219 / 780
島国の戦士
第218話 苦渋 ~高田 2~
しおりを挟む
子どもたちが帰るのを見届けてから、全員が軍部へ集まった。
結局、蓮華の印を持つものは一人もいなかった。
「やはりやつらがそうそう滅多な目に遭うことはないのでしょうな。早いものは、あと数日もすれば戻ってくるだろう?」
「あれだけの人数が印を受けながらも、蓮華は一人も出なかった。やつらは無事だということだ」
継ぐものが出なかった以上、全員が無事に戻ってくると考えていいだろう。
不安だった思いが少しだけ和らいだ気がした。
「ですが、全員が印を受けるなど、これは異常です。無事だなどと……」
カサネが暗い面持ちでつぶやき、最後まで言いきる前に元蓮華たちの表情が変わったのを見て、言葉を濁した。
「確かにこれまでになかったことです。だからといって、そんな……まるでやつらが無事に帰ってくることがおかしいような仰りかたをするなんて」
尾形が憤慨してそれに答えた。
この件に関しては、どうも上層、神殿のものと、元蓮華の側の意見が相容れない。
無事に戻ると信じている高田たちとは逆に、どうあっても戻らないと考えているように見える。
歴然とした理由でもあるのだろうか。
「だいたい、こんな事態におちいったことに対して、ご神託なり占筮なり、なんらかの予兆はなかったのですか?」
「こちらに落ち度があってのことだと仰るのですか!」
カサネが鋭い視線を尾形に向けた。
普段は穏やかな人だというのに、今は別人のような表情を見せている。
「誰もそんなことは言っておりません。予兆はなかったのかとたずねているだけではありませんか」
「こんなことは初めてなのです! なんぞ不穏な予兆があったとしたら、それはシタラさまの件と、麻乃の件だけです!」
ヒステリックに声を上げたカサネに、高田は違和感を覚える。
これまでは誰も大きく反論もしなかった。
多少の疑問を感じても口には出さずにいた。
それが、この一言で、元蓮華たちの抱いていた不信感が一気に噴き出した。
「また藤川ですか? 確かにあの血筋は間違ったときには危険でしょう」
「凶兆のこともある。大陸でなにかあったときには一番不穏な要素を持っているでしょうが、まず藤川を疑ってかかるのはいかがなものでしょう?」
「ロマジェリカ戦でなにがあったにしろ、その後の戦果もこれまで同様というじゃないですか。藤川一人に固執していて、そのほかのことがおざなりになっているように感じますがね?」
「まったくだ。シタラさまの件も、島の調査についても、結果がまだ出ていないにしても経過さえ私たちは知らされてない」
それぞれ口調は穏やかながらも向けている視線は厳しい。
上層も神官も反論されたことでますますかたくなな態度を示した。
「経過は追って連絡はする。藤川の件にしても固執せざるを得ない状況ではないか。昨日の聞き取りで一般人を相手に抜刀した話しを聞いている」
「なにかがあったのは明らかであろう? 我々も、場合によっては排除を視野に入れて動かねばなるまい」
不意に加賀野がこぶしで机を力強くたたいた。
「あんたがたがなにを聞いたのか知りませんがね、先だって藤川の件は、高田に一任すると仰ったじゃないですか! あれからまだ日も経ってないというのに、舌の根も乾かないうちに覆して、悪い情報だけ執拗に取り揃えて……あんたがたはこれまで一体、藤川のなにを見てきたってんですか!」
あまりの勢いに高田は驚いた。
本当ならここで怒るのは高田のはずだろうけれど、完全にタイミングを逃してしまった。
止めようとつかんだ腕を加賀野は思いきり振りほどくと、さらに声を張り上げた。
「おまけに言うにことかいて、排除とはなんだ! 今、高田がどんな思いと決意でここに座っていると思ってるんだ! 俺は本気で頭に来ている……あんたがたのいうことなんざ、もう聞かん!」
フーッと大きく鼻で息をついた加賀野の顔が真っ赤になっている。
呆気に取られてその姿を見つめていたのは高田だけで、ほかの元蓮華たちは感心したように口々に同意している。
肩をたたかれてハッとして振り返ると、尾形が加賀野を見つめたまま、二度、小さくうなずいた。
結局、蓮華の印を持つものは一人もいなかった。
「やはりやつらがそうそう滅多な目に遭うことはないのでしょうな。早いものは、あと数日もすれば戻ってくるだろう?」
「あれだけの人数が印を受けながらも、蓮華は一人も出なかった。やつらは無事だということだ」
継ぐものが出なかった以上、全員が無事に戻ってくると考えていいだろう。
不安だった思いが少しだけ和らいだ気がした。
「ですが、全員が印を受けるなど、これは異常です。無事だなどと……」
カサネが暗い面持ちでつぶやき、最後まで言いきる前に元蓮華たちの表情が変わったのを見て、言葉を濁した。
「確かにこれまでになかったことです。だからといって、そんな……まるでやつらが無事に帰ってくることがおかしいような仰りかたをするなんて」
尾形が憤慨してそれに答えた。
この件に関しては、どうも上層、神殿のものと、元蓮華の側の意見が相容れない。
無事に戻ると信じている高田たちとは逆に、どうあっても戻らないと考えているように見える。
歴然とした理由でもあるのだろうか。
「だいたい、こんな事態におちいったことに対して、ご神託なり占筮なり、なんらかの予兆はなかったのですか?」
「こちらに落ち度があってのことだと仰るのですか!」
カサネが鋭い視線を尾形に向けた。
普段は穏やかな人だというのに、今は別人のような表情を見せている。
「誰もそんなことは言っておりません。予兆はなかったのかとたずねているだけではありませんか」
「こんなことは初めてなのです! なんぞ不穏な予兆があったとしたら、それはシタラさまの件と、麻乃の件だけです!」
ヒステリックに声を上げたカサネに、高田は違和感を覚える。
これまでは誰も大きく反論もしなかった。
多少の疑問を感じても口には出さずにいた。
それが、この一言で、元蓮華たちの抱いていた不信感が一気に噴き出した。
「また藤川ですか? 確かにあの血筋は間違ったときには危険でしょう」
「凶兆のこともある。大陸でなにかあったときには一番不穏な要素を持っているでしょうが、まず藤川を疑ってかかるのはいかがなものでしょう?」
「ロマジェリカ戦でなにがあったにしろ、その後の戦果もこれまで同様というじゃないですか。藤川一人に固執していて、そのほかのことがおざなりになっているように感じますがね?」
「まったくだ。シタラさまの件も、島の調査についても、結果がまだ出ていないにしても経過さえ私たちは知らされてない」
それぞれ口調は穏やかながらも向けている視線は厳しい。
上層も神官も反論されたことでますますかたくなな態度を示した。
「経過は追って連絡はする。藤川の件にしても固執せざるを得ない状況ではないか。昨日の聞き取りで一般人を相手に抜刀した話しを聞いている」
「なにかがあったのは明らかであろう? 我々も、場合によっては排除を視野に入れて動かねばなるまい」
不意に加賀野がこぶしで机を力強くたたいた。
「あんたがたがなにを聞いたのか知りませんがね、先だって藤川の件は、高田に一任すると仰ったじゃないですか! あれからまだ日も経ってないというのに、舌の根も乾かないうちに覆して、悪い情報だけ執拗に取り揃えて……あんたがたはこれまで一体、藤川のなにを見てきたってんですか!」
あまりの勢いに高田は驚いた。
本当ならここで怒るのは高田のはずだろうけれど、完全にタイミングを逃してしまった。
止めようとつかんだ腕を加賀野は思いきり振りほどくと、さらに声を張り上げた。
「おまけに言うにことかいて、排除とはなんだ! 今、高田がどんな思いと決意でここに座っていると思ってるんだ! 俺は本気で頭に来ている……あんたがたのいうことなんざ、もう聞かん!」
フーッと大きく鼻で息をついた加賀野の顔が真っ赤になっている。
呆気に取られてその姿を見つめていたのは高田だけで、ほかの元蓮華たちは感心したように口々に同意している。
肩をたたかれてハッとして振り返ると、尾形が加賀野を見つめたまま、二度、小さくうなずいた。
0
お気に入りに追加
10
あなたにおすすめの小説
どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします
文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。
夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。
エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。
「ゲルハルトさま、愛しています」
ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。
「エレーヌ、俺はあなたが憎い」
エレーヌは凍り付いた。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
【完結】仰る通り、貴方の子ではありません
ユユ
恋愛
辛い悪阻と難産を経て産まれたのは
私に似た待望の男児だった。
なのに認められず、
不貞の濡れ衣を着せられ、
追い出されてしまった。
実家からも勘当され
息子と2人で生きていくことにした。
* 作り話です
* 暇つぶしにどうぞ
* 4万文字未満
* 完結保証付き
* 少し大人表現あり
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
【完結】妃が毒を盛っている。
井上 佳
ファンタジー
2年前から病床に臥しているハイディルベルクの王には、息子が2人いる。
王妃フリーデの息子で第一王子のジークムント。
側妃ガブリエレの息子で第二王子のハルトヴィヒ。
いま王が崩御するようなことがあれば、第一王子が玉座につくことになるのは間違いないだろう。
貴族が集まって出る一番の話題は、王の後継者を推測することだった――
見舞いに来たエルメンヒルデ・シュティルナー侯爵令嬢。
「エルメンヒルデか……。」
「はい。お側に寄っても?」
「ああ、おいで。」
彼女の行動が、出会いが、全てを解決に導く――。
この優しい王の、原因不明の病気とはいったい……?
※オリジナルファンタジー第1作目カムバックイェイ!!
※妖精王チートですので細かいことは気にしない。
※隣国の王子はテンプレですよね。
※イチオシは護衛たちとの気安いやり取り
※最後のほうにざまぁがあるようなないような
※敬語尊敬語滅茶苦茶御免!(なさい)
※他サイトでは佳(ケイ)+苗字で掲載中
※完結保証……保障と保証がわからない!
2022.11.26 18:30 完結しました。
お付き合いいただきありがとうございました!
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
夫達の裏切りに復讐心で一杯だった私は、死の間際に本当の願いを見つけ幸せになれました。
Nao*
恋愛
家庭を顧みず、外泊も増えた夫ダリス。
それを寂しく思う私だったが、庭師のサムとその息子のシャルに癒される日々を送って居た。
そして私達は、三人であるバラの苗を庭に植える。
しかしその後…夫と親友のエリザによって、私は酷い裏切りを受ける事に─。
命の危機が迫る中、私の心は二人への復讐心で一杯になるが…駆けつけたシャルとサムを前に、本当の願いを見つけて─?
(1万字以上と少し長いので、短編集とは別にしてあります)
断る――――前にもそう言ったはずだ
鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」
結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。
周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。
けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。
他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。
(わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)
そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。
ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。
そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる