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島国の戦士
第214話 暗黙 ~市原 5~
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高田の言ったとおり、翌日の午後、中央から呼び出しがかかった。
ほかの師範たちに道場を任せ、塚本と二人で出向いてみると、すでに麻乃と修治の部隊の古参たちも姿がみえた。
神殿の巫女に案内され、隊員たちとは別の小会議室に待機させられた。
そこには意外なことに、麻乃と修治が演習をしたときに参加していた西区の道場の師範も何人か呼ばれていた。柳堀のものも数人いる。
一体、なにごとかと彼らに問われたけれど、自分たちも良くわからないと答えるしかなかった。
なにしろ部屋の片隅に見張るように上層と神殿のものが二人ずつ腰をかけているのだから。
妙な雰囲気に、最初はしきりにいろいろと問いかけてきた師範たちも、黙りこくってしまった。
シンと静まりかえった会議室に、掛け時計の秒針が進む音だけが響いてくる。
「参ったな。どんな基準で呼び出されてるんだ?」
「さぁな……けど、今、ここにいるのは、やっぱりロマジェリカ戦以降に麻乃に関わったメンツ……ってところか」
塚本と隣り合わせに椅子に腰をかけ、小声で話した。
時折、上層のものがこちらに目を向ける。
背後の壁に、ドン、となにかが激しくぶつかったのと同時に、物凄い怒声が聞こえてきた。
鈍い音と何人もの足音で、こちらの部屋まで震動が伝わってくる。
一体、なにが起きたのかと止めようとする神官と上層をかわして、市原と塚本は部屋の外へ出た。
隣の会議室にいた小坂たちも、今の音を聞いて廊下へ出ている。
「今のなんでしょうかね?」
「こっちの部屋の壁になにかが当たったからな。隣でなにかあったんだろうが……」
小坂の問いかけに塚本が答えかけたその後ろで、隣の大会議室のドアがぶち破られて、なにかが転がり出てきた。
驚きのあまり声も出せずにいると、腕に、腰に、足もとに、上層の連中を引き摺ったままの格好で外れたドアをゆっくりと踏みしめながら、おクマが出てきた。
先に転がり出てきたのは、柳堀の地主の息子で、前に麻乃とやり合った相手だ。
「この……ごく潰しが!」
低い声でおクマがうなる。
先の壁の音は、おクマがこいつを殴ったせいだろうか。
地主の息子は廊下の壁にもたれ、鼻血を拭いながら怒鳴った。
「なんだよ! 本当のことじゃねぇか! あの女、蓮華の癖に……一般人の俺を斬ろうとしたのは事実だろうが!」
「まずいな……あの件はおおごとにならないように、柳堀の連中が手を打ってくれたのに、ここで持ち出されたか……」
サッと麻乃の隊員たちの顔が曇り、その隣で塚本が渋い顔でつぶやいた。
「お黙り! アタシや松恵の店でなにをしたのか忘れたっていうのかい! あのとき、てめぇがなにをやったか、それを言って見やがれ! さぁ! お言いよ!」
上層のものたちが、必死で止めようと押さえているのをものともせず、地主の息子の目の前までくると、こぶしをバキバキと鳴らした。
「お止め! 熊吉!」
こぶしが振りおろされた瞬間、大会議室の中から厳しい声が響いた。
おクマのこぶしは地主の息子の顔を辛うじてそれ、耳をかすめて後ろの壁を砕いた。
おクマを止めた声の主は松恵だった。
「その名前で呼ぶのは止めてちょうだいって、何度も言わせるんじゃないわョ!」
「まったくあんたは、ホントにいつも考えなしなやつだねぇ、これじゃあますます、麻乃の立場を悪くしちまうじゃないのさ……おや、あんたたちも来てたのかい?」
壊れたドアをヒョイと飛び越えて、松恵が市原を見た。
おクマは真っすぐに立つと、自分にしがみ付いている上層たちを振り払い、こちらをギロリと睨む。
「あんたたち、これは一体なんだってのサ! 呼び出されてきてみれば、麻乃が一体、なにをしたっていうんだい! あんたたち、なにか知ってるんじゃないの? え? 黙ってないでなんとかお言い!」
市原は物凄い力で肩を突かれ、倒れそうになったのを塚本に支えられた。
「いや、俺たちはなにも……第一、こっちも呼び出されているんですから、なにがどうだなんて……」
「話しになんないわね! 高田はどうしたのサ! こんなときになんでアイツはここにいないのョ!」
「先生は今は……」
詰め寄られてたじろいだ背後で、またドスンとなにかが落ちる音がした。
振り返ると、松恵が上層の一人を投げ飛ばしたあとだった。
パンパンと手を払い、襟元を正している。
ほかの師範たちに道場を任せ、塚本と二人で出向いてみると、すでに麻乃と修治の部隊の古参たちも姿がみえた。
神殿の巫女に案内され、隊員たちとは別の小会議室に待機させられた。
そこには意外なことに、麻乃と修治が演習をしたときに参加していた西区の道場の師範も何人か呼ばれていた。柳堀のものも数人いる。
一体、なにごとかと彼らに問われたけれど、自分たちも良くわからないと答えるしかなかった。
なにしろ部屋の片隅に見張るように上層と神殿のものが二人ずつ腰をかけているのだから。
妙な雰囲気に、最初はしきりにいろいろと問いかけてきた師範たちも、黙りこくってしまった。
シンと静まりかえった会議室に、掛け時計の秒針が進む音だけが響いてくる。
「参ったな。どんな基準で呼び出されてるんだ?」
「さぁな……けど、今、ここにいるのは、やっぱりロマジェリカ戦以降に麻乃に関わったメンツ……ってところか」
塚本と隣り合わせに椅子に腰をかけ、小声で話した。
時折、上層のものがこちらに目を向ける。
背後の壁に、ドン、となにかが激しくぶつかったのと同時に、物凄い怒声が聞こえてきた。
鈍い音と何人もの足音で、こちらの部屋まで震動が伝わってくる。
一体、なにが起きたのかと止めようとする神官と上層をかわして、市原と塚本は部屋の外へ出た。
隣の会議室にいた小坂たちも、今の音を聞いて廊下へ出ている。
「今のなんでしょうかね?」
「こっちの部屋の壁になにかが当たったからな。隣でなにかあったんだろうが……」
小坂の問いかけに塚本が答えかけたその後ろで、隣の大会議室のドアがぶち破られて、なにかが転がり出てきた。
驚きのあまり声も出せずにいると、腕に、腰に、足もとに、上層の連中を引き摺ったままの格好で外れたドアをゆっくりと踏みしめながら、おクマが出てきた。
先に転がり出てきたのは、柳堀の地主の息子で、前に麻乃とやり合った相手だ。
「この……ごく潰しが!」
低い声でおクマがうなる。
先の壁の音は、おクマがこいつを殴ったせいだろうか。
地主の息子は廊下の壁にもたれ、鼻血を拭いながら怒鳴った。
「なんだよ! 本当のことじゃねぇか! あの女、蓮華の癖に……一般人の俺を斬ろうとしたのは事実だろうが!」
「まずいな……あの件はおおごとにならないように、柳堀の連中が手を打ってくれたのに、ここで持ち出されたか……」
サッと麻乃の隊員たちの顔が曇り、その隣で塚本が渋い顔でつぶやいた。
「お黙り! アタシや松恵の店でなにをしたのか忘れたっていうのかい! あのとき、てめぇがなにをやったか、それを言って見やがれ! さぁ! お言いよ!」
上層のものたちが、必死で止めようと押さえているのをものともせず、地主の息子の目の前までくると、こぶしをバキバキと鳴らした。
「お止め! 熊吉!」
こぶしが振りおろされた瞬間、大会議室の中から厳しい声が響いた。
おクマのこぶしは地主の息子の顔を辛うじてそれ、耳をかすめて後ろの壁を砕いた。
おクマを止めた声の主は松恵だった。
「その名前で呼ぶのは止めてちょうだいって、何度も言わせるんじゃないわョ!」
「まったくあんたは、ホントにいつも考えなしなやつだねぇ、これじゃあますます、麻乃の立場を悪くしちまうじゃないのさ……おや、あんたたちも来てたのかい?」
壊れたドアをヒョイと飛び越えて、松恵が市原を見た。
おクマは真っすぐに立つと、自分にしがみ付いている上層たちを振り払い、こちらをギロリと睨む。
「あんたたち、これは一体なんだってのサ! 呼び出されてきてみれば、麻乃が一体、なにをしたっていうんだい! あんたたち、なにか知ってるんじゃないの? え? 黙ってないでなんとかお言い!」
市原は物凄い力で肩を突かれ、倒れそうになったのを塚本に支えられた。
「いや、俺たちはなにも……第一、こっちも呼び出されているんですから、なにがどうだなんて……」
「話しになんないわね! 高田はどうしたのサ! こんなときになんでアイツはここにいないのョ!」
「先生は今は……」
詰め寄られてたじろいだ背後で、またドスンとなにかが落ちる音がした。
振り返ると、松恵が上層の一人を投げ飛ばしたあとだった。
パンパンと手を払い、襟元を正している。
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