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島国の戦士
第144話 修復 ~麻乃 4~
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「今のなに! 今のなに! えっ? あの人って彼女なんじゃないの? 鴇汰の叔父さん? 鴇汰の叔父さんって、お……おクマさんと同じ人種?」
たった今、女性の立っていた場所と、鳥の飛び去っていった方角に目を向け、麻乃は早口で鴇汰に問いかけた。
「どれに答えりゃいいんだよ……あれは式神って言ったろ? 彼女のわけねーだろうが。おクマさんみたいなのとも違うよ」
「式神……」
「本物の叔父貴は大陸にいるのよ。ああやって式神を使って、時々、俺の様子を見に来たり新しいレシピを持ってきたりするんだよ。そんなことをするくらいなら、泉翔で一緒に暮らしてりゃいいのによ」
うまくごまかされている気がする。
麻乃は術が使えないから良くわからないけれど、人型の式神を見たのは初めてだ。
以前、梁瀬が出してみせてくれたのは大鷲だった。
疑わしい目つきをしていたのか、鴇汰は麻乃を見てからため息をつき、車に寄りかかった。
「だいたい、あれが人だとして、大陸からここまでたった一人で、しかも監視隊にも見つからずに渡ってくるなんて、無理に決まってると思わねーか?」
「そうかもしれないけど……」
「誰にも……穂高にさえ言ってなかったからな。まぁ信じないってんならしょうがねーよな……俺は自分の言葉に嘘はないってハッキリ言いきれるから、それでいいよ」
もう何年も思い込んでいたことが、突然、まったく違うんだと言われても、なかなか飲み込むことができない。
それでも女性から発せられたどう聞いても男性の声と、麻乃の目の前で人から鳥に姿が変わったのは事実だ。
鴇汰は車に寄りかかった体を起こし、勝手口に向かった。
「あっ、そうだ、あのね、みんながカレー、おいしいって」
そもそも、なぜここへ来たのかを思い出し、鴇汰のあとから調理場へ入ると、そう言った。
「そうか。そりゃあ良かった。で、麻乃はどうだったのよ?」
「ん……うん、おいしかった、と思う……かな」
焦って掻き込んで良く味わってないせいもあって、味を覚えていないうえにまだ空腹感が残っている。
「かな、って……なんだよそれ」
「みんながおいしいって言ってるのが、なんだか嬉しくって、それを伝えようと思ったら、鴇汰の姿がなくて……探しに行こうと思って焦って食べたんだよね」
「それでここに来たのか」
「まだ残ってるか見てこようかな。あ、鴇汰は食べたの?」
「俺、自分のぶんはこっちに取っておいたから」
調理台の上に、一人ぶんが置いてある。
「向こうでみんなと一緒に食べればいいのに」
「だって知らないやつがいたら、みんな気になるだろ? それに注目されるのもちょっとな……」
確かに、女の子たちが稽古場の中をのぞいていたときの様子を思えば、注目はされるだろうと思う。
「飯、残ってないかもしれないだろ、いいものやるから、ちょっと待ってろよ」
おひつに残ったご飯で、小さめの塩むすびを五つ握り、さっき多香子に出していたスープを調理台の上に出してくれた。
「変な組み合わせだけど、それでも食っとけよ」
「うん、ありがとう。実はまだ少し、物足りない気がしてたんだ」
麻乃は照れ隠しに笑ってみせ、手を洗って早速、口へ運んだ。
たかが塩むすびなのに、妙においしく感じるのはどうしてなんだろう?
多香子が感心していただけあって、スープも本当においしい。
得した気分になって、つい、表情が緩んでしまう。
「もう少ししたら、昼の片づけを始めて、夕飯の準備に取りかからねーとな」
「じゃあ、あたしは食堂から鍋とかおひつ、さげてくればいい?」
「ああ。そうだ、食器はどうなってんのよ?」
「片づけも個々でするから、それも大丈夫」
「そっか。こんだけの量、作るのなんて久しぶりだけど、なんつーか……やっぱ面白いわ」
鴇汰は流し台に寄りかかり、自分のぶんを食べ始めた。
たった今、女性の立っていた場所と、鳥の飛び去っていった方角に目を向け、麻乃は早口で鴇汰に問いかけた。
「どれに答えりゃいいんだよ……あれは式神って言ったろ? 彼女のわけねーだろうが。おクマさんみたいなのとも違うよ」
「式神……」
「本物の叔父貴は大陸にいるのよ。ああやって式神を使って、時々、俺の様子を見に来たり新しいレシピを持ってきたりするんだよ。そんなことをするくらいなら、泉翔で一緒に暮らしてりゃいいのによ」
うまくごまかされている気がする。
麻乃は術が使えないから良くわからないけれど、人型の式神を見たのは初めてだ。
以前、梁瀬が出してみせてくれたのは大鷲だった。
疑わしい目つきをしていたのか、鴇汰は麻乃を見てからため息をつき、車に寄りかかった。
「だいたい、あれが人だとして、大陸からここまでたった一人で、しかも監視隊にも見つからずに渡ってくるなんて、無理に決まってると思わねーか?」
「そうかもしれないけど……」
「誰にも……穂高にさえ言ってなかったからな。まぁ信じないってんならしょうがねーよな……俺は自分の言葉に嘘はないってハッキリ言いきれるから、それでいいよ」
もう何年も思い込んでいたことが、突然、まったく違うんだと言われても、なかなか飲み込むことができない。
それでも女性から発せられたどう聞いても男性の声と、麻乃の目の前で人から鳥に姿が変わったのは事実だ。
鴇汰は車に寄りかかった体を起こし、勝手口に向かった。
「あっ、そうだ、あのね、みんながカレー、おいしいって」
そもそも、なぜここへ来たのかを思い出し、鴇汰のあとから調理場へ入ると、そう言った。
「そうか。そりゃあ良かった。で、麻乃はどうだったのよ?」
「ん……うん、おいしかった、と思う……かな」
焦って掻き込んで良く味わってないせいもあって、味を覚えていないうえにまだ空腹感が残っている。
「かな、って……なんだよそれ」
「みんながおいしいって言ってるのが、なんだか嬉しくって、それを伝えようと思ったら、鴇汰の姿がなくて……探しに行こうと思って焦って食べたんだよね」
「それでここに来たのか」
「まだ残ってるか見てこようかな。あ、鴇汰は食べたの?」
「俺、自分のぶんはこっちに取っておいたから」
調理台の上に、一人ぶんが置いてある。
「向こうでみんなと一緒に食べればいいのに」
「だって知らないやつがいたら、みんな気になるだろ? それに注目されるのもちょっとな……」
確かに、女の子たちが稽古場の中をのぞいていたときの様子を思えば、注目はされるだろうと思う。
「飯、残ってないかもしれないだろ、いいものやるから、ちょっと待ってろよ」
おひつに残ったご飯で、小さめの塩むすびを五つ握り、さっき多香子に出していたスープを調理台の上に出してくれた。
「変な組み合わせだけど、それでも食っとけよ」
「うん、ありがとう。実はまだ少し、物足りない気がしてたんだ」
麻乃は照れ隠しに笑ってみせ、手を洗って早速、口へ運んだ。
たかが塩むすびなのに、妙においしく感じるのはどうしてなんだろう?
多香子が感心していただけあって、スープも本当においしい。
得した気分になって、つい、表情が緩んでしまう。
「もう少ししたら、昼の片づけを始めて、夕飯の準備に取りかからねーとな」
「じゃあ、あたしは食堂から鍋とかおひつ、さげてくればいい?」
「ああ。そうだ、食器はどうなってんのよ?」
「片づけも個々でするから、それも大丈夫」
「そっか。こんだけの量、作るのなんて久しぶりだけど、なんつーか……やっぱ面白いわ」
鴇汰は流し台に寄りかかり、自分のぶんを食べ始めた。
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