120 / 780
島国の戦士
第120話 暴挙 ~修治 1~
しおりを挟む
「あれは相当重傷みたいね。このところ、難しい顔ばかりして笑いもしないじゃないのよ」
ドアのところで様子を見ていた巧が、深刻な表情でつぶやいている。
「触れられることでなにかのスイッチでも入るのか? このあいだ、俺が触れかけたときも飛んで逃げたぞ」
「問答無用で手が出ていたしねぇ、不安定云々っていうか、ちょっと危ない感じかも」
徳丸と梁瀬もただ見守っていた。
「――似ているな」
巧の横でドアにもたれ、修治は腕を組んだまま眉をひそめた。
「なにが似てるのよ?」
「あいつら……麻乃と鴇汰だよ。感情の幅っていうか、動きが似ている」
巧の問いかけに答えながら、修治は握ったこぶしを口もとへ当てた。
「いや……違うな。似ているってより、憤りを増幅し合ってる感じだ」
「増幅ねぇ……確かにかなりヒートアップしてるねぇ」
修治の言葉に梁瀬が答えたとき、麻乃の叫び声が響いた。
「もう、あたしに構わないでよ! 放っておいて! あんたたちみんな大っ嫌い!」
あっ! と思った瞬間にはもう麻乃は窓から飛び降りていた。
「ちょっと……これは問題大ありね。また抜刀しようとするなんて」
「みんな大っ嫌いだとよ」
廊下では鴇汰と穂高が窓から外を見おろしている。苦笑している徳丸をたしなめるように睨んだ巧は、鴇汰に歩み寄った。
「あんた馬鹿ね。追い詰めてどうするのよ」
「俺はただ、話しをしようと思っただけだよ! なのにいきなりパンチ喰らって、揚げ句、抜刀されそうに……」
「麻乃の性格をもっと考えてごらんよ。タイミングを見計らわなきゃ逃げられる一方じゃないの」
鴇汰はまた窓の外に目を向けた。その視線の先には、建物の向こう側に消える麻乃の姿がある。
「このあいだから、麻乃が尋常じゃないのは見てわかってるでしょ? あんたの気持もわかるけど、今はそっとしておいておやりよ」
「あんたに俺のなにがわかるってんだよ!」
巧に喰ってかかった鴇汰の頬を、修治は平手打ちした。
「おまえまであいつと一緒になってカッカしてどうする。本気で麻乃を相手にするつもりなら、もっと冷静にあいつを見てやれ。以前のおまえなら、それができたはずだ」
頬を押さえて悔しそうにしている鴇汰を、修治はジッと見つめた。
「おまえのことは気に入らないが嫌いじゃない。麻乃は俺にとって大切な妹だ。生半可なやつにあずけるつもりはない。それだけは覚えておけ」
「…………」
修治の顔を見ようともしない鴇汰は、黙ったままだ。
その後ろにいる穂高も岱胡も、今の修治の言葉を意外だと言いたそうな顔で見ている割に、なにも言わない。
このまま待ったところで、あれほど興奮していた鴇汰に、今は修治が望む答えを出すことはできないだろう。
「どうしても麻乃を構いたいっていうなら、俺を納得させるだけの度量を持てよ」
そう言ってその場を離れた。
歩き出した修治の後ろで、鴇汰を慰めるような巧の言葉が聞こえてくる。
「今は様子を見て、気が落ち着くのを待ってあげなさいよ。あんたにそのつもりがあるならね」
それにしても、麻乃の態度はおかしい。
修治に殺気を向けたこともそうだけれど、まさか鴇汰にまで、あんなにも怒りの感情を剥き出しにするとは思わなかった。医療所で、鴇汰に勘違いされていると泣きながら修治に訴えてきたときには、怒りより悲しみのほうが先立って見えたのだけれど……。
(あのあと……麻乃にまた、なにかあったのだろうか?)
ろくに口を聞きもしない、目も合わせようとしない麻乃から、なにかを聞き出すことは不可能に近い。
しかも今は、高田の呼び出しからも逃げているらしいし、両親が訪ねていっても毎回、留守にしていると言う。
廊下の角を曲がるとき、修治がふと視線を向けた窓の外に、トラックが二台停まっているのが見えた。
建物の裏手から走り出てきた麻乃が、その荷台に乗り込むのを見て、修治はため息をもらすことしかできなかった。
ドアのところで様子を見ていた巧が、深刻な表情でつぶやいている。
「触れられることでなにかのスイッチでも入るのか? このあいだ、俺が触れかけたときも飛んで逃げたぞ」
「問答無用で手が出ていたしねぇ、不安定云々っていうか、ちょっと危ない感じかも」
徳丸と梁瀬もただ見守っていた。
「――似ているな」
巧の横でドアにもたれ、修治は腕を組んだまま眉をひそめた。
「なにが似てるのよ?」
「あいつら……麻乃と鴇汰だよ。感情の幅っていうか、動きが似ている」
巧の問いかけに答えながら、修治は握ったこぶしを口もとへ当てた。
「いや……違うな。似ているってより、憤りを増幅し合ってる感じだ」
「増幅ねぇ……確かにかなりヒートアップしてるねぇ」
修治の言葉に梁瀬が答えたとき、麻乃の叫び声が響いた。
「もう、あたしに構わないでよ! 放っておいて! あんたたちみんな大っ嫌い!」
あっ! と思った瞬間にはもう麻乃は窓から飛び降りていた。
「ちょっと……これは問題大ありね。また抜刀しようとするなんて」
「みんな大っ嫌いだとよ」
廊下では鴇汰と穂高が窓から外を見おろしている。苦笑している徳丸をたしなめるように睨んだ巧は、鴇汰に歩み寄った。
「あんた馬鹿ね。追い詰めてどうするのよ」
「俺はただ、話しをしようと思っただけだよ! なのにいきなりパンチ喰らって、揚げ句、抜刀されそうに……」
「麻乃の性格をもっと考えてごらんよ。タイミングを見計らわなきゃ逃げられる一方じゃないの」
鴇汰はまた窓の外に目を向けた。その視線の先には、建物の向こう側に消える麻乃の姿がある。
「このあいだから、麻乃が尋常じゃないのは見てわかってるでしょ? あんたの気持もわかるけど、今はそっとしておいておやりよ」
「あんたに俺のなにがわかるってんだよ!」
巧に喰ってかかった鴇汰の頬を、修治は平手打ちした。
「おまえまであいつと一緒になってカッカしてどうする。本気で麻乃を相手にするつもりなら、もっと冷静にあいつを見てやれ。以前のおまえなら、それができたはずだ」
頬を押さえて悔しそうにしている鴇汰を、修治はジッと見つめた。
「おまえのことは気に入らないが嫌いじゃない。麻乃は俺にとって大切な妹だ。生半可なやつにあずけるつもりはない。それだけは覚えておけ」
「…………」
修治の顔を見ようともしない鴇汰は、黙ったままだ。
その後ろにいる穂高も岱胡も、今の修治の言葉を意外だと言いたそうな顔で見ている割に、なにも言わない。
このまま待ったところで、あれほど興奮していた鴇汰に、今は修治が望む答えを出すことはできないだろう。
「どうしても麻乃を構いたいっていうなら、俺を納得させるだけの度量を持てよ」
そう言ってその場を離れた。
歩き出した修治の後ろで、鴇汰を慰めるような巧の言葉が聞こえてくる。
「今は様子を見て、気が落ち着くのを待ってあげなさいよ。あんたにそのつもりがあるならね」
それにしても、麻乃の態度はおかしい。
修治に殺気を向けたこともそうだけれど、まさか鴇汰にまで、あんなにも怒りの感情を剥き出しにするとは思わなかった。医療所で、鴇汰に勘違いされていると泣きながら修治に訴えてきたときには、怒りより悲しみのほうが先立って見えたのだけれど……。
(あのあと……麻乃にまた、なにかあったのだろうか?)
ろくに口を聞きもしない、目も合わせようとしない麻乃から、なにかを聞き出すことは不可能に近い。
しかも今は、高田の呼び出しからも逃げているらしいし、両親が訪ねていっても毎回、留守にしていると言う。
廊下の角を曲がるとき、修治がふと視線を向けた窓の外に、トラックが二台停まっているのが見えた。
建物の裏手から走り出てきた麻乃が、その荷台に乗り込むのを見て、修治はため息をもらすことしかできなかった。
0
お気に入りに追加
10
あなたにおすすめの小説
どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします
文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。
夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。
エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。
「ゲルハルトさま、愛しています」
ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。
「エレーヌ、俺はあなたが憎い」
エレーヌは凍り付いた。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
【完結】仰る通り、貴方の子ではありません
ユユ
恋愛
辛い悪阻と難産を経て産まれたのは
私に似た待望の男児だった。
なのに認められず、
不貞の濡れ衣を着せられ、
追い出されてしまった。
実家からも勘当され
息子と2人で生きていくことにした。
* 作り話です
* 暇つぶしにどうぞ
* 4万文字未満
* 完結保証付き
* 少し大人表現あり
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
断る――――前にもそう言ったはずだ
鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」
結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。
周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。
けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。
他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。
(わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)
そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。
ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。
そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
夫達の裏切りに復讐心で一杯だった私は、死の間際に本当の願いを見つけ幸せになれました。
Nao*
恋愛
家庭を顧みず、外泊も増えた夫ダリス。
それを寂しく思う私だったが、庭師のサムとその息子のシャルに癒される日々を送って居た。
そして私達は、三人であるバラの苗を庭に植える。
しかしその後…夫と親友のエリザによって、私は酷い裏切りを受ける事に─。
命の危機が迫る中、私の心は二人への復讐心で一杯になるが…駆けつけたシャルとサムを前に、本当の願いを見つけて─?
(1万字以上と少し長いので、短編集とは別にしてあります)
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
いっとう愚かで、惨めで、哀れな末路を辿るはずだった令嬢の矜持
空月
ファンタジー
古くからの名家、貴き血を継ぐローゼンベルグ家――その末子、一人娘として生まれたカトレア・ローゼンベルグは、幼い頃からの婚約者に婚約破棄され、遠方の別荘へと療養の名目で送られた。
その道中に惨めに死ぬはずだった未来を、突然現れた『バグ』によって回避して、ただの『カトレア』として生きていく話。
※悪役令嬢で婚約破棄物ですが、ざまぁもスッキリもありません。
※以前投稿していた「いっとう愚かで惨めで哀れだった令嬢の果て」改稿版です。文章量が1.5倍くらいに増えています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる