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島国の戦士
第149話 修復 ~麻乃 8~
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一番後ろに停まっているトラックまできたとき、鴇汰と洸の話し声が聞こえて、麻乃は荷台の陰で足を止めた。
「俺、基礎が大事なのはわかってたんですけど、最近はずっと焦ってて……」
「まぁ、そんな時期もあるよな。俺だって同じことをした時期があったし」
「俺……どうしても一矢報いたい相手がいる、っていうか……次にやったときは絶対に負けたくなくて……」
鴇汰は腕を組んで車に寄りかかっている。
黙っていられるのが不安なのか、いつもはあまり話さない洸が、いつになく饒舌になっているようだ。
(あたしには生意気な態度ばかりなのに、初めて会った鴇汰にはそんな話しまでするんだ。似たもの同士で気が合うのかねぇ?)
「技を身につけて挑めば勝てるって思ってました。大剣のことも持ち替えたら刀相手なら絶対負けないって……」
「……勝ちたい相手って、もしかして麻乃?」
突然、麻乃の名前が出て驚いた。
洸は黙ったままうつむいている。
鴇汰は大きなため息をつき、前髪を掻きあげてから頭を掻いた。
「得物の問題じゃねーんだよな……そういうつもりで扱うんならやめといたほうがいいぜ」
「それだけ、っていう訳じゃありません。ずっと刀でやってきたんですけど、近ごろはなんだか物足りないっていうか、なにか違う気がして」
「どっちでも構わないんだけどな。目指す相手がいるってのも悪いことじゃねーし。でも、おまえじゃ無理だな。麻乃には勝てない」
洸は少しムッとした顔で鴇汰を見た。
技にこだわっていたのが麻乃のせいだったとは、まったく気づかなかったけれど、今の洸の表情は演習で見たときと同じだ。
「あいつの腕前はガキのころから、それこそ泣きながら鍛錬して、血反吐を吐いてまで身につけたものらしいからな。ちょっとくらい腕が立つってだけじゃ敵わねーよ」
「でも……もしかしたら……万が一ってこともないっていうんですか?」
「ねーな。ハッキリ言うけど俺はおまえとなら、十回やって全部を楽に勝てる。けどな、麻乃とじゃ、十回を本気でやって三回勝てるかどうかだぜ? 俺でさえそれだけの差があるんだよ。それが偶然だろうが万が一だろうが、あっさり勝たれちゃ、こっちの立場がねーもんな。それになにより、麻乃相手に偶然はありえない」
確かに、蓮華のほかのみんなと立ち合ったら、修治以外となら勝ち越す自信はある。
とはいえ、鴇汰がそんなに麻乃の腕前を評価してくれているとは思わなかった。
「初めはそんなに差があると思えませんでした。楽に勝てるって思って……そしたら、あっさり負けて……俺、次は絶対に負けないって言ったんですけど……」
鴇汰が体を起こして洸をジッと見すえ、表情を緩めた。
「……格が違うから無理だ、って言われたろ?」
洸が鴇汰のほうを見て大きくうなずいている。
「あいつなぁ、小せぇもんな。侮る気持ちもわかるよ。勝ちたいって思うのもな。でも、そんなことよりもっと大事なことがあるのよ。まぁ、そのうち、おまえにもわかるだろうけどさ」
「大事なこと、ですか?」
「あぁ、けど、まだ先の話しだな。今はとにかく、明日からの地区別をしっかりやってこいよ。俺は東出身だから、建前として応援はできねーけどさ」
「今日、大剣を振るったとき、凄くしっくりきました。これからまた、基礎からしっかり鍛え直します。そうしたらまた、大剣、教えてもらえますか?」
「おまえ、デカイし力もあるから使い甲斐はあると思うよ。あんまり人に教えるのはうまくねーけど、それでもいいなら、またやろうぜ」
その言葉にホッとしたのか、嬉しかったのか、洸の表情は明るい。
お礼を言ってぺこりと頭をさげると、こちらに向かって歩き出した。
麻乃は慌てて荷台の後ろに回り、車体の反対側に身を隠した。
洸が戻ったとなると、本当にあと少しでみんな出発するだろう。
見送りに出なければ、そう思って戻りかけたとき、後ろから鴇汰の声が追ってきた。
「立ち聞きは悪趣味なんじゃなかったのかよ」
――なんだ、バレていたのか。
「気づいてたんだ? あたしの名前が出たから出にくくてさ」
荷台の陰から出ると、照れ隠しに笑ってみせた。
鴇汰は腕時計を見てから麻乃に目を向けてきた。
視線を合わせるのが怖くて逸らしてしまうのに、その動きは気になって、いつも麻乃は気づくと鴇汰の仕草一つ一つを目で追っている。
「俺、基礎が大事なのはわかってたんですけど、最近はずっと焦ってて……」
「まぁ、そんな時期もあるよな。俺だって同じことをした時期があったし」
「俺……どうしても一矢報いたい相手がいる、っていうか……次にやったときは絶対に負けたくなくて……」
鴇汰は腕を組んで車に寄りかかっている。
黙っていられるのが不安なのか、いつもはあまり話さない洸が、いつになく饒舌になっているようだ。
(あたしには生意気な態度ばかりなのに、初めて会った鴇汰にはそんな話しまでするんだ。似たもの同士で気が合うのかねぇ?)
「技を身につけて挑めば勝てるって思ってました。大剣のことも持ち替えたら刀相手なら絶対負けないって……」
「……勝ちたい相手って、もしかして麻乃?」
突然、麻乃の名前が出て驚いた。
洸は黙ったままうつむいている。
鴇汰は大きなため息をつき、前髪を掻きあげてから頭を掻いた。
「得物の問題じゃねーんだよな……そういうつもりで扱うんならやめといたほうがいいぜ」
「それだけ、っていう訳じゃありません。ずっと刀でやってきたんですけど、近ごろはなんだか物足りないっていうか、なにか違う気がして」
「どっちでも構わないんだけどな。目指す相手がいるってのも悪いことじゃねーし。でも、おまえじゃ無理だな。麻乃には勝てない」
洸は少しムッとした顔で鴇汰を見た。
技にこだわっていたのが麻乃のせいだったとは、まったく気づかなかったけれど、今の洸の表情は演習で見たときと同じだ。
「あいつの腕前はガキのころから、それこそ泣きながら鍛錬して、血反吐を吐いてまで身につけたものらしいからな。ちょっとくらい腕が立つってだけじゃ敵わねーよ」
「でも……もしかしたら……万が一ってこともないっていうんですか?」
「ねーな。ハッキリ言うけど俺はおまえとなら、十回やって全部を楽に勝てる。けどな、麻乃とじゃ、十回を本気でやって三回勝てるかどうかだぜ? 俺でさえそれだけの差があるんだよ。それが偶然だろうが万が一だろうが、あっさり勝たれちゃ、こっちの立場がねーもんな。それになにより、麻乃相手に偶然はありえない」
確かに、蓮華のほかのみんなと立ち合ったら、修治以外となら勝ち越す自信はある。
とはいえ、鴇汰がそんなに麻乃の腕前を評価してくれているとは思わなかった。
「初めはそんなに差があると思えませんでした。楽に勝てるって思って……そしたら、あっさり負けて……俺、次は絶対に負けないって言ったんですけど……」
鴇汰が体を起こして洸をジッと見すえ、表情を緩めた。
「……格が違うから無理だ、って言われたろ?」
洸が鴇汰のほうを見て大きくうなずいている。
「あいつなぁ、小せぇもんな。侮る気持ちもわかるよ。勝ちたいって思うのもな。でも、そんなことよりもっと大事なことがあるのよ。まぁ、そのうち、おまえにもわかるだろうけどさ」
「大事なこと、ですか?」
「あぁ、けど、まだ先の話しだな。今はとにかく、明日からの地区別をしっかりやってこいよ。俺は東出身だから、建前として応援はできねーけどさ」
「今日、大剣を振るったとき、凄くしっくりきました。これからまた、基礎からしっかり鍛え直します。そうしたらまた、大剣、教えてもらえますか?」
「おまえ、デカイし力もあるから使い甲斐はあると思うよ。あんまり人に教えるのはうまくねーけど、それでもいいなら、またやろうぜ」
その言葉にホッとしたのか、嬉しかったのか、洸の表情は明るい。
お礼を言ってぺこりと頭をさげると、こちらに向かって歩き出した。
麻乃は慌てて荷台の後ろに回り、車体の反対側に身を隠した。
洸が戻ったとなると、本当にあと少しでみんな出発するだろう。
見送りに出なければ、そう思って戻りかけたとき、後ろから鴇汰の声が追ってきた。
「立ち聞きは悪趣味なんじゃなかったのかよ」
――なんだ、バレていたのか。
「気づいてたんだ? あたしの名前が出たから出にくくてさ」
荷台の陰から出ると、照れ隠しに笑ってみせた。
鴇汰は腕時計を見てから麻乃に目を向けてきた。
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