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島国の戦士
第154話 情報収集 ~麻乃 2~
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「みんな、そう思ってますよ。持ち回りの件にしても、近ごろはなんだかやけに大胆な組み合わせですしね」
「やっぱりそう思う? あたしがここの常任になった影響なのかな……」
「それは関係ないっしょ。あ、ここがロマジェリカの上陸ポイントですよ」
あっさりと否定する岱胡の表情をジッと見た。
まるで他意のない顔をしているところを見ると、本当にそう思っているらしい。
のらりくらりとしながらも、あくまで自分のペースで考えて動くやつがそう言ってくれると救われる気がした。
「奉納の場所は比較的、城から近い場所にあるんですけど、この付近は高低差があるから見つかりにくいんですよ」
岱胡が地図をなぞって指したところを見ると、確かに奉納場所から城まではそう離れていない。
「高低差があるってことは、山の中腹とかにあるんだ?」
「ええ。とは言ってもうちの山と同じに考えちゃ駄目ッスよ。なにしろ、木々のほとんどが立ち枯れていますから」
「ってことは、茂みに身を隠したりするのは……?」
「まず無理ですね」
山の木々が立ち枯れているといっても、どの程度なのか、麻乃には想像もつかない。
ヘイトでは、奉納場所に着くまで比較的、緑が多かった。
毎年奉納をしているにも関わらず、周辺にさえも緑が増えないのは、よほど土地が荒れているんだろうか。
「それより、梁瀬さんも鴇汰さんも来るんなら、そのときに話せばいいんじゃないッスか?」
「うん、そうなんだけどさ、姉さんの具合が悪いみたいで、今夜もこっちに戻れるかわからないんだよ。だから時間が惜しい」
「あぁ、それじゃ仕方ないッスよね」
岱胡と二人、地図を合わせながら、これまで使っていたというルートを書き込み、周辺の情報を得た。
今夜、詰所に戻れなくても、これがあれば道場でイメージが固めやすくなる。
「ルートはいくつかあるんですけど、俺たちはいつもここ、それかこっち、二つのどっちかを使います」
「ふうん……何か理由があるの?」
「枯れてるといっても、やっぱりなにもないよりは木立があったほうが目立ちにくいッスからね」
地図に赤ペンでルートを引いたあと、木々の多いところと川に印をつけた。
川に沿うように、奉納場所へ近づくにつれ木々の印が増えていくところを見ると、雰囲気としては西区の大演習場に似た感じだろう。
「身を隠せないってことは、こっちも丸見えだけど、向こうも近づいてくればすぐにわかるよね」
「そうですね、一度だけ遭遇したことがあるんッスけど、ここら辺だったかな……」
「遭遇って、一般の人じゃなくて?」
「敵兵ッスよ。奉納が済んだ帰りでした。それでこの川、水量があるんで、崖から飛び込んで逃げてきたんッス」
岱胡はまるで当たり前のことのように、淡々と説明してくれた。
その国の兵士と遭遇することなんて、皆無に近いのに、そんな状況に陥っても平然としているのがおかしい。
「それって凄く大変なことじゃん。逃げられなかったりしたらどうするつもりだったのよ?」
「そりゃあ、そのときは戦うしかないでしょうけど……まぁ、ここは川沿いにいるかぎりは、飛び込めば逃げられるんで大丈夫ッスよ」
争いを仕かけにいくわけじゃなく、奉納が目的なだけに、万一にもその国の兵士と出くわしたときには逃げることが優先になっている。
岱胡のいうように、川沿いであれば比較的楽に逃げることが可能だろう。
はぐれてしまったときに落ち合う場所も考えなければいけないということか。
(ただ――)
この国は城が近い。
気づかれて襲撃をされる可能性が高そうだ。
慣れている穂高や岱胡なら、うまく動いてかわせるんだろうけれど、麻乃と鴇汰はどうだろうか。
それに……見つかってしまったときに、麻乃自身の状態が良くなかったら……?
逃げることを優先としないで、簡単に抜いてしまうかもしれない。
あるいは、このあいだの庸儀戦のときと同じようなことが起こるかもしれない。
(あたし次第で、鴇汰をも危険に晒すことになるかも知れないんだ)
今度ばかりは修治が一緒じゃないことに、麻乃は不安と恐怖を感じた。
「やっぱりそう思う? あたしがここの常任になった影響なのかな……」
「それは関係ないっしょ。あ、ここがロマジェリカの上陸ポイントですよ」
あっさりと否定する岱胡の表情をジッと見た。
まるで他意のない顔をしているところを見ると、本当にそう思っているらしい。
のらりくらりとしながらも、あくまで自分のペースで考えて動くやつがそう言ってくれると救われる気がした。
「奉納の場所は比較的、城から近い場所にあるんですけど、この付近は高低差があるから見つかりにくいんですよ」
岱胡が地図をなぞって指したところを見ると、確かに奉納場所から城まではそう離れていない。
「高低差があるってことは、山の中腹とかにあるんだ?」
「ええ。とは言ってもうちの山と同じに考えちゃ駄目ッスよ。なにしろ、木々のほとんどが立ち枯れていますから」
「ってことは、茂みに身を隠したりするのは……?」
「まず無理ですね」
山の木々が立ち枯れているといっても、どの程度なのか、麻乃には想像もつかない。
ヘイトでは、奉納場所に着くまで比較的、緑が多かった。
毎年奉納をしているにも関わらず、周辺にさえも緑が増えないのは、よほど土地が荒れているんだろうか。
「それより、梁瀬さんも鴇汰さんも来るんなら、そのときに話せばいいんじゃないッスか?」
「うん、そうなんだけどさ、姉さんの具合が悪いみたいで、今夜もこっちに戻れるかわからないんだよ。だから時間が惜しい」
「あぁ、それじゃ仕方ないッスよね」
岱胡と二人、地図を合わせながら、これまで使っていたというルートを書き込み、周辺の情報を得た。
今夜、詰所に戻れなくても、これがあれば道場でイメージが固めやすくなる。
「ルートはいくつかあるんですけど、俺たちはいつもここ、それかこっち、二つのどっちかを使います」
「ふうん……何か理由があるの?」
「枯れてるといっても、やっぱりなにもないよりは木立があったほうが目立ちにくいッスからね」
地図に赤ペンでルートを引いたあと、木々の多いところと川に印をつけた。
川に沿うように、奉納場所へ近づくにつれ木々の印が増えていくところを見ると、雰囲気としては西区の大演習場に似た感じだろう。
「身を隠せないってことは、こっちも丸見えだけど、向こうも近づいてくればすぐにわかるよね」
「そうですね、一度だけ遭遇したことがあるんッスけど、ここら辺だったかな……」
「遭遇って、一般の人じゃなくて?」
「敵兵ッスよ。奉納が済んだ帰りでした。それでこの川、水量があるんで、崖から飛び込んで逃げてきたんッス」
岱胡はまるで当たり前のことのように、淡々と説明してくれた。
その国の兵士と遭遇することなんて、皆無に近いのに、そんな状況に陥っても平然としているのがおかしい。
「それって凄く大変なことじゃん。逃げられなかったりしたらどうするつもりだったのよ?」
「そりゃあ、そのときは戦うしかないでしょうけど……まぁ、ここは川沿いにいるかぎりは、飛び込めば逃げられるんで大丈夫ッスよ」
争いを仕かけにいくわけじゃなく、奉納が目的なだけに、万一にもその国の兵士と出くわしたときには逃げることが優先になっている。
岱胡のいうように、川沿いであれば比較的楽に逃げることが可能だろう。
はぐれてしまったときに落ち合う場所も考えなければいけないということか。
(ただ――)
この国は城が近い。
気づかれて襲撃をされる可能性が高そうだ。
慣れている穂高や岱胡なら、うまく動いてかわせるんだろうけれど、麻乃と鴇汰はどうだろうか。
それに……見つかってしまったときに、麻乃自身の状態が良くなかったら……?
逃げることを優先としないで、簡単に抜いてしまうかもしれない。
あるいは、このあいだの庸儀戦のときと同じようなことが起こるかもしれない。
(あたし次第で、鴇汰をも危険に晒すことになるかも知れないんだ)
今度ばかりは修治が一緒じゃないことに、麻乃は不安と恐怖を感じた。
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