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島国の戦士
第186話 感受 ~鴇汰 3~
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「飯、食ってきたにしちゃ、持って帰ってきた量が多いよな? ホントはそんなに食ってないんだろ?」
「そんなことない」
麻乃の言葉に反して腹の虫が声をあげたのが、鴇汰の肩に伝わってきて思わず吹き出した。
体温が上がったのが手に伝わり、赤くなったんだろうことがわかる。
「どーせまだ食えるんだろ? いいじゃんか、一緒に食おうぜ」
迷ってる思いも手に取るようにわかった。
多分まだ夢のせいで、一人になるのは不安なんだろう。
といって、鴇汰と顔を突き合わせていても、また言い争いになるかもしれないと思っているようだ。
「麻乃が嫌じゃなければだけどさ。どうしても嫌だってんなら、おまえのぶんをわけて渡すから、とりあえず俺んトコに来いよ」
「別に……嫌って訳じゃないけど……」
「そっか」
想像通りの答えだ。
このあいだのときと違って、問答無用でなにも聞き入れない様子じゃない。
怒っているのとも違う。
イエスかノーかの答えしか出せない変に決断を迫る聞きかたをしなければ、今の麻乃はそばに置いておける。
一人にしたら、きっと食堂や談話室、あるいは起きている誰かの部屋を渡り歩いて眠ることもしないだろう。
岱胡の隊には麻乃に一目置いているやつが多い。
そんなところに野放しになんかしておけるか。
「ちょっと、もう本当におろしてよ」
「もう着いたよ」
四階の廊下に出ると、鴇汰は一番手前の部屋のドアを開けた。
まずは地図をドアの横に立てかけて、それからかばんを机に置く。
「さて……と。そんじゃあおろすけど、いきなり殴りつけてくるのはなしにしろよ?」
「だから、そんなことはしないってば!」
「逃げるのも止めてくれよな? 嫌ならすぐに帰すから、ちゃんと言葉で言ってくれよ?」
「……うん」
麻乃の返事を聞いてから、ゆっくりおろした。
ずっと頭を下にして、暴れたり大声を出したりしていたからか、麻乃は足を着いた瞬間、フラッとよろけた。
「今日はホントにごめんな」
鴇汰は支えるふりをして麻乃をギュッと抱き締め、もう一度、小声で謝ってから椅子に座らせた。
我ながら恥ずかしい真似をしてるとは思う。
けれど、どうしてもそうしたかった。
かばんの中は、やっぱり食べ物だけで、大きな入れものが四つあり、それぞれに違うおかずが詰められている。
量も二人分より多い。
「どうする? こっち先に食うか?」
振り返ると、麻乃は疲れきった様子で椅子の背にもたれていた。
あれだけ暴れたんだから当然だろう。
「どっちでも……任せるよ」
「そんなら、こっちでいいよな。俺の飯のほうは、岱胡が戻ってから夜食にでもするか」
作り置いてあった料理を台所のはしによけて、麻乃の持って帰ってきたぶんを温め直した。
あんまり静かだから黙って帰ったんじゃないかと不安になって、何度か振り返ったけれど、麻乃は言葉を探し切れないのか、ただ黙って座っているだけだ。
それでもいるとわかるだけで安心する。
皿に盛って机に並べると、麻乃に好きな量のご飯をよそわせ、向かい側に腰かけて食べ始めた。
(そういやあ、いい肉がどうこうって言ってたけど……)
思い出して、大きめに切って煮込まれた肉に手を伸ばしてみる。
「ん? これってもしかして角猪?」
なかなか顔を上げようとしなかった麻乃の目が、鴇汰に向いた。
「これどうしたのよ?」
「ん……狩った」
「狩ったって……角猪ってめったに見ないよな?」
「うん、でも実家の近くに出て畑を荒らされて困ってる、ってお父さんが言うから。こっちは食材がほしかったところで、ちょうどいいかな、って思って」
口の中に入っていたものを飲み込んでから、麻乃はそう言った。
「だって、あいつら頭いいだろ? 罠にかかりにくいって言うじゃんか」
「罠はね、ほとんどが潰されたけど、動きを探る仕かけは生きてたし、こっちは隊員を半分連れてたから。囲んで輪を縮めるようにして追い立てたんだ」
「へぇ……」
いったん箸を置いて、麻乃が話すのを眺めた。
そのときのことを思い出しながら話しているのか、少しずつ言葉数が増えて、表情も明るくなっている。
「そんなことない」
麻乃の言葉に反して腹の虫が声をあげたのが、鴇汰の肩に伝わってきて思わず吹き出した。
体温が上がったのが手に伝わり、赤くなったんだろうことがわかる。
「どーせまだ食えるんだろ? いいじゃんか、一緒に食おうぜ」
迷ってる思いも手に取るようにわかった。
多分まだ夢のせいで、一人になるのは不安なんだろう。
といって、鴇汰と顔を突き合わせていても、また言い争いになるかもしれないと思っているようだ。
「麻乃が嫌じゃなければだけどさ。どうしても嫌だってんなら、おまえのぶんをわけて渡すから、とりあえず俺んトコに来いよ」
「別に……嫌って訳じゃないけど……」
「そっか」
想像通りの答えだ。
このあいだのときと違って、問答無用でなにも聞き入れない様子じゃない。
怒っているのとも違う。
イエスかノーかの答えしか出せない変に決断を迫る聞きかたをしなければ、今の麻乃はそばに置いておける。
一人にしたら、きっと食堂や談話室、あるいは起きている誰かの部屋を渡り歩いて眠ることもしないだろう。
岱胡の隊には麻乃に一目置いているやつが多い。
そんなところに野放しになんかしておけるか。
「ちょっと、もう本当におろしてよ」
「もう着いたよ」
四階の廊下に出ると、鴇汰は一番手前の部屋のドアを開けた。
まずは地図をドアの横に立てかけて、それからかばんを机に置く。
「さて……と。そんじゃあおろすけど、いきなり殴りつけてくるのはなしにしろよ?」
「だから、そんなことはしないってば!」
「逃げるのも止めてくれよな? 嫌ならすぐに帰すから、ちゃんと言葉で言ってくれよ?」
「……うん」
麻乃の返事を聞いてから、ゆっくりおろした。
ずっと頭を下にして、暴れたり大声を出したりしていたからか、麻乃は足を着いた瞬間、フラッとよろけた。
「今日はホントにごめんな」
鴇汰は支えるふりをして麻乃をギュッと抱き締め、もう一度、小声で謝ってから椅子に座らせた。
我ながら恥ずかしい真似をしてるとは思う。
けれど、どうしてもそうしたかった。
かばんの中は、やっぱり食べ物だけで、大きな入れものが四つあり、それぞれに違うおかずが詰められている。
量も二人分より多い。
「どうする? こっち先に食うか?」
振り返ると、麻乃は疲れきった様子で椅子の背にもたれていた。
あれだけ暴れたんだから当然だろう。
「どっちでも……任せるよ」
「そんなら、こっちでいいよな。俺の飯のほうは、岱胡が戻ってから夜食にでもするか」
作り置いてあった料理を台所のはしによけて、麻乃の持って帰ってきたぶんを温め直した。
あんまり静かだから黙って帰ったんじゃないかと不安になって、何度か振り返ったけれど、麻乃は言葉を探し切れないのか、ただ黙って座っているだけだ。
それでもいるとわかるだけで安心する。
皿に盛って机に並べると、麻乃に好きな量のご飯をよそわせ、向かい側に腰かけて食べ始めた。
(そういやあ、いい肉がどうこうって言ってたけど……)
思い出して、大きめに切って煮込まれた肉に手を伸ばしてみる。
「ん? これってもしかして角猪?」
なかなか顔を上げようとしなかった麻乃の目が、鴇汰に向いた。
「これどうしたのよ?」
「ん……狩った」
「狩ったって……角猪ってめったに見ないよな?」
「うん、でも実家の近くに出て畑を荒らされて困ってる、ってお父さんが言うから。こっちは食材がほしかったところで、ちょうどいいかな、って思って」
口の中に入っていたものを飲み込んでから、麻乃はそう言った。
「だって、あいつら頭いいだろ? 罠にかかりにくいって言うじゃんか」
「罠はね、ほとんどが潰されたけど、動きを探る仕かけは生きてたし、こっちは隊員を半分連れてたから。囲んで輪を縮めるようにして追い立てたんだ」
「へぇ……」
いったん箸を置いて、麻乃が話すのを眺めた。
そのときのことを思い出しながら話しているのか、少しずつ言葉数が増えて、表情も明るくなっている。
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