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待ち受けるもの
第2話 若き軍師 ~マドル 2~
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――その数カ月ほど前のこと。
マドルのもとに、庸儀の国王が崩御したとの情報が入った。
国王が亡くなったことで王族すべてが失脚し、全く血の繋がりのないものが新たな国王に収まったと聞いた。
国軍も、前国王と縁の深かったものや忠義心の強かったものはすべて、処刑や失脚を余儀なくされたという。
その混乱に乗じて一気に庸儀を攻め落とそうと、マドルは考えてた。
庸儀ごときを落としたところで、所詮はロマジェリカと同じ枯れた土地。
物資も食糧もさして増えはしないけれど、ないよりはマシだ。
それになにより領土を広げることで、皇帝の信頼をより強固に得られる。
その夜、進軍の準備を進めていると、外に妙な気配を感じとった。
どうやらマドルを探しているようだ。
城を出ると、その気配をたどってみた。
わずかに離れた木立に人影が見え、追って行くと、いつの間にか城の裏手の森に入り込んでいた。
「あんたがロマジェリカの軍師かい?」
待ち構えていた人影は、真っ白な衣服にフードを頭からすっぽり被っている。
どうやら女のようで、マドルに向かって問いかけてきた。
目を細め、答えずにその女を見すえていると、マドルに歩み寄ってきた。
気配では五人はいるようなのに、茂みや木陰に隠れているのか、その姿は見えない。
「話しには聞いていたけど、本当にまだガキじゃないか」
フードの女は首を動かし、舐めるようにマドルを見ている。
「とはいえ、ジジイよりはマシよね」
フードからのぞいた紅く染まった唇が笑ったのか、吊りあがる。
明らかにマドルを侮っているようで、さらに一歩、近づいてきた。
マドルは手にしたロッドで地面を突き、広めの範囲で金縛りをかけた。
「どこの誰だか知りませんが、不用心が過ぎるのではないですか?」
動かなくなった女に近寄ると、そのフードを剥ぎ取った。
瞬間、思わず目を細める。
痩身で身丈はマドルと同じ程度、ただ、あらわれた長い髪は燃えるように赤く艶やかだ。
「これはまた……ずいぶんと変わった容姿をされている……」
まさかマドルが術を使うとは思っていなかったのか、あっさりと金縛りにかかった女は、忌々しそうな目つきで睨んでくる。
後ろに潜んでいる気配も動けずにいる焦りを漂わせていた。
マドルが指を二度鳴らすと、女はガックリと跪き、小さくうめいた。
「探し人は私で間違いないのですか? どなたかお探しなら呼んできますが?」
ニヤリと笑ってそう言うと、女は動くのならば飛びかかって来そうな、強い視線を向けてきた。
「ああ、これは失礼。そのままでは口も聞けませんね」
そう言って、今度は一度、指を鳴らした。
「ご存じないかもしれませんが、我が国では混血は忌み嫌われます。そのような目立つ赤い髪では引き立てられて問答無用で処刑されますよ」
女の前にしゃがみ込むと、同じ目の高さで挑発的にそう言った。
「私はジェ・ギテ。庸儀の人間だ。混血なんかじゃない」
低い声でうなるようにつぶやく。
「私の記憶では庸儀だけでなく、どの国にも赤い髪をしたものなどいないはずですが。どんなふうに血が混じれば、そんな髪色の人間が産まれてく来るのでしょうね?」
「私は鬼神だ! その辺のただの人間と一緒にするな!」
(鬼神――?)
その言葉に動揺し、マドルの術が緩んだ。
ジェはそれを見逃さず、即座に飛びかかってきた。
「おっと、今度は術はなしだよ」
背後に回り、短刀をマドルの喉もとに突きつけると、森の奥に向かい呼びかけた。
「あんたたち、動けるかい?」
木陰から四人の男が出てきた。
「術師とは思いませんでしたね」
「まったくだよ。とんだ赤っ恥をかかせてくれたね」
男たちは手にした縄で、マドルの両手を縛った。
「紅き華――」
マドルがつぶやくと、ジェは、あらためて、まじまじとマドルを眺めてきた。
「深い青色の瞳、あんたがうちの国の部隊を壊滅させた、マドル・ベインに間違いないね?」
「私に一体なんの用です? 今は忙しい身でしてね。怨みごとならあとにしていただけませんか」
その言葉に男の一人が反応した。
短剣を抜くと、浅くマドルの頬を斬った。
マドルのもとに、庸儀の国王が崩御したとの情報が入った。
国王が亡くなったことで王族すべてが失脚し、全く血の繋がりのないものが新たな国王に収まったと聞いた。
国軍も、前国王と縁の深かったものや忠義心の強かったものはすべて、処刑や失脚を余儀なくされたという。
その混乱に乗じて一気に庸儀を攻め落とそうと、マドルは考えてた。
庸儀ごときを落としたところで、所詮はロマジェリカと同じ枯れた土地。
物資も食糧もさして増えはしないけれど、ないよりはマシだ。
それになにより領土を広げることで、皇帝の信頼をより強固に得られる。
その夜、進軍の準備を進めていると、外に妙な気配を感じとった。
どうやらマドルを探しているようだ。
城を出ると、その気配をたどってみた。
わずかに離れた木立に人影が見え、追って行くと、いつの間にか城の裏手の森に入り込んでいた。
「あんたがロマジェリカの軍師かい?」
待ち構えていた人影は、真っ白な衣服にフードを頭からすっぽり被っている。
どうやら女のようで、マドルに向かって問いかけてきた。
目を細め、答えずにその女を見すえていると、マドルに歩み寄ってきた。
気配では五人はいるようなのに、茂みや木陰に隠れているのか、その姿は見えない。
「話しには聞いていたけど、本当にまだガキじゃないか」
フードの女は首を動かし、舐めるようにマドルを見ている。
「とはいえ、ジジイよりはマシよね」
フードからのぞいた紅く染まった唇が笑ったのか、吊りあがる。
明らかにマドルを侮っているようで、さらに一歩、近づいてきた。
マドルは手にしたロッドで地面を突き、広めの範囲で金縛りをかけた。
「どこの誰だか知りませんが、不用心が過ぎるのではないですか?」
動かなくなった女に近寄ると、そのフードを剥ぎ取った。
瞬間、思わず目を細める。
痩身で身丈はマドルと同じ程度、ただ、あらわれた長い髪は燃えるように赤く艶やかだ。
「これはまた……ずいぶんと変わった容姿をされている……」
まさかマドルが術を使うとは思っていなかったのか、あっさりと金縛りにかかった女は、忌々しそうな目つきで睨んでくる。
後ろに潜んでいる気配も動けずにいる焦りを漂わせていた。
マドルが指を二度鳴らすと、女はガックリと跪き、小さくうめいた。
「探し人は私で間違いないのですか? どなたかお探しなら呼んできますが?」
ニヤリと笑ってそう言うと、女は動くのならば飛びかかって来そうな、強い視線を向けてきた。
「ああ、これは失礼。そのままでは口も聞けませんね」
そう言って、今度は一度、指を鳴らした。
「ご存じないかもしれませんが、我が国では混血は忌み嫌われます。そのような目立つ赤い髪では引き立てられて問答無用で処刑されますよ」
女の前にしゃがみ込むと、同じ目の高さで挑発的にそう言った。
「私はジェ・ギテ。庸儀の人間だ。混血なんかじゃない」
低い声でうなるようにつぶやく。
「私の記憶では庸儀だけでなく、どの国にも赤い髪をしたものなどいないはずですが。どんなふうに血が混じれば、そんな髪色の人間が産まれてく来るのでしょうね?」
「私は鬼神だ! その辺のただの人間と一緒にするな!」
(鬼神――?)
その言葉に動揺し、マドルの術が緩んだ。
ジェはそれを見逃さず、即座に飛びかかってきた。
「おっと、今度は術はなしだよ」
背後に回り、短刀をマドルの喉もとに突きつけると、森の奥に向かい呼びかけた。
「あんたたち、動けるかい?」
木陰から四人の男が出てきた。
「術師とは思いませんでしたね」
「まったくだよ。とんだ赤っ恥をかかせてくれたね」
男たちは手にした縄で、マドルの両手を縛った。
「紅き華――」
マドルがつぶやくと、ジェは、あらためて、まじまじとマドルを眺めてきた。
「深い青色の瞳、あんたがうちの国の部隊を壊滅させた、マドル・ベインに間違いないね?」
「私に一体なんの用です? 今は忙しい身でしてね。怨みごとならあとにしていただけませんか」
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