蓮華

釜瑪 秋摩

文字の大きさ
上 下
75 / 780
島国の戦士

第75話 すれ違い ~鴇汰 2~

しおりを挟む
 演習場に着くと、拠点には何人かの師範がいるだけで、修治の姿も麻乃の姿もない。

「そろそろ交代で戻ってくるだろうから、安部のテントで待ってるといいよ」

「そういえば、ガルバスが出たらしいですね?」

 中の一人が鴇汰にそううながしてくれたので、思いきって聞いてみると、師範たちはそれぞれ顔を見あわせた。

「情報、早いな。どこから聞いてきた?」

「あ……中央で、修繕のやつらが」

「そうか……あまり大っぴらにしたくなかったんだが、まったく困ったやつらだ。でもまあ、ここで気づいたから良かったよ。街にでもおりられたら大変なことになったからな」

 穂高と目を合わせると、師範たちに礼を言って修治のテントに入った。

「やっぱり出たのは、ここだったな」

「でも、どうしてなんの連絡もしてこなかったんだろう?」

「ここには今、手練てだれが何人もいて、被害が出なかったからじゃねーの?」

「それにしてもねぇ……」

 穂高は首をひねって考え込んでいる。

「ただ待ってるのもなんだし、今のうちに荷物をおろすから、手伝ってくれよ」

「ああ、そうだね。そうしようか」

 穂高と連れ立って荷物を取りに行き、テントに戻ってくると、ちょうど修治も帰ってきたところだった。

「なんだ、おまえら、来ていたのか」

「会議、来るかと思ったんだけど、来なかったからさ」

 車からおろしてきた荷物を穂高が修治に手渡し、かばんから封筒を出して荷物の上に乗せた。

「鴇汰からみなさんへの差し入れだって。それから、これは今回の資料。各浜の報告は特にないんだけれど、諜報から情報があがってきてるから」

「ああ、手間をかけさせて悪いな。ちょっとな、いろいろあって会議どころじゃなかったんだ」

「うん、ガルバスが出たことなら聞いたよ」

 穂高の言葉に修治の表情が一瞬、強張ったのを、鴇汰は見逃さなかった。
 もしかするとまだ交代の時間じゃないのかもしれないけれど、麻乃の姿が見えないことに違和感と不安を覚える。

「いろいろってなんだよ? 麻乃はどこだよ?」

 周りの師範たちは、黙ったままこちらを見ている。視線をあわせようとしない修治が、ぶっきらぼうに答えた。

「あいつは今、医療所だ」

「穂高、行くぞ」

 なにがあったのかをはっきり言わない修治に対して殴りかかりたくなるほどの衝動をおさえ、穂高をうながすと早足で車に向かった。

「修治さん、それ昼ご飯だから、みなさんで食べて。麻乃の資料と俺たちのぶんはもらっていくよ。あとでまた、あらためて顔を出すからさ」

 後ろで穂高がそう言っているのが聞こえた。森の入り口で追いついてきた穂高がドアを開けてシートに収まると、まだ閉めきらないうちに走り出した。

「おい! 危ないじゃないか!」

 焦った顔をしている穂高を横目で睨んで黙らせると、鴇汰はアクセルを思いっきり踏んでスピードをあげた。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

【完結】仰る通り、貴方の子ではありません

ユユ
恋愛
辛い悪阻と難産を経て産まれたのは 私に似た待望の男児だった。 なのに認められず、 不貞の濡れ衣を着せられ、 追い出されてしまった。 実家からも勘当され 息子と2人で生きていくことにした。 * 作り話です * 暇つぶしにどうぞ * 4万文字未満 * 完結保証付き * 少し大人表現あり

主役の聖女は死にました

F.conoe
ファンタジー
聖女と一緒に召喚された私。私は聖女じゃないのに、聖女とされた。

【完結】失いかけた君にもう一度

暮田呉子
恋愛
偶然、振り払った手が婚約者の頬に当たってしまった。 叩くつもりはなかった。 しかし、謝ろうとした矢先、彼女は全てを捨てていなくなってしまった──。

断る――――前にもそう言ったはずだ

鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」  結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。  周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。  けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。  他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。 (わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)  そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。  ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。  そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?

夫達の裏切りに復讐心で一杯だった私は、死の間際に本当の願いを見つけ幸せになれました。

Nao*
恋愛
家庭を顧みず、外泊も増えた夫ダリス。 それを寂しく思う私だったが、庭師のサムとその息子のシャルに癒される日々を送って居た。 そして私達は、三人であるバラの苗を庭に植える。 しかしその後…夫と親友のエリザによって、私は酷い裏切りを受ける事に─。 命の危機が迫る中、私の心は二人への復讐心で一杯になるが…駆けつけたシャルとサムを前に、本当の願いを見つけて─? (1万字以上と少し長いので、短編集とは別にしてあります)

(完)聖女様は頑張らない

青空一夏
ファンタジー
私は大聖女様だった。歴史上最強の聖女だった私はそのあまりに強すぎる力から、悪魔? 魔女?と疑われ追放された。 それも命を救ってやったカール王太子の命令により追放されたのだ。あの恩知らずめ! 侯爵令嬢の色香に負けやがって。本物の聖女より偽物美女の侯爵令嬢を選びやがった。 私は逃亡中に足をすべらせ死んだ? と思ったら聖女認定の最初の日に巻き戻っていた!! もう全力でこの国の為になんか働くもんか! 異世界ゆるふわ設定ご都合主義ファンタジー。よくあるパターンの聖女もの。ラブコメ要素ありです。楽しく笑えるお話です。(多分😅)

悪意のパーティー《完結》

アーエル
ファンタジー
私が目を覚ましたのは王城で行われたパーティーで毒を盛られてから1年になろうかという時期でした。 ある意味でダークな内容です ‪☆他社でも公開

処理中です...