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島国の戦士
第77話 すれ違い ~麻乃 2~
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「おまえ、最近さ、ホントに怪我が多すぎるんじゃねーの?」
そう言った鴇汰の視線が、麻乃の足もとに向いている。
「そうかも。これまで無事でやってきたツケが回ってきたのかな」
「ツケとかそんな問題じゃないだろ? 気をつけていて、どうにかなるもんじゃないのはわかってるけどよ、こう続くと気になってしょうがねーよ」
「……うん、ごめん」
「別に麻乃が謝る必要はないんだよ。ただ、ちゃんと治るまで少しは休んでもいいんじゃないかな? って思うんだ」
穂高があわてたように早口でつけ足す。
「そりゃあ普段ならそうするよ。でも今はこんなときだし、みんながキツイ思いをして頑張ってるのに、あたしだけ休むなんて嫌だよ。それに、しばらくは修治がそばについていてくれるって言うし、これ以上、怪我が増えることはないと思うから平気――」
麻乃が言い終わらないうちに、鴇汰が怒った顔で立ちあがった。
「おかしいだろ、それ。おまえ、修治には心配をかけたくないとか言ってる割に、いつでもなんでも、まず修治に寄りかかるのはなんなのよ?」
「違うよ、別に寄りかかってなんか……」
「違わない。いつもそうじゃねーの」
反論しようとした麻乃の言葉が鴇汰にさえぎられた。
「なにかっていうと『だって修治が』『多分修治が』って、そんなんばっかじゃねーか。おまえの中心は全部あいつなのかよ?」
「だから、それは違う……」
「いつでもあいつのあとをくっついて、甘ったれてるそんなおまえの姿、見てるこっちが恥ずかしくなる。イライラすんだよ。つき合ってるんだかなんだか知らねーけどよ、やりにくいったらねーよ」
「鴇汰!」
最後の言葉に被せるように、穂高が怒鳴って鴇汰の肩を突いた。
「なにを言い出すんだよ、おまえ。言いすぎだぞ!」
「いいよ、穂高」
どこを見るともなしに、麻乃はクシャクシャと頭を掻いた。
「ずっと一緒に育ってきたから、修治がそばにいるのが当たり前のような感じでいたけど、今は特になにも意識してないよ」
「はっ……どうだかな」
鴇汰の言葉がいちいち麻乃の胸を刺す。キッと鴇汰を睨んで続けた。
「でもほかの人にはそう見えるんなら、あたしは修治に甘えているのかもね」
「かもね、じゃなくて実際そうだろ」
「そうだね、あたしの世界の中心は修治なんだよ。そんなつもりはさらさらないけどさ、もういいよ、それで。そう言えば満足?」
「なんだよ、その投げやりないいかた。俺の言ったことが間違ってるっていうのかよ?」
「だってあたしがなにを言ったところで、どうせあんたは信じないんでしょ?」
信じられるかよ、と鴇汰が小さくつぶやいたのが耳に届き、引っぱたきたくなる衝動を麻乃はこぶしを握ってこらえた。
「それなら反論するだけ無駄じゃないのさ。貴重なアドバイスとしてちゃんと受け止めて、今後の身の振りかたを考えることにするよ。で? ほかになにか言いたいことは?」
「ないね。なんもねーよ。おまえのことなんかもう知るか。好きにやればいいじゃねーか、修治とよ」
「あたしのほうこそ、あんたのことなんて知ったこっちゃないね。彼女とでも理恵ちゃんとでも、好きにしたらいい」
「いい加減にしろよ! 二人とも!」
穂高が割って入り、麻乃も鴇汰も黙った。
顔をあげることができない。麻乃が視線を落とした先には鴇汰と穂高のつま先が見える。言われた言葉に腹が立つより、鴇汰にそんなふうに思われていたことがひどく切ない。
口を開いたら、同時に涙まで出そうな気がして歯を食いしばってこらえた。
会話が途切れて沈黙か続いたとき、タイミング良く看護係が顔を出し、三人の姿を見てためらいがちに声をかけてきた。
「藤川さん、石川先生が薬と包帯をかえるから、来てくださいって。良いかしら?」
「あ、はい。すぐ行きます」
逃げる口実ができたことにホッとして松葉杖に手を伸ばそうとすると、看護係に取り上げられた。
「まだ駄目よ。背中の傷がちゃんとふさがってないんだから、体重をかけたら、また開いちゃうかもしれないでしょう?」
そう言って廊下から車椅子を押してくる。
「大袈裟ですって。それ……」
「駄目です。石川先生に言われたこと、覚えていますよね?」
うっ、と言葉を飲み込むと、看護係の手を借りて、仕方なく車椅子に座った。できれば二人には見せたくない姿だ。
「長引くかもしれないから悪いけどもう帰ってくれるかな。今日はわざわざ来てくれてありがとう」
振り返りもせずにそれだけを言うと、軽く手を振り、看護係に連れられて病室を出た。
そう言った鴇汰の視線が、麻乃の足もとに向いている。
「そうかも。これまで無事でやってきたツケが回ってきたのかな」
「ツケとかそんな問題じゃないだろ? 気をつけていて、どうにかなるもんじゃないのはわかってるけどよ、こう続くと気になってしょうがねーよ」
「……うん、ごめん」
「別に麻乃が謝る必要はないんだよ。ただ、ちゃんと治るまで少しは休んでもいいんじゃないかな? って思うんだ」
穂高があわてたように早口でつけ足す。
「そりゃあ普段ならそうするよ。でも今はこんなときだし、みんながキツイ思いをして頑張ってるのに、あたしだけ休むなんて嫌だよ。それに、しばらくは修治がそばについていてくれるって言うし、これ以上、怪我が増えることはないと思うから平気――」
麻乃が言い終わらないうちに、鴇汰が怒った顔で立ちあがった。
「おかしいだろ、それ。おまえ、修治には心配をかけたくないとか言ってる割に、いつでもなんでも、まず修治に寄りかかるのはなんなのよ?」
「違うよ、別に寄りかかってなんか……」
「違わない。いつもそうじゃねーの」
反論しようとした麻乃の言葉が鴇汰にさえぎられた。
「なにかっていうと『だって修治が』『多分修治が』って、そんなんばっかじゃねーか。おまえの中心は全部あいつなのかよ?」
「だから、それは違う……」
「いつでもあいつのあとをくっついて、甘ったれてるそんなおまえの姿、見てるこっちが恥ずかしくなる。イライラすんだよ。つき合ってるんだかなんだか知らねーけどよ、やりにくいったらねーよ」
「鴇汰!」
最後の言葉に被せるように、穂高が怒鳴って鴇汰の肩を突いた。
「なにを言い出すんだよ、おまえ。言いすぎだぞ!」
「いいよ、穂高」
どこを見るともなしに、麻乃はクシャクシャと頭を掻いた。
「ずっと一緒に育ってきたから、修治がそばにいるのが当たり前のような感じでいたけど、今は特になにも意識してないよ」
「はっ……どうだかな」
鴇汰の言葉がいちいち麻乃の胸を刺す。キッと鴇汰を睨んで続けた。
「でもほかの人にはそう見えるんなら、あたしは修治に甘えているのかもね」
「かもね、じゃなくて実際そうだろ」
「そうだね、あたしの世界の中心は修治なんだよ。そんなつもりはさらさらないけどさ、もういいよ、それで。そう言えば満足?」
「なんだよ、その投げやりないいかた。俺の言ったことが間違ってるっていうのかよ?」
「だってあたしがなにを言ったところで、どうせあんたは信じないんでしょ?」
信じられるかよ、と鴇汰が小さくつぶやいたのが耳に届き、引っぱたきたくなる衝動を麻乃はこぶしを握ってこらえた。
「それなら反論するだけ無駄じゃないのさ。貴重なアドバイスとしてちゃんと受け止めて、今後の身の振りかたを考えることにするよ。で? ほかになにか言いたいことは?」
「ないね。なんもねーよ。おまえのことなんかもう知るか。好きにやればいいじゃねーか、修治とよ」
「あたしのほうこそ、あんたのことなんて知ったこっちゃないね。彼女とでも理恵ちゃんとでも、好きにしたらいい」
「いい加減にしろよ! 二人とも!」
穂高が割って入り、麻乃も鴇汰も黙った。
顔をあげることができない。麻乃が視線を落とした先には鴇汰と穂高のつま先が見える。言われた言葉に腹が立つより、鴇汰にそんなふうに思われていたことがひどく切ない。
口を開いたら、同時に涙まで出そうな気がして歯を食いしばってこらえた。
会話が途切れて沈黙か続いたとき、タイミング良く看護係が顔を出し、三人の姿を見てためらいがちに声をかけてきた。
「藤川さん、石川先生が薬と包帯をかえるから、来てくださいって。良いかしら?」
「あ、はい。すぐ行きます」
逃げる口実ができたことにホッとして松葉杖に手を伸ばそうとすると、看護係に取り上げられた。
「まだ駄目よ。背中の傷がちゃんとふさがってないんだから、体重をかけたら、また開いちゃうかもしれないでしょう?」
そう言って廊下から車椅子を押してくる。
「大袈裟ですって。それ……」
「駄目です。石川先生に言われたこと、覚えていますよね?」
うっ、と言葉を飲み込むと、看護係の手を借りて、仕方なく車椅子に座った。できれば二人には見せたくない姿だ。
「長引くかもしれないから悪いけどもう帰ってくれるかな。今日はわざわざ来てくれてありがとう」
振り返りもせずにそれだけを言うと、軽く手を振り、看護係に連れられて病室を出た。
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