225 / 780
待ち受けるもの
第3話 若き軍師 ~マドル 3~
しおりを挟む
「ジェさまに対して舐めた口を聞くな! 命が惜しくば、大人しくこちらの問いに答えろ!」
赤い筋が頬に伸び、顎に伝う。
ポツリと小声でつぶやき、ゆっくりと顔をあげたマドルの瞳を見て、五人はたじろいだ。
次第に五人の息づかいが荒くなり、苦悶に満ちた表情を浮かべてゆく。
「両手の自由を奪えば、術を使うことができないとでも?」
不敵な笑みを浮かべ、マドルはその様子を見守った。
頬についた傷跡がだんだんと薄くなり、わずかな時間でふさがって消える。
「あんた……なにをした……?」
「この期に及んで問いかけですか? 私がまだ若いからと侮ったご自分がいけないのですよ? なにもなければ黙って帰そうと思いましたが、先に仕かけてきたのは貴女ですからね」
固く縛られた縄をマドルはするりと解いた。
五人は必死の形相で息を吸いこもうと喘いでいる。
何人かは意識を失い倒れ伏した。
「お待ち……よ……私はあんたに……話しが……」
ジェは足もとに倒れ込みながら、マドルの足首をつかんだ。
乱れた赤い髪が目につく。
屈んで髪に触れ、唇を寄せた。
「この髪……本当に紅い華――?」
屈んだまま指を鳴らすと、全員の呼吸が戻った。
ジェは恐怖を浮かべた瞳をマドルに向けている。
「それで、お話しとは一体?」
「私は、あんたと手を組みたくて、ここまで来たんだ」
ぜいぜいと激しく息を吸い込みながらジェは話し始めた。
「庸儀の国王をそそのかして前王を殺したのは私だよ。今の国王は私の言いなりで腑抜けたジジイだ。国を手中に収めたと思ったのに……国軍のほとんどは、前王の手のものばかり、残った連中はてんで役に立ちやしない。領土もこの国やジャセンベルに奪われていくばかりだ」
「それで?」
「そうなったら、道は一つしかないだろう? 自国より大きな国に添って生き残る、それだけよ。今や庸儀は私の自由でどうとでも動く」
「これは驚いた。ご自分の国を売ると仰るのですか?」
「売るんじゃあないよ。有効に使うだけだ」
その答えに、マドルは含み笑いをすると切り捨てるように言い放った。
「ひと押しで簡単につぶれそうな国と、手を組んだところでなんのメリットがあると? わざわざ従えなくとも、我が国が奪い取ればそれでこと足りるでしょう」
「争いとなれば、庸儀も抵抗はするさ。手を組むことで、お互いが無傷で済むじゃあないか」
「しかし、なぜ私に? 貴女の仰るとおりならば、我が国の皇帝に取り入ったほうが早いのでは?」
「ジジイの相手はもう飽きたんだよ。それに今、実質この国を取り仕切っているのは、あんただと聞いた。どう? 鬼神が手に入ることはメリットにはならないかい?」
ジェは挑発するような視線を送ってくる。
確かに、この物資も兵も不足している状態で、それを使わずに一国が手に入るのなら十分とも思える。
鬼神までも手に入るというのならなおさらだ。
「あなたが鬼神であるという証は?」
「この赤い髪がその証拠だ」
「たかが髪ごときが証拠とは……それで納得すると本気でお思いですか?」
「だったら、私の力でヘイトの一軍を落としてみせようじゃあないの」
唇を噛みしめて言ったジェの言葉に、腕を組んで少しのあいだ、考え込んだ。
伝承が本当ならば、もっと大きな功績を上げられる気もする。
けれど他国より豊かなヘイトの領土もほしい。
「そう……ですね、いささか物足りない気もしますが、まあいいでしょう」
男たちの意識も戻ったようだ。
「それで、手を組んだあとのあなたの望みはなんですか?」
マドルの問いかけに、ジェはニヤリと笑う。
「私は別に、国を手中に収めることなどどうでもいいわ。相応の地位を得て誰をもかしずかせ、自由に贅沢に暮らしたいだけ。いつまでもジジイの相手なんてまっぴらさ」
ゆっくりとこちらへ近づきながらそう言い、マドルの耳もとに顔を寄せてくる。
「ねぇ、私に自由と贅沢な暮しをちょうだい。一部隊を任せてくれるなら、あんたが望む領土だって、いくらでも奪ってきてあげる。いずれは泉翔だって……それだけのことで庸儀が手に入れられれば、あんたの立場としても悪い話じゃないだろう? これからゆっくり今後のことを話し合おうじゃないの、あんたの部屋で……」
肩に乗せた手をマドルの首に回し、耳もとに寄せた唇を、そのままマドルの首筋に這わせ、ジェはそう言った。
「こんな枯れ果てた土地に、なんの魅力もありやしない。ほしいのは泉翔……あんただって同じでしょう?」
赤い筋が頬に伸び、顎に伝う。
ポツリと小声でつぶやき、ゆっくりと顔をあげたマドルの瞳を見て、五人はたじろいだ。
次第に五人の息づかいが荒くなり、苦悶に満ちた表情を浮かべてゆく。
「両手の自由を奪えば、術を使うことができないとでも?」
不敵な笑みを浮かべ、マドルはその様子を見守った。
頬についた傷跡がだんだんと薄くなり、わずかな時間でふさがって消える。
「あんた……なにをした……?」
「この期に及んで問いかけですか? 私がまだ若いからと侮ったご自分がいけないのですよ? なにもなければ黙って帰そうと思いましたが、先に仕かけてきたのは貴女ですからね」
固く縛られた縄をマドルはするりと解いた。
五人は必死の形相で息を吸いこもうと喘いでいる。
何人かは意識を失い倒れ伏した。
「お待ち……よ……私はあんたに……話しが……」
ジェは足もとに倒れ込みながら、マドルの足首をつかんだ。
乱れた赤い髪が目につく。
屈んで髪に触れ、唇を寄せた。
「この髪……本当に紅い華――?」
屈んだまま指を鳴らすと、全員の呼吸が戻った。
ジェは恐怖を浮かべた瞳をマドルに向けている。
「それで、お話しとは一体?」
「私は、あんたと手を組みたくて、ここまで来たんだ」
ぜいぜいと激しく息を吸い込みながらジェは話し始めた。
「庸儀の国王をそそのかして前王を殺したのは私だよ。今の国王は私の言いなりで腑抜けたジジイだ。国を手中に収めたと思ったのに……国軍のほとんどは、前王の手のものばかり、残った連中はてんで役に立ちやしない。領土もこの国やジャセンベルに奪われていくばかりだ」
「それで?」
「そうなったら、道は一つしかないだろう? 自国より大きな国に添って生き残る、それだけよ。今や庸儀は私の自由でどうとでも動く」
「これは驚いた。ご自分の国を売ると仰るのですか?」
「売るんじゃあないよ。有効に使うだけだ」
その答えに、マドルは含み笑いをすると切り捨てるように言い放った。
「ひと押しで簡単につぶれそうな国と、手を組んだところでなんのメリットがあると? わざわざ従えなくとも、我が国が奪い取ればそれでこと足りるでしょう」
「争いとなれば、庸儀も抵抗はするさ。手を組むことで、お互いが無傷で済むじゃあないか」
「しかし、なぜ私に? 貴女の仰るとおりならば、我が国の皇帝に取り入ったほうが早いのでは?」
「ジジイの相手はもう飽きたんだよ。それに今、実質この国を取り仕切っているのは、あんただと聞いた。どう? 鬼神が手に入ることはメリットにはならないかい?」
ジェは挑発するような視線を送ってくる。
確かに、この物資も兵も不足している状態で、それを使わずに一国が手に入るのなら十分とも思える。
鬼神までも手に入るというのならなおさらだ。
「あなたが鬼神であるという証は?」
「この赤い髪がその証拠だ」
「たかが髪ごときが証拠とは……それで納得すると本気でお思いですか?」
「だったら、私の力でヘイトの一軍を落としてみせようじゃあないの」
唇を噛みしめて言ったジェの言葉に、腕を組んで少しのあいだ、考え込んだ。
伝承が本当ならば、もっと大きな功績を上げられる気もする。
けれど他国より豊かなヘイトの領土もほしい。
「そう……ですね、いささか物足りない気もしますが、まあいいでしょう」
男たちの意識も戻ったようだ。
「それで、手を組んだあとのあなたの望みはなんですか?」
マドルの問いかけに、ジェはニヤリと笑う。
「私は別に、国を手中に収めることなどどうでもいいわ。相応の地位を得て誰をもかしずかせ、自由に贅沢に暮らしたいだけ。いつまでもジジイの相手なんてまっぴらさ」
ゆっくりとこちらへ近づきながらそう言い、マドルの耳もとに顔を寄せてくる。
「ねぇ、私に自由と贅沢な暮しをちょうだい。一部隊を任せてくれるなら、あんたが望む領土だって、いくらでも奪ってきてあげる。いずれは泉翔だって……それだけのことで庸儀が手に入れられれば、あんたの立場としても悪い話じゃないだろう? これからゆっくり今後のことを話し合おうじゃないの、あんたの部屋で……」
肩に乗せた手をマドルの首に回し、耳もとに寄せた唇を、そのままマドルの首筋に這わせ、ジェはそう言った。
「こんな枯れ果てた土地に、なんの魅力もありやしない。ほしいのは泉翔……あんただって同じでしょう?」
0
お気に入りに追加
10
あなたにおすすめの小説
どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします
文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。
夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。
エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。
「ゲルハルトさま、愛しています」
ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。
「エレーヌ、俺はあなたが憎い」
エレーヌは凍り付いた。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
【完結】仰る通り、貴方の子ではありません
ユユ
恋愛
辛い悪阻と難産を経て産まれたのは
私に似た待望の男児だった。
なのに認められず、
不貞の濡れ衣を着せられ、
追い出されてしまった。
実家からも勘当され
息子と2人で生きていくことにした。
* 作り話です
* 暇つぶしにどうぞ
* 4万文字未満
* 完結保証付き
* 少し大人表現あり
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
断る――――前にもそう言ったはずだ
鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」
結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。
周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。
けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。
他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。
(わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)
そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。
ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。
そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
夫達の裏切りに復讐心で一杯だった私は、死の間際に本当の願いを見つけ幸せになれました。
Nao*
恋愛
家庭を顧みず、外泊も増えた夫ダリス。
それを寂しく思う私だったが、庭師のサムとその息子のシャルに癒される日々を送って居た。
そして私達は、三人であるバラの苗を庭に植える。
しかしその後…夫と親友のエリザによって、私は酷い裏切りを受ける事に─。
命の危機が迫る中、私の心は二人への復讐心で一杯になるが…駆けつけたシャルとサムを前に、本当の願いを見つけて─?
(1万字以上と少し長いので、短編集とは別にしてあります)
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
(完)聖女様は頑張らない
青空一夏
ファンタジー
私は大聖女様だった。歴史上最強の聖女だった私はそのあまりに強すぎる力から、悪魔? 魔女?と疑われ追放された。
それも命を救ってやったカール王太子の命令により追放されたのだ。あの恩知らずめ! 侯爵令嬢の色香に負けやがって。本物の聖女より偽物美女の侯爵令嬢を選びやがった。
私は逃亡中に足をすべらせ死んだ? と思ったら聖女認定の最初の日に巻き戻っていた!!
もう全力でこの国の為になんか働くもんか!
異世界ゆるふわ設定ご都合主義ファンタジー。よくあるパターンの聖女もの。ラブコメ要素ありです。楽しく笑えるお話です。(多分😅)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる