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島国の戦士
第124話 再来 ~麻乃 2~
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赤髪の女は、また白いドレスを身にまとい、麻乃を見つめて不敵な笑みを浮かべている。
焦れて仕方がないのをグッとこらえ、敵兵に斬りつけた。
ここまで相手にしてきたやつらとは違い、今度の相手は手応えを感じる。
大柄の男ばかりで力も強く、何度も麻乃の刃は受け流された。
視界に濃紺の影が動き、視線を巡らせると、高尾と大石がそばにいた。
部隊の中では特に大きく力も強い二人でさえ、圧され気味になっている。
まるで麻乃しか見ていないかのように、次々に集まってくる敵兵に混じって巧の隊員が数人、追ってきていることに気づいた。
ここを彼らに任せて、その場を抜けようとした麻乃の目の前を、敵兵に立ちふさがれた。
下から掬い上げて斬りつけると、ふわりと身をかわされて刃が空を斬った。
歯ぎしりをして敵兵に目を向けた。
「あんたは――!」
驚きに動きを止めた麻乃の隙をついて、目の前の敵兵が振るった剣が頬をかすめた。
「五年ぶり……だね」
突きかかってきた剣を払い、もう一度良く顔を確認した。
かつて、泉翔に諜報として潜り込んできたリュだ。
言いようのない嫌な思いが麻乃の中で沸き立ち、手の甲で頬を伝う血を拭った。
「しばらく見ないあいだに、ずいぶんと大人びたじゃないか」
ニヤリと笑った顔を見て、背中がゾクリとする。
リュが斬りつけてくるのを避けながら、麻乃は動揺している自分に苛立ち、冷静になれないまま鬼灯を振りかざした。
力負けして鬼灯が弾き飛ばされ、すばやく夜光の柄を握った手をリュにつかまれた。
顔が近づき、間近で視線がぶつかると、リュの唇がなにかつぶやいた。
麻乃には良く聞き取れず、耳障りな音だけが残る。
「――この!」
リュの手を振りほどくと、抜きざまに夜光で斬りつけた。
また、ふわりと避けられる。
劣るはずがないのに、なぜか麻乃の攻撃が届かない。
無意識に昔を思い出して戦いを避けているんだろうか?
「まだ覚醒していないんだね。腕も……鈍っているんじゃないのか?」
「よくもそんなことを!」
いちいち言葉をかけてくるリュに対して憤りを感じ、早く倒そうと気ばかりが急く。
横から襲い掛かってきた敵兵を打ち払い、背後から掛かってくる敵兵には、腰もとから突き刺して倒した。
「そんなに不用意に刀を振るっていいのか? 足もとを良く見たほうがいい」
なにがそんなにおかしいのか、リュはいやらしい含み笑いを絶やさない。
嫌悪感に唇を噛みしめながらも、麻乃の視線はつい言われたとおりに足もとへ向いた。
ドクン、と心臓が鳴る。
そこに倒れ伏しているのは敵兵ではなく、大石と巧の隊員だった。
「そんな……馬鹿な!」
全身から冷や汗が吹き出し、小刻みに震え、麻乃の体がこわばった。
そこに、なおも敵兵が襲いかかってくる。
その剣を受けると打ち払い、しりぞけると周りに視線を巡らせた。
雑兵はだいぶ減り、今は多くの隊員たちが、麻乃の周りに群がる敵兵を相手に戦い続けている。
リュの含み笑いが耳に響き、それを振り払うように夜光をふるった。
敵兵を確認して倒しているのに倒れ伏していくのは見覚えのある顔ばかりだ。
「さすが鬼神の血、見境がないな」
(なんで? どうしてあたしはみんなを――)
焦る思いに涙がにじみ、戦場の音がだんだんと遠のいていく。
リュの声だけが麻乃の頭に残った。
絡みつくような視線を感じ、それを手繰っていくと赤髪の女が目に入る。
ぐい、と涙を拭った。
「ジェさまが気になるか? あのかたは、おまえが邪魔だそうだ。悪いがここで逝ってもらうよ」
「……このあたしが、おまえごときに、やすやすとやられたりするか!」
震えをごまかすように柄を握った手に力を込め、リュの剣を受け流し、そのまま横払いで斬りつけた。
また避けられ、夜光はリュの後ろにいた敵兵を裂いた。
ゆっくりと倒れていく敵兵の姿を見て、ギクリとした。
砂浜に頬をうずめ、胸もとを黒く染めていくその姿は――。
(巧さん……!)
夜光が手から滑り落ちた。
「そんな……なんで……」
両手で顔を覆い、叫び声を上げると、そのまま意識が遠ざかった。
焦れて仕方がないのをグッとこらえ、敵兵に斬りつけた。
ここまで相手にしてきたやつらとは違い、今度の相手は手応えを感じる。
大柄の男ばかりで力も強く、何度も麻乃の刃は受け流された。
視界に濃紺の影が動き、視線を巡らせると、高尾と大石がそばにいた。
部隊の中では特に大きく力も強い二人でさえ、圧され気味になっている。
まるで麻乃しか見ていないかのように、次々に集まってくる敵兵に混じって巧の隊員が数人、追ってきていることに気づいた。
ここを彼らに任せて、その場を抜けようとした麻乃の目の前を、敵兵に立ちふさがれた。
下から掬い上げて斬りつけると、ふわりと身をかわされて刃が空を斬った。
歯ぎしりをして敵兵に目を向けた。
「あんたは――!」
驚きに動きを止めた麻乃の隙をついて、目の前の敵兵が振るった剣が頬をかすめた。
「五年ぶり……だね」
突きかかってきた剣を払い、もう一度良く顔を確認した。
かつて、泉翔に諜報として潜り込んできたリュだ。
言いようのない嫌な思いが麻乃の中で沸き立ち、手の甲で頬を伝う血を拭った。
「しばらく見ないあいだに、ずいぶんと大人びたじゃないか」
ニヤリと笑った顔を見て、背中がゾクリとする。
リュが斬りつけてくるのを避けながら、麻乃は動揺している自分に苛立ち、冷静になれないまま鬼灯を振りかざした。
力負けして鬼灯が弾き飛ばされ、すばやく夜光の柄を握った手をリュにつかまれた。
顔が近づき、間近で視線がぶつかると、リュの唇がなにかつぶやいた。
麻乃には良く聞き取れず、耳障りな音だけが残る。
「――この!」
リュの手を振りほどくと、抜きざまに夜光で斬りつけた。
また、ふわりと避けられる。
劣るはずがないのに、なぜか麻乃の攻撃が届かない。
無意識に昔を思い出して戦いを避けているんだろうか?
「まだ覚醒していないんだね。腕も……鈍っているんじゃないのか?」
「よくもそんなことを!」
いちいち言葉をかけてくるリュに対して憤りを感じ、早く倒そうと気ばかりが急く。
横から襲い掛かってきた敵兵を打ち払い、背後から掛かってくる敵兵には、腰もとから突き刺して倒した。
「そんなに不用意に刀を振るっていいのか? 足もとを良く見たほうがいい」
なにがそんなにおかしいのか、リュはいやらしい含み笑いを絶やさない。
嫌悪感に唇を噛みしめながらも、麻乃の視線はつい言われたとおりに足もとへ向いた。
ドクン、と心臓が鳴る。
そこに倒れ伏しているのは敵兵ではなく、大石と巧の隊員だった。
「そんな……馬鹿な!」
全身から冷や汗が吹き出し、小刻みに震え、麻乃の体がこわばった。
そこに、なおも敵兵が襲いかかってくる。
その剣を受けると打ち払い、しりぞけると周りに視線を巡らせた。
雑兵はだいぶ減り、今は多くの隊員たちが、麻乃の周りに群がる敵兵を相手に戦い続けている。
リュの含み笑いが耳に響き、それを振り払うように夜光をふるった。
敵兵を確認して倒しているのに倒れ伏していくのは見覚えのある顔ばかりだ。
「さすが鬼神の血、見境がないな」
(なんで? どうしてあたしはみんなを――)
焦る思いに涙がにじみ、戦場の音がだんだんと遠のいていく。
リュの声だけが麻乃の頭に残った。
絡みつくような視線を感じ、それを手繰っていくと赤髪の女が目に入る。
ぐい、と涙を拭った。
「ジェさまが気になるか? あのかたは、おまえが邪魔だそうだ。悪いがここで逝ってもらうよ」
「……このあたしが、おまえごときに、やすやすとやられたりするか!」
震えをごまかすように柄を握った手に力を込め、リュの剣を受け流し、そのまま横払いで斬りつけた。
また避けられ、夜光はリュの後ろにいた敵兵を裂いた。
ゆっくりと倒れていく敵兵の姿を見て、ギクリとした。
砂浜に頬をうずめ、胸もとを黒く染めていくその姿は――。
(巧さん……!)
夜光が手から滑り落ちた。
「そんな……なんで……」
両手で顔を覆い、叫び声を上げると、そのまま意識が遠ざかった。
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