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島国の戦士
第88話 再生 ~麻乃 1~
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布団を被っていろいろと考えたり、昔のことを思い出したりしているうちに、麻乃はいつの間にか眠りについていた。
人の気配に目を覚ますと、看護係がカーテンを開けている。陽の光に目を細めた。
「あら、起こしちゃったかしら。傷の具合はどうかしら?」
「あ……結構痛みます。そういえば昨日の夜、薬を飲んでないんだった」
看護係が顔をのぞき込んで、その割に顔色は――と言ったとき、おなかが大きな音を鳴らし、麻乃は真っ赤になって照れ笑いでごまかした。
「顔色はいいですね。昨日はずいぶんと早くに寝たのかしら? 夕飯を食べていないって聞いていますよ。朝食、できていますから、今、持ってきましょうね」
クスクスと笑いながら、体温計を差し出し、看護係は病室を出ていった。
(調子はいい。昨日に比べて格段に体が軽く感じる)
麻乃は両手を伸ばしたり、腰を軽くひねったりしながら、体を動かしたときの傷の痛みを再確認した。
痛み止めさえちゃんと飲んでおけば動けなくなるほどではなさそうだ。残る問題は足の傷だけ。どうにも力が入らない。松葉杖を使ってでも立って歩けさえすれば、今はそれで十分だけれど……。
体温計は平熱を表示している。体の準備がやっと気持に追いついた。
出された食事をしっかりとると、爺ちゃん先生が顔を出した。
「熱は下がったか」
「はい。体も思ったより動きます。と言っても、薬で痛みを散らしていれば、ですけど」
「それがわかってるなら、まあ、戻ってもいいだろう。約束だからな。けれど、くれぐれも無茶はしない。自分の言ったことは覚えているだろうな?」
「はい。無茶もしないし、療養に専念します。今回は、お目付け役がいますから、大丈夫です」
爺ちゃん先生の渋々とした表情に、麻乃は建前だけでもそう答えておいた。
「いやに殊勝なことを言うな。しかしなぁ、どうにもおまえのいうことは信用がならん。なんせ、おまえたち戦士の連中ときたら、患者としては最低だからな」
薬と包帯、軟膏の入ったかばんを麻乃に手渡してくれる。
「とりあえず九日分入っているが、包帯と軟膏は足らなくなったら誰か遣いを寄越せばいい。すぐに出してやろう。他のものたちよりも治りが早いとは言え、決して無理をしないようにな」
なんだかんだと怒ってはいても、最終的に爺ちゃん先生は甘い。そのぶん、いつでも感謝はしている。だから今度だけは、ちゃんということを聞いて、無理はしないと決めた。
昼前に約束通り現れた穂高に手を借り、麻乃は松葉杖を使って歩いてみた。背中に引きつれるような痛みを感じたけれど、傷が開くような痛みではなくて安心する。荷物をまとめて穂高の車に乗り、まずは自宅に寄ってもらった。
「本来は演習中だから、着替えがどうだなんて言ってられないけどさ、今はこんな状態だし構わないよね?」
動きやすさよりも着替えのしやすさを重視して服を数着選び、かばんに詰め込んだ。
「着替えは構わないだろうけど、あんな森の中で拠点以外に落ち着いていられるような場所があるのかい? そりゃあ比佐子もそれなりに腕は立つけれど、麻乃をかばえるほどじゃないと思うんだけどな」
麻乃からかばんを取り上げると、穂高はそれを肩にかけて問いかけてきた。
「十人を相手にするからね。でも別に、ずっとつきっきりでいてもらうわけでもないし、気をつけるのは移動中だけだから」
「比佐子は気配を探るのも殺すのも苦手なほうだろう? 移動中は特に大変だと思うんだけどな」
「そこはあたしがカバーすれば済むことだよ。ねぇ、あたしを誰だと思ってるのさ? こんな程度の怪我じゃ同じ武器の格下相手なら、チャコもいるのにやられっこないね」
助手席に乗ろうとする麻乃に手を貸してくれながら、穂高は呆れた表情で車に荷物を積み込んだ。
「言うねぇ。五指に入るとそんなものなのかな? 俺はそんな怪我をしていたら、そこまで言いきれないよ」
「まぁね。ホラ、あたしって嫌なやつだから」
ちょっとだけ得意気な顔で、穂高に向かって笑ってみせた。
人の気配に目を覚ますと、看護係がカーテンを開けている。陽の光に目を細めた。
「あら、起こしちゃったかしら。傷の具合はどうかしら?」
「あ……結構痛みます。そういえば昨日の夜、薬を飲んでないんだった」
看護係が顔をのぞき込んで、その割に顔色は――と言ったとき、おなかが大きな音を鳴らし、麻乃は真っ赤になって照れ笑いでごまかした。
「顔色はいいですね。昨日はずいぶんと早くに寝たのかしら? 夕飯を食べていないって聞いていますよ。朝食、できていますから、今、持ってきましょうね」
クスクスと笑いながら、体温計を差し出し、看護係は病室を出ていった。
(調子はいい。昨日に比べて格段に体が軽く感じる)
麻乃は両手を伸ばしたり、腰を軽くひねったりしながら、体を動かしたときの傷の痛みを再確認した。
痛み止めさえちゃんと飲んでおけば動けなくなるほどではなさそうだ。残る問題は足の傷だけ。どうにも力が入らない。松葉杖を使ってでも立って歩けさえすれば、今はそれで十分だけれど……。
体温計は平熱を表示している。体の準備がやっと気持に追いついた。
出された食事をしっかりとると、爺ちゃん先生が顔を出した。
「熱は下がったか」
「はい。体も思ったより動きます。と言っても、薬で痛みを散らしていれば、ですけど」
「それがわかってるなら、まあ、戻ってもいいだろう。約束だからな。けれど、くれぐれも無茶はしない。自分の言ったことは覚えているだろうな?」
「はい。無茶もしないし、療養に専念します。今回は、お目付け役がいますから、大丈夫です」
爺ちゃん先生の渋々とした表情に、麻乃は建前だけでもそう答えておいた。
「いやに殊勝なことを言うな。しかしなぁ、どうにもおまえのいうことは信用がならん。なんせ、おまえたち戦士の連中ときたら、患者としては最低だからな」
薬と包帯、軟膏の入ったかばんを麻乃に手渡してくれる。
「とりあえず九日分入っているが、包帯と軟膏は足らなくなったら誰か遣いを寄越せばいい。すぐに出してやろう。他のものたちよりも治りが早いとは言え、決して無理をしないようにな」
なんだかんだと怒ってはいても、最終的に爺ちゃん先生は甘い。そのぶん、いつでも感謝はしている。だから今度だけは、ちゃんということを聞いて、無理はしないと決めた。
昼前に約束通り現れた穂高に手を借り、麻乃は松葉杖を使って歩いてみた。背中に引きつれるような痛みを感じたけれど、傷が開くような痛みではなくて安心する。荷物をまとめて穂高の車に乗り、まずは自宅に寄ってもらった。
「本来は演習中だから、着替えがどうだなんて言ってられないけどさ、今はこんな状態だし構わないよね?」
動きやすさよりも着替えのしやすさを重視して服を数着選び、かばんに詰め込んだ。
「着替えは構わないだろうけど、あんな森の中で拠点以外に落ち着いていられるような場所があるのかい? そりゃあ比佐子もそれなりに腕は立つけれど、麻乃をかばえるほどじゃないと思うんだけどな」
麻乃からかばんを取り上げると、穂高はそれを肩にかけて問いかけてきた。
「十人を相手にするからね。でも別に、ずっとつきっきりでいてもらうわけでもないし、気をつけるのは移動中だけだから」
「比佐子は気配を探るのも殺すのも苦手なほうだろう? 移動中は特に大変だと思うんだけどな」
「そこはあたしがカバーすれば済むことだよ。ねぇ、あたしを誰だと思ってるのさ? こんな程度の怪我じゃ同じ武器の格下相手なら、チャコもいるのにやられっこないね」
助手席に乗ろうとする麻乃に手を貸してくれながら、穂高は呆れた表情で車に荷物を積み込んだ。
「言うねぇ。五指に入るとそんなものなのかな? 俺はそんな怪我をしていたら、そこまで言いきれないよ」
「まぁね。ホラ、あたしって嫌なやつだから」
ちょっとだけ得意気な顔で、穂高に向かって笑ってみせた。
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