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待ち受けるもの
第22話 追走 ~マドル 5~
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口先ではなく、心の底から謝っていた。
そしてひどく自分を責め、恥じている。
(珍しい食材を持って帰ってきて喜んでもらえると思ったのに。配慮のなさで鴇汰に嫌な思いをさせてしまうなんて、あたしって本当に駄目な人間だ……)
麻乃の心の声が、そうつぶやいたのをマドルは黙って聞いていた。
奇妙な胸の痛みを感じ、まるで自分が責められているような気がした。
階段をあがり始めた麻乃の左腕を、鴇汰がつかんだ。
その途端、痺れる痛みとともに弾かれ、また、マドルの意識は体に戻ってしまった。
疲労を確認する間もなく急いでもう一度、老婆へ意識を戻す。
(また……どうにもあの男とは、相性が良くない……)
数日前にも道場で向き合ったとき、頬に触れられた途端に弾かれたばかりだ。
神殿に着き、車を降りると神官たちに迎えられ、自室に向かった。
これからすべきことは、麻乃たちが泉翔を離れるまで問題なく過ごさせることと、ジャセンベルが動かないように足止めをすることだけだ。
それにしても麻乃の気配が途切れるのは一体なんだというのか。
(わずかばかり、内側に力を送っておきましたが……)
以前、老女がそう言ったのを思い出した。
力を送ったとは一体、どういうことだろうか。
深くはわからないが、余計な真似をされたのだろう。
時折、麻乃が見えなくなるのはそのせいかもしれない。
ここでも、最近は老婆の動きを怪しまれているように感じる。
もう表立って動かないほうが良さそうだ。
蓮華の八人が、この地を離れてしまうまでの数日を凌げば、あとはどうでもいいじゃあないか。
次に泉翔を訪れるときは、我が身、我が足で地を踏み締めるのだから。
――眩しさに目を開けると、いつの間にか夜明けを迎えている。
昨夜、これまでのことを思い出しながら、いつの間にか眠ってしまったようだ。
部屋の中に違和感を覚え、マドルは視線を巡らせた。
机の資料がずれているのに気づき、ゆっくりと立ちあがると、部屋の中をひと回りした。
机の上だけでなく、その引き出しの中、書棚、物の置いてあるあらゆる位置に、微妙に触れられた跡を残している。
(誰かが入り込んだ……? そんなことにも気づかずに眠っていられる私ではない……)
探られて困るようなもには部屋の中になど残してはいない。
マドルはもうすべてを頭の中にたたきこんでいる。
そうはいっても、気分のいいものではない。
むしろ嫌な気分だ。
部屋の中にうっすらと甘い香りが残っている。
窓を開いて部屋の空気を入れ替えた。
外に控えている女官に問いかけようと、ドアを開くといるはずの女官の姿がない。
マドルが格下の相手に術をかけられるはずはない。
とすれば、部屋に残っていた香りはきっと、睡眠を誘発するものだったのだろう。
ずっと、疲労が著しかったせいか、細かな変化まで気が回らなかったのかもしれない。
(恐らくはジェの仕業……女官が席を外しているところをみると、リュあたりが来たに違いない)
マドルはフッと鼻で笑った。
なにを探していたのかはたいだいの見当がつく。
なにも見つからなかったことで、ジェがどんな表情を見せるのかは、見るまでもなく思い浮かべられる。
「つくづく愚かな人だ……」
初めて出会ったときから今を以って、まだマドルを軽視している……。
一度でも、あんな女を本物だと思ってしまったとは。
いまさら、どう横槍を入れてこようが、もう既に各国が動き始めている。
たとえ庸儀が動きを止めようとしても、ジャセンベルも動き始める以上、坂を転がる石のように止まることなどできやしない。
泉翔への侵攻を果たすまでは、ジェにはまだ役に立ってもらわなくてはならない。
なににそんなに興味を惹かれているのかはわからないが、場合によってはジェのほしがっている情報を与えても、問題はないだろう。
マドルは衣服を整えると、ロマジェリカ城内に用意されているジェの部屋へと向かった。
そしてひどく自分を責め、恥じている。
(珍しい食材を持って帰ってきて喜んでもらえると思ったのに。配慮のなさで鴇汰に嫌な思いをさせてしまうなんて、あたしって本当に駄目な人間だ……)
麻乃の心の声が、そうつぶやいたのをマドルは黙って聞いていた。
奇妙な胸の痛みを感じ、まるで自分が責められているような気がした。
階段をあがり始めた麻乃の左腕を、鴇汰がつかんだ。
その途端、痺れる痛みとともに弾かれ、また、マドルの意識は体に戻ってしまった。
疲労を確認する間もなく急いでもう一度、老婆へ意識を戻す。
(また……どうにもあの男とは、相性が良くない……)
数日前にも道場で向き合ったとき、頬に触れられた途端に弾かれたばかりだ。
神殿に着き、車を降りると神官たちに迎えられ、自室に向かった。
これからすべきことは、麻乃たちが泉翔を離れるまで問題なく過ごさせることと、ジャセンベルが動かないように足止めをすることだけだ。
それにしても麻乃の気配が途切れるのは一体なんだというのか。
(わずかばかり、内側に力を送っておきましたが……)
以前、老女がそう言ったのを思い出した。
力を送ったとは一体、どういうことだろうか。
深くはわからないが、余計な真似をされたのだろう。
時折、麻乃が見えなくなるのはそのせいかもしれない。
ここでも、最近は老婆の動きを怪しまれているように感じる。
もう表立って動かないほうが良さそうだ。
蓮華の八人が、この地を離れてしまうまでの数日を凌げば、あとはどうでもいいじゃあないか。
次に泉翔を訪れるときは、我が身、我が足で地を踏み締めるのだから。
――眩しさに目を開けると、いつの間にか夜明けを迎えている。
昨夜、これまでのことを思い出しながら、いつの間にか眠ってしまったようだ。
部屋の中に違和感を覚え、マドルは視線を巡らせた。
机の資料がずれているのに気づき、ゆっくりと立ちあがると、部屋の中をひと回りした。
机の上だけでなく、その引き出しの中、書棚、物の置いてあるあらゆる位置に、微妙に触れられた跡を残している。
(誰かが入り込んだ……? そんなことにも気づかずに眠っていられる私ではない……)
探られて困るようなもには部屋の中になど残してはいない。
マドルはもうすべてを頭の中にたたきこんでいる。
そうはいっても、気分のいいものではない。
むしろ嫌な気分だ。
部屋の中にうっすらと甘い香りが残っている。
窓を開いて部屋の空気を入れ替えた。
外に控えている女官に問いかけようと、ドアを開くといるはずの女官の姿がない。
マドルが格下の相手に術をかけられるはずはない。
とすれば、部屋に残っていた香りはきっと、睡眠を誘発するものだったのだろう。
ずっと、疲労が著しかったせいか、細かな変化まで気が回らなかったのかもしれない。
(恐らくはジェの仕業……女官が席を外しているところをみると、リュあたりが来たに違いない)
マドルはフッと鼻で笑った。
なにを探していたのかはたいだいの見当がつく。
なにも見つからなかったことで、ジェがどんな表情を見せるのかは、見るまでもなく思い浮かべられる。
「つくづく愚かな人だ……」
初めて出会ったときから今を以って、まだマドルを軽視している……。
一度でも、あんな女を本物だと思ってしまったとは。
いまさら、どう横槍を入れてこようが、もう既に各国が動き始めている。
たとえ庸儀が動きを止めようとしても、ジャセンベルも動き始める以上、坂を転がる石のように止まることなどできやしない。
泉翔への侵攻を果たすまでは、ジェにはまだ役に立ってもらわなくてはならない。
なににそんなに興味を惹かれているのかはわからないが、場合によってはジェのほしがっている情報を与えても、問題はないだろう。
マドルは衣服を整えると、ロマジェリカ城内に用意されているジェの部屋へと向かった。
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