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島国の戦士
第201話 秘め事 ~麻乃 8~
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修治の漏らした息が、麻乃の頭の上を通り過ぎる。
「おまえはどうなんだ?」
「あたしはなにも変わりはないよ」
「そうか……」
チラリと見ると、修治は腰に手を当て門のほうを向いていた。
「ロマジェリカはずいぶんと難しそうな国じゃないか。まぁ、おまえに心配は無用だろうが、気をつけていってこいよ」
「うん、修治も気をつけて」
修治が帰ろうと車のドアに手をかけたところを、麻乃はまたシャツの裾をつかんで止めた。
「……今度はなんだ?」
小さくため息をついた修治が、麻乃を振り返る。
なんだと問われても、麻乃自身、なにがしたいのかわからない。
「うん……」
「おまえまさか、ビビってるんじゃないだろうな?」
「違うよ、そんなんじゃない。あたしが一緒じゃないからさ、不安なんじゃないかと思っただけだよ」
修治の言葉にハッとして顔をあげ、麻乃は口を尖らせて答えた。
「俺が? おまえがいないから?」
「うん、そう。ホントは不安なんでしょ?」
修治は大声で笑った。
こんなふうに笑ったのを見たのは久しぶりだ。
「馬鹿か、それは俺のセリフだろうが。まぁ、そんな口がたたけるくらいなら心配する必要はなさそうだな」
冗談でも、不安だと言ってくれるかと思った。
まさかこんなに笑われるとは思わず、はにかんだのを隠すように唇を噛んでうつむいた。
それでも、ほんの少しだけ不安が和らいだ気がする。
「……まだ痛むのか?」
「えっ?」
なんのことだかわからずに顔をあげると、修治の視線が麻乃の手もとに向いている。
無意識に右手で左腕を揉むようにしてさすっていた。
「ううん、全然平気。ここしばらくは全然痛まないよ」
厳しい目を向けられてたじろいでしまう。
昨日、痛みを感じたことは悟られないようにしようと思っていたのに。
「このあいだ……直しに出した刀がなかなか戻ってこなくて、実はちょっと不安だったんだ。でも昨日、戻ってきて……今はなにも心配することはないよ。腕だって、ホントに平気だし」
「そうか。なにもないならそれでいい。今度の豊穣が済んだらいろいろと忙しくなるだろうからな、おまえにも面倒をかけるが……」
「面倒なんかじゃないよ、だってあたし、凄く楽しみにしてるもん!」
言葉をさえぎって答えた声のトーンが高くなったせいか、修治の表情に少し焦りの色が見えた。
「だから……一日でも早くさ……あたしたち、無事に帰って来られるよね?」
無事に帰ってこよう。
麻乃は本当はそういうつもりだった。
そう言わなければいけなかったのに、なぜ今、こんな疑問を投げかけてしまったのか。
これ以上、口を開くと言わなくていい言葉ばかりがこぼれ出てきそうで、手のひらで口もとを隠して顔をそむけた。
修治の手が伸びて頭に触れた。
クシャクシャと髪をなでられた感触が、ひどく懐かしい。
「ったく……なんて顔をしてやがるんだ。そんなに不安そうにされたら、こっちまでそんな気分になるだろうが。俺たちは絶対に大丈夫だ。なにもありやしないさ」
「うん、そうだよね……」
そっと胸に寄りかかると、修治は肩を抱き寄せ背中を軽くたたいてくれた。
頬に伝わる温かさが、数秒のあいだ、ただそうしているだけで昔からいつでも安心感をくれる。
突然、肩に触れていた修治の手にグッと力がこもった。
「麻乃、おまえな……あいつにだけはそんな顔を見せるな。あれは必ず、おまえと一緒になって不安になる」
「えっ?」
「動じるなよ、迷うな。いいか? あいつを前に出させて、おまえは後ろをしっかり見てやれ。あいつが振り返ったときには、そんな顔をするんじゃないぞ。絶対にな」
顔を上げると、修治はなぜか怒っているように見え、きつい視線を一点に向けている。
振り返ると、階段の上に鴇汰と穂高が立っていた。
(なんでこのタイミングで来るかな……)
二人の気が合わないのは承知しているし、修治のこととなると鴇汰の反応がきつくなるのも、いい加減わかっている。
やっとホッとできて安心したのもつかの間で、あとでまたなんの言いがかりをつけられるのかと思うとげんなりしてしまう。
「麻乃、帰るんならかばんぐらい持って行けよ、忘れてるぞ」
鴇汰が階段をおりながらかばんをかかげてみせた。
ムッとした表情で、目は修治に向いている。
「ゴチャゴチャ言われても面倒だからな。俺は帰るぞ。おまえも小坂と早く帰れ。それから、俺の言ったことを忘れるなよ」
「うん。わかった。ホントに気をつけて……戻ったらまた、ゆっくり話せるよね?」
黙ってうなずいた修治は車に乗り込み、さっさと敷地を出ていってしまった。
「おまえはどうなんだ?」
「あたしはなにも変わりはないよ」
「そうか……」
チラリと見ると、修治は腰に手を当て門のほうを向いていた。
「ロマジェリカはずいぶんと難しそうな国じゃないか。まぁ、おまえに心配は無用だろうが、気をつけていってこいよ」
「うん、修治も気をつけて」
修治が帰ろうと車のドアに手をかけたところを、麻乃はまたシャツの裾をつかんで止めた。
「……今度はなんだ?」
小さくため息をついた修治が、麻乃を振り返る。
なんだと問われても、麻乃自身、なにがしたいのかわからない。
「うん……」
「おまえまさか、ビビってるんじゃないだろうな?」
「違うよ、そんなんじゃない。あたしが一緒じゃないからさ、不安なんじゃないかと思っただけだよ」
修治の言葉にハッとして顔をあげ、麻乃は口を尖らせて答えた。
「俺が? おまえがいないから?」
「うん、そう。ホントは不安なんでしょ?」
修治は大声で笑った。
こんなふうに笑ったのを見たのは久しぶりだ。
「馬鹿か、それは俺のセリフだろうが。まぁ、そんな口がたたけるくらいなら心配する必要はなさそうだな」
冗談でも、不安だと言ってくれるかと思った。
まさかこんなに笑われるとは思わず、はにかんだのを隠すように唇を噛んでうつむいた。
それでも、ほんの少しだけ不安が和らいだ気がする。
「……まだ痛むのか?」
「えっ?」
なんのことだかわからずに顔をあげると、修治の視線が麻乃の手もとに向いている。
無意識に右手で左腕を揉むようにしてさすっていた。
「ううん、全然平気。ここしばらくは全然痛まないよ」
厳しい目を向けられてたじろいでしまう。
昨日、痛みを感じたことは悟られないようにしようと思っていたのに。
「このあいだ……直しに出した刀がなかなか戻ってこなくて、実はちょっと不安だったんだ。でも昨日、戻ってきて……今はなにも心配することはないよ。腕だって、ホントに平気だし」
「そうか。なにもないならそれでいい。今度の豊穣が済んだらいろいろと忙しくなるだろうからな、おまえにも面倒をかけるが……」
「面倒なんかじゃないよ、だってあたし、凄く楽しみにしてるもん!」
言葉をさえぎって答えた声のトーンが高くなったせいか、修治の表情に少し焦りの色が見えた。
「だから……一日でも早くさ……あたしたち、無事に帰って来られるよね?」
無事に帰ってこよう。
麻乃は本当はそういうつもりだった。
そう言わなければいけなかったのに、なぜ今、こんな疑問を投げかけてしまったのか。
これ以上、口を開くと言わなくていい言葉ばかりがこぼれ出てきそうで、手のひらで口もとを隠して顔をそむけた。
修治の手が伸びて頭に触れた。
クシャクシャと髪をなでられた感触が、ひどく懐かしい。
「ったく……なんて顔をしてやがるんだ。そんなに不安そうにされたら、こっちまでそんな気分になるだろうが。俺たちは絶対に大丈夫だ。なにもありやしないさ」
「うん、そうだよね……」
そっと胸に寄りかかると、修治は肩を抱き寄せ背中を軽くたたいてくれた。
頬に伝わる温かさが、数秒のあいだ、ただそうしているだけで昔からいつでも安心感をくれる。
突然、肩に触れていた修治の手にグッと力がこもった。
「麻乃、おまえな……あいつにだけはそんな顔を見せるな。あれは必ず、おまえと一緒になって不安になる」
「えっ?」
「動じるなよ、迷うな。いいか? あいつを前に出させて、おまえは後ろをしっかり見てやれ。あいつが振り返ったときには、そんな顔をするんじゃないぞ。絶対にな」
顔を上げると、修治はなぜか怒っているように見え、きつい視線を一点に向けている。
振り返ると、階段の上に鴇汰と穂高が立っていた。
(なんでこのタイミングで来るかな……)
二人の気が合わないのは承知しているし、修治のこととなると鴇汰の反応がきつくなるのも、いい加減わかっている。
やっとホッとできて安心したのもつかの間で、あとでまたなんの言いがかりをつけられるのかと思うとげんなりしてしまう。
「麻乃、帰るんならかばんぐらい持って行けよ、忘れてるぞ」
鴇汰が階段をおりながらかばんをかかげてみせた。
ムッとした表情で、目は修治に向いている。
「ゴチャゴチャ言われても面倒だからな。俺は帰るぞ。おまえも小坂と早く帰れ。それから、俺の言ったことを忘れるなよ」
「うん。わかった。ホントに気をつけて……戻ったらまた、ゆっくり話せるよね?」
黙ってうなずいた修治は車に乗り込み、さっさと敷地を出ていってしまった。
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