149 / 780
島国の戦士
第149話 修復 ~麻乃 8~
しおりを挟む
一番後ろに停まっているトラックまできたとき、鴇汰と洸の話し声が聞こえて、麻乃は荷台の陰で足を止めた。
「俺、基礎が大事なのはわかってたんですけど、最近はずっと焦ってて……」
「まぁ、そんな時期もあるよな。俺だって同じことをした時期があったし」
「俺……どうしても一矢報いたい相手がいる、っていうか……次にやったときは絶対に負けたくなくて……」
鴇汰は腕を組んで車に寄りかかっている。
黙っていられるのが不安なのか、いつもはあまり話さない洸が、いつになく饒舌になっているようだ。
(あたしには生意気な態度ばかりなのに、初めて会った鴇汰にはそんな話しまでするんだ。似たもの同士で気が合うのかねぇ?)
「技を身につけて挑めば勝てるって思ってました。大剣のことも持ち替えたら刀相手なら絶対負けないって……」
「……勝ちたい相手って、もしかして麻乃?」
突然、麻乃の名前が出て驚いた。
洸は黙ったままうつむいている。
鴇汰は大きなため息をつき、前髪を掻きあげてから頭を掻いた。
「得物の問題じゃねーんだよな……そういうつもりで扱うんならやめといたほうがいいぜ」
「それだけ、っていう訳じゃありません。ずっと刀でやってきたんですけど、近ごろはなんだか物足りないっていうか、なにか違う気がして」
「どっちでも構わないんだけどな。目指す相手がいるってのも悪いことじゃねーし。でも、おまえじゃ無理だな。麻乃には勝てない」
洸は少しムッとした顔で鴇汰を見た。
技にこだわっていたのが麻乃のせいだったとは、まったく気づかなかったけれど、今の洸の表情は演習で見たときと同じだ。
「あいつの腕前はガキのころから、それこそ泣きながら鍛錬して、血反吐を吐いてまで身につけたものらしいからな。ちょっとくらい腕が立つってだけじゃ敵わねーよ」
「でも……もしかしたら……万が一ってこともないっていうんですか?」
「ねーな。ハッキリ言うけど俺はおまえとなら、十回やって全部を楽に勝てる。けどな、麻乃とじゃ、十回を本気でやって三回勝てるかどうかだぜ? 俺でさえそれだけの差があるんだよ。それが偶然だろうが万が一だろうが、あっさり勝たれちゃ、こっちの立場がねーもんな。それになにより、麻乃相手に偶然はありえない」
確かに、蓮華のほかのみんなと立ち合ったら、修治以外となら勝ち越す自信はある。
とはいえ、鴇汰がそんなに麻乃の腕前を評価してくれているとは思わなかった。
「初めはそんなに差があると思えませんでした。楽に勝てるって思って……そしたら、あっさり負けて……俺、次は絶対に負けないって言ったんですけど……」
鴇汰が体を起こして洸をジッと見すえ、表情を緩めた。
「……格が違うから無理だ、って言われたろ?」
洸が鴇汰のほうを見て大きくうなずいている。
「あいつなぁ、小せぇもんな。侮る気持ちもわかるよ。勝ちたいって思うのもな。でも、そんなことよりもっと大事なことがあるのよ。まぁ、そのうち、おまえにもわかるだろうけどさ」
「大事なこと、ですか?」
「あぁ、けど、まだ先の話しだな。今はとにかく、明日からの地区別をしっかりやってこいよ。俺は東出身だから、建前として応援はできねーけどさ」
「今日、大剣を振るったとき、凄くしっくりきました。これからまた、基礎からしっかり鍛え直します。そうしたらまた、大剣、教えてもらえますか?」
「おまえ、デカイし力もあるから使い甲斐はあると思うよ。あんまり人に教えるのはうまくねーけど、それでもいいなら、またやろうぜ」
その言葉にホッとしたのか、嬉しかったのか、洸の表情は明るい。
お礼を言ってぺこりと頭をさげると、こちらに向かって歩き出した。
麻乃は慌てて荷台の後ろに回り、車体の反対側に身を隠した。
洸が戻ったとなると、本当にあと少しでみんな出発するだろう。
見送りに出なければ、そう思って戻りかけたとき、後ろから鴇汰の声が追ってきた。
「立ち聞きは悪趣味なんじゃなかったのかよ」
――なんだ、バレていたのか。
「気づいてたんだ? あたしの名前が出たから出にくくてさ」
荷台の陰から出ると、照れ隠しに笑ってみせた。
鴇汰は腕時計を見てから麻乃に目を向けてきた。
視線を合わせるのが怖くて逸らしてしまうのに、その動きは気になって、いつも麻乃は気づくと鴇汰の仕草一つ一つを目で追っている。
「俺、基礎が大事なのはわかってたんですけど、最近はずっと焦ってて……」
「まぁ、そんな時期もあるよな。俺だって同じことをした時期があったし」
「俺……どうしても一矢報いたい相手がいる、っていうか……次にやったときは絶対に負けたくなくて……」
鴇汰は腕を組んで車に寄りかかっている。
黙っていられるのが不安なのか、いつもはあまり話さない洸が、いつになく饒舌になっているようだ。
(あたしには生意気な態度ばかりなのに、初めて会った鴇汰にはそんな話しまでするんだ。似たもの同士で気が合うのかねぇ?)
「技を身につけて挑めば勝てるって思ってました。大剣のことも持ち替えたら刀相手なら絶対負けないって……」
「……勝ちたい相手って、もしかして麻乃?」
突然、麻乃の名前が出て驚いた。
洸は黙ったままうつむいている。
鴇汰は大きなため息をつき、前髪を掻きあげてから頭を掻いた。
「得物の問題じゃねーんだよな……そういうつもりで扱うんならやめといたほうがいいぜ」
「それだけ、っていう訳じゃありません。ずっと刀でやってきたんですけど、近ごろはなんだか物足りないっていうか、なにか違う気がして」
「どっちでも構わないんだけどな。目指す相手がいるってのも悪いことじゃねーし。でも、おまえじゃ無理だな。麻乃には勝てない」
洸は少しムッとした顔で鴇汰を見た。
技にこだわっていたのが麻乃のせいだったとは、まったく気づかなかったけれど、今の洸の表情は演習で見たときと同じだ。
「あいつの腕前はガキのころから、それこそ泣きながら鍛錬して、血反吐を吐いてまで身につけたものらしいからな。ちょっとくらい腕が立つってだけじゃ敵わねーよ」
「でも……もしかしたら……万が一ってこともないっていうんですか?」
「ねーな。ハッキリ言うけど俺はおまえとなら、十回やって全部を楽に勝てる。けどな、麻乃とじゃ、十回を本気でやって三回勝てるかどうかだぜ? 俺でさえそれだけの差があるんだよ。それが偶然だろうが万が一だろうが、あっさり勝たれちゃ、こっちの立場がねーもんな。それになにより、麻乃相手に偶然はありえない」
確かに、蓮華のほかのみんなと立ち合ったら、修治以外となら勝ち越す自信はある。
とはいえ、鴇汰がそんなに麻乃の腕前を評価してくれているとは思わなかった。
「初めはそんなに差があると思えませんでした。楽に勝てるって思って……そしたら、あっさり負けて……俺、次は絶対に負けないって言ったんですけど……」
鴇汰が体を起こして洸をジッと見すえ、表情を緩めた。
「……格が違うから無理だ、って言われたろ?」
洸が鴇汰のほうを見て大きくうなずいている。
「あいつなぁ、小せぇもんな。侮る気持ちもわかるよ。勝ちたいって思うのもな。でも、そんなことよりもっと大事なことがあるのよ。まぁ、そのうち、おまえにもわかるだろうけどさ」
「大事なこと、ですか?」
「あぁ、けど、まだ先の話しだな。今はとにかく、明日からの地区別をしっかりやってこいよ。俺は東出身だから、建前として応援はできねーけどさ」
「今日、大剣を振るったとき、凄くしっくりきました。これからまた、基礎からしっかり鍛え直します。そうしたらまた、大剣、教えてもらえますか?」
「おまえ、デカイし力もあるから使い甲斐はあると思うよ。あんまり人に教えるのはうまくねーけど、それでもいいなら、またやろうぜ」
その言葉にホッとしたのか、嬉しかったのか、洸の表情は明るい。
お礼を言ってぺこりと頭をさげると、こちらに向かって歩き出した。
麻乃は慌てて荷台の後ろに回り、車体の反対側に身を隠した。
洸が戻ったとなると、本当にあと少しでみんな出発するだろう。
見送りに出なければ、そう思って戻りかけたとき、後ろから鴇汰の声が追ってきた。
「立ち聞きは悪趣味なんじゃなかったのかよ」
――なんだ、バレていたのか。
「気づいてたんだ? あたしの名前が出たから出にくくてさ」
荷台の陰から出ると、照れ隠しに笑ってみせた。
鴇汰は腕時計を見てから麻乃に目を向けてきた。
視線を合わせるのが怖くて逸らしてしまうのに、その動きは気になって、いつも麻乃は気づくと鴇汰の仕草一つ一つを目で追っている。
0
お気に入りに追加
10
あなたにおすすめの小説
どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします
文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。
夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。
エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。
「ゲルハルトさま、愛しています」
ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。
「エレーヌ、俺はあなたが憎い」
エレーヌは凍り付いた。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
【完結】仰る通り、貴方の子ではありません
ユユ
恋愛
辛い悪阻と難産を経て産まれたのは
私に似た待望の男児だった。
なのに認められず、
不貞の濡れ衣を着せられ、
追い出されてしまった。
実家からも勘当され
息子と2人で生きていくことにした。
* 作り話です
* 暇つぶしにどうぞ
* 4万文字未満
* 完結保証付き
* 少し大人表現あり
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
断る――――前にもそう言ったはずだ
鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」
結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。
周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。
けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。
他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。
(わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)
そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。
ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。
そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
夫達の裏切りに復讐心で一杯だった私は、死の間際に本当の願いを見つけ幸せになれました。
Nao*
恋愛
家庭を顧みず、外泊も増えた夫ダリス。
それを寂しく思う私だったが、庭師のサムとその息子のシャルに癒される日々を送って居た。
そして私達は、三人であるバラの苗を庭に植える。
しかしその後…夫と親友のエリザによって、私は酷い裏切りを受ける事に─。
命の危機が迫る中、私の心は二人への復讐心で一杯になるが…駆けつけたシャルとサムを前に、本当の願いを見つけて─?
(1万字以上と少し長いので、短編集とは別にしてあります)
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
(完)聖女様は頑張らない
青空一夏
ファンタジー
私は大聖女様だった。歴史上最強の聖女だった私はそのあまりに強すぎる力から、悪魔? 魔女?と疑われ追放された。
それも命を救ってやったカール王太子の命令により追放されたのだ。あの恩知らずめ! 侯爵令嬢の色香に負けやがって。本物の聖女より偽物美女の侯爵令嬢を選びやがった。
私は逃亡中に足をすべらせ死んだ? と思ったら聖女認定の最初の日に巻き戻っていた!!
もう全力でこの国の為になんか働くもんか!
異世界ゆるふわ設定ご都合主義ファンタジー。よくあるパターンの聖女もの。ラブコメ要素ありです。楽しく笑えるお話です。(多分😅)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる