蓮華

釜瑪 秋摩

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島国の戦士

第212話 暗黙 ~市原 3~

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「これまでの話しの流れからして、どうせ上層も神殿も、うちの隊長のことを疑っているのでしょう? シタラさまに仇をなしたんだろう、と。呼び出しの件にしても、向こうの思惑に嵌るような誘導的な質問ばかりで、最終的にはあの人の責任になる、そんなところなのでしょう?」

 小坂は、はっきりした口調で言いきった。
 嫌な沈黙が流れた。
 見れば高田たちは渋い顔をしたまま、黙りこくっている。

「俺たちは西区に来てからずっと、あの人を必要以上に一人にしていません。そりゃあ、常に誰かがついていたわけではありませんけれど、それでもあの人が、たった一人で中央まで行って戻ってくるほどの時間を与えてもいません。様子がおかしかったのは承知していましたから。それになにより、あの人はシタラさまを避けていた。執拗に追ってたのはシタラさまのほうです」

(おいおい……このメンツを前に思い切ったことを言いやがる……)

 市原がそう思った瞬間、加賀野が豪快に笑った。
 杉山も大石も、呆気に取られた表情で加賀野を見ている。

「さすが、高田のいうとおり一筋縄じゃ行かないやつらじゃないか」

「恐らくは小坂のいうとおりになるだろう。だがな……呼ばれた際には、おまえたちがこれまで感じてきたことを、そのまま包み隠さず話せ」

「包み隠さず……ですか?」

 小坂が意外そうな顔でつぶやいた。

「呼び出されるのは古参で残っているおまえたち、十人だけだと思う。新しい隊員たちでは、ロマジェリカ戦のことも麻乃のことも、良くわかっていないからな」

 尾形がそれに答えると、三人は、それもそうか、とうなずき合っている。

「隠すなというのもな、本来ならすぐにおまえたちを呼び出せば済むことなのに、わざわざ日を置いた。私たちが麻乃に都合のいいように、口裏を合わせると思っているからだろう」

「だからこそ、おまえたちは一人一人、己の言葉ですべてに答えるんだ。それぞれが見ている藤川の姿は、まったく同じではないはずだ」

「庇い立てするな、とは言わん。だが、隠しごとだけは絶対にいかんぞ。あとで辻褄が合わなくなりでもしてみろ、逆に藤川の立場を危うくすることになる」

 高田たちが、次々に三人に言い聞かせている。
 これも最もなことだろうと思った。
 嘘や隠しごとはあとで必ずばれる。

 高田は目の前の盃を手にし、ぐいと飲み干すと、小坂に視線を向けた。

「それから小坂、神殿や上層におまえたちが絡むことは少ない。せっかくだ、この機会に思うことを問え。常任などと異例な申請がなぜ簡単に通ったのか、シタラさまが麻乃を追っていたのはなぜか、そんな疑問をな」

「……わかりました」

 小坂は隊の中で、恐らく麻乃に一番近かったぶん思うところがあるのだろう。
 迷いなくそう答えた。
 高田も、尾形と加賀野も満足そうな顔でまた少し酒をあおった。
 
「明日は残りの七人にも、このことを伝えておくように。塚本、市原、おまえたちも同様に呼ばれるだろう。そのときには同じように思ったことを答え、疑問を問え」

「はい」

「それから、私たちは今夜このまま、中央へ戻る。塚本、手間だろうが運転を頼まれてくれるか?」

「はぁ、それは構いませんが……」

そういえば、高田は時間がないと言っていた。
 ついさっき戻ってきたばかりで睡眠も取らず、そのままとんぼ返りとは……。

「それでは、俺たちはこれで……」

「まぁ待て。まだ一つ、話しが残っている」

 小坂たちが帰ろうと腰をあげたのを、尾形が制した。

「さっきも言ったが、シタラさまのこのところの様子がおかしかったということでな、豊穣の組み合わせを、カサネさまがあらためたそうだ」

 シタラの様子がおかしいのは、市原も感じていた。
 その雰囲気が、異様に気味悪くてたまらなかった。
 市原以外にも、それに気づいていたものがいたのは当然か。
 高田の言葉を聞き漏らすまいと、小坂たちは黙ったままで聞いている。

「今回の組み合わせ、行き先のすべてに凶兆が出たそうだ」

「……は?」

 杉山が身を乗り出すように聞き返した。
 市原自身もなにかを聞き間違えたのかと思った。

「それに、やつらが持たされた黒玉だが、それもどうやら本物ではないらしい」

「偽物……ですか? それに……凶兆って……シタラさまが出した占筮の結果ですよね? それが凶兆って……どういうことなんですか?」

 黙ったままでいた小坂が、ぽつりとつぶやいた。
 握り締めたこぶしが、膝の上で小さく震えているのがわかる。
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