フン……高々二人、ほかに兵も連れているわけじゃないんだろう? そんなやつらになにもできやしないさ。一体、それがどうしたっていうんだい?」
「戦士といっても士官クラスのようですからね、これを捕らえられたら、あなたのいい戦力になるのでは?」
ジェが勢いよく立ちあがり、窓辺に近づいた。
その目がなにを見て、なにを思っているのかまではマドルにはわからない。
「馬鹿なことを……我々がいるんだ、余計な戦力など必要ない」
「それとも、我らに力がないとでも?」
「あんたたちは、ちょっと黙っていな!」
マドルに向かって凄んで見せた側近たちを、ジェが一喝した。
体だけは強靭そうな男たちを、たった一喝で黙らせてしまうのはさすがだ。
「その話し、本当なのかい?」
そう問われ、懐からメモを一枚取り出して渡した。
この部屋を訪れる前に急いで書いたものだ。
ジェはそれを引ったくるように奪い取り、ジッと見つめた。
「あんた……これをどこで……」
「お忘れのようですが、私も術師ですからね。この程度の情報は諜報を使うまでもなく、手に入れられます」
メモには、蓮華の戦士たちが訪れる国と組み合わせを書いておいた。
マドル自身が決めたのだから、知っていて当たり前だ。
ジェは、食い入るようにメモを見つめたままでいる。
「なにか気になることでも?」
「この……安部という男……」
小さくつぶやいたあと、強い視線をマドルへ向けてきた。
「兵はどれだけ連れていける?」
「そうですね、国境沿いにだいぶ取られるとはいえ、これを機に泉翔の戦士を消しておきたい。ですが、あまり大がかりでは、気取られて逃げられてしまうでしょう。四国に振り分けるとして、それぞれに五十程度でしょうか?」
「五十……まぁ、仕方ないのかもしれないね。私はジャセンベルへ行かせてもらおうじゃない」
窓辺に近づき、ガラスに映った自分の姿を見て、不敵な笑みを浮かべている。
(ジェが興味を持っている相手は修治……?)
泉翔で負わされた額の傷は、てっきり麻乃にやられたものかと思っていたけれど、頬を裂かれたのは麻乃のほうだった。
ジェに斬りつけ、傷つけたのは修治だったのかもしれない。
このプライドの高い女が、自分の顔に傷をつけられたまま黙っているとは思えない。
ただ、この反応は……腕前に惹かれるところでもあったのか欲しているのがハッキリとわかる。
(あの男を引き入れるのは、まず無理だ……叶わなければ、その命を絶ってくれるかもしれないけれど……)
手に入らないものならば、人に与えるよりは壊してしまう。
そういう女だ。
指先で顎に触れ、ジェの後ろ姿を眺めていると、突然、マドルのほうを振り返った。
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