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島国の戦士
第193話 感受 ~岱胡 4~
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夜になって談話室で、鴇汰とともに隊員たちと騒いでいると、麻乃が駆け込んできた。
「鴇汰、いる?」
「なんだよ? やけに早いじゃんか」
「うん、またすぐ戻るんだけど……姉さんが、ありがとうって言っておいて、って言うから」
二人は入り口に近い椅子に腰をかけた。
「あぁ、やっぱ食えた? そんなら良かった」
「まだお姉さんの具合、良くないんスか?」
鴇汰の隣に腰かけて、そう聞くと麻乃が答える。
「うん、あんまり食欲がないって言うし、貧血なのか、立ってるのが辛そうで。なんだか熱っぽいし」
鴇汰が考え込むようにうつむいてから、真面目な顔で麻乃に問いかけた。
「あの人って、もう結婚してんのか?」
「まだだけど。なんで?」
「……ヤバいんじゃねーかな? あの親父さんだろ?」
「だからなにがよ?」
麻乃が苛立った様子で足を揺らした。
ことによってはまた言い合いになるんじゃないかと、思わず岱胡は身構える。
「はっきりとは言えねーけどさ、あの人……妊娠してねーか?」
なにかを言いかけたまま、麻乃の動きが止まった。
いきなりそんなことを言われれば、そりゃあ、そうなるだろう。
「ちゃんとはわかんねーぞ? 俺、医者じゃねーし。たださ、巧のときがあんな感じだったな、と思って。俺が蓮華になったばっかの年に、食えるもんをいろいろ作ってやったのよ。もし当たりだったら、まだ結婚してないんじゃ、相手の男、ヤバいんじゃねーかな、って……」
「……あ、いや、実は今、婚約中でさ、もうすぐ祝言も挙げるからそれは大丈夫だろうけど」
麻乃はそう言って真っ赤になった。
鴇汰が悪いわけではないのに、あまりの麻乃の驚きように、申し訳なさそうな表情だ。
「そんなら大丈夫か? まぁ、違ってるかもしんねーしな。向こうからなにか言ってくるまでは、滅多なことを言わないほうがいいぞ」
「そっか、うん、そうだよね。わかった」
そう答えながらも、麻乃は浮足立って遠くを見るような目をしている。
「もしそれが本当だったら、あたしに姪っ子か甥っ子が……あたし、もっと腕を上げなきゃ。どこに攻め込まれても、絶対にこの地を踏ませないほどにね」
「はぁ~? それ以上、強くなってどうするんスか?」
岱胡が呆れて言うと、麻乃はキツイ視線で睨みつけてくる。
「だって、このところ、倒れたり怪我ばかりで全然役に立ってないもん。そんなことがないくらい、誰よりも強くならなきゃ……」
恐ろしいほど強い視線の麻乃に、返す言葉もなく、思わず鴇汰と二人、顔を見合せてため息をついた。
「とりあえず、鴇汰、ありがとうね。じゃ、あたし戻るから」
来たときと同様、駆けて出ていく後ろ姿に鴇汰が大声をあげた。
「あ! おい! 地区別の結果は?」
「優勝!」
玄関口に麻乃の声が響き渡る。
「いや~、あわただしいッスね」
出ていった入り口を見つめた。
ほかの隊員たちも半ば唖然とした様子で、麻乃が出ていったほうを見ているのに気づき、岱胡は苦笑いした。
「優勝じゃ、今日はもう、こっちには戻ってこねーな。今ごろ、向こうで大騒ぎだろうし」
「今年は北区が強いらしい、って噂でしたけどね」
頬づえをついて、急に退屈そうな様子になった鴇汰は、だるそうに立ちあがった。
「もう、することもねーし、俺、寝るわ」
「まだ早いっしょ? せっかくだから軽く飲みにでも行きましょうよ」
部屋に戻ろうとする鴇汰をあわてて引き止めた。
暇を持てあまして一人でいるよりは、誰かと一緒にいたほうがいいときもある。
「柳堀だろ? 松恵姐さんやおクマさんに見つかっても面倒だからな。俺はいいから、おまえらだけで行ってこいよ」
「大丈夫ッスよ、そっちには行かないですから。俺だって松恵姐さんのところに行ったのがバレたら、彼女に殺されますもん。ほかに行くやつ、いる~?」
談話室の隊員たちに声をかけると、何人か立ちあがったので、鴇汰の背を押し、連れ立って出かけることにした。
「鴇汰、いる?」
「なんだよ? やけに早いじゃんか」
「うん、またすぐ戻るんだけど……姉さんが、ありがとうって言っておいて、って言うから」
二人は入り口に近い椅子に腰をかけた。
「あぁ、やっぱ食えた? そんなら良かった」
「まだお姉さんの具合、良くないんスか?」
鴇汰の隣に腰かけて、そう聞くと麻乃が答える。
「うん、あんまり食欲がないって言うし、貧血なのか、立ってるのが辛そうで。なんだか熱っぽいし」
鴇汰が考え込むようにうつむいてから、真面目な顔で麻乃に問いかけた。
「あの人って、もう結婚してんのか?」
「まだだけど。なんで?」
「……ヤバいんじゃねーかな? あの親父さんだろ?」
「だからなにがよ?」
麻乃が苛立った様子で足を揺らした。
ことによってはまた言い合いになるんじゃないかと、思わず岱胡は身構える。
「はっきりとは言えねーけどさ、あの人……妊娠してねーか?」
なにかを言いかけたまま、麻乃の動きが止まった。
いきなりそんなことを言われれば、そりゃあ、そうなるだろう。
「ちゃんとはわかんねーぞ? 俺、医者じゃねーし。たださ、巧のときがあんな感じだったな、と思って。俺が蓮華になったばっかの年に、食えるもんをいろいろ作ってやったのよ。もし当たりだったら、まだ結婚してないんじゃ、相手の男、ヤバいんじゃねーかな、って……」
「……あ、いや、実は今、婚約中でさ、もうすぐ祝言も挙げるからそれは大丈夫だろうけど」
麻乃はそう言って真っ赤になった。
鴇汰が悪いわけではないのに、あまりの麻乃の驚きように、申し訳なさそうな表情だ。
「そんなら大丈夫か? まぁ、違ってるかもしんねーしな。向こうからなにか言ってくるまでは、滅多なことを言わないほうがいいぞ」
「そっか、うん、そうだよね。わかった」
そう答えながらも、麻乃は浮足立って遠くを見るような目をしている。
「もしそれが本当だったら、あたしに姪っ子か甥っ子が……あたし、もっと腕を上げなきゃ。どこに攻め込まれても、絶対にこの地を踏ませないほどにね」
「はぁ~? それ以上、強くなってどうするんスか?」
岱胡が呆れて言うと、麻乃はキツイ視線で睨みつけてくる。
「だって、このところ、倒れたり怪我ばかりで全然役に立ってないもん。そんなことがないくらい、誰よりも強くならなきゃ……」
恐ろしいほど強い視線の麻乃に、返す言葉もなく、思わず鴇汰と二人、顔を見合せてため息をついた。
「とりあえず、鴇汰、ありがとうね。じゃ、あたし戻るから」
来たときと同様、駆けて出ていく後ろ姿に鴇汰が大声をあげた。
「あ! おい! 地区別の結果は?」
「優勝!」
玄関口に麻乃の声が響き渡る。
「いや~、あわただしいッスね」
出ていった入り口を見つめた。
ほかの隊員たちも半ば唖然とした様子で、麻乃が出ていったほうを見ているのに気づき、岱胡は苦笑いした。
「優勝じゃ、今日はもう、こっちには戻ってこねーな。今ごろ、向こうで大騒ぎだろうし」
「今年は北区が強いらしい、って噂でしたけどね」
頬づえをついて、急に退屈そうな様子になった鴇汰は、だるそうに立ちあがった。
「もう、することもねーし、俺、寝るわ」
「まだ早いっしょ? せっかくだから軽く飲みにでも行きましょうよ」
部屋に戻ろうとする鴇汰をあわてて引き止めた。
暇を持てあまして一人でいるよりは、誰かと一緒にいたほうがいいときもある。
「柳堀だろ? 松恵姐さんやおクマさんに見つかっても面倒だからな。俺はいいから、おまえらだけで行ってこいよ」
「大丈夫ッスよ、そっちには行かないですから。俺だって松恵姐さんのところに行ったのがバレたら、彼女に殺されますもん。ほかに行くやつ、いる~?」
談話室の隊員たちに声をかけると、何人か立ちあがったので、鴇汰の背を押し、連れ立って出かけることにした。
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