蓮華

釜瑪 秋摩

文字の大きさ
上 下
182 / 780
島国の戦士

第182話 中央から南へ ~巧 4~

しおりを挟む

鬼丸ヤスシの口から語られた、消えたユキチカの姉であるイヴの話。

それを聞いてシャーロットは自身の記憶を探る。

「シャロ、どうしたの?」

「もしかしたらイヴって人の情報知ってるかも」
シャーロットの発言にみなが振り向く。

「あーでも確証はないよ、それにそんな重要かも分からないし。あのね、ウルティメイトの施設で働いてる時にどのプロジェクトに誰が所属してるか調べたことがあるの。そこには必ず1人分の空欄があったの。わかんないよ、本当にその人か。でも重要そうな、最新鋭の技術が関わる開発プロジェクトに必ずその空欄があるの。他のプロジェクトにはそういうのはなかったの」

シャーロットの発言を聞いてMrs.ストレングスが顎に手を当てる。

「ほお、そりゃあ興味深いね。全てにその空欄が無いって事は別に会社の資料形式がそうなっている訳じゃない。空欄には必ず誰かの名前が本来入るはず。だが名前は記載できない、でも存在してないとは処理できないって事かね……」

Mrs.ストレングスがそういうと少しばかりの沈黙が流れる。

「ごめんなさい」
するとウルルが頭を下げた。

「ちょっとなんでウルルが謝るの?」
ジーナがそういうとウルルが頭を下げながら話す。

「ウルティメイトは私の生みの親でもあります。でも私はその親に関して何も知らない!お役に立てずにいる自分が情けないです」

「だからってそんな落ち込むこと無いじゃないか。知らないことは知らないんだ。あんたは普段からユキチカの面倒を見てくれてるだろ?それだけでも私達は安心さ」

Mrs.ストレングスはウルルの肩に手をおいた。

「で、でも……」

「ウルルさん!ユキチカが素敵な友達に出会えて楽しそうにしてるのも、貴女が身の回りのことをしてくれてるからだ!感謝してる」

ヤスシも笑顔でウルルにそういった。

「だからこれからもユキチカの事を頼んだよ!」
Mrs.ストレングスはウルルの背中を叩いた。

「は、はい!一所懸命つとめます!」

大きく押されたウルルはビシッと姿勢をただす。


ユキチカ達は施設の外に出ていた。
見送りでヤスシ、ブルズアイ、それとショットシェルも出ていた。

「そうだ、シャーロットちゃん、これ御守り」
見送りにきたブルズアイはポケットからネックレスを取り出す。

使用された弾頭と薬莢が2つずつ付けられたネックレスだ。

「外した弾。厄除け?的な弾が貴女に当たらないよう。金属アレルギーじゃないよね?」

そういってブルズアイはネックレスをシャーロットにつけてあげる。

この時ブルズアイはシャーロットに顔を近づけ、彼女にしか聞こえない小さい声で話しかけた。

「私は君のフルネームを知ってるよ。父親の事も」

「ッ!!」
シャーロットが目を見開く。

「やっぱり、隠してるんだね」
「どうしてそれを」
周りに聞こえないようにシャーロットが質問する。

「悪いがそれは言えない、うちの業界で雇用主の情報はあまりおおっぴらに言えないんだ。君ならそのうち出会えるんじゃないかな」

「……」
ネックレスをつけ終え、ブルズアイが離れる。

「それと君の銃の腕は中々良かったよ。将来仕事に困ったら私の所おいで、立派な殺し屋に育ててあげるよ。オススメはしないけどね、それじゃあ」

ブルズアイはそう言って笑顔をシャーロットに向けた。

それを見ていたショットシェル。
彼女はマチェット達のかわりに見送りに来たみたいだ。

「すまない、私はああいうのは用意してなくて」
「いいよ、気にしないで」

ジーナがそういうとショットシェルはジーナを抱き上げた。

「また遊びに来ると良い!ジーナとの戦いは楽しかったからな!今度は負けない」
「そう言ってもらえて何より。でも私はあなたとの戦いで身体ボロボロだから下ろして貰えると嬉しいんだけど、ってちょっ!?」
ジーナを抱きしめるショットシェル。

「ちょっと!本当に、マジで身体ボロボロだから!そんな強く、抱きしめないで……ぐえ!」

ジーナが開放された所でユキチカ達は船に乗り込み出発することに。

「またなァァァ!!いつでも帰ってこいよー」
目、鼻、口から滝のような別れの涙を流しながら、ヤスシは見送った。

「手続きめんどくさいから程々にな」
「ばいばーい」
キビとユキチカが手を振る。

その後ろでうなだれたジーナに、呼びかけるシャーロットとウルル。

「ジーナ、ジーナ!」
「ジーナ様!大丈夫ですか!?」
「な、なんとか、あの剛腕に絞め殺されずに済んだよ……」

こうしてユキチカ達は”賑やかな実家”から出発した。



ウルティメイト社最上階のオフィス。
そこではリリィがモニターに向かって何か話していた。

「どういうつもりですか。あの場所に送り込むなんて」

「鬼丸ユキチカの情報を盗み出そうとしたんだ。潜入させるまでは成功したんだがなー。ダメだったみたいだ」

どうやら話の相手は男性のようだ。

「紛争により身体機能を失った者、そんな彼女達が社会復帰できるように私達の技術で体の機能を復元するという話だったのではないですか?カイ・ザイクが行っていた改造手術を利用して、まさか人間兵器にするなんて。あなたの手駒にする為に彼女達を助けた訳じゃない!」

リリィの声に怒りの感情が乗る。

「珍しいな、君がそこまで感情的になるなんて。いつもは仕事を淡々とこなしてくれているじゃないか」

「私にも我慢ならない事はあります」
拳を握りしめるリリィ。

「彼女たちは生まれ変わった、失った体の機能、それ以上のものを手に入れたんだ。これからの時代を牽引するのは彼女達のような新人類なのだよ」

「そういって彼女達をそそのかして、殺したのはあなたみたいなものですよ」
余裕そうな相手の話し方がリリィの神経を逆なでする。

「私は生きて帰ると思っていた、結果は違ったがな。そういえば君はさっきこういったね、あの子達は私の手駒にする為に助けた訳じゃないって、それは勘違いだよ。私は彼女達を自分の手駒だなんて思っちゃいない。彼女たちはただ自分達の役目を全うしただけだ」

「役目?」
リリィが震える声で聞き返すと相手はその余裕な態度を崩さずに答える。

「この世に存在する者はみな役目が与えられている。それを全うするのが正しい世界の在り方だ。役目から目を逸らすことは世界に仇名す行為に等しい。彼女たちは見事に役目を果たした。サイボーグ手術を受けた者が実戦ではどのような性能を発揮できるのか、その貴重なデータを提示してくれた」

「っ!」
握りしめた拳に更に力がこめられる。

「さて、私もこう見えて忙しい身でね。そろそろ失礼するよ、久しぶりに君と話せて楽しかった、では良い一日を」

リリィが何か言おうと口を開いた時、相手が話を差し込み通信を切ってしまった。


その直後、部屋にヒメヅカが入って来た。
「リリィさん」

「はぁ、いかんね。どうもアイツは嫌いでな、感情的になるのは柄じゃないんだが。本当、直接話していたら何度アイツをぶん殴っているか分からないよ」

そう言って髪をかき上げてリリィは笑顔を見せる。

「……なぁヒメヅカ」
「はいリリィさん」

リリィは鏡の前に立つ。

「私はこの顔が好きだ。我ながら素晴らしい出来だと思うよ。そっくりだ」
「はい、美しいですよ」

鏡に映った自分の顔に手を当てる。

「でもこれは本当にあのお方の為になっているんだろうか。時折分からなくなる」
「それは私にも分かりません、私はあのお方ではないですから。ですが私はどんな事があろうとも貴女を愛し続けます」

ヒメヅカはそう言ってリリィの肩に手を置く。

「ふふふ、そうか……ありがとう」
肩に置かれた手を握るリリィ、その表情は先ほどの怒りに満ちたものとは違い、非常に安堵している様子だ。

「そうだ、君も新しい役職になったし、これからは会える時間が短くなるのかな?君の昇進は嬉しいが寂しいな」

「そんな事が無いよう全力を尽くします。さぁ、今日はもうお仕事終わりましたし、何か飲み物でも用意しましょうか?」

ヒメヅカがそう言うとリリィはソファに腰掛ける。

「そうだな、今夜は少し強めのが飲みたい」
「ふふふ、畏まりました」

しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

【完結】仰る通り、貴方の子ではありません

ユユ
恋愛
辛い悪阻と難産を経て産まれたのは 私に似た待望の男児だった。 なのに認められず、 不貞の濡れ衣を着せられ、 追い出されてしまった。 実家からも勘当され 息子と2人で生きていくことにした。 * 作り話です * 暇つぶしにどうぞ * 4万文字未満 * 完結保証付き * 少し大人表現あり

父が再婚しました

Ruhuna
ファンタジー
母が亡くなって1ヶ月後に 父が再婚しました

主役の聖女は死にました

F.conoe
ファンタジー
聖女と一緒に召喚された私。私は聖女じゃないのに、聖女とされた。

【完結】失いかけた君にもう一度

暮田呉子
恋愛
偶然、振り払った手が婚約者の頬に当たってしまった。 叩くつもりはなかった。 しかし、謝ろうとした矢先、彼女は全てを捨てていなくなってしまった──。

【完結】妃が毒を盛っている。

井上 佳
ファンタジー
2年前から病床に臥しているハイディルベルクの王には、息子が2人いる。 王妃フリーデの息子で第一王子のジークムント。 側妃ガブリエレの息子で第二王子のハルトヴィヒ。 いま王が崩御するようなことがあれば、第一王子が玉座につくことになるのは間違いないだろう。 貴族が集まって出る一番の話題は、王の後継者を推測することだった―― 見舞いに来たエルメンヒルデ・シュティルナー侯爵令嬢。 「エルメンヒルデか……。」 「はい。お側に寄っても?」 「ああ、おいで。」 彼女の行動が、出会いが、全てを解決に導く――。 この優しい王の、原因不明の病気とはいったい……? ※オリジナルファンタジー第1作目カムバックイェイ!! ※妖精王チートですので細かいことは気にしない。 ※隣国の王子はテンプレですよね。 ※イチオシは護衛たちとの気安いやり取り ※最後のほうにざまぁがあるようなないような ※敬語尊敬語滅茶苦茶御免!(なさい) ※他サイトでは佳(ケイ)+苗字で掲載中 ※完結保証……保障と保証がわからない! 2022.11.26 18:30 完結しました。 お付き合いいただきありがとうございました!

夫達の裏切りに復讐心で一杯だった私は、死の間際に本当の願いを見つけ幸せになれました。

Nao*
恋愛
家庭を顧みず、外泊も増えた夫ダリス。 それを寂しく思う私だったが、庭師のサムとその息子のシャルに癒される日々を送って居た。 そして私達は、三人であるバラの苗を庭に植える。 しかしその後…夫と親友のエリザによって、私は酷い裏切りを受ける事に─。 命の危機が迫る中、私の心は二人への復讐心で一杯になるが…駆けつけたシャルとサムを前に、本当の願いを見つけて─? (1万字以上と少し長いので、短編集とは別にしてあります)

断る――――前にもそう言ったはずだ

鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」  結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。  周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。  けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。  他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。 (わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)  そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。  ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。  そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?

処理中です...